炭素原子は4本の結合を形成し、鉛筆の芯に使われる黒鉛から宝飾品のダイヤモンドまで、多彩な構造を作り出してきた。平面に六角形が並ぶグラフェン、球状に閉じたフラーレン、筒状に巻いたカーボンナノチューブといった同素体は、現代の物質科学を大きく変えてきた。しかし、共有結合が三次元方向に連続する炭素同素体となると、天然・人工を問わず、ダイヤモンド以外の実例はほとんど知られていなかった。

ヨーテボリ大学、チャルマース工科大学、ストックホルム大学の共同研究チームは、単結合の炭素と三重結合の炭素を組み合わせた3次元骨格「ダイヤモンダイン(Diamondiyne)」の微結晶を含む自立薄膜を、液液界面での化学反応によって合成したと発表した。成果は査読付き学術誌『Angewandte Chemie International Edition』に2026年9月14日付の確定版(Version of Record)としてオンライン掲載された(DOI: 10.1002/anie.4062963)。著者らはこれを、ダイヤモンドに次いで三次元方向に共有結合ネットワークを形成する既知の炭素同素体だとしている。

ただし、注目を集める成果である一方、論文が明記している制約も見落とせない。得られた生成物は純粋な単結晶の塊ではなく、大部分が非晶質炭素からなるナノスケールの薄膜であり、その内部に約10 nm四方のダイヤモンダイン結晶領域が点在している段階にとどまる。多孔質ダイヤモンドの実現や金属有機構造体(MOF)の代替といった将来の応用を論じる前に、何が実験で確認され、何がまだ分かっていないのかを一次データから整理する必要がある。

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3次元に広がる炭素ネットワークの正体

炭素同素体のデータベースには、理論的には予測されているものの、実際には合成されていない構造が1,635種類登録されている。その中で長年注目されてきたのが、ダイヤモンドの骨格をアセチレン結合、すなわち炭素―炭素三重結合によって拡張した「カルボマー(carbo-mer)」と呼ばれるネットワークである。

通常のダイヤモンドでは、すべての炭素原子が混成軌道をとり、4本の単結合が正四面体の頂点方向へ伸びている。この強固な三次元構造が、高い硬度と緻密な結晶構造を生み出している。

これに対してダイヤモンダインでは、正四面体の結節点となる炭素の間を、2つの三重結合を含む4個の混成炭素からなる鎖(-diyne鎖)がつないでいる。「-diyne」という名称は、分子構造内に2組の三重結合が存在することに由来する。

論文に示された理想構造では、炭素と炭素の原子数比は8対1となる。正四面体型の連結性を保ちながら骨格が大きく広がるため、単位格子の一辺はダイヤモンドの約3.57 Åから16.22 Åまで拡大する。理想的な単一ネットワークの結晶空間群は、面心立方格子の(No. 227)に分類され、内部には大きな空隙が形成される。

しかし、実際のナノ結晶を電子顕微鏡や回折パターンで解析したところ、確認されたのはこの単一ネットワークではなかった。空隙が非常に大きいため、結合していない別の同一ネットワークがその内部へ入り込み、二つの骨格が互い違いに組み合わさる「相互貫入(interpenetration)」が生じていた。

観察された結晶は、非対称にずれながら貫入した二重ネットワークを形成しており、空間群は正方晶系の、格子定数はと解析された。

著者らは透過型電子顕微鏡(TEM)の観察から二重相互貫入を支持する証拠が得られたとしている一方、相互貫入するネットワークの数を一意に確定できるまでの証拠は得られていないとも記している。大きな空隙に別のネットワークが入り込むことで構造が安定化したと考えられ、理想的な単一ネットワークと実際に形成された結晶との違いの一つとなっている。

液液界面で不可逆反応を制御した合成手順

人工ダイヤモンドの合成には、数ギガパスカルに及ぶ超高圧と1,000℃を超える高温、あるいはメタンガスをプラズマで分解する化学気相成長法(CVD)などが使われる。

これに対し、ダイヤモンダインの合成で研究チームが採用したのは、常温付近で二つの溶液が接する界面を利用した有機合成反応だった。

最大の課題は、炭素―炭素結合の形成が事実上、後戻りできない不可逆反応であることだった。

近年盛んに研究されている共有結合性有機骨格構造(COF)では、結合の切断と再形成が平衡状態で繰り返されることを利用し、誤った結合を修正しながら結晶性を高められる場合がある。しかし、アルキンのカップリング反応では、こうした自己修復が働かない。一度誤った方向へ結合すると、その部分が欠陥として残り、規則的な結晶成長を妨げる。

研究チームはこの問題を抑えるため、クロロホルムと水の液液界面で反応を進めるカスケード反応系を構築した。

下層のクロロホルム相には、前駆体モノマーであるテトラ(トリエチルシリルエチニル)メタンを4 mg/mLの濃度で溶解した。上層のミリQ水とピリジンの等量混合溶液には、フッ化銅()を25 mg/mLで溶解した。有機塩基であるピリジンは両相に分配される。

二価のフッ化銅は、ここで二つの役割を担う。フッ化物イオン()がモノマーのシリル保護基を徐々に外し、反応性の高い末端アルキンであるテトラエチニルメタンをその場で生成する。同時に、二価の銅イオン()が末端アルキン同士の酸化的ホモカップリングを促進する。

研究チームは、モノマーの初期濃度を7 mMという低い値に設定した。溶液全体で分子が無秩序に反応する副反応を抑え、界面付近で徐々に進む薄膜形成を相対的に優先させるためである。

熱力学的な自己修復に頼るのではなく、反応速度の違いを利用して目的構造の形成を促す速度論的な制御である。

重水素化クロロホルム中でのNMR測定では、保護基が外れた末端アルキンのシグナルが1週間以内に明瞭に現れ、7日目の深さ選択的NMR測定では界面へ向かうモノマーの濃度勾配も確認された。透過型電子顕微鏡による詳細な構造解析に用いられた試料は、この界面反応を12日間静置することで得られた。

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生成物のスケールと物性の実測値

得られたダイヤモンダインは、指でつまめるような鉱物結晶ではない。クロロホルムと水の界面に形成された、ナノメートル単位の厚さを持つ自立薄膜である。

光学顕微鏡で観察すると、シリコンウェハーへ移した際に生じたシワは見られるものの、最大5 まで広がる連続した膜が確認された。原子間力顕微鏡(AFM)による観察でも、貫通孔や大きな亀裂のない比較的平滑な表面が確認され、代表的な膜厚は16 nmだった。

薄膜の厚さは反応時間にほぼ比例して増加し、数ナノメートルから数十ナノメートルの範囲で制御できることが示された。この線形な増加は、生成した膜を通過する物質移動が、少なくとも測定された範囲では反応全体を強く制限していない可能性を示している。

ただし、厚さ5 nm未満の膜は機械的強度が不足し、基板への移載が難しかった。一方、60 nmを超えると、$10^4$〜$10^5\text{ }\mu\text{m}^2$規模の破片として比較的安定に移載できるようになった。

研究チームが膜面積と厚さから推定した反応収率は、最大でも「1%のオーダー」にとどまった。収率の最適化は行われていない。溶媒量に対する界面面積の比が収率に大きく影響すると考えられているが、その条件を変えるには濃度や溶媒組成を改めて最適化する必要がある。

原子間力顕微鏡によるナノインデンテーション試験では、薄膜のヤング率として2.7 GPaが測定された。

これは一般的なアクリル樹脂(PMMA)と同程度であり、理想的なダイヤモンダイン結晶に対する理論予測値19 GPaを大きく下回る。この差は、実際の薄膜が単結晶ではなく、相互貫入構造の不均一性や広い非晶質領域を含んでいることを反映している。

ヤング率の理論予測と実測値の比較横棒グラフ。カテゴリ 4 件、系列: ヤング率(単位: GPa)ダイヤモンダイン理論値ダイヤモンダイン…ダイヤモンダイン理論値 — ヤング率: 19GPa19合成薄膜実測値合成薄膜実測値合成薄膜実測値 — ヤング率: 2.7GPa2.7PMMA(アクリル樹脂)PMMA(アクリル樹…PMMA(アクリル樹脂) — ヤング率: 3GPa3天然ダイヤモンド天然ダイヤモンド天然ダイヤモンド — ヤング率: 1,050GPa1,050単位: GPa
データを表で見る
ヤング率 (GPa)
ダイヤモンダイン理論値19
合成薄膜実測値2.7
PMMA(アクリル樹脂)3
天然ダイヤモンド1,050
ヤング率の理論予測と実測値の比較合成された薄膜のヤング率はPMMAと同等にとどまり、結晶の理論値やダイヤモンドの実測値(約1,050 GPa)とは大きく異なる。出典: Angewandte Chemie Int. Ed. (DOI: 10.1002/anie.4062963)

この比較から分かるように、実際に合成された薄膜の剛性は天然ダイヤモンドの約1,050 GPaには遠く及ばず、ダイヤモンダインの理論値19 GPaに対しても約7分の1にとどまる。

局所的な骨格が強い共有結合で構成されていても、長距離秩序が途切れた非晶質領域が膜全体の力学特性を支配するため、実測された機械的強度は樹脂に近い水準となっている。

複数の分析手法で確認されたナノ結晶構造

薄膜が単なる非晶質炭素ではなく、ダイヤモンダインの周期構造を局所的に含んでいることは、複数の分析手法を組み合わせて検証された。

高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)では、3.4 Åの格子縞が観察された。これは計算上のダイヤモンダイン結晶の格子面間隔3.31 Åに近い。

さらに、電子線照射による損傷を抑えられる積分微分位相コントラスト走査透過電子顕微鏡(iDPC-STEM)を用いることで、不均一な縞間隔を伴う9.6 Å周期のコントラストも直接観察された。

[010]方向に沿ったナノビーム電子回折(NBED)とフーリエ変換像では、特徴的な回折強度分布が観測された。222反射が極めて弱い一方で、高次の333、444、555反射が強く現れるパターンである。

実験結果を結晶構造シミュレーションと比較したところ、この強度分布は、二つのネットワークが非対称にずれながら相互貫入した構造によって説明できると著者らは結論づけた。

結晶ドメインごとに面間隔にはばらつきがあったものの、主要な面間隔はいずれも触媒として用いたフッ化銅に由来する回折面とは区別できた。これにより、観察されたナノパターンが単なる残留触媒粒子によるものではないことが支持される。

分光分析による化学結合の確認も、構造解析を補強している。

ラマン分光では、薄膜試料全体から付近に、弱いものの再現性のある信号が観測された。モデル化合物であるヘキサ-2,4-ジインのピーク()や、保護された原料モノマーのピーク()との比較から、このピークはポリマー骨格内に組み込まれたジイン基()の伸縮振動に由来すると解釈された。

フーリエ変換赤外分光法(FTIR)では、シリル保護基に特徴的なの吸収帯、未反応の末端アルキンを示すのピーク、酸化によるカルボニル基の付近の吸収はいずれも検出限界以下だった。

この結果は、原料や反応中間体の残留が少なく、アルキン同士のカップリングが進行したことを支持している。

固体 NMRでは、ヘキサ-2,4-ジインのジイン炭素(72.2 ppmおよび64.9 ppm)に対応する65〜75 ppm付近に明瞭な共鳴ピークが現れ、炭素の存在が確認された。

その一方で、120 ppm付近には望ましくない混成炭素に由来する副生成物のピークが、220 ppm付近には微量のカルボニル基に対応する信号も確認された。

X線光電子分光法(XPS)では膜表面に炭素と酸素が確認され、水相に接していた側では、末端アルキンの酸化に由来すると考えられる酸素濃度の上昇が見られた。

エネルギー分散型X線分析(EDX)では、膜内部の酸素濃度は表面より大幅に低く、触媒由来のフッ素もごく微量にとどまることが確認された。

これらのデータは、局所的にダイヤモンダイン骨格が形成されていることを強く支持している。ただし、ストックホルム大学の電子顕微鏡チームが確認した結晶パターンが薄膜全体を覆っているわけではない。

ヨーテボリ大学の公式発表でも、結晶構造が確認されたのは「薄膜表面に点在するパッチ状の領域」に限られると説明されている。

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結晶性の限界と、まだ測定されていない多孔性

今回の成果を評価するうえで重要なのが、材料の結晶性と多孔性をどこまで実験的に確認できているかである。

第一に、多孔質材料としての定量評価はまだ行われていない。

MOFや活性炭などの多孔性を評価する際には、一定量の試料へ窒素やアルゴンなどの気体を吸着させ、吸脱着等温線から比表面積()や細孔径分布を求めるのが一般的である。

しかし、今回得られた試料は数平方センチメートル、厚さ数十ナノメートル程度の薄膜数枚であり、ガス吸着等温線を測定するのに十分な重量を確保できなかった。

論文で示された多孔性に関する証拠は、水晶振動子マイクロバランス(QCM)の応答から定性的に示唆されたものにとどまる。細孔容積や比表面積、特定分子をどの程度吸着できるのかといった値は測定されていない。

第二の課題は、結晶成長がなぜナノメートル規模で止まるのかという点である。

著者らが構築した欠陥モデルによると、成長が拘束された現実的な表面に五員環などの誤った環状欠陥が一つ入ると、歪みエネルギーは18 kJ/mol以上増加し、平衡定数はおよそ$10^{-3}$まで低下する。

熱力学的には、このような高い歪みを伴う欠陥状態は不利であり、平衡状態であれば排除される方向へ進む。しかし、アルキンのカップリングは結合の切断と再形成による自己修復が難しい不可逆反応であり、反応は熱力学的平衡よりも速度論の影響を強く受ける。

一度誤った結合が形成されると、それを後から修正する仕組みがほとんどない。

三次元方向に共有結合が連続する構造では、一つの結合角のずれが周囲の骨格へも影響する。小さな結晶であれば構造全体の変形によって一定程度の歪みを吸収できるが、結晶が大きくなるにつれて歪みが蓄積し、規則的な格子構造を維持しにくくなる。

著者らのモデルでは、このことが結晶ドメインが約10 nm程度にとどまり、それより外側で非晶質化しやすい理由の一つと考えられている。

一部の報道では「多孔質ダイヤモンドの作製」と表現されたが、ヨーテボリ大学のカール・バリェソン教授自身も、「炭素原子がダイヤモンダインを形成するのを妨げる要因は無数に存在する」と説明している。

実際に結晶構造が確認された領域は、一辺約10ナノメートルという極めて小さな範囲である。

比較項目 天然・人工ダイヤモンド ダイヤモンダイン薄膜(本研究) 2次元炭素同素体(グラフェン/グラフジイン) 金属有機構造体(MOF)
共有結合・配位結合の次元性 3次元共有結合ネットワーク 3次元共有結合(非晶質膜中にナノ結晶が点在) 2次元平面ネットワーク(層間は弱いファンデルワールス力) 1〜3次元(有機配位子と金属の配位結合)
炭素の混成軌道と結合様式 すべて炭素(単結合) 炭素と炭素が混在(単結合と三重結合) グラフェンは、グラフジインは 有機配位子による(多くは芳香環を含む)
合成条件 高圧高温(数GPa、1000℃超)またはCVD 室温付近、クロロホルム/水界面でのカスケード反応 CVD、液相剥離、界面クロスカップリングなど 水熱・ソルボサーマル合成など(100〜200℃)
多孔性の実験的証拠 なし(緻密な非多孔質結晶) QCMによる定性的示唆のみ。ガス吸着等温線は未測定 平面構造自体はバルク多孔体ではない ガス吸着測定により大きな比表面積を確認できる材料が多数存在
構造的確証と現時点の限界 単結晶X線回折などで確立 電子線回折とTEMで約10 nmの微結晶を確認。収率は1%未満で、大半は非晶質 原子分解能観察が確立し、大面積化も進展 単結晶構造解析が確立した材料が多数存在。安定性は材料ごとに異なる

ダイヤモンダインは、三次元共有結合ネットワークと常温付近での界面合成という点で、ダイヤモンドや二次元ナノカーボンとは異なる特徴を持つ。

一方、結晶性や純度、多孔性の定量評価という点では、すでに多数の材料で構造と吸着特性が詳細に測定されているMOFとは、研究の成熟度が大きく異なる。

30年以上続いた合成研究の経緯

ダイヤモンダインにつながる研究の歴史は、1990年代初頭の米国にさかのぼる。論文が引用しているように、この骨格の合成を試みた初期の研究には、化学者K. S. Feldmanらによる約30年前の研究がある。

Feldmanらは1993年、中心骨格となるテトラエチニルメタンの合成法を報告し、翌1994年の『Journal of the American Chemical Society(JACS)』で、この分子を重合させて三次元炭素ネットワークを形成することを試みた。

しかし、保護されていないテトラエチニルメタンは熱的に非常に不安定で、自己分解や爆発の危険性が高く、規則的な三次元重合体を得ることはできなかった。

2021年にダイヤモンダインのケイ素類縁体、すなわちシリコン原子を中心とする多孔質骨格が合成された際にも、炭素版については前駆体の不安定性から合成が極めて難しいと考えられていた。

大学のプレスリリースや一般報道が「35年前に理論的に予測された」、論文が「30年にわたる探求」と表現する背景には、この不安定な前駆体と不可逆な結合形成を制御できなかった歴史がある。

今回の研究における重要な工夫は、フッ化銅を用いて界面付近で不安定なモノマーを低濃度のままその場生成し、生成直後にカップリング反応へ進ませることで、前駆体の分解を抑えながらネットワーク形成を進めた点にある。

一方、一部のメディアで語られる応用や歴史的な位置づけには、論文そのものを超えた解釈も含まれている。

例えば、1996年のフラーレン、2010年のグラフェン、2025年のMOFという三つのノーベル化学賞を結びつける説明である。

炭素同素体研究と多孔質材料研究が交差した成果と表現することはできるが、これは大学広報や科学報道による文脈づけであり、論文自体がノーベル賞との直接的な関係を主張しているわけではない。

また、ニール・スティーヴンスンのSF小説『ダイヤモンド・エイジ』を引用し、炭素結合を自在に制御するナノテクノロジー社会へ結びつける論調も見られる。

しかし、研究チーム自身が認めているように、今回得られたのはごく少量の薄膜中に存在するナノメートル規模の結晶領域である。二酸化炭素回収、分子ふるい、薬物輸送、水素貯蔵などの用途は、純度が高く大面積あるいはバルク状の材料を製造できるようになった場合に初めて検討できる将来的な可能性である。

論文のデータから確認できる点は、三つに整理できる。

第一に、三次元の共有結合ネットワークを持つ-炭素同素体のナノ結晶が、液液界面反応によって合成されたこと。

第二に、その結晶は非対称にずれた二重相互貫入構造をとっている可能性が高いこと。

第三に、得られた薄膜の大半は非晶質であり、収率は1%未満、多孔性の定量測定や巨視的な材料としての機能評価はまだ行われていないことである。

3次元炭素化学に残された課題

ダイヤモンダインの合成は、三次元炭素化学における重要な実験的成果である一方、実用材料へ発展させるには多くの課題が残されている。

まず必要なのは、独立した研究グループによる再現実験である。同じ界面合成プロトコルを用いて材料を再現し、電子顕微鏡や分光分析によって同じ結晶構造を確認できるかが重要になる。

最大の技術的課題は、結晶ドメインの大型化と非晶質成分の低減である。

10 nmという小さなドメインの境界で結晶秩序が失われる原因を明らかにし、誤った結合形成を抑える、あるいは形成後に修復できる触媒系や反応条件を開発できるかが鍵となる。

現状では、薄膜の面積を大きくしても、その内部の多くが低結晶性の炭素で占められているため、膜全体の機械特性は理想結晶の予測値には遠く及ばない。

さらに、多孔質材料として評価するには、より大量の試料を合成する技術が必要になる。

グラムスケールに近い試料を用意してガス吸着等温線を測定し、BET比表面積や細孔容積、細孔径分布などを定量化できなければ、他の多孔質材料との本格的な比較は難しい。

触媒として用いるフッ化銅の回収や再利用についても、論文では具体的なデータが示されておらず、工業的なスケールアップを考える際には別途検証が必要となる。

研究チームは今後、ダイヤモンダインの物性をさらに調べるとともに、空隙を介して複数のネットワークが相互貫入する、より複雑な構造の探索も進めるとしている。

今回の成果によって、長年理論上の候補にとどまっていた三次元炭素ネットワークの一つが、ナノ結晶という形で実験的に確認された。

次の課題は、この局所的な結晶秩序をより大きな領域へ広げ、非晶質成分や欠陥を減らしながら、材料として測定可能な量まで合成できるかどうかである。