TrendForceは2026年9月21日、米国の大手クラウド事業者が直近2週間で企業向けSSDの需要見通しを引き上げたと発表した。2026年第4四半期の発注は、すでに高水準にある第3四半期を上回る可能性があり、企業向けSSDの価格も上昇を続けるという。ただし、示されたのは調査会社の見通しだ。発注数量や価格の上昇率、個々の事業者名は公表されていない。7月末には価格上昇の鈍化を見込んでいた同社が、なぜ強気の見方を示すようになったのか。鍵は、北米の調達計画と大容量QLC製品への需要にある。
7月の「鈍化」から9月の「上昇継続」へ
7月29日に公開されたTrendForceの企業向けSSD契約価格レポートの要約は、供給側の増産で急ぎの発注が落ち着き、買い手が値上げに抵抗していると説明していた。次世代プラットフォームの出荷遅れもあり、契約価格の上昇率は鈍るとの見立てだった。需要そのものが消えたという話ではない。サーバー向けの発注は続くが、供給が追い付き始めれば、売り手が価格を引き上げる力は弱まるという判断である。
9月21日の新しい発表では、需給を動かす材料が変わった。米国の大手クラウド事業者が、過去2週間に企業向けSSDの需要予測を引き上げたという。TrendForceは、設備の導入を早め、SSDを使う用途を増やす動きが背景にあると分析する。足元の調達状況から、第4四半期の総発注が第3四半期を上回る可能性を示した。
| 公表時点 | TrendForceが挙げた材料 | 価格についての見方 | 対象と限界 |
|---|---|---|---|
| 7月29日 | 供給改善、買い手の価格抵抗、プラットフォーム出荷の遅れ | 上昇率は鈍化へ | 第3四半期の企業向けSSD契約価格に関する公開要約 |
| 9月21日 | 米国クラウド事業者の需要見通し上方修正 | 上昇継続を予測 | 第4四半期の企業向けSSD価格。上昇率は示さず |
7月末のTrendForce公開要約は供給改善と買い手の価格抵抗による企業向けSSD契約価格の上昇鈍化を見込み、9月21日の発表は北米需要の上方修正を受けて第4四半期も企業向けSSD価格が上昇すると予測した。
ここで二つの資料を、同じ四半期の価格予測を数値で改定したものとして読むことはできない。7月の要約は第3四半期の契約価格を扱い、9月の発表は第4四半期の企業向けSSD価格を定性的に論じる。表が示すのは、異なる公表時点における需給評価の移り変わりだ。実際の契約単価が何%変わるかは、公開資料から計算できない。
高性能TLCに加わる、大容量QLCの発注
今回の需要増を、高速なSSDへの発注だけで説明すると見誤る。TrendForceによれば、米国のクラウド事業者が求める製品は高性能のTLC方式から、容量と費用効率を重視するQLC方式にも広がっている。大量の情報を検索し、一時的に保持するAIエージェントの処理や、ベクトルデータベースに蓄える非構造化データを同社は背景に挙げた。何を高速メモリに置き、何を大容量のSSDへ置くかが、AIサービスの費用を左右するという見方である。
需要の説明には、地域差もある。TrendForceは中国について、DeepSeekを中心とするAIの構成でKVキャッシュを高容量QLC SSDへ退避する動きを挙げている。KVキャッシュは、モデルが過去の入力を参照するために残す計算済みの情報だ。高速メモリに置き続ける量を減らせる可能性がある一方、SSDへの読み書きと応答時間の設計が必要になる。この中国の例を、北米の発注数量の内訳として足してはいけない。
製品側でも高容量QLCの準備は進んだ。Micronは5月、QLC NANDを使う245TBの「6600 ION」について出荷開始を発表している。TrendForceの9月1日の集計も、Samsungの176層QLC製品の出荷拡大、Micronの232層QLC製品の増加、SanDiskの高容量QLC製品の量産拡大を挙げた。高容量QLC製品の出荷や量産が進んでいることは確かめられる。ただし、これらの発表から特定のクラウド事業者による採用量や、第4四半期の発注額は分からない。
TrendForceは9月1日の発表で、2026年第2四半期の企業向けSSD上位5ブランドの売上高合計を375億9000万ドル、前四半期比103.6%増と推計した。同社は出荷量と契約価格の上昇が寄与したとみるが、売上高が倍増したことを、発注台数や出荷した記憶容量が倍増した証拠として使うことはできない。製品の容量や構成が変わっても、売上高は動くからだ。
PC向けSSDの価格には直結しない
企業向けの調達が強い一方、消費者向けの見通しは別だ。TrendForceが9月16日に公開した2027年NAND市場レポートの要約は、AI用途の企業向けSSDが伸びる一方、PCやスマートフォン向け製品は弱い需要と中国での供給能力増加によって価格が押されると予測する。確認できたのは公開要約と目次までで、有料レポートの詳細な価格表や予測値は検証していない。
したがって「企業向けSSDの価格が上がる」という予測を、日本の店頭で売るSSDの価格予測へそのまま移すことはできない。調達先、契約期間、必要な容量、在庫の積み上がり方が異なる。TrendForceが9月21日に示したのは北米の企業向け発注の強さであり、9月16日の公開要約が示したのは2027年の消費者向け需要の弱さだ。対象の地域、用途、時期が異なる予測を、一つの小売価格の動きにまとめることはできない。NANDの生産能力は共通していても、どの用途へどれだけ配分するかで価格は分かれる。TrendForceも9月21日、企業向け需要の強まりが供給側に生産能力の配分と価格設定で有利に働くと分析している。
ただし、売り手の交渉力にも上限がある。7月末の契約価格レポート要約は、大容量SSDとHDDの容量当たり価格差が広がり、データセンターの総保有費用でSSDを選ぶ利点が薄れる可能性に触れた。企業が容量を増やす際には、電力や設置場所だけでなく、記憶容量当たりの調達費も見る。QLCを採用する用途が広がっても、全ての保存先をSSDへ置き換えると決まったわけではない。
第4四半期の数字で確かめるべきこと
9月21日の発表で確定しているのは、TrendForceが米国クラウド事業者の需要予測引き上げを把握し、そこから第4四半期の発注と価格の上昇を見込んだことだ。事業者別の発注数、QLCの構成比、価格の上昇率は公表されていない。これらの空欄を、過去の売上高や製品容量で埋めることはできない。
見通しを後から検証するには、第4四半期の実際の発注と出荷、企業向けSSDの契約価格、QLC製品の比率をそれぞれ確認する必要がある。加えて、2027年に増えるとされるNANDの供給が企業向けへどれだけ回るか、買い手の価格抵抗が強まるかも見たい。発注が増えても、供給がそれ以上に増えれば価格上昇は鈍り得る。TrendForceの7月の説明と9月の説明は、この需給のどちら側を強く見たかが違う。発注量が多いことと、売り手が希望する単価で契約できることは別の問題である。
逆に、製品があっても顧客認証やデータセンターへの導入が進まなければ、足元の見通しがそのまま出荷実績になるとは限らない。高容量QLCが広がる場合も、どの種類のデータを置くかで必要な速度と容量は変わる。TLCからQLCへの一律の切り替えではなく、用途ごとの調達が進むかを見極めたい。



