天然物質のなかでも最高クラスの硬さを誇るダイヤモンドが、極超音速の衝突によって黒鉛(グラファイト)へと変化する現象が確認された。宇宙空間を漂うデブリなどが秒速数千メートルで構造物に衝突すると、材料には極めて短時間に大きな応力が加わる。こうした極限環境では、材料が変形・破壊されるだけでなく、原子の結合状態そのものが変わることがある。
テキサスA&M大学やブラジリア大学などの国際研究チームは、ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素(cBN)、コバルトからなる三元系複合材料を開発し、二段式軽ガス銃による高速衝突実験を実施した。学術誌『Materials Today』に掲載された論文(第99巻、論文番号103477、2026年8月6日オンライン公開、プレプリント:arXiv:2602.13188)によると、衝突後の破片を電子顕微鏡などで分析した結果、複合材内部のダイヤモンド粒子が黒鉛へと相転移していたことが確認された。
研究チームは、この相転移が衝撃エネルギーの散逸に寄与した可能性を指摘している。ただし、今回の成果は実験室での材料評価に基づくものであり、実用的な防護装甲の完成を意味するものではない。相転移が衝突エネルギーのうちどの程度を担ったのかは定量化されておらず、防護性能への寄与を判断するには、さらなる検証が必要だ。
放電プラズマ焼結でダイヤモンドを維持した複合材料を作製
ダイヤモンドを構造材料として利用するうえで、大きな課題となるのが成形加工の難しさだ。常圧付近では黒鉛が熱力学的に安定な炭素の結晶相であり、ダイヤモンドは準安定相にあたる。そのため、ダイヤモンド粉末を高温で焼き固めようとすると、粒子同士が十分に結合する前に黒鉛化が進み、本来の硬さや結晶構造を維持できなくなる場合がある。
研究チームは、この問題を解決するために放電プラズマ焼結法(SPS)を採用した。使用した原料は、粒径50〜100μmの合成ダイヤモンド粉末、粒径約0.5〜1μmの立方晶窒化ホウ素粉末、粒径約1〜2μmのコバルト粉末で、ほぼ等重量比で混合した。立方晶窒化ホウ素は、ダイヤモンドに次ぐ高い硬度に加え、優れた耐熱性と化学的安定性を持ち、複合材料の母材として機能する。コバルトは硬質粒子同士を結び付ける結合相として働き、焼結体の形成を助ける。
焼結では、チャンバー内を真空排気した後、高純度アルゴン雰囲気に置き換え、毎分50℃の速度で昇温した。その後、1,400℃、一軸圧力90MPaの条件で60分間保持し、円筒状の複合材料ディスクを作製した。SPSは通電による加熱と加圧を組み合わせた手法で、研究チームはダイヤモンドの過度な黒鉛化を抑えながら、硬質粒子を一体化することに成功した。
焼結後のディスクの密度は、寸法と質量から約3.32g/cm³と算出された。X線回折(XRD)測定では、ダイヤモンドと立方晶窒化ホウ素の明瞭な回折ピークが確認された一方、微弱な黒鉛のピークも検出された。これは、焼結過程でダイヤモンドの一部が黒鉛化したことを示唆している。
ラマン分光測定でも、ダイヤモンドに特徴的な約1330.9cm⁻¹のピークに加え、立方晶窒化ホウ素の横光学(TO)モードと縦光学(LO)モードに対応するピークが、それぞれ約1057.08cm⁻¹と1307.64cm⁻¹に観測された。研究チームは、コバルトや立方晶窒化ホウ素を含まない配合、粒径を変更した配合についても焼結を試みたが、十分な強度を持つディスクが得られないか、黒鉛化が大きく進行する結果となった。ただし、これらは適切な焼結条件を探るための比較であり、衝突時の防護性能を比較する対照実験ではない。
{
"type": "bar",
"title": "三元系複合材料の原料配合比率",
"unit": "%",
"categories": [
"ダイヤモンド(50〜100μm)",
"立方晶窒化ホウ素(0.5〜1μm)",
"コバルト(1〜2μm)"
],
"series": [
{
"name": "重量比(概数)",
"values": [33.3, 33.3, 33.3]
}
],
"caption": "3種類の粉末をほぼ等重量比で混合。1,400℃・90MPaで焼結したディスクの密度は約3.32g/cm³",
"source": "Materials Today (2026), DOI: 10.1016/j.mattod.2026.103477"
}こうして、ダイヤモンド粒子の結晶構造をおおむね維持した高密度の複合材料ディスクが得られた。研究チームは、この試料を使って極超音速域での衝突応答を調べた。
秒速2,500mを超える二つの衝突実験
衝突試験には、テキサスA&M大学の超高速衝突研究施設(Hypervelocity Impact Laboratory)に設置された、全長45フィート(約13.7m)の二段式軽ガス銃が使用された。二段式軽ガス銃は、高圧ガスを利用して飛翔体を極めて高い速度まで加速する実験装置である。研究チームは今回、相対速度1,700m/s以上を極超音速衝突として扱い、同じ方法で作製した複合材料ディスクに対して、条件の異なる2回の実験を実施した。各条件で試験されたディスクは1個ずつだった。
最初の実験では、直径1mmのアルミニウム合金(Al 2017-T4)球状粒子を複数個同時に発射した。衝突速度は2584.7m/s(マッハ7.5相当)に達し、高速シャドウグラフ撮影によって多数の粒子が複合材表面に衝突する様子が記録された。衝突後もディスクは全体として原形を保ち、目視できる大きな亀裂や破片の分離は確認されなかった。表面には軽微な浸食痕が残ったものの、XRDとラマン分光測定では、衝突部位で部分的な黒鉛化が進んだことを示す信号が検出された。
2回目の実験では、より大きな単一の飛翔体を衝突させた。直径4mmのアルミニウム合金(Al 2017-T4)球を2900.8m/s(マッハ8.45相当)で発射したところ、複合材料ディスクは衝撃に耐えられず、複数の大きな破片に破砕した。研究チームが回収した破片を分析すると、内部に含まれていたダイヤモンド粒子で大幅な黒鉛化が確認された。
| 試験条件 | 飛翔体 | 衝突速度 | ディスクの損傷 | 確認された相変化 |
|---|---|---|---|---|
| 第1条件:分散衝突 | 直径1mmのAl 2017-T4球状粒子、複数個 | 2584.7m/s(マッハ7.5) | 軽微な表面浸食、ディスクは残存 | 衝突表面で部分的に黒鉛化 |
| 第2条件:単一衝突 | 直径4mmのAl 2017-T4球、1個 | 2900.8m/s(マッハ8.45) | 複数の大きな破片に破砕 | 内部のダイヤモンド粒子が大幅に黒鉛化 |
ただし、この結果から複合材料の破壊限界を直接決定することはできない。二つの実験では、飛翔体の直径、個数、衝突形態、速度が同時に変化しているためだ。第2条件でディスクが破砕した原因について、飛翔体の質量増加、運動エネルギーの集中、速度の上昇がそれぞれどの程度寄与したのかを切り分けることはできない。また、各条件1回ずつの試験であり、結果の統計的な再現性や破壊確率を評価するためのデータも不足している。
シャドウグラフ撮影では、飛翔体の飛行状態や衝突の瞬間、破片や噴出物の飛散などが記録された。ただし、この撮影方法で原子レベルの結合変化を直接観察できるわけではない。黒鉛化の証拠は、衝突後に回収された試料の微細構造解析によって得られたものであり、相転移の進行過程をリアルタイムで測定した結果ではない。
電子顕微鏡で確認されたダイヤモンドと黒鉛の界面
第2条件で破砕した試料を詳しく調べると、複合材料内部で大きな結晶構造の変化が起きていたことが明らかになった。XRD測定では、焼結直後の試料で強く観測されていたダイヤモンドの回折ピークが大幅に弱まり、黒鉛の(002)面に対応する強いピークが現れた。ラマン分光測定でも、ダイヤモンドの特性ピークが減衰する一方、黒鉛の結晶構造に特徴的なGバンド(約1579.70cm⁻¹)と、格子欠陥や構造の乱れを反映するDバンド(約1345.06cm⁻¹)が明瞭に観測された。
研究チームは、この変化をダイヤモンド粒子の「ほぼ完全な相転移」と表現している。ただし、黒鉛化したのは複合材料の炭素成分であり、立方晶窒化ホウ素の骨格はおおむね維持されていた。つまり、複合材料全体が黒鉛に変化したわけではなく、内部に埋め込まれたダイヤモンド粒子の結晶構造が大きく変わったという結果だ。
相転移の詳細を調べるため、研究チームは集束イオンビーム(FIB)によって回収破片から薄片を切り出し、透過電子顕微鏡(TEM)、高分解能TEM(HRTEM)、4D走査透過電子顕微鏡(4D-STEM)、走査透過電子顕微鏡と電子エネルギー損失分光法を組み合わせたSTEM-EELSなどで分析した。これにより、結晶面の配向関係だけでなく、炭素原子の結合状態を局所的に調べることが可能になった。
STEM-EELSでは、ダイヤモンド特有の四面体構造を形成する結合領域と、黒鉛に特徴的な平面状の結合領域が、明瞭な境界を挟んで隣接していることが確認された。さらにHRTEMと高速フーリエ変換(FFT)解析によって、ダイヤモンドの(-111)面と黒鉛の(002)面が、特定の配向関係を持って接していることが判明した。測定された結晶面間隔は、黒鉛の(002)面が約3.4±0.1Å、ダイヤモンドの(-111)面が約2.09±0.05Åだった。1Å(オングストローム)は0.1nmに相当する。
{
"type": "bar",
"title": "ダイヤモンドと黒鉛の界面で測定された結晶面間隔",
"unit": "Å",
"categories": [
"黒鉛(002)面",
"ダイヤモンド(-111)面"
],
"series": [
{
"name": "実測面間隔",
"values": [3.4, 2.09]
}
],
"caption": "HRTEMで測定された面間隔。測定値の誤差は黒鉛が±0.1Å、ダイヤモンドが±0.05Å",
"source": "Materials Today (2026), DOI: 10.1016/j.mattod.2026.103477"
}こうした界面構造は、ダイヤモンドの結晶構造が一定の配向関係を保ちながら黒鉛へと変化したことを示唆している。ただし、界面は完全に整合した結晶格子ではなく、格子の不整合や局所的な湾曲、転位、積層欠陥が存在していた。研究チームは、界面が局所的な半整合状態にあることを確認しており、黒鉛層にも積層方向の乱れが見られた。これらは急速な構造変化の痕跡と考えられるが、原子がどの順序で移動したのかを直接観察したものではない。
電気抵抗率にも大きな変化が現れた。焼結直後のディスクでは体積抵抗率が約217mΩ・cmだったのに対し、衝突で破砕した試料では約36mΩ・cmに低下した。約6分の1という変化は、導電性を持つ結合の黒鉛が形成されたという分析結果と整合する。ただし、複合材料には金属のコバルトも含まれ、破砕によって内部の導電経路が変わる可能性もあるため、抵抗率だけで黒鉛化の程度を決定することはできない。また、電気抵抗率の低下は微細構造の変化を示すものであり、防護性能の向上を直接意味するものではない。
分子動力学計算で再現された急速な結合変化
極めて短い時間に進行する相転移の仕組みを調べるため、研究チームは反応力場を用いた分子動力学法(ReaxFF)によるシミュレーションも実施した。ReaxFFは、原子間の結合が切れたり新たに形成されたりする過程を計算できる手法であり、衝突時の結晶構造の変化を原子レベルで追跡できる。
計算では、4,000個の炭素原子からなるダイヤモンド結晶ブロックに高速粒子が衝突する状況を模擬した。その結果、衝撃によって結合角の歪みや強いせん断応力が生じ、わずか5ピコ秒(秒)以内に結合の割合が約42%まで減少し、結合が約58%に達した。10,976原子に拡大したモデルでも同様の結合変化が確認され、原子レベルでは極めて短時間に黒鉛化が進み得ることが示された。
ただし、このシミュレーションは実験で使用した複合材料を完全に再現したものではない。モデルの対象は純粋なダイヤモンド結晶であり、実際の材料に含まれる立方晶窒化ホウ素やコバルト、焼結によって形成された複雑な微細構造は含まれていない。また、ミリメートルサイズのアルミニウム合金球による衝突を、そのまま再現した計算でもない。
したがって、5ピコ秒以内に結合が約58%に達したという結果は、あくまで理想化した計算モデル内での値だ。実際の複合材料全体で同じ速度や割合で黒鉛化が進んだことを意味するものではなく、破壊強度やエネルギー吸収量を直接示す数値でもない。
相転移を引き起こした仕組みについて、研究チームは衝撃波による圧縮やせん断応力、除荷時の非平衡的な変化に加え、局所的な温度上昇が関与したと考えている。一方で、複合材料に含まれるコバルトの触媒作用も無視できない。コバルトなどの遷移金属は、高温条件下で炭素の溶解や再析出に関与し、ダイヤモンドの黒鉛化を促進する可能性があるためだ。
今回の衝突でも、瞬間的な高温・高圧環境のもとでコバルトがダイヤモンド表面に作用し、黒鉛化を加速させた可能性が指摘されている。つまり、衝撃による機械的な結合変化と、金属触媒が関与する熱的な反応が組み合わさった可能性がある。ただし、それぞれの寄与はまだ定量的に分離されておらず、どちらが支配的な役割を果たしたのかは明らかになっていない。
ダイヤモンドの黒鉛化は防護装甲に利用できるのか
今回の研究が示した重要な可能性は、ダイヤモンドの相転移を衝撃エネルギーの散逸に利用できるかもしれないという点だ。ダイヤモンドから黒鉛への変化では、炭素原子の結合がからへと組み替わり、結晶構造や密度が変化する。一般に、ダイヤモンドよりも黒鉛のほうが密度は低いため、この相転移には体積の増加が伴う。研究チームは、こうした急速な構造変化が衝撃時のエネルギー散逸に大きく寄与した可能性を提示している。
ただし、相転移そのものを単純な吸熱反応として捉えるのは正確ではない。アルゴンヌ国立研究所の熱化学データによれば、標準状態におけるダイヤモンドから黒鉛への変化は、エンタルピーが減少する発熱方向の反応である。衝撃下では結合の切断・再形成、変形、破壊などを伴うため、不可逆な構造変化が力学的エネルギーの散逸に関わる可能性はある。しかし、黒鉛化が観測されたという事実だけで、相転移がどれだけのエネルギーを吸収・散逸させたかを判断することはできない。
今回の論文でも、衝突によって投入された運動エネルギーが、相転移、破壊による新たな表面の形成、破片の飛散、材料の変形、熱などにどのような割合で分配されたのかは、定量的に測定されていない。研究チームは相転移がエネルギー散逸の主要な要因となった可能性を論じているが、それを裏付ける詳細なエネルギー収支は示されていない。ダイヤモンドが黒鉛へと変化したことは実験的に確認された一方、その変化が材料の破壊をどの程度抑えたのかは未解明というのが、今回の成果の位置づけだ。
また、炭化ケイ素などの既存のセラミックス防護材や、航空宇宙分野で使用される複合装甲との比較試験も実施されていない。直径1mmの複数粒子による衝突でディスクが残存したことは、その試験条件における耐衝撃性を示すが、一般的な防護材より優れていることの証明にはならない。同様に、直径4mmの単一球によって破砕した結果からも、材料の限界を定量的に決めるには情報が不足している。
テキサスA&M大学が2026年11月3日に公表した研究紹介では、この成果が航空機や宇宙機、各種防護材料の設計につながる可能性があると説明している。高速で衝突するデブリから宇宙機を守る材料などは、想定される応用分野の一つだ。ただし、これは将来的な研究の方向性であり、実用的な防護性能が検証・認証された段階ではない。
今後は、飛翔体の質量、直径、速度、形状を個別に変えた衝突試験を繰り返し、破壊が生じる条件や再現性を調べる必要がある。また、コバルトを含まない比較試料を用いるなどして、衝撃による相転移と金属触媒による黒鉛化を切り分けることも重要だ。さらに、衝突前後のエネルギー収支を精密に測定し、相転移が実際にどの程度のエネルギー散逸を担っているのかを明らかにしなければならない。
今回の研究は、極超音速衝突という極限環境で、ダイヤモンドの結晶構造が急速に変化することを微細構造のレベルで示した成果だ。この現象を利用して、従来とは異なる仕組みで衝撃に対応する材料を設計できる可能性がある。ただし、防護材料としての実用性を評価するには、相転移の仕組みをさらに解明するとともに、そのエネルギー散逸効果を定量的に実証することが不可欠となる。



