Intel「Nova Lake-S」は、デスクトップ向けCPUとして初めてデュアルコンピュートタイル(Dual Compute Tile)を採用する見込みだ。現行の「Arrow Lake-S」が最大24コアで構成されるのに対し、Nova Lake-Sのフラッグシップモデルは16個のPerformance Core(P-Core)、32個のEfficiency Core(E-Core)、4個のLow Power Coreを組み合わせた計52コア構成を目指している。コア数の増加幅は単純計算で2倍以上であり、これはIntelがデスクトップCPUに採用する方式として前例がない。
このデュアルタイル設計の仕組みは、AMDが「Zen 4c」や「Ryzen Threadripper」シリーズで実績を持つマルチダイ接続と概念的に近い。2枚のコンピュートタイルをSoCタイルに接続し、どちらのタイルからもメモリとPCIeに等しくアクセスできる構造をIntelが採用することで、シングルタイルで可能な最大28コアを超え、52コアという構成が実現する。この設計上の対称性は、特定のタスクでメモリアクセスのレイテンシが非対称になりがちなAMDのNUMAアーキテクチャとどこが異なるかを見る上でも興味深い点だが、現時点でIntelはそのアーキテクチャ詳細を公開していない。
474WというPL2の水準と、その背景にある電力設計の変化
PL2(Power Limit 2)とは、CPUがブースト動作を維持できる短時間での最大消費電力を指す。PL1(持続的な基本電力)が175Wに設定されるとみられるのに対し、PL2の474Wという数値はピーク時に約2.7倍の電力を引き出せることを意味する。ただし、リーク情報の中で「Over 474 – dual die OC」と記述されている点に留意が必要で、474Wはあくまでデュアルタイル構成における定格動作時の電力目標であり、それを超える消費は手動でのオーバークロック時に想定される値だとJaykihnは説明している。
この電力水準を実現するにあたり、Intelはマザーボードパートナーに対してZ990プラットフォームの電力設計指針を更新した。LC Tech Leaksによれば、従来の2本の8ピンEPS CPUコネクタに加え、3本目のコネクタを追加する新しい基準が設けられた。具体的には、当初の設計が「2本のEPS 8ピン+1本のPCIe 8ピン」という構成だったのに対し、改訂後は「3本のEPS 8ピン」へと統一される方向に変更が加えられたと報告されている。
Z990マザーボードの3本目EPS 8ピンコネクタが持つ意味
Jaykihnが明確にした重要な点は、3本目のコネクタが52コア動作に必須ではないという事実だ。Z990の175W対応マザーボードはすべて、44コアおよび52コアのNova Lake-S CPUをサポートする予定であり、コネクタが2本のモデルでもCPUの定格性能プロファイルへの影響はないとされている。3本目のEPS 8ピンは、あくまでオーバークロック時の余裕(ヘッドルーム)を確保するための選択的な追加仕様と位置づけられている。
一方でJaykihnは、Z970チップセットを搭載するマザーボードには3本目のコネクタが追加される見込みはないとも述べている。同プラットフォームにはB960、Z970、Z990、Q970、W980の各チップセットが用意される予定で、Z990はその中でも最上位に位置し、より多くのチップセットI/OとフルオーバークロックサポートをZ970との差別化要素とする見通しだ。GIGABYTEがComputexで公開した未発表マザーボードの写真には3本の8ピンコネクタが確認されているが、最終的な小売設計は未確定とされている。
マザーボードの電力クラス区分が生む複雑なエコシステム
Nova Lake-Sプラットフォームでは、マザーボードが定格PL1電力レベルで複数のクラスに分類される見通しだ。現在明らかになっている区分は、35W(Baseline/cfgdwn)、65W(Value/Performance)、125W(Baseline/Performance)、175W(Baseline/Performance)の4段階で、CPUが搭載されるマザーボードのクラスが本来のPL1を下回る場合、そのCPUは自動的に低いパフォーマンスプロファイルで動作するとされている。
この仕組みは、特に44コアや52コアのハイエンドSKUをミドルレンジのZ990マザーボードに搭載した場合の動作に影響する可能性がある。ソース情報によれば、こうした高コア数の構成は「高電力要件のため、ハイエンドマザーボードのみがサポートする可能性がある」とされており、プラットフォーム全体での互換性と性能の対応関係が過去のIntel世代よりも複雑になる可能性がある。「bLLCモデル」(Big Last Level Cache搭載SKU)については、さらに高い電力要件が示唆されており、この点も今後の詳細確認が待たれる。
AMD 3D V-Cacheとの競合と、Nova Lake-Sが持つゲーミングへの狙い
Nova Lake-Sに関しては消費電力に関する情報が目立つが、設計上のもう一つの注目点は「bLLC(Big Last Level Cache)」の導入だ。Intelは現在、AMDの「3D V-Cache」技術がゲーミング性能で優位を保っていることを認識しており、Nova Lake-SのbLLCはこれに対抗する設計であるとみられている。ゲーミング性能において大容量のL3キャッシュが有利に働く理由は、主にメモリレイテンシの削減にある。キャッシュヒット率が上がることでDRAMへのアクセス頻度が下がり、特にフレームレートに敏感なゲームシナリオで効果が出る。
接続インターフェースの面では、Thunderbolt 5、PCIe 5.0、DDR5-8000サポートが報告されており、プラットフォームとしての水準をAMDの「AM5」後継プラットフォームと競う形で引き上げようとする意図がうかがえる。AI推論向けにアップグレードされたNPUと、「Xe3」アーキテクチャに基づく内蔵グラフィックスも搭載される見通しだ。ただしこれらはいずれもIntelが公式に確認した仕様ではなく、最終製品での実装内容は変わる可能性がある。
消費電力増大がもたらすシステム設計上の現実
52コアCPUでPL2が474Wに達する場合、システム全体の電力要件はこれまでのハイエンドデスクトップ(HEDT)プラットフォームに匹敵する。電源ユニット(PSU)の容量とマザーボードのVRMフェーズ数がまず制約となり、CPUクーラーについてもTDP 175Wを大幅に超えるブースト時の熱をどう処理するかが構成上の課題となる。PL2が短時間の上限であるとはいえ、手動でのオーバークロックやPL制限を解除した動作では継続的に高電力状態が続く可能性があり、冷却システムの選択は慎重さが求められる。
一方で、175W基準のZ990マザーボードが44コア・52コア両方に対応するという情報が正確であれば、すべてのユーザーが最大電力構成を選ぶ必要はない。電力効率を重視するユーザーは65Wや125WクラスのマザーボードでNova Lake-Sを使用できる可能性があり、ただしその場合にはパフォーマンスプロファイルが低下することになる。この柔軟性がどこまで製品ラインに反映されるかは、正式な発表を待たなければ判断できない。