IntelとOracleは2026年10月27日、Oracle AI Worldにおいて、現行および次世代のXeonプロセッサーを対象とする複数年の協業計画を発表した。両社は製品ロードマップやプロセッサーの供給計画を調整し、Oracleのクラウド基盤「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」に、次世代サーバーCPU「Diamond Rapids」を採用するX14を導入する計画だ。Intelの発表によると、今回の協業ではAIモデルの推論処理に加え、AIエージェントがアプリケーションや外部ツールを呼び出して業務を進める際の処理性能も重視している。行列演算を高速化するAMXと、一般的なプログラムの実行効率を改善するAPXという二つの命令拡張に注目すると、Intelが企業のAI活用においてCPUのどのような役割を強化しようとしているのかが見えてくる。

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X12からX14へ、何が変わるのか

Oracleは以前から、Xeonプロセッサーを利用したAI処理に対応するクラウドサービスを提供している。2026年4月16日には、Xeon 6のPコア製品を搭載する「OCI X12 Standard Acceleron Compute」を発表し、一部地域から展開を始めると説明していた。X12では、CPUに内蔵された行列演算機能「Advanced Matrix Extensions(AMX)」を活用するほか、CPUとメモリの割り当てを柔軟に調整できるFlex VMも用意している。X12の発表を踏まえると、今回のX14計画は、CPUによるAI推論を初めて導入するものではなく、既存の取り組みを次世代プロセッサーへ発展させるものといえる。

IntelとOracleが想定する用途は、テキストの埋め込み生成や検索結果の再順位付け、小規模AIモデルの推論から、AIエージェントが利用する業務アプリケーションや外部ツールの実行まで幅広い。これらは一連の業務の中で連携するものの、必要とする計算処理の性質は異なる。今回の協業では、AIモデルの演算性能だけでなく、モデルを取り巻くアプリケーション処理も含めた性能向上を目指している。

AIエージェントには推論以外の計算処理も欠かせない

AIエージェントが実際にどのような処理を行うのかは、Oracleが公開しているSQLエージェントの参照設計を見ると理解しやすい。この設計では、利用者が自然言語で入力した質問を、データベースに対するSQLクエリへ変換するまでの処理が説明されている。まず、システムは質問に関連するテーブルの候補を検索し、その関連度を再評価して適切な候補を絞り込む。この過程で使われる埋め込み生成は、文章を数値ベクトルに変換し、意味の近さに基づいて検索できるようにする技術だ。再順位付けは、最初の検索で得られた候補をより詳しく評価し、関連性の高い順に並べ直す処理を指す。

適切なテーブルが見つかっても、処理はそこで終わらない。続いてAIモデルがSQLを生成し、その構文を検証したうえでデータベース上で実行する。さらに、キャッシュの管理や対話履歴の保存、外部から呼び出すREST API、システムの監視といった機能も必要になる。利用者から見れば一つの質問に答えるだけの処理でも、その内部では検索、AIモデルの推論、データベース操作など、性質の異なる計算が連続して実行されている。

特に重要なのは、前の処理の結果が次の処理の品質を左右する点だ。例えば、関連するテーブルの検索は、SQLを生成するモデルにどの情報を渡すかを決める役割も担っている。検索処理とSQL生成を個別に高速化したとしても、適切な情報を受け渡せなければ、業務全体の品質や実行効率が改善するとは限らない。実際の性能を評価するには、候補の検索からSQLの生成・検証・実行までを、一連の処理として測定する必要がある。

同様に、AIモデルが文章やSQLを生成する速度だけでは、利用者が最終的な結果を受け取るまでの時間を判断できない。推論が高速化しても、その後のデータベース処理に時間がかかれば、業務全体の所要時間は期待したほど短縮されない可能性がある。対話履歴の保存や外部ツールの実行も、モデルが次のトークンを予測する処理とは異なる計算資源を消費する。AIエージェントには、こうした処理の順序を管理し、必要に応じてツールを呼び出す実行制御も求められる。

ただし、Oracleの参照設計はあくまでシステムの構成を説明したものであり、X14で動作させた事例や性能測定の結果ではない。また、各処理をどのCPUで実行するか、CPUとGPUにどのように分担させるか、処理時間の内訳がどうなるかも明示されていない。この設計から分かるのは、一つのAIエージェントが性質の異なる計算を組み合わせて業務を遂行するという点だ。以下で説明するAMXとAPXの役割も、両者の技術的な特性を踏まえた分析であり、特定のOCIサービスでの実装や性能を確認したものではない。

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AMXは行列演算、APXは汎用プログラムを高速化

IntelがAI処理向けに強化しているAMXは、CPU内部で行列演算を効率的に実行するための命令拡張だ。Intelの技術解説によると、行列データの一部を保持する二次元のタイルレジスタと、行列積を計算する演算機構を組み合わせている。レジスタはCPU内部にある高速な作業領域であり、AMXでは行列データをタイルとして保持しながら演算することで、AI推論などで多用される計算を効率化する。AMX自体は第4世代Xeonから導入されており、Diamond Rapidsで初めて登場する技術ではない。

一方、APX(Advanced Performance Extensions)が対象とするのは、一般的なアプリケーションの実行に使われる汎用コードだ。IntelのAPX技術解説では、汎用レジスタを従来の16個から32個へ拡張することなどが説明されている。これにより、コンパイラはプログラムの実行中に必要な値をCPU内部により多く保持でき、メモリアクセスや値の退避・復元に伴う処理を減らせる可能性がある。行列積に特化したAMXとは異なり、APXは業務アプリケーションや外部ツールなど、通常のプログラムの実行効率を改善するための技術である。

AIエージェントの処理に当てはめると、AMXは埋め込み生成や再順位付け、小規模モデルの推論など、行列演算を多用する部分の高速化に適している。一方、APXはアプリケーションの制御やツールの実行など、汎用命令を使う処理の効率改善に役立つ可能性がある。ただし、これらは命令拡張の機能から考えられる用途であり、X14の実測性能や特定のサービスへの適用を示したものではない。Intelの技術資料を基に、それぞれの特徴と利用条件を整理すると次のようになる。

機能 主な仕組み AIエージェントで想定される用途 利用に必要な条件
AMX 二次元タイルレジスタと専用演算機構によって行列計算を高速化 埋め込み生成、検索結果の再順位付け、小規模AIモデルの推論など 対応CPU・OSと、AMX命令を利用するライブラリやフレームワーク
APX 汎用レジスタを16個から32個に拡張するなど、汎用コードの実行効率を改善 業務アプリケーションや外部ツールなどの汎用処理 対応CPUに加え、再コンパイルや実行環境側の対応

二つの命令拡張を活用するうえでは、CPUそのものの対応だけでなく、ソフトウェア側の準備も重要になる。AMXを使うには、CPUとOSに加え、対応する命令を実際に呼び出すライブラリやフレームワークが必要だ。APXについても、既存の実行ファイルが新しい命令を自動的に使い始めるわけではない。コンパイル済みのプログラムでは通常、対応コンパイラによる再ビルドなどが必要になり、動的言語ではランタイムや関連ライブラリの対応が利用条件となる。既存ソフトウェアを問題なく実行できることと、新しい命令による性能向上を得られることは区別しなければならない。

また、埋め込み生成や再順位付けといった処理でも、そのすべてが行列演算で構成されているわけではない。モデルの呼び出しやデータの受け渡し、演算結果の処理には通常のプログラムも使われるため、AMXだけで処理全体を高速化できるとは限らない。APXは、こうした汎用コードの実行効率を改善するための拡張だ。一つのAIエージェントに両方の処理が含まれるからこそ、AMXとAPXをまとめて「AI向け機能」と捉えるのではなく、それぞれがどの部分に効果をもたらすのかを見極める必要がある。

ソフトウェアの対応については、今回の協業発表以前から準備が進められている。Intelが2025年6月15日に公開したGCC 15に関する技術解説では、Binutils 2.44とともにDiamond Rapids向け命令への対応を進め、APXの全機能やAMX-FP8をサポートすることが説明されている。コンパイラが新しい命令を生成できることは、対応ソフトウェアを開発するうえで重要な前提となる。ただし、それ自体がDiamond Rapidsの出荷開始や、OCIでのサービス提供開始を意味するわけではない。

今回のX14計画では、FP8、FP16、BF16といった数値形式に対応する強化されたAMXに加え、汎用処理向けのAPXが挙げられている。ただし、FP16やBF16への対応がDiamond Rapidsで初めて導入されると解釈するのは正確ではない。重要なのは、利用するモデルの数値形式や演算処理に対応したライブラリと実行環境が整い、実際のサービスで新しい命令を活用できるかどうかだ。ハードウェアの機能が増えても、それをソフトウェアが利用しなければ、期待される性能向上にはつながらない。

OracleがCPUとAIアクセラレーターを使い分ける理由

OracleはIntelとの協業発表と同じ10月27日、OCIで利用できる計算資源の選択肢をさらに広げる方針も明らかにした。OCIの今後の展開に関する発表では、AMDの第6世代EPYCプロセッサーを採用するE7のほか、NVIDIAのVera RubinやVera CPU、Google TPUなども挙げられている。Intelとの協業は、特定のプロセッサーに計算処理を集約するのではなく、用途に応じて異なる計算資源を利用できるようにする戦略の一環といえる。

AIエージェントの処理を分解すると、こうした方針の意味がより明確になる。大規模AIモデルを実行するためのアクセラレーターを増強することと、検索やデータベース、業務アプリケーションを動かすCPUの処理能力を増やすことでは、解決しようとする課題が異なる。Intelの発表でも、これらの計算資源を独立して拡張できる構成が想定されている。OracleはX12に続くXeonの導入を将来世代へ広げることで、AIモデルの処理能力と、その周辺で動く業務システムの処理能力を、それぞれの需要に応じて調整できるようにする狙いがあると考えられる。

例えば、AIモデルの推論量が変わらなくても、エージェントが呼び出す業務サービスの処理量が増えれば、CPU側の増強が必要になる可能性がある。反対に、検索やデータベース処理に余裕があっても、AIモデルの推論能力が不足していれば、業務全体の処理速度は改善しない。計算資源を独立して拡張できれば、どこが性能上のボトルネックになっているかに応じて、必要な部分へ投資を集中できる。これは、AIシステム全体を効率的に運用するうえで重要な考え方だ。

ただし、異なる計算資源に処理を分担させる場合、システム間でデータを転送するためのネットワークも重要になる。Oracleが同日に公開したAI向けネットワークの技術解説では、共有フロントエンドネットワークでRDMAを利用する際の課題が取り上げられている。RDMA(Remote Direct Memory Access)は、離れたマシン間でデータを転送する際に、CPUやOSの関与を抑えてメモリへ直接アクセスするための技術だ。データ転送に伴うCPUの負荷を減らせるものの、CPU自体の演算性能を高める技術とは役割が異なる。

RDMAを利用しても、共有ネットワークでは混雑や遅延、パケット損失への対策が必要になる。CPUの演算能力を高めたとしても、別のマシンからデータが届くまでの待ち時間がなくなるわけではない。ただし、Oracleのネットワーク解説はX14固有のRDMA仕様や提供範囲を明らかにしたものではない。ここで重要なのは、CPUとアクセラレーターを適切に組み合わせる効果を評価する際、演算能力だけでなく、データ転送に伴う負荷や遅延も考慮する必要があるという点だ。

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X14の実力は業務全体の処理時間と費用で判断する必要がある

今回のIntelとOracleの発表では、X14の具体的な提供開始日や対応地域、料金は明らかにされていない。最終的なシステム構成やプロセッサーの供給数量、契約金額なども公表されておらず、実際の業務負荷を用いた性能比較の結果も示されていない。現時点で発表されているのは将来の協業計画であり、Intelも予定されている機能の納入や提供を保証するものではないと明記している。

X14の導入効果を判断するには、AIモデル単体の推論速度ではなく、エージェントが一つの業務を完了するまでの処理時間を測定することが重要になる。例えばSQLエージェントであれば、同じ質問群を使い、関連テーブルの検索からSQLの生成、検証、実行までを一連の処理として比較する必要がある。その際には、処理時間だけでなく、正しい結果を得られた割合や同時実行性能も確認したい。さらに、必要なメモリ容量や運用費用を含めれば、モデルの推論が高速化した効果と、データベースや外部ツールの処理に伴う待ち時間を区別して評価できる。これらは今後の性能検証に必要な観点であり、今回の発表で示された測定結果ではない。

AMXを利用するライブラリや、APXに対応するコンパイラ・実行環境の整備状況も、評価条件として欠かせない。同じDiamond Rapidsを搭載していても、アプリケーションが新しい命令を利用するかどうかによって、得られる性能は変わる可能性がある。また、CPUとアクセラレーターの役割分担や、ネットワークを介したデータ転送の条件によっても、システム全体の効率は左右される。X14の提供条件が明らかになり、対応ソフトウェアを使った実測結果がそろえば、企業はCPUとアクセラレーターのどちらに計算資源と予算を割り当てるべきかを、業務一件当たりの処理時間と総費用に基づいて判断できるようになるだろう。