2025年10月23日(米国時間)、半導体大手Intelが発表した第3四半期決算は、市場の予想を大きく覆す力強い内容だった。6四半期、実に1年半にわたる赤字のトンネルを抜け、待望の黒字転換を果たしたのである。このニュースを受け、同社の株価は時間外取引で7%以上も急騰し、市場はIntelの「復活」への期待を新たにした。しかし、この好決算は本当に持続的な成長への転換点なのだろうか。それとも一過性の追い風によるものなのか。その答えの鍵は、PC事業の回復という目先の好材料の裏で、同社の未来そのものを賭けて進む巨大プロジェクト、「Intel Foundry(インテル・ファウンドリ)」事業の進捗にある。

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予想を覆した「復活」の決算、V字回復の背景

Intelが発表した2025年第3四半期(7-9月期)の業績は、アナリストたちの悲観的な予測をことごとく打ち破るものだった。

  • 売上高: 137億ドル(約2兆円)。市場予想の131億4000万ドルを上回る。
  • 純利益: 41億ドル。前年同期の166億ドルという巨額の純損失から劇的なV字回復を遂げた。
  • 1株あたり利益(EPS): 調整後ベースで23セント。市場予想のわずか1セントを大幅に上回る結果となった。

この結果は、長らく低迷に苦しんできたIntelにとって、大きなターニングポイントとなりうる。決算説明会でCEOのLip-Bu Tan氏は、「会社を再建するために我々が進めている着実な進歩の現れだ。まだ道は長いが、我々は正しい一歩を踏み出している」と述べ、再建への自信を覗かせた。

では、この劇的な黒字転換は何によってもたらされたのか。その要因は、単一のものではなく、3つの巨大な潮流が複合的に作用した結果であると筆者は分析する。

黒字化を支えた3つの巨大な潮流

潮流1:国家とライバルが支える、異例の資金調達体制

近年のIntelの動きで最も注目すべきは、その異例とも言える資金調達力である。第3四半期だけで、同社はバランスシートに約200億ドルもの資金を追加した。その内訳は、Intelの戦略的重要性を如実に物語っている。

  • 米国政府からの強力な支援: 89億ドルの投資計画の一環として、今四半期に57億ドルを受領。これは、Trump政権が主導する米国内での先端半導体製造能力の強化という国家戦略と完全に連動している。Tan氏は「Trump大統領とLutnick長官が私に寄せてくれた信頼と自信に光栄に思う」と述べ、政府との強固なパートナーシップを強調した。事実、この投資には「今後5年間、ファウンドリ事業を売却しないこと」という条件が付随しており、国家レベルでIntelのファウンドリ事業が重視されていることがわかる。
  • ライバルNvidiaからの50億ドル投資: AIチップ市場で圧倒的なシェアを誇るNVIDIAが、Intelに50億ドルを出資するというニュースは業界に衝撃を与えた。これは単なる資金提供ではない。両社は、IntelのCPUとNVIDIAのAIアクセラレータを高速インターコネクト技術「NVLink」で接続し、次世代のデータセンターおよびPC製品を共同開発することで合意している。これは、IntelがAIインフラ市場で再び中心的な役割を担うための重要な足がかりとなる可能性がある。
  • SoftBankからの20億ドル投資: 米国内での工場拡張を支援するため、SoftBankも20億ドルの出資を決定。これにより、Intelの財務基盤はさらに盤石なものとなった。

これらの巨額の資金流入に加え、AlteraやMobileyeといった傘下事業の株式売却も進め、Intelは財務状況を劇的に改善させた。これにより、莫大な先行投資が必要なファウンドリ事業や製品開発を、自信を持って推し進めるための「軍資金」を確保したのである。

潮流2:PC市場の回復とWindows 11移行の追い風

Intelの屋台骨であるPC向けチップ事業(Client Computing Group, CCG)も、力強い回復を見せた。同部門の売上高は85億ドルに達し、全体の業績を牽引した。この背景には、コロナ禍での特需の反動が一巡し、PC市場全体が回復基調にあることに加え、MicrosoftがWindows 10のサポートを終了したことに伴う企業向けの「Windows 11」への移行需要が本格化したことがある。CFOのDavid Zinsner氏が「需要は我々が供給計画を立てた際の予想よりもはるかに強い」と語るように、この追い風はIntelにとって大きなプラス材料となった。

潮流3:Tan CEO主導の徹底したコスト構造改革

2025年5月にCEOに就任したLip-Bu Tan氏の下、Intelは聖域なきコスト削減を断行してきた。大規模な人員削減もその一環であり、従業員数は1年前の約12万4100人から、今期末には8万8400人へと大幅に減少している。

ただし、この点については懸念の声も存在する。Constellation Researchのアナリスト、Holger Mueller氏は、「Intelは研究開発(R&D)予算を20%も削減した。成長のドライバーがさらなるR&Dから生まれないのであれば、どこから来るのか明確ではない」と指摘する。短期的な収益改善が、長期的な技術開発競争力に影響を及ぼさないか、注意深く見守る必要があるだろう。

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真の試金石:Intel Foundry事業の現在地と未来

PC事業の回復と財務改善は、いわばIntel復活の「第一幕」に過ぎない。同社が真に半導体業界の盟主へと返り咲くことができるか、その運命を左右するのが「Intel Foundry」事業である。TSMCやSamsungが支配する半導体受託製造市場に後発として挑むこの巨大プロジェクトの成否が、Intelの未来を決定づけると言っても過言ではない。

売上微減の現実と、未来への莫大な投資

第3四半期のファウンドリ事業の売上高は42億ドルと、前年同期比で2%の減少となった。さらに重要なのは、この売上の全てがIntel自身の製品を製造したことによるものであり、外部顧客からの売上はまだ計上されていないという点だ。営業損失も23億ドルにのぼり、事業は依然として莫大な投資フェーズにある。

しかし、ウォール街がこの事業に注目するのは、その巨大な潜在市場があるからだ。AIの爆発的な普及は、先端半導体の需要をかつてないレベルにまで押し上げている。Tan氏が「世界クラスのファウンドリを構築することは、信頼に基づく長期的な取り組みだ」と語るように、Intelはこの巨大な需要を取り込むべく、着々と布石を打っている。

最先端プロセス「Intel 18A」のリアルな進捗:歩留まりは“想定通り”か?

ファウンドリ事業成功の鍵を握るのが、最先端の製造プロセスだ。その筆頭が、2025年内の量産開始を目指す「Intel 18A」(1.8nm相当)である。決算説明会で経営陣は、18Aの進捗について「予測可能な率で進展している」と繰り返し強調した。

この発言は、楽観一辺倒ではない、現実的な状況を示唆している。CFOのZinsner氏は、アナリストからの質問に対し、さらに踏み込んだ説明をしている。
「Intel 18Aの歩留まり(良品率)は悪い状態にあるわけではない。年末の目標を達成する見込みだ。しかし、コスト構造的に完全にプラスになるためには、歩留まりはもっと良くなる必要がある。それには来年いっぱいかかるだろう」

これは、技術的には量産可能なレベルに達しつつあるものの、商業的に十分な利益を出せるレベルの歩留まりに到達するには、まだ時間と改善が必要であることを率直に認めたものだ。これはあらゆる新プロセスの立ち上げに共通する課題であり、Intelが現実的なロードマップに沿って開発を進めている証とも言える。

この計画が順調であることの具体的な証拠として、Intel 18Aで製造される最初の製品となる次世代CPU「Panther Lake」(Core Ultra 3)が年内にも市場に投入される予定であること、そして18Aの量産拠点となるアリゾナ州の「Fab 52」が完全に稼働を開始したことが挙げられる。

次世代の切り札「Intel 14A」への布石:High-NA EUVがゲームを変える

さらにIntelは、その先の世代である「Intel 14A」(1.4nm相当)の開発についても言及した。驚くべきことに、Zinsner氏はこの14Aについて、「開発は素晴らしいスタートを切った。同じ成熟度の時点での18Aと比較して、性能と歩留まりの点でより優れている」と、極めて強気な見通しを語った。

この自信の背景には、次世代の露光装置である「High-NA EUV」の導入がある。オランダのASML社が製造するこの最先端装置を活用することで、Intelは特定の層の製造に必要な工程数を従来の40工程から10工程未満へと劇的に削減でき、開発・製造のサイクルタイムを大幅に短縮できるとしている。この技術的アドバンテージを活かせれば、Intelが長年失っていたプロセス技術におけるリーダーシップを奪還するシナリオも現実味を帯びてくる。

横たわる課題:顧客獲得と「サービス業」へのマインドセット変革

技術的な進捗は目覚ましいものがあるが、ファウンドリ事業が成功するためには、もう一つの、そして最も重要なハードルを越えなければならない。それは「外部顧客の獲得」である。

決算説明会でTan氏は、この課題に対する深い理解を示した。
「ファウンドリとして、我々は顧客がそれぞれの製品を独自の方法で構築できるよう、我々のプロセスが容易に利用できることを保証しなければならない。顧客が性能、歩留まり、コスト、スケジュールの全てのニーズを満たすために我々に期待する中で、我々は彼らを喜ばせることを学ばなければならない」

これは、ファウンドリが単なる製造業ではなく、顧客の設計思想に深く寄り添い、最適なソリューションを提供する「サービス業」であるという本質を突いた言葉だ。Intelが長年培ってきた自社製品中心の文化から、顧客第一のサービス文化へとマインドセットを完全に変革できるか。それが、TSMCやSamsungといった巨人たちと対等に渡り合うための絶対条件となる。

Intelは「復活の序章」にいる

今回の決算は、Intelが長いトンネルの出口に差し掛かったことを示す、力強いシグナルであることは間違いない。米国政府、そしてライバルNVIDIAまでも巻き込んだ盤石の財務基盤と、PC市場の回復という追い風を受け、同社は再建に向けた確かな第一歩を踏み出した。

しかし、これはまだ「復活の序章」に過ぎない。真の持続的成長は、競争が激化するデータセンター市場でのシェア奪還と、未来を賭けたファウンドリ事業の成功にかかっている。

Intel 18Aおよび14Aにおける技術的な進捗は、業界に衝撃を与えるほどの希望の光だ。だが、その光を商業的な成功、すなわち大手ファブレス企業などの外部顧客からの大型受注という具体的な果実に結びつけられるかが、今後最大の焦点となる。

半導体の巨人は、再び業界の盟主へと返り咲くことができるのか。その答えは、今後数四半期にわたるファウンドリ事業の動向が、静かに、しかし雄弁に物語ることになるだろう。


Sources