人工知能(AI)ハードウェア市場において絶対的な支配力を誇るNVIDIAに対し、新たな陣営が包囲網を敷きつつある。米国時間2026年2月24日、AIチップスタートアップのSambaNova Systemsは、総額3億5,000万ドルのシリーズE資金調達ラウンドを完了し、同時に次世代AIプロセッサ「SN50」を発表した。このニュースが興味深いのは、この動きの背後にIntelの影が色濃く存在している点である。

これまでAIブームの波に乗り遅れ、業績低迷に苦しんできたIntelは、SambaNovaの買収を模索していたものの合意に至らなかった経緯がある。しかし今回、Intel Capitalを通じて出資に参加するだけでなく、IntelのXeonプロセッサとSambaNovaの専用アクセラレータを統合したヘテロジニアス(異種混在)なAIデータセンター構築に向け、複数年にわたる戦略的提携を結ぶことを明らかにした。

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SambaNova SN50:GPUアーキテクチャからの脱却

SambaNovaが新たに発表した「SN50」チップは、既存のGPU(Graphics Processing Unit)とは根本的に異なる設計思想に基づいている。同社はこれを再構成可能データフローユニット(RDU: Reconfigurable Dataflow Unit)と呼称しており、ニューラルネットワークのグラフ全体を直接ハードウェアにマッピングする手法を採用している。

SN50は、前世代のSN40と比較して5倍の演算性能と4倍のネットワーク帯域幅を実現している。アーキテクチャの根幹をなすのは、最大10兆パラメータの巨大モデルと1000万トークンのコンテキスト長をサポートする3層メモリ設計である。これにより、モデル内の複雑な推論プロセスにおいてデータを効率的に処理し、GPUのような頻繁なメモリへのアクセスに伴う遅延や消費電力の増大を抑制する。

特に注目すべきは、SN50が「エージェント型AI(Agentic AI)」と呼ばれる自律型AIの実行に特化して最適化されている点である。ユーザーのプロンプトに対して単発の回答を返す生成AIとは異なり、エージェンティックAIは複雑なタスクを細かいステップに分解し、自律的に判断を下しながら連続的な処理を行う。このプロセスでは、超低遅延での即時応答性が極めて重要となる。SambaNovaは、SN50がエージェンティックAIのワークロードにおいて、NVIDIAのB200(Blackwellベース)システムを上回る性能を発揮し、所有総コスト(TCO)を3分の1に削減できると主張している。

最大256個のアクセラレータを毎秒数テラビットのマルチテラビットインターコネクトで接続可能な拡張性を持つSN50は、データセンター規模での推論基盤として強力な選択肢となる。実際、OpenAIの主要な投資家でもあるSoftBankは、この新ハードウェアの最初の顧客として名乗りを上げ、日本国内のAIデータセンターへの導入を決定している。これは、最先端のインフラを求める巨大なテクノロジーキャピタルが、NVIDIA以外の選択肢を真剣に検討、実戦投入し始めていることを示している。

Intelの焦燥と「推論市場」への賭け

IntelのSambaNovaに対するアプローチは、AI時代における自社の立ち位置を再定義しようとする苦肉の策であり、同時に現実的な生存戦略でもある。Intelの元CEOであるPat GelsingerがAIの波を過小評価していたことは広く知られており、同社はデータセンター向けGPUの領域でNVIDIAやAMDに大きく遅れをとっている。

2026年1月には、IntelがSambaNovaを約16億ドルで買収するための交渉を行っていると報じられた。しかし、2021年の資金調達時点で既に50億ドル以上の評価額を得ていたSambaNovaにとって、この金額は到底受け入れられるものではなかった。買収交渉の決裂後、Intelは「競合排除」から「協調」へと戦略を転換せざるを得なかった。今回の提携において、IntelのCEOであるLip-Bu Tan氏が果たす役割は決して小さくない。Tanは2017年からSambaNovaの会長を務めており、彼が設立したWalden Internationalを通じた初期の出資者でもある。

Intelの計算はこうである。AI市場は「モデルの学習(Training)」から「モデルの推論・運用(Inference)」へとフェーズが移行しつつある。学習フェーズにおいてはNVIDIAのGPUが圧倒的なエコシステム(CUDA)を構築してしまったが、推論フェーズにおいては、特定のワークロード(例えばエージェンティックAIや音声認識など)に対して特化したアーキテクチャがコストパフォーマンスの面でGPUを凌駕する余地が残されている。

Intelは自社の主力製品であるXeon CPUをSambaNovaのRDUと組み合わせることで、「ヘテロジニアス・コンピューティング戦略」を推進する構えだ。汎用的なシステム制御やデータ管理をXeonが担い、大規模言語モデルの推論計算といった高負荷のタスクをSN50が処理する。Intelが提供するネットワーク機器やストレージとパッケージ化することで、エンタープライズ顧客に対して導入が容易なAI基盤を提供し、サーバーCPU市場での存在感を維持しながら数十億ドル規模の推論市場に食い込む狙いがある。

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なぜ「ヘテロジニアス」が求められるのか

インフラストラクチャの観点から見ると、NVIDIAのGPUに依存する単一障害点(シングルポイント・オブ・フェイリア)のリスクを嫌うクラウドベンダーや大企業は、代替手段の確保に奔走している。AIモデルそのものがコモディティ化しつつある現在、企業が真に求めるのは「どのチップを使っているか」ではなく、「いかに安定的かつ低コストでAIサービスを提供・運用できるか」という結果である。

SambaNovaのCEOであるRodrigo Liang氏が指摘するように、最大規模のモデルを構築する競争から、データセンター全体を効率的なAIエンジンで満たす競争へとゲームのルールが変わったのである。生成AIが実証実験(PoC)の段階を終え、企業の収益エンジンとしてフル稼働を始めるフェーズにおいて、電力効率は性能と同等以上に重要な指標となる。膨大な計算能力を必要としながら電力を大量に消費するGPU一辺倒のインフラは、環境負荷やデータセンターの物理的制約から持続不可能になりつつある。

専用チップによるエコシステムは、過去にも仮想通貨のマイニング(GPUからASICへの移行)などで見られた歴史的な必然とも言えるダイナミクスである。汎用性(汎ゆる計算に対応可能)を誇るGPUに対し、特定のアルゴリズムに極限まで最適化された専用ハードウェアが推論の最前線に立つ未来は十分に現実味を帯びている。

業界構造への影響と今後の展望

この提携は、AIハードウェア市場におけるエコシステムの分断と再編を象徴する出来事である。SambaNovaは、単なるチップベンダーとしてではなく、モデルの最適化からハードウェア、さらにはクラウドサービスまでを提供するフルスタックのAIインフラストラクチャ企業への脱皮を図っている。「SambaNova Cloud」と呼ばれる自社クラウドインフラを拡充しつつ、オンプレミスでのデプロイメントもサポートする両手利きの戦略は、柔軟性を求めるエンタープライズ顧客にとって魅力的である。

一方で、Intelにとっては茨の道が続く。SambaNovaとの提携は、自社の自社製AI向けGPUの開発や展開が思うように進んでいないことの裏返しでもある。外部の技術を事実上コアな推論エンジンとして取り込むことで、データセンター市場での地位を防御することはできるかもしれないが、半導体設計・製造の王者としての復権には程遠い。Lip-Bu Tanのリーダーシップの下、外部連携を通じて失地回復を図るIntelの姿勢は、自前主義からの脱却という点で評価できるが、利益率の低下という新たな課題に直面する可能性がある。

さらに、BroadcomやGoogle(TPU)、AWS(Trainium)といった他のプレイヤーも独自シリコンの開発を加速させている現在、NVIDIAの対抗馬としての地位を確立するのは容易ではない。SN50というハードウェアの性能優位性が、ソフトウェアスタックの成熟度や開発者コミュニティの広がりといったエコシステム全体でNVIDIAの牙城を崩せるかどうかが、真の試金石となる。

推論市場という新たな主戦場において、Intelの広範な顧客基盤と流通網、そしてSambaNovaの特化型アーキテクチャという組み合わせは、市場に一石を投じることは間違いない。計算資源の最適配分というデータセンターの永遠の課題に対し、特定の機能に最適化された異種混在型のコンピューティングが有力な解となるのか。その実力は、SoftBankをはじめとする初期顧客のデータセンターで運用されるエージェンティックAIのレスポンス速度とコスト効率の数値によって、間もなく証明されることとなる。


Sources