Moonshot AIは2026年11月4日、AIモデル「Kimi K3.1 Pro」の学習済みの重みを公開した。10月からアプリやAPIで提供していたモデルを、利用者がダウンロードして自社の環境で運用できるようになった。GIGAZINEが紹介した公式Xへの投稿でも11月4日の公開が確認でき、Hugging Faceではモデルの配布ファイルを取得できる。

Kimi K3.1 Proは、トークンごとに一部のパラメータだけを計算に使うMixture of Experts(MoE)方式を採用している。計算量を抑えながら大規模なモデルを運用できる構造だが、実際に計算するパラメータの数と、モデル全体を保持するために必要なメモリ容量は異なる。自社環境への導入を検討する際には、モデルの規模だけでなく、推論エンジンへの対応状況や処理性能、ライセンス条件も確認する必要がある。

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2.8兆パラメータのうち計算に使うのは約3.7%、配布容量は1.56TB

Kimi K3.1 Proの総パラメータ数は2兆8,000億で、1トークンの処理に使うパラメータ数は1,040億となっている。Moonshot AIの公式モデルカードにも、両者は区別して記載されている。総パラメータ数はモデル全体の規模を表す一方、アクティブパラメータ数は個々のトークンを処理する際に実際に計算する部分の規模を示す。MoEでは必要な計算量を削減できるものの、それに比例してモデル全体のメモリ負担が減るわけではない。

1,040億を2兆8,000億で割ると、1トークン当たりのアクティブパラメータの割合は約3.7%となる。しかし、Hugging Faceの公式Filesページに表示されているリポジトリの総容量は約1.56TBに達する。これは11月5日時点の配布ファイル全体の容量を丸めた値であり、実行時に必要なGPUメモリ(VRAM)の容量を示すものではない。

重みにはMXFP4、活性化値にはMXFP8という低精度の数値形式を採用している。モデルカードによると、学習時から量子化の影響を考慮する「量子化を考慮した学習(Quantization-Aware Training)」が使われており、公開後に第三者が重みを圧縮したものではない。配布ファイルには「model-00001-of-000096.safetensors」など、96分割された重みファイルが含まれる。低精度化された状態でも容量はTB単位に達しており、必要なVRAMやGPUの最低枚数、運用費用をアクティブパラメータの割合だけから算出することはできない。

長文処理の効率化を狙った新しい疎な注意機構

Kimi K3.1 Proでは、長い入力に含まれる情報を参照する注意機構にも変更が加えられた。Moonshot AIは、前世代のK3で採用していた全注意方式の「Gated MLA」を、参照する情報を絞り込む「Gated DeepSeek Sparse Attention(Gated DSA)」に置き換え、長文処理の効率化を図ったと説明している。全93層のうち、69層がKimi Delta Attention(KDA)、24層がGated DSAで構成される。この変更により、K3とK3.1 Proでは推論エンジンが対応すべき注意機構の構成が異なる。

モデルが扱える最大コンテキスト長は1,048,576トークンで、テキストと画像の入力に対応する。Gated DSAでは参照対象を選ぶ設定としてTop-K=2048が指定されている。ただし、最大コンテキスト長や注意機構の設定は、長い入力を処理する際の実際の速度を保証するものではない。公式モデルカードにも、この注意機構の変更だけによる高速化率や性能向上への寄与を切り分けた測定結果は示されていない。

Moonshot AIが推奨する推論エンジンは、vLLM、SGLang、TokenSpeedの三つだ。重みが公開されたからといって、K3向けの既存環境をそのまま利用できるとは限らず、新しい注意機構や数値形式への対応が必要になる。実際に導入する際には、使用する推論エンジンがモデルの構造に対応しているか確認したうえで、想定する入力長や同時利用数に応じた処理性能を測定する必要がある。約100万トークンの入力を受け付けられることと、その入力を実用的な待ち時間で処理できることは別の問題だ。

モデルの能力についても、評価項目によって結果に差がある。Moonshot AIの公式発表では、Terminal-Bench 4.0で65.7を記録した一方、Program Benchのスコアは31.5にとどまり、同じ比較表に掲載されたGPT-6 Astraの50.0、Claude Opus 5.5の65.0を下回った。Kimi K3.1 Proの評価には原則としてreasoning_effort=max、temperature=1.0、top-p=0.95が使われている。これらはMoonshot AIが公表した評価結果であり、すべてを第三者が独立して追試したものではない。また、ベンチマークの得点から実際の推論速度や同時処理能力を判断することもできない。

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Huawei Ascendにも対応、ただし処理性能の検証はこれから

中国メディアのIT之家は、Huaweiの計算事業の公式アカウントによる発表として、Kimi K3.1 Proの公開初日からvLLM AscendとSGLangによる推論に対応したと報じている。対応製品として挙げられているのは、Atlas 800 A3、Atlas 900 A3 SuperPod、Ascend 950の超ノード系列だ。これらの環境でモデルを配備できることは、NVIDIA製GPU以外の選択肢を検討するうえで重要だが、すべての機種で同等の処理性能が確認されたわけではない。

具体的な検証状況は、11月4日にiridiumineが作成したSGLangのGitHub issue #48348で確認できる。記載されている構成は3ノード、各ノード8カードの合計24カードで、並列化の設定はTP8×PP3(テンソル並列8、パイプライン並列3)となっている。ただし、24カードという数字は今回の検証で使用された構成を示しており、Kimi K3.1 Proを動かすための最低要件ではない。

同issueでは、この構成で単一リクエストの入力処理(prefill)と生成処理(decode)の精度を検証済みと報告している。一方、一定時間に処理できるリクエスト数やトークン数を表すスループットについては、ベンチマーク結果を今後追加する予定とされている。つまり、特定のAscend環境で正常に推論できることは確認されたものの、多数の利用者が同時にアクセスする状況での処理能力までは明らかになっていない。

実際の運用では、長い入力を少数の利用者が処理する場合と、多数の利用者が短いリクエストを同時に送る場合で、求められる性能が異なる。そのため、対応製品の一覧や単一リクエストの検証結果だけで、導入時の速度や費用を見積もることは難しい。Ascend環境の実用性を評価するには、想定する入力長や同時利用数をそろえた測定が必要であり、現時点の検証結果からNVIDIA環境との性能・費用の優劣を判断することもできない。

重みは無償公開、商用利用には売上規模などの条件も

Kimi K3.1 Proは重みを無償でダウンロードでき、利用や改変、再配布、ファインチューニングも認められている。ただし、適用されるのはMoonshot AIの独自ライセンスであり、あらゆる商用利用が無条件で認められるわけではない。著作権表示とライセンス表示の保持、法令遵守が求められるほか、事業形態や売上規模によって追加の義務が生じる。

ライセンスの第2条では、「Model as a Service」としてモデルを提供する事業を運営している場合に特別な条件が設けられている。利用者またはその関連会社がこうした事業を営み、利用者と関連会社の合計売上高が連続する12カ月間で2,000万米ドルを超える場合、商用利用に先立ってMoonshot AIとの別途契約が必要となる。ここでの売上基準はモデル提供事業単独ではなく、利用者と関連会社の売上高を合算したものだ。

Model as a Serviceには、APIなどを通じて第三者が入力やパラメータ、学習データを実質的に制御できる形で、推論やファインチューニングを提供する事業が含まれる。一方、特定機能にモデルを組み込んだ最終製品や、他社がホストするモデルへのリクエストを中継するだけのサービスは、この定義から除外される。したがって、単にAPIを利用しているかどうかではなく、第三者にどのような機能を提供し、誰が入力や設定を制御できるかが判断のポイントとなる。

第3条には、大規模な商用製品・サービスに対する表示義務も定められている。対象となる製品・サービスの月間アクティブ利用者数が1億人を超えるか、月間売上高が2,000万米ドルを超える場合、ユーザーインターフェース上に「Kimi K3.1-Pro」を目立つ形で表示しなければならない。第2条で定められた連続12カ月間の合計売上高とは、対象となる事業の範囲も集計期間も異なるため、混同しないよう注意が必要だ。

ただし、第4条ではこれらの条件に例外が設けられている。第三者にモデル自体や出力、基盤となる機能を提供しない内部利用と、Moonshot AIの公式製品または認定推論パートナーを経由した利用については、第2条と第3条が適用されない。社内向けのシステムであっても、第三者にモデルの出力や機能を利用させる場合は、内部利用の定義に該当するか慎重に確認する必要がある。

Kimi K3.1 Proの重みが公開されたことで、利用者は公式APIに加え、自社の要件に合わせた運用環境を選べるようになった。ただし、2.8兆パラメータというモデルの規模や約3.7%という活性化比率だけでは、導入に必要な設備や費用は決められない。今後は推論エンジンごとの対応状況と実測性能が明らかになることで、運用環境の比較が進むと考えられる。自社の用途に合った処理性能を確かめるとともに、提供形態に応じたライセンス条件を確認することが、導入判断の前提となる。