Giordano De Marzo、Claudio Castellano、David Garciaによる査読済み論文が、AIエージェントの多数派追従を、10種類のモデルで数値化した。2026年8月14日付のScience Advances掲載論文(DOI: 10.1126/sciadv.aea6091)は、選択に正解のない二択を提示し、周囲の選択だけを見せたとき、集団がいつ一方へそろうかを調べている。

研究が報告する「1,000体」は、1,000体が複雑な協働を成し遂げたという数字ではない。Claude 3.5 Sonnetでは最大実測群の1,000体でも、理論上の合意閾値を上回った。そのため、臨界的な群サイズは1,000超という下限しか得られなかった。人間は実験しておらず、人間の非公式集団と同じ尺度では比べられない。

論文が測ったのは、エージェントが正しい答えへ到達する能力ではなく、意味のない選択における同調と収束である。マルチエージェント設計では、どのモデルがどの人数で多数派の偏りを増幅するかが、個々の性能とは別の評価項目になる。

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10モデルに同じ多数派追従

対象は人間ではなく、次の10種類のLLMバージョンである。

開発元 実験に使ったモデル
Anthropic Claude 2.0、Claude 3 Haiku/Sonnet/Opus、Claude 3.5 Sonnet 5
OpenAI GPT-3.5 Turbo、GPT-4GPT-4o、GPT-4 Turbo 4
Meta Llama 3 70B Instruct 1

比較対象は3社のモデルにまたがるが、いずれも固定された特定バージョンだ。各エージェントに与えたラベルは任意の「k」と「z」で、正解、報酬、合意せよという指示は置かなかった。主実験の温度は0.2である。

実験では、全員が互いの現在の選択を見られる完全結合の集団に置かれた。ただし記憶はなく、各ステップで無作為に選ばれた1体だけが更新する。そのエージェントは他者全員の選択を見るが、自分自身の選択は見ない。初期状態は同数に分かれ、時間t=1はエージェント数N回の更新、すなわち各エージェントが平均1回選ばれる長さに当たる。

N=50、20回の試行を、各エージェントが平均10回更新されるまで走らせた測定では、Claude 3 OpusとGPT-4 Turboは20回すべてで完全な合意に達した。Claude 3 HaikuとGPT-3.5 Turboは0回、Llama 3 70Bは合意方向へ動いたものの、この時間制限内に全員一致しなかった。ここでの完全合意はC=|m|=1であり、課題の正答率ではない。

著者らはN=50で、集団内の偏りmに対して選択を採る確率を全10モデルで測定した。9モデルはP(m)=0.5[tanh(βm)+1]におおむね適合し、βを「多数派の力」と呼ぶ。中心となる遷移確率のデータセットは15の集団意見点ごとに200応答を含む。一方、GPT-3.5 Turboはこの近似の例外だった。多くのモデルでβは群が大きくなるほど低下したが、社会的圧力を知覚したためだという説明は、著者らが可能性として提示したにとどまる。

比較用の多数決カウントでは、リストが長くなっても正答率は同じように急低下しなかった。サイズ依存の曲線には、票数計算の成否とは違う振る舞いが含まれる。ただし、LLM内部で何がその応答を生むかを実験で切り分けたわけではない。

1,000体は実測上限

Claude 3.5 Sonnetで観測されたのは、N=1,000におけるβである。論文はこの値が完全合意に必要な理論閾値β_t(1,000)のおよそ3.5をなお上回ったと報告し、臨界群サイズN_cを「1,000超」とした。1,000はこのモデルの合意人数を確定した数ではなく、実験した最大人数である。

著者らの推定では、N_cはLlama 3 70Bで約30、GPT-4oで約80、GPT-4 Turboで約1,000となった。GPT-4 Turboの値も、全ての人数を直接観測して境界を確定したわけではない。群サイズに応じたβと理論閾値の交点から推定した数字だ。さらに協調時間の測定は通常5試行の平均だが、N=500では3試行、GPT-4 TurboのN=1,000は1試行だけであり、誤差棒は範囲を示す。

モデルのベンチマーク得点との比較もある。MMLUとlog(N_c)の相関は、人間とClaude 3.5 Sonnetの下限値を除いた8モデル点でPearson r=0.8178、P=0.013だった。MMLUとβは10モデルでr=0.7910、P=0.006である。これはモデル版の横断比較であり、能力の向上がより大きい合意集団を生むという因果効果を測ったものではない。他のベンチマークの多くでは、対象データの範囲が限られ、有意なN_c相関も得られなかった。

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磁石の数理で置いた境界

論文は実験で得たβを、強磁性体の集団的な振る舞いを表すCurie-Weissモデルへ対応付けた。ここでβ_c=1は秩序が現れ始める理論上の境界であり、β_t(N)≒0.5 log(N)は通常のゆらぎで完全合意へ届くための理論的な目安になる。LLMから測った応答曲線と、数理モデルの予測は同じ種類の実測値ではない。

N_cはβ(N_c)=β_t(N_c)として見積もる。モデルごとの「約30」「約80」「約1,000」は、実測した応答確率と理論式を接続した推定値である。類似した関数形は、LLMと磁石が同じ内部機構を持つことも、LLMが人間のように社会化することも立証しない。

研究チームは別に、Llama 3 70Bを150体から始める群分裂シミュレーションを5回実行し、10回の分裂反復で54件の分裂事象を得た。このデータでは約15体未満の群はほぼ分裂せず、約60体超の群は常に分裂した。95% Wilson区間も示されたが、これは二択応答の測定を使ったシミュレーションであり、現実の組織を観測した結果ではない。

合意は協働能力ではない

意味のない二択での収束は、分業、意図理解、長期記憶を伴うタスク品質を測らない。多数派が誤っていても、この実験は正解へ戻る性能を判定できない。人間の非公式な関係規模としてしばしば挙げられる150〜300という数字との比較についても、論文は直接同等ではないと明記し、その推定値自体に批判があると注記する。

結果の安定性は、条件によって違う。温度0.2、0.6、1.0の検査では大きな差がなかった一方、5種類のプロンプトのうちLlama 3 70Bでは2種類が大きく異なる選択確率曲線を示した。Claude 3.5 Sonnetでも1種類で小さなずれが出た。多数派追従の起点が学習データ、システムプロンプト、RLHF、あるいは計算の性質のどれなのかは、今回の設計では分からない。

コードと生成データはGitHubで公開され、Zenodoにもアーカイブされている。第三者が追試できる材料はそろうが、論文内のラベル、温度、プロンプトの検査は独立追試ではない。重複する著者を含むチームは、9種類のLLMと100の意見対を使い、同調が集団的な誤整合を安定させ得るとする後続プレプリントも出している。査読前であり、本研究の独立再現とは扱えない。

実務で確認すべきなのは、正解のある課題、エージェント間の記憶、役割の違い、限定された通信経路を加えたときにも、同じβとN_cの関係が残るかである。その検証がそろって初めて、二択の同調実験を実際のエージェント群の安全設計へつなげられる。