上海大学と中国科学院青海塩湖研究所の共同研究チームが、固体の二酸化マンガン(MnO₂)を電解液に加えたレドックスフロー電池で、正極液1L当たり156.2Ahという高い放電容量を記録した。レドックスフロー電池は、タンクに蓄えた電解液をセルへ循環させて充放電する蓄電池だ。今回の研究では、電解液に溶ける材料だけでなく、固体のMnO₂も利用することで、取り出せる電気量を増やした。ただし、最大容量を得た条件では50回の充放電後に容量が初期基準の38%まで低下しており、高容量化と長寿命化の両立が課題となっている。研究成果は上海大学が公式サイトで紹介している。

研究はXin Liu、Zhang Chen、Daiqi Zhouらによる査読済み論文として、2026年8月29日に学術誌『Nano-Micro Letters』でオンライン公開された。掲載巻号は2027年の第19巻で、DOIは「10.1007/s40820-026-02349-8」だ。ただし、原著論文で報告されたのは実験室の小型セルによる測定結果であり、156.2Ah/Lという値も正極液の体積のみを基準としている。電池全体のエネルギー密度を示す数字ではない点に注意が必要だ。

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正極液1L当たり156.2Ahを記録した小型フロー電池

レドックスフロー電池は、電気化学反応が起こるセルと、電解液を蓄えるタンクを分けて設計できることが特徴だ。一般的には、膜で隔てられた正極側と負極側の電解液を、それぞれポンプで循環させる。この仕組みでは、電解液の体積当たりに蓄えられる電気量を増やすことが、定置型蓄電設備の小型化につながる可能性がある。産業技術総合研究所もフロー電池の特徴を解説しているが、今回の研究でタンクを具体的に何%小さくできるかが実証されたわけではない。

研究チームは、硫酸マンガンを含む正極液に市販のMnO₂粒子を加え、半固体のスラリーを作製した。スラリーとは、固体粒子を液体中に分散させた流動性のある混合物で、今回の方式では導電性炭素を添加する必要がない。基本となる電解液には、1MのMnSO₄、0.5MのFe₂(SO₄)₃、0.1Mのピロリン酸ナトリウム、3Mの硫酸を使用した。Mはモル濃度(mol/L)を表し、固体MnO₂の添加量も液量当たりのモル数で示されている。

実験では、黒鉛フェルト電極の面積を4cm²または25cm²とし、正極液には15mLまたは20mLを使用した。電解液を隔てる膜にはNafion 212を採用し、循環流量は毎分80mL、充電上限電圧は1.1V、放電下限電圧は0.1Vに設定した。負極側では主にFe³⁺とFe²⁺の間の酸化還元反応を利用し、負極液の量は正極液より多くしている。

MnO₂を添加しない条件では、電極面積4cm²、電流密度30mA/cm²で38Ah/Lの放電容量が得られた。これに対し、MnO₂を4M添加し、電極面積を25cm²に拡大した条件では、容量が156.2Ah/Lに達した。ただし、MnO₂の添加量だけでなく電極面積も変更しているため、容量の増加をすべてMnO₂の効果とみなすことはできない。また、30mA/cm²という値は電極面積当たりの電流を示すもので、両条件の電流の絶対値が同じという意味ではない。論文では、30mA/cm²で151Ah/L超の容量と71%超のエネルギー効率を報告しており、電流密度を40mA/cm²に高めた条件でも125Ah/Lを記録した。

溶けにくいMnO₂を電池反応に利用する仕組み

従来のように電解液に溶けた材料だけで電気を蓄える方式では、その材料の溶解度が容量を制約する。今回の研究では、電解液に加えた固体MnO₂を放電時に溶液中のMn²⁺へ変換することで、固体に含まれるマンガンも電気化学反応に利用することを目指した。実際、2サイクルの充放電後に未反応の固体を遠心分離し、誘導結合プラズマ(ICP)分析によって液中の可溶性マンガン濃度を測定したところ、4MのMnO₂を添加した条件では3.76Mに達していた。この結果は、固体MnO₂の添加によって、溶液中で利用できるマンガンが増加したことを裏付けている。ただし、可溶性マンガン濃度の測定だけで、反応経路のすべてが明らかになったわけではない。

研究チームは、充電後に生成されたMnO₂をX線回折や透過電子顕微鏡で分析し、その構造変化も調べた。市販のMnO₂の比表面積が12.1m²/gだったのに対し、電気化学反応によって生成されたMnO₂は46.3m²/gと、約3.8倍の値を示した。さらに、両者をそれぞれ2時間攪拌した後に固液分離を行い、上澄み液から得られる容量を測定すると、市販MnO₂では0.72Ah/L、生成したMnO₂では2.58Ah/Lとなった。この結果から、電気化学反応によって生成したMnO₂の方が、液中で反応に利用できる成分を生じやすいことが分かる。

研究チームはさらに、電流と電位の関係を調べる電気化学測定やインピーダンス測定、波長約500nmにおける紫外可視吸収の比較を行った。これらの結果を基に、Mn²⁺とMn⁴⁺からMn³⁺が生じる「逆不均化反応」が関与していると考察している。具体的には、充電によって生成されたMnO₂から液中にMn³⁺が生じ、Mn³⁺とMn²⁺の間で反応が進むという仕組みだ。ただし、これは複数の実験結果を説明するために著者らが提案した反応経路であり、観測された容量や構造変化そのものとは区別して評価する必要がある。

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高容量化と長寿命化の両立が課題

MnO₂の添加によって一度の放電で取り出せる電気量が増えても、その性能を長期間維持できるとは限らない。研究チームは、電極面積25cm²、電流密度30mA/cm²という共通条件で、MnO₂の添加濃度を変えながら繰り返し充放電を行った。原著論文の図5に示された結果は次のとおりだ。

MnO₂添加濃度 クーロン効率(CE) エネルギー効率(EE) 容量保持率 測定サイクル数
1M 99.0% 76.0% 100% → 59% 100回
2M 99.3% 73.9% 100% → 50% 150回
3M 99.0% 71.9% 100% → 51% 50回
4M 98.2% 71.1% 100% → 38% 50回

容量保持率は、各条件の基準容量を100%とした場合の割合を示している。なお、基準容量の絶対値(Ah)は、論文本文で各条件について個別に列挙されているわけではない。

この結果から、MnO₂の添加濃度によって容量の維持性能が大きく異なることが分かる。最大容量を得た4M条件では、50サイクル後に容量が基準の38%まで低下した。一方、1M条件では100サイクル後に59%、2M条件では150サイクル後に50%を維持している。高い放電容量を得るためにMnO₂を多く添加すると、繰り返し使用した際の容量低下が課題になることを示す結果だ。

ここで注意したいのが、クーロン効率(CE)、エネルギー効率(EE)、容量保持率の違いである。CEは充電時に投入した電気量に対して放電で回収できた電気量の割合、EEは投入したエネルギーに対して回収できたエネルギーの割合を示す。一方、容量保持率は、基準時の放電容量を繰り返し充放電した後にどれだけ維持できているかを表す。4M条件ではCEが98.2%と高い一方、50サイクル後の容量保持率は38%にとどまった。つまり、1回ごとの充放電効率が高くても、長期間にわたって容量を維持できるとは限らない。

ただし、各条件で測定したサイクル数は異なり、独立したセル間の測定値のばらつきも示されていない。そのため、この結果だけで添加濃度ごとの寿命を厳密に順位付けしたり、統計的な優位性を判断したりすることはできない。

容量低下の原因についても、いくつかの手掛かりが得られている。1M条件では、100サイクル後に正極液中のマンガン濃度が1.83Mから1.15Mへ低下した。初期状態では膜の両側に1.83M対0.67Mという濃度差が存在しており、研究チームはマンガンの膜越しの移動や粒子の凝集が、容量低下に関与している可能性を指摘している。ただし、原因が一つに特定されたわけではない。膜の改良や分散剤の使用も対策として提案されているが、現時点では今後の研究課題にとどまる。

電池全体のエネルギー密度と実用性の検証が必要

今回報告された156.2Ah/Lという数字は、正極液の体積当たりに取り出せる電気量を表している。しかし、電池が蓄えられるエネルギーを評価するには、電気量だけでなく放電電圧も考慮しなければならない。電気量を示すAh/Lと、エネルギー量を示すWh/Lは異なる指標だ。さらに、実際の蓄電設備では正極液だけでなく負極液も必要になるため、正極液のみを基準にした数値を電池システム全体のエネルギー密度とみなすことはできない。

研究チームは、MnO₂を1M添加した条件で、負極の反応を鉄系のFe³⁺/Fe²⁺からバナジウム系のV³⁺/V²⁺へ変更する試験も行った。その結果、電流密度30mA/cm²における放電電圧は0.71Vから1.45Vに上昇し、正極液当たりの放電エネルギーも48.2Wh/Lから97.1Wh/Lへ増加した。これは、負極側の反応を変更することで、取り出せるエネルギーを増やせる可能性を示している。ただし、この結果はMnO₂を1M添加した条件で得られたものであり、4M条件の156.2Ah/Lと組み合わせて、測定されていないエネルギー密度を算出することは適切ではない。

コストについても、論文では4Mの電解液を対象に、Darlingらのモデルを用いた試算として33米ドル/kWhという数字を示している。しかし、これは実際の製造原価を測定した値ではなく、蓄電システムの販売価格を示すものでもない。セルや膜、ポンプなどの設備費も含まれていないため、商用の蓄電設備としての経済性を、この数字だけで判断することはできない。

また、今回の研究成果は実験室の小型セルで得られたものだ。論文本文には独立したセルの試験数や反復測定数、統計誤差が示されておらず、セル試験時の具体的な温度も記載されていない。第三者による再現試験も現時点では確認されておらず、装置を大型化した場合に同じ性能を維持できるか、測定結果にどの程度のばらつきが生じるかは不明だ。

研究チーム自身も論文の結論で、今後はサイクル寿命の延長を重点課題とすべきだと述べている。今回の成果は、固体MnO₂を利用することで、従来の溶解度に制約される方式とは異なる高容量化の可能性を示した点に意義がある。一方、その容量を多数回の充放電後も維持できなければ、実用的な蓄電設備としての利点は限られる。長期的な容量保持率と再現性を検証し、正負両極の電解液量や電圧を含めたシステム全体の性能を明らかにできるかが、実用化に向けた次の焦点となる。