メモリのスポット市場で、DDR4とNANDの値動きが分かれた。TrendForceが2026年9月30日に公表した週次データによると、主流のDDR4チップは前週比0.93%上昇した一方、512Gb TLC NANDウェハーは2.45%下落した。

ただ、取引そのものはどちらも低調だった。DRAMでは複数地域の休暇もあり、市場参加者の動きが鈍かったという。

一方、TrendForceは同日、第4四半期のNAND契約価格が前期比15〜20%上昇するとの見通しも示している。足元では買い手が様子見を続けているのに、なぜ次の四半期には値上がりが予想されているのか。背景を理解するには、PCやサーバーなど、用途ごとに需要と供給の状況を分けて見る必要がある。

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休暇で取引は低調、それでもDDR4価格は上昇

TrendForceの週次更新が主要指標として追跡しているDDR4 1Gx8 3200MT/sの平均スポット価格は、9月23日の45.89ドルから9月29日には46.32ドルへ上昇した。前週比では0.93%の上昇となる。

ただし、市場が活発になったわけではない。休暇の影響に加え、買い手は慎重な調達姿勢を続けており、価格も狭い範囲で推移したという。

価格が上がったからといって、注文が大きく増えたとは限らない。TrendForceも取引は低調だったと説明しており、今回の無料公開記事では具体的な成約数量や件数を明らかにしていない。DDR4のスポット価格上昇と、DRAM市場全体の需要回復は分けて考える必要がある。

スポット市場の対象 今回の観測日 平均価格 前週比 取引の状況
DDR4 1Gx8 3200MT/s 9月29日 46.32ドル 0.93%上昇 買い手は慎重で、取引は低調
512Gb TLC NANDウェハー 9月28日 19.396ドル 2.45%下落 売り手は値下げに応じたが、買い意欲は弱い

出典はTrendForceの9月30日付の週次更新。いずれも部品市場における指標であり、観測日と対象製品は異なる。

DDR4の「1Gx8」はメモリーチップの構成を、NANDの「512Gb」はチップの記憶密度を示している。完成品のメモリーモジュールやSSDの容量、店頭価格を示したものではない。

NANDでは、売り手が販売を促すために提示価格を引き下げても、買い手は様子見を続けた。消費者向け製品の需要に目立った改善がなく、値下げしても発注増にはつながっていないという。

今回の価格下落は、流通段階でNANDを追加調達しようとする動きが弱いことを反映している。

NANDは用途によって値動きが大きく異なる

同日公表された第4四半期の見通しでは、一般的なDRAMの契約価格を前期比10〜15%高、NAND全体では15〜20%高と予測している。

対象となるのは10〜12月期の契約価格であり、9月末のスポット価格とは性格が異なる。また、すでに値上げが確定したという意味でもない。

NANDについて詳しく見ると、製品ごとに見通しは異なる。企業向けSSDは値上がりが加速する一方、PC向けSSDでは上昇が抑えられ、NANDウェハーは小幅な上昇にとどまるとみられている。

製品区分 第4四半期の価格見通し 買い手・供給側の状況
企業向けSSD 値上がりが加速 AI推論向けの調達が強く、追加供給分の多くがすでに確保されている
PC向けSSD 値上がりは限定的 PCメーカーは在庫を活用し、調達量や搭載容量を抑えている
NANDウェハー 小幅な上昇 供給は限られる一方、モジュールメーカーの買い意欲は弱い

この表は、TrendForceが9月30日に示した第4四半期の製品別契約価格見通しを、価格の方向性で整理したものだ。

製品ごとの具体的な上昇率を示したものではなく、NAND全体の15〜20%という上昇予測を、それぞれの製品にそのまま当てはめることはできない。また、9月28日時点の512Gb TLCウェハーのスポット価格下落率とも、対象と期間が異なる。

企業向けSSDでは、クラウド事業者によるAI推論向けインフラへの投資が需要を押し上げている。

TrendForceは、2026年の企業向けSSDのビット需要が前年比80%以上増加すると予測している。ここでいう「ビット需要」は、記憶容量を基準にした需要量を指す。SSDの出荷台数や売上高が80%以上増えたという意味ではない。

TrendForceが需要増の要因として挙げているのが、AIエージェントの利用拡大に伴うリアルタイム検索やキャッシュ用途の増加、さらにベクトルデータベースでのQLC NAND採用の拡大だ。

メーカーもQLCの生産能力や大容量SSDの供給を増やしているが、追加生産分の多くはすでに顧客によって確保されており、他の顧客が自由に購入できる数量は限られるという。

つまり、生産量が増えたとしても、市場で自由に調達できる在庫が同じだけ増えるとは限らない。

一方、PC向けSSDでは状況が大きく異なる。

PCメーカーには、新たな部品を急いで調達する必要があまりない。TrendForceによると、メーカーは上期に積み上がった完成品や流通在庫を活用し、不足する部材を補充する程度の調達で出荷に対応できるとみられている。

さらに、コスト削減のため、一部の主力PCではSSDの搭載容量を減らす動きもある。PCメーカーが購入するSSDの数量だけでなく、1台当たりの搭載容量も抑えられるため、SSDメーカーとの価格交渉では買い手側が比較的有利になりやすい。

NANDウェハーを購入するモジュールメーカーにも別の事情がある。

部品価格が高止まりするなか、小売市場ではその値上がり分を製品価格に転嫁しにくく、メーカーは仕入れに慎重になっている。

一方、NANDメーカーは採算を重視しながら生産能力を配分しているため、市場に供給されるウェハーの量そのものは限られる。

つまり、需要が弱いため大幅な値上がりは起こりにくいものの、供給に余裕があるわけでもない。これがTrendForceの第4四半期見通しだ。

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PC需要が弱くてもメモリ価格が下がりにくい理由

PC向けDRAMについては、SSDとは異なり、メーカーによる積極的な調達が続くとTrendForceは予測している。

PCメーカーが警戒しているのは、現在の販売状況だけではない。2027年に必要なDRAMを十分に確保できるかどうかも問題になっている。

メモリメーカーが生産能力をサーバー向け製品へ振り向ければ、将来のPC向けDRAM供給が減る可能性があるためだ。

2026年については、PCメーカーやモジュールメーカーと契約した数量が四半期ごとに供給されているものの、その先の供給については不透明感が残るという。

同じPC向け部品でも、DRAMでは将来の供給不足を警戒して早めに確保しようとする一方、SSDでは既存在庫を活用しながら搭載容量も抑えている。

そのため、「PCが売れているかどうか」だけでは、メモリ部品の価格や調達動向を説明できない。

サーバー向けでも、単純に生産量を増やせば需要に応えられるわけではない。

TrendForceによると、CPU供給の改善を受け、クラウド事業者やサーバーメーカーは汎用サーバー向けRDIMMの調達を増やしている。

しかし、メモリメーカーが低容量RDIMMの生産比率を増やそうとしても、周辺部品の供給や、パッケージング、検査工程の処理能力などが制約になる。

DRAMの製造工程も、需要に応じて短期間で自由に切り替えられるわけではない。

重要なのは、DRAM全体の生産量だけではなく、市場が必要としている種類の製品を十分に供給できるかどうかだ。

メーカー自身の説明からも、サーバー向け製品を優先する姿勢が確認できる。

Samsungが7月30日に発表した2026年第2四半期決算では、限られた生産能力のなかで、サーバー向け製品を中心にAI需要へ対応したと説明している。

下期についても、PCやモバイルの一部で需要鈍化を見込む一方、サーバーDRAM、企業向けSSD、HBMの需要拡大によって、供給制約が続くとの見通しを示した。

もちろん、これはSamsungのメモリ事業全体についての説明であり、9月末のDDR4スポット価格が上昇した直接的な理由を示しているわけではない。

それでも、消費者向け製品の需要が弱くなったからといって、メモリ市場全体の供給が一斉に余るとは限らない理由は分かる。

メーカーが限られた生産能力をどの製品に振り向けるかによって、それぞれの市場で買い手が確保できる数量や価格交渉力は変わる。

休暇明けは価格だけでなく取引量にも注目

DDR4のスポット価格上昇とNANDウェハーの下落だけを見ても、店頭で販売されるメモリやSSDがいつ安くなるかは判断できない。

今回示されたのは、あくまで部品市場のスポット価格と、今後の契約価格の予測だ。完成品の流通在庫や、小売店での販売価格の動きは含まれていない。

今後は、休暇の影響が薄れた後に、同じ仕様の部品で実際の取引量が増えるかどうかが注目される。

DDR4では、価格上昇とともに取引量も増えるのか。NANDでは、売り手の値下げに対してモジュールメーカーの発注が増えるのか。

価格と取引量の両方が動き始めれば、単なる休暇による一時的な停滞なのか、市場そのものが変化し始めたのかを判断しやすくなる。

契約価格についても、用途ごとの実際の交渉結果を見る必要がある。

TrendForceは、一部のサーバーDRAMでは長期供給契約に基づく価格が適用され、市場平均より値上がり幅が小さくなる可能性も指摘している。

今後、実際にどの製品・顧客向けで値上げが進んだのか、出荷量や在庫がどう変化したのかを合わせて確認することで、企業向け製品で起きている供給逼迫が、PC向けメモリの調達や価格にどこまで波及するのかが見えてくる。