中国のNANDメーカーYMTCの従業員が、世界的なメモリ不足はさらに3年続くとの見通しを示したと報じられた。発端はThe Wire Chinaが2026年10月4日に掲載した「The Survivor」で、匿名の従業員は値上げや、利益率の高い製品を優先した生産配分にも言及したという。
中国メーカーの増産によって供給不足が和らぐとの期待に対し、かなり長期の逼迫を見込む発言だ。ただし、SSDに使われるNANDの需給見通しは、調査会社と大手メーカーの間でも分かれている。重要なのは生産量がどれだけ増えるかだけではない。増えた供給がAI・データセンター向けとPC・消費者向けのどちらに回るかも、価格の行方を左右する。
「メモリ不足はあと3年」は何を指しているのか
今回の「3年」という見通しは、YMTCが公式に公表した需給予測ではない。The Wire Chinaによる匿名取材に基づくもので、確認できる記事紹介では対象もNANDだけに限定されず、「メモリ」全般についての発言とされている。原記事の有料部分は直接確認できておらず、従業員の役職や予測の根拠、製品ごとの内訳も分からない。
2026年秋からさらに3年と考えれば、2029年ごろまでを見据えた発言になる。ただし、YMTCが「2029年に不足が解消する」と公式に示したわけではない。メモリ市場全体についての大まかな見通しと、特定のNAND製品を必要な量だけ調達できる時期は分けて考える必要がある。
NANDは、電源を切ってもデータを保持でき、SSDなどに使われる記憶素子だ。一方、DRAMは主に処理中のデータを一時的に保持する。AIアクセラレーターに使われる高帯域メモリ(HBM)もDRAMの一種だ。
AI需要はNANDとDRAMの双方を押し上げているが、製造上の制約は同じではない。
TrendForceは7月30日の見通しで、HBMへの生産能力の振り向けが、通常のDRAMの供給を圧迫していると説明した。HBMは一般的なDRAMより多くのウェハー投入を必要とするため、同じウェハー枚数を使っても、供給できる記憶容量が同じ割合で増えるわけではない。
同社は2027年もDRAMの供給が厳しい状態が続くとみる一方、NANDについては2027年後半に需給が緩む可能性を予測していた。「メモリ不足」という一言の中に、状況の異なる複数の市場が含まれている。
NANDの2027年見通しは、業界内でも分かれている
TrendForceは7月21日のNAND予測で、2026年のNAND市場は需要に対して供給が4〜5%不足すると推定した一方、2027年後半には供給が需要を上回り、逼迫が緩和すると予測した。
より多くの層を積み重ねる高積層NANDへの移行や新設備の稼働によって、同じウェハーから生産できる記憶容量が増える一方、消費者向け電子機器の需要は弱い状態が続くという想定だ。
これに対しMicronは、9月30日の決算説明資料で、2027年と2028年のNAND業界全体のビット出荷量がそれぞれ20%台半ば増加しても、両年とも供給制約が続くとの見方を示した。資料5ページの市場見通しでは、NANDとDRAMを分けて説明している。
つまり、2027年のNAND市場について、TrendForceは「年後半に逼迫が緩む」、Micronは「供給制約が続く」と異なる見方を示している。
| 公表主体・時点 | 対象と期間 | 需給の見通し | 増産・需要についての前提 |
|---|---|---|---|
| TrendForce、2026年7月21日・30日 | 世界のNAND市場、2027年 | 年後半に供給不足が緩和 | 高積層製品への移行や新設備で供給容量が増える一方、消費者向け需要は弱いと想定 |
| Micron、2026年9月30日 | NAND業界、2027年・2028年 | 両年とも供給制約が継続 | 業界全体のビット出荷量が各年20%台半ば増えても、需要に十分追いつかないと予測 |
同じ世界のNAND市場について、予測期間が重なる2027年を比較したものだ。ただし、公表時期には約2か月の差があり、需要や生産能力を見積もる前提も同じではない。
したがって、この見解の違いをNANDとDRAMの取り違えだけで説明することはできない。一方、この2つの予測だけから、どちらが正しいかを現時点で判断することもできない。
中国メーカーの増産も、TrendForceの緩和予測には織り込まれている。同社は、中国メーカーが新設備を稼働させることで、2027年には世界のNAND生産容量に占める中国勢の比率が19%近くまで高まると予測している。
これは中国メーカー全体についての予測であり、YMTC単独のシェアを示すものではない。匿名従業員の「あと3年」という発言と比較する際には、発言の対象がメモリ全体に及んでいる可能性に加え、増産してもなお需要がどこまで伸びると見積もっているかという前提の違いも考える必要がある。
増産してもAI向けSSDに優先的に回れば、PC向けは増えない
企業向けSSDの需要は、AIモデルを学習させる段階だけでなく、実際に推論サービスを運用する段階でも拡大している。
TrendForceの9月30日の調査では、2026年の企業向けSSDのビット需要が前年比80%以上増えると予測している。リアルタイム検索やキャッシュで扱うデータ量が増え、ベクトルデータベースでも大容量のQLC SSDが広がっているためだ。
QLCは、一つのセルに4ビットを記録するNAND方式で、大容量のストレージを比較的高密度に実現するために使われる。
各メーカーはQLCの生産能力や大容量SSDの供給を増やしているが、TrendForceによると、新たに増える供給量の多くはすでに大口顧客との契約で確保されており、スポット市場などで新たな顧客が自由に購入できる量は限られているという。
つまり、メーカーが「増産する」と発表したからといって、すぐに一般の購入者がSSDを調達しやすくなるわけではない。
YMTCも企業向け製品を展開している。同社が公式に掲載するPE501は、PCIe 5.0に対応するQLC採用の企業向けSSDで、15.36TBから最大122.88TBまでの容量をそろえる。
これはYMTCがデータセンター向けの大容量SSDを展開していることを確認できる材料にはなる。ただし、製品ページから実際の出荷量や生産能力の配分までは分からない。匿名従業員が語ったとされる生産配分の変更規模を裏付ける資料でもない。
一方、PC市場では逆方向の調整が進んでいる。
同じ9月30日のTrendForce調査によると、PCメーカーは年初から積み上がった完成品や流通在庫を消化しながら、主力モデルに搭載するSSD容量を減らして部品コストを抑えている。その結果、PC向けNANDの調達量と1台当たりの搭載容量が減り、NANDメーカーも価格交渉で譲歩しやすくなっているという。
それでもTrendForceは、10〜12月期のNAND全体の契約価格が前四半期比15〜20%上昇すると予測する。なかでも企業向けSSDは、前四半期より値上げ幅が拡大すると見込まれている唯一のカテゴリーだ。
ここでいう価格上昇率は、NANDメーカーと顧客の間で決められる契約価格を指す。家電量販店や通販サイトで販売されるSSDの価格が、一律に15〜20%上がるという意味ではない。
AI・データセンター向けでは需要が極めて強い一方、PC向けでは購入量を抑える動きが進む。同じNAND市場の中でも、用途によって需給状況が大きく異なっている。
新工場が動き始めても、供給量がすぐ増えるとは限らない
Micronがシンガポールに建設する新しいNAND工場は、同社の9月30日の資料によると、2028年後半に生産を開始する予定だ。
同社は、新しいDRAM・NAND工場について、生産開始後も立ち上げには時間がかかり、まとまった供給量として市場に寄与するまでには数四半期を要すると説明している。工場で最初の製品を作り始める時期と、市場へ大量に供給できる時期は同じではない。
ただし、これはあくまでMicronの新工場についての計画だ。世界全体のNAND供給拡大が2028年まで始まらないという意味ではない。
TrendForceが2027年に見込んでいる供給増には、既存工場での製造技術の更新や、中国メーカーによる新設備の稼働も含まれる。NANDは積層数を増やしたり、一つのセルに記録するビット数を増やしたりすることで、同じウェハー枚数から作れる記憶容量を増やせる。このため、ウェハー投入量だけを見ても、実際に供給できる容量の伸びは判断できない。
需給が改善する道筋も、単純に生産能力を増やすだけではない。
NANDの価格が高止まりすれば、PCやスマートフォンの買い替えが鈍り、メーカーが1台当たりのストレージ容量を抑える可能性がある。供給が増える一方で需要側が弱くなれば、それだけでも需給の逼迫は緩和する。
TrendForceが7月に示した需要構成では、サーバーがNANDのビット需要の40%以上を占める一方、スマートフォンとノートPCを合わせても40%近くに達する。消費者向け市場の需要減少も、NAND全体の需給を左右するほど大きい。
一方でTrendForceは、自律的に複数の作業をこなすAIエージェントの普及が想定以上に進んだ場合、高速SSDへの需要がさらに増え、新たに増えた供給を吸収する可能性があるとも指摘している。
つまり、同社が予測する「2027年後半の需給緩和」は確定した未来ではない。AI向け需要がどこまで伸びるか、PCやスマートフォンなど消費者向け需要がどこまで弱くなるかという前提に大きく左右される。
YMTC従業員の「あと3年」という発言を、すべてのSSDが同じ時期まで不足し続けるという意味で受け取るのは適切ではない。
今後の状況を見るうえでは、企業向けSSDとPC向けNANDそれぞれの契約価格、新工場が実際にどれだけの製品を出荷できるようになるか、そして中国メーカーが増やした生産分がどの市場へ振り向けられるかを追う方が、実際の調達環境の変化をつかみやすい。
増産したNANDがまず大口顧客との契約分を満たし、そのうえで一般のPCメーカーやSSD市場にも十分に回るようになって初めて、「供給増」が必要な容量を確保しやすくなるという形で実感されることになる。



