大規模モデルを端末で動かすとき、性能より先に立ちはだかるのはメモリである。Metaは8月10日、Muse Sparkの出力を使って蒸留した「Muse Glimmer」を公開した。約296億パラメータのモデルを4-bit量子化し、モデル本体と周辺構成を24GBまたは32GB級のメモリ枠で動かす設計を示した。重みを軽くする工夫と、生成を速めるDFlashを組み合わせた点が今回の中身だ。
Muse Glimmerは、端末内に置いた予定やメッセージをはじめ、ファイルや画面の文脈を扱うエージェントを想定する。Metaはローカル実行ならネット接続なしでも動かせると説明する。クラウドへ処理を預ける設計とは、データをどこで扱うかが異なる。
30B級を24GB/32GBのメモリ枠へ
Muse Glimmerは、密な因果トランスフォーマーに専用の知覚エンコーダーを組み合わせる。総パラメータ数は約29.6Bで、うち視覚エンコーダーは約1.8B。テキストと画像を入力し、テキストを出力する。コンテキスト長は131,072以上で、知識カットオフは2026年1月4日である。
Metaは完全精度では55GB超になると説明する言語モデル部分を、約4-bitへ量子化して20GB未満に収めた。公開物にはBF16の完全重みのほか、24GB向けと32GB向けの4-bit量子化重み、DFlashのドラフターヘッド、凍結したViT-G/14知覚エンコーダーを含めた。いずれもApache 2.0で配布するが、ここで公開されたのはオープンウェイトであり、学習データまで公開したことを意味しない。
もっとも、24GBまたは32GBという数字は重みだけの必要量ではない。長い入力ではKVキャッシュが増え、画像を扱えば知覚エンコーダーも使う。DFlashのドラフターも同時にメモリを取る。したがって、単一GPUで動くという説明は、このメモリ枠と構成を前提にしたものだ。どのGPUでも、どのコンテキスト長でも余裕があるという話ではない。
DFlashは生成を速め、重みを小さくはしない
DFlashは、本体モデルのメモリ使用量を削る技術ではない。ドラフターモデルが16トークンのブロックをまとめて提案し、本体がその候補を並列に検証する。提案が通れば、本体が1トークンずつ生成するより出力を先へ進められる。
Metaのモデルカードでは、K-Quant-17GBと量子化DFlashを組み合わせた測定で、RTX 5090は74.9tok/sから233.4tok/sへ伸びた。M4 Maxは23.7tok/sから37.8tok/s、M5 Maxは26.6tok/sから50.2tok/sとなった。Metaはそれぞれ3.1倍、1.5倍、1.8倍と報告している。
この値は、RTX 5090ではllama.cpp、M4 MaxとM5 MaxではExecuTorchを使い、batch size 1とgreedy decodingで測った平均値である。入力長やサンプリング条件が変われば速度も変わる。量子化がメモリの壁を下げ、DFlashが生成待ちを短くする。二つの役割を分けて読む必要がある。
Muse Sparkの出力を端末側へ蒸留
MetaはMuse Glimmerの訓練で、Muse Sparkが出力するロジットを教師信号に使うlogit distillationを実施した。続くmid-trainingでは長文とエージェント利用を中心に学習し、post-trainingではSFT、on-policy distillation、強化学習を組み合わせたという。教師モデルの出力分布から、端末で実行できるモデルを学習する工程である。
用途はローカルAIエージェント、コーディングエージェント、関数呼び出しに及ぶ。画像、スクリーンショット、文書も読める。Metaは100以上の言語のデータで訓練したと説明する。OpenClawなどのエージェント構成との互換性やツール呼び出しを案内し、モデルはツール呼び出しが失敗したときに再試行するよう訓練されている。推論強度はlowからxhighまで選べる。音声の入出力には対応せず、動画は個別フレームとして扱う。
端末側へ処理を移しても、エージェントの安全性まで自動的に移るわけではない。モデルカードは、マルチステップ推論の誤り、量子化によるエッジケースの差、十分に評価していない言語での性能低下を制限として挙げる。不可逆な操作では人間の確認を求め、プロンプトインジェクションなどへの対策はシステム側でも必要になる。
ベンチマークは同じ条件で読めない
Metaの比較表では、Muse Glimmer-30BはMCP Atlasで75.5、SWE-Bench Verifiedで76.0、OSWorld-Verifiedで65.9、TerminalBench 2.1で51.7を記録した。Gemma4-31B、Qwen3.6-27Bと並べた表で、項目ごとに結果は異なる。例えばSWE-Bench VerifiedとOSWorld-Verifiedでは、Qwen3.6-27Bの値がMuse Glimmerを上回る。
Metaの評価方法論は、Muse Glimmerをhigh reasoning strength、temperature 1.0、top_p 0.95、top_k 64で測ったと記す。第三者モデルは同じ枠組みでbest-effort評価したが、各モデルにツールやsystem promptを最適化していない。そのため、比較表は各モデルが出せる最良性能を表さない可能性がある。
量子化の影響にも範囲がある。Metaは15ベンチマーク平均で、K-Quant-Dynamicの精度低下を0.2%、K-Quant-17GBを1.0%と報告した。これは同社の評価条件における平均であり、すべてのエージェント作業や画像入力で劣化しないという保証ではない。ローカル導入では、実際に使うツール、コンテキスト長、操作の可逆性まで含めて検証することになる。
SparkのAPIとGlimmerの重み公開は別の経路
Muse Sparkは、Meta AIとmeta.aiで提供されてきたモデルである。2026年4月の発表時点では、一部利用者向けのprivate API previewだった。Metaは7月、Muse Spark 1.1をMeta Model APIのpublic previewとして公開した。Spark自体の重みを公開したわけではない。
一方、GlimmerはMuse Sparkから派生したローカル向けの公開モデルで、重みを取得して実行できる。Metaが描く「個人向け知能」には、24時間動く個人向けエージェント、数十億人への無料版、より多くのcomputeに向けたdynamic auction mechanismという構想もある。ただし、これらはZuckerbergが示した構想であり、Muse Glimmerの製品価格や提供時期を定めるものではない。
公開直後に確認したいのは、llama.cpp、MLX、ExecuTorchでの統合がどこまで進むかだ。OllamaとLM Studioでの対応も、発表時点では提供予定にとどまる。Metaの測定値だけで端末側のエージェント運用を決めることはできない。24GBまたは32GBの環境で、必要なコンテキストとツールを抱えたまま動けるかが、Glimmerの価値を左右する。



