Micronが2026年9月30日に発表した2026年度決算で、売上高は1331.9億ドル(約20.9兆円)と前年度の3.6倍に増えた。純設備投資も138.0億ドルから273.7億ドルへほぼ倍増している。それでも売上高に対する比率は20.5%、営業キャッシュフローに対しては30.5%にとどまった。前年度はそれぞれ36.9%、78.8%だった。
こうした数字を見ると、2028年ごろまでに稼働を始める予定の新工場による供給増を左右する最大の要因は、資金力よりもクリーンルームの建設期間にあると考えられる。根拠となるのが、同社が示した生産拠点の工程表だ。前工程の新工場は2027年半ばから2030年にかけて段階的に稼働する予定で、2027年度の設備投資の増額分も大半が建屋に充てられる。
売上高3.6倍の2026年度、第4四半期の非GAAP粗利率は87.0%
2026年9月3日に終了した第4四半期(14週)の売上高は542.3億ドルで、前四半期の414.6億ドル、前年同期の113.2億ドルを大きく上回った。非GAAP(会社が一部の項目を除外して算出する指標)の粗利率は87.0%、1株利益は33.42ドルだった。
53週だった2026年度通期の売上高は1331.9億ドルとなり、52週だった前年度の373.8億ドルから3.6倍に増えた。同社の説明では256%増にあたる。1ドル=156.91円(日銀が2026年9月30日17時に公表した156円90〜92銭の中値)で換算すると、約20.9兆円となる。
第4四半期のDRAM売上高は398億ドルで全体の73%を占めた。データセンター向けSSDの売上高は約100億ドルと前年同期の10倍を超え、HBMの売上高の伸び率も全社平均を上回った。戦略的顧客契約(SCA、複数年のテイク・オア・ペイ契約)は26件に達している。
同社は、業界全体のDRAMビット出荷量が2027年と2028年にそれぞれ20%台前半増加すると予想している。一方で、両年とも供給制約が続くとの見方を示した。供給能力を増やすにはクリーンルームの増設が必要だと説明しており、需給が均衡に戻る時期については、現時点で見通せないとしている。
次の四半期については、売上高615億ドル±15億ドル、非GAAP粗利率約86.25%を見込む。
純設備投資はほぼ倍増、それでも売上高の20.5%にとどまった
同社が開示する純設備投資は、設備支出から政府補助金と設備売却による収入を差し引いた金額である。2026年度は273.7億ドル(約4.29兆円)で、前年度の138.0億ドルの1.98倍となった。
補助金を差し引く前の設備支出は307.1億ドルで、政府補助金による収入は33.2億ドルだった。一方、純設備投資を売上高や営業キャッシュフロー(営業CF)と比較すると、その比率は大きく低下している。
| 指標 | 2025年度(52週) | 2026年度(53週) |
|---|---|---|
| 純設備投資 | 138.0億ドル | 273.7億ドル |
| 売上高 | 373.8億ドル | 1331.9億ドル |
| 営業CF | 175.3億ドル | 896.8億ドル |
| 純設備投資÷売上高 | 36.9% | 20.5% |
| 純設備投資÷営業CF | 78.8% | 30.5% |
Micronの純設備投資は、2025年度には売上高の36.9%、営業キャッシュフローの78.8%に相当していたが、2026年度にはそれぞれ20.5%、30.5%まで低下した。
主な理由は、売上高と営業キャッシュフローが設備投資以上のペースで増えたためだ。売上高は3.6倍、営業CFは5.1倍に増えた一方、純設備投資は2倍には届いていない。ただし、設備投資そのものの絶対額はほぼ倍増している。また、2026年度は前年度より1週長い53週だったため、両年度の期間は厳密には一致しない。
第4四半期のDRAMでは、価格が前四半期比で10%台後半上昇した一方、ビット出荷量の増加は一桁台半ばにとどまった。このため売上高の増加には価格上昇の寄与も大きく、設備投資比率の低下だけを見て資金余力が拡大したと判断するのは難しい。
より直接的な指標となるのが、設備投資後にどれだけ現金が残ったかだ。営業CFから純設備投資を差し引いた調整後フリーキャッシュフロー(FCF)は623.1億ドルとなり、前年度の37.2億ドルから大幅に増加した。設備投資を行った後にも、純設備投資額の2倍を超える現金が残った計算になる。
期末の現金・投資残高は735億ドルだった。このうち127億ドルは顧客から受け取ったSCAの預託金で、最低購入量などの条件が満たされた場合、各契約の後半で返還する資金である。
2027年度第1四半期の設備投資は約115億ドルを見込む。同じ四半期の売上高見通しの中央値615億ドルに対する比率は18.7%となる。
純設備投資が売上高の20.5%にとどまり、設備投資後にも623.1億ドルの調整後FCFが残っていることを踏まえると、少なくとも2028年ごろまでに立ち上がる予定の新工場については、供給能力の拡大を左右する主な要因は資金力よりも工場の建設・立ち上げ期間にあると考えられる。供給が実際に増える時期を決めるのは、それぞれの工場がいつ生産を開始できるかだからだ。
前工程の新工場、2027年半ばから2030年に段階的に稼働
同社が2026年9月30日に示した各拠点の計画を時系列で整理すると、前工程(ウェハー上にDRAMやNANDの回路を形成する工程)の新工場は、2027年から2030年にかけて段階的に生産を開始する予定だ。
| 時期 | 拠点 | 内容 |
|---|---|---|
| 2027年初め | シンガポール | HBM向け先端パッケージ工場で初期生産開始(後工程) |
| 2027年半ば | 米アイダホ州(ID1) | ウェハー生産開始 |
| 2027年半ば | 台湾・銅鑼 | 本格的な製品出荷開始 |
| 2028年下期 | シンガポール | 新NAND工場で生産開始 |
| 2028年後半 | 日本(DRAM工場拡張) | 初期生産開始 |
| 2028年後半 | 米アイダホ州(ID2) | ウェハー生産開始 |
| 2030年 | 米ニューヨーク州(第1工場) | 初期ウェハー生産開始 |
前工程の新工場を見ると、2027年半ばのID1を皮切りに、2028年後半の日本とID2、2028年下期のシンガポールNAND工場、2030年のニューヨーク第1工場へと、生産開始時期が分散している。
いずれも会社が示した計画であり、実績ではない。シンガポールのHBM工場は先端パッケージを担う後工程の工場であり、DRAMウェハーそのものの生産能力を増やす施設ではない。また、台湾・銅鑼について同社が示している2027年半ばという時期は、本格的な製品出荷を始める時期であり、生産開始時期とは区別されている。
新工場では、まず建屋を建設し、製造装置を搬入したうえで初期生産に入り、その後、徐々に生産量を増やしていく。Micronは、新しいDRAMやNAND工場の立ち上げには時間がかかり、実際に供給量への影響が大きくなるのは、初期生産から数四半期後になると説明している。
CEOのSanjay Mehrotra氏も説明会で、クリーンルームの建設には長い時間が必要であり、最初のウェハーが生産された後も、生産能力は段階的にしか増えないと述べている。
さらに今後のノード移行(微細化世代の切り替え)では、ウェハー1枚当たりの生産性向上が従来より小さくなる見通しだ。加えて、HBMの主力がHBM3EからHBM4、HBM4Eへ移行することや、HBMは通常のDRAMに比べて1ビット当たりに必要なウェハー面積が大きいことも、供給能力の拡大を抑える要因になる。
同社によれば、既存のクリーンルームでは生産能力を最大限に引き出す取り組みを進めており、その一環として一部の製造装置への支出を前倒ししている。
一方で、ノード移行による生産性向上が小さくなるのであれば、資金を追加投入したとしても、すでに工程表に組み込まれている2028年ごろまでの新工場について、生産開始時期や供給能力の立ち上がりを大幅に早めることは難しいと考えられる。
この制約は2027年度の設備投資計画にも表れている。Micronは2027年度の設備投資を従来計画から増額する方針で、第1四半期に約115億ドル、上期には約250億ドルを見込む。下期の投資額はさらに上回る予定だ。これらは政府補助金を差し引いた後の金額である。
増額分の大半は建屋への投資に充てられる。その建屋投資の多くは、2028年後半以降に利用できるクリーンルームを早期に確保するためのものだと同社は説明している。建屋投資の伸び率は、製造装置への投資を大幅に上回る見込みだ。
日本との関係では、工程表の後半にDRAM工場の拡張計画が位置している。広島を含む日本のDRAM生産拠点では第4四半期に起工式を行い、初期生産は2028年後半に始まる予定だ。主に次世代技術ノードへの移行を支える役割を担う。
増産ペースを決めるのは経営判断か工期か、次の決算ではID1とID2に注目
一方、「増産ペースを決めているのは工期ではなく、経営側の投資判断ではないか」という見方も成り立つ。
純設備投資は138.0億ドルから273.7億ドルへほぼ倍増し、2027年度には上期だけで約250億ドルに達する見込みだ。実際に巨額の資金が生産能力の拡大へ振り向けられている。
CFOのMark Murphy氏は説明会で、設備投資の対売上高比率が歴史的に低い水準にあることを認めたうえで、メモリ産業の構造が変化していると説明した。そして、生産能力の増強については、十分な投資リターンを確保しながら、極めて規律ある形で進めるとの方針を示している。
Prepared Remarksにも、需要や市場環境に応じて製造装置による生産能力を増やしていくとの記述がある。少なくとも装置投資のペースについては、経営側の判断が大きく影響している。
もう1つ考慮すべきなのは、Micron自身が建屋投資の増額について、2028年後半以降に利用可能になるクリーンルームの確保を早めるためだと説明している点だ。追加投資によって将来のクリーンルーム確保を早められるのであれば、資金も無関係ではない。
ただし同じ説明の中で、同社はID1の2027年半ば、ID2の2028年後半という生産開始時期について「計画どおり」としており、現在の工程表に載っている工場を追加投資によって前倒しするとは説明していない。増額された投資が主に対象としているのは、その先に必要となる新たな建屋やクリーンルームだ。
したがって、「資金よりも工期が供給増を左右する」という見方が当てはまるのは、工程表で稼働時期が示されている2028年ごろまでの新工場が中心となる。それより先の新規建屋については、投資額を増やすことで完成時期を早められる余地がある。既存クリーンルーム内でどの程度の速さで設備を増強するかについても、需要動向に応じて会社側が調整できる。
建屋の建設に時間がかかるのはMicronだけの問題ではない。CNBCによれば、SK hynixでも、清州M17のクリーンルーム完成は2028年12月、龍仁Y2の第1クリーンルームは2029年6月を予定しており、本格的に利用できるのは2028年末以降となる。
この見方が正しいかどうかは、今後の決算で確認できる。
注目すべきなのは、次回の2027年度第1四半期決算で、ID1(2027年半ば)やID2(2028年後半)のウェハー生産開始時期に変更が示されるかどうかだ。追加の建屋投資によって、会社が従来示していた計画よりも生産開始が前倒しされるのであれば、少なくとも一部では資金投入によって工期を短縮できることになる。
一方、ID1が計画どおり2027年半ばにウェハー生産を始めたとしても、それが供給量に大きな影響を与えるのは数四半期後になる。Micron自身も、需給が再び均衡する時期について現時点では見通せないと説明している。



