MiniMaxが、動画と音声を同時に生成・編集する「MiniMax H3」のモデルウェイトを公開した。H3は2026年8月4日時点で、Artificial Analysisの音声付き動画編集ランキングで首位に立つ。テキストからの生成でも2位、画像からの生成では3位だ。高性能な動画モデルをAPIの外へ持ち出せるようになった意味は大きいが、首位を取った2Kのホスト版と、手元で完結する公開版は同じ構成ではない。
公開されたのは、768pの映像とステレオ音声を生成する中核モデル「H3-Base」である。複雑な参照素材を生成指示へ変換する「H3-Context-IR」と、出力を2Kへ作り直す「H3-Regenerate-2K」はMiniMaxのサーバーに残った。ランキングと公開範囲を突き合わせると、H3が専有モデルとの性能差を縮めた事実と、ローカル環境でまだ埋まらない差の両方が見える。
動画編集1位をどう読むか
Artificial Analysisの音声付きVideo Editing部門で、H3はElo 1,130、評価サンプル8,211件で1位となった。2位のGemini Omni Flashは1,122で、サンプルは10,847件である。95%信頼区間は両モデルとも±6で重なるものの、同サイトの表示順位ではH3が首位だ。
同じH3でも、入力方法が変われば順位も変わる。音声付きText to VideoではElo 1,239、6,031件で2位となり、1位のGemini Omni Flashは1,244だった。H3の表示上の順位範囲は1〜2位である。音声付きImage to VideoはElo 1,187、5,382件で3位だが、順位範囲は1〜3位にまたがる。三つの順位をまとめて「すべての動画生成で最高」とする根拠はない。
評価は、同じ指示から生成した2本をモデル名を伏せて利用者に見せ、好みの方を選ばせる。Artificial Analysisは組み合わせごとの投票をBradley-Terry法で集計し、Elo風の指標へ換算する。音声ありと音声なし、動画編集とテキスト生成、画像からの生成は別々の母集団であり、スコアを部門間で直接比べることはできない。順位は1時間ごとに再計算されるため、ここで挙げた値は8月4日のスナップショットでもある。
それでも動画編集の首位には技術的な意味がある。H3は既存動画と文章による指示を受け取り、映像の動きや登場人物を変えながら音声も一緒に出力する。映像だけを作り、別のモデルで台詞や効果音を重ねる工程より、画面内の出来事と音のタイミングを一つの生成過程で合わせやすい。好みを測るランキングは編集内容の正確さを保証しないが、統合した出力が利用者に選ばれたことは示している。
公開されたのは3段構成の中段
H3の完成系は、H3-Context-IR、H3-Base、H3-Regenerate-2Kの3段で動く。最初のContext-IRは、文章から画像、動画、音声までの関係を読み取り、生成モデルが扱いやすい構造化された指示へ変換する。最後のRegenerate-2Kは、768pの結果と元の参照素材をH3へ再入力し、細部を推測で拡大するのではなく、文脈を使って2K映像を作り直す。
Hugging Faceで公開されたH3-Baseは、二つのBF16チェックポイントに分かれる。FL2VA版は文章だけの生成と、先頭・末尾フレームを指定した生成を担う。Ref2VA版は画像、動画、音声を参照し、人物や動き、カメラ、声を引き継ぐ用途向けだ。どちらも映像と32kHzのステレオ音声を同時に出力する。
一方、Context-IRとRegenerate-2Kは公開パッケージに入っていない。MiniMaxは前者について、複数のホストモデルとサービスを使うためだと説明し、後者は準備が整い次第公開するとしている。Artificial AnalysisもH3を2Kティアで評価したと明記した。したがって、首位のスコアは公開されたH3-Baseだけをローカルで動かした結果ではなく、MiniMaxが提供する全体システムの評価である。
ComfyUI 0.30.0以降にはH3用の標準ワークフローが入り、文章、画像、複数の参照素材から手元で動画を作れる。ただし、ローカルのネイティブ出力は短辺768ピクセルで、最大768×1,344ピクセルだ。2Kまで通す公式手順は、ローカルのH3-BaseとMiniMaxの二つのAPIを組み合わせる。公開ウェイトは編集や微調整の自由を広げたが、ランキングと同じパイプラインを完全に手元へ移したわけではない。
330億パラメータのTransformerが映像と音を同時に予測
H3-Baseの中心は、330億パラメータの密な単一ストリームTransformerである。映像と音声を別々の専用モデルへ渡さず、同じTransformerが両方の潜在表現を予測する。入力側ではQwen3-VL-32Bの全学習済みウェイトを使うH3-Encoderが、文章と視覚情報を符号化する。このため「H3全体が330億パラメータ」と説明すると、Encoderなどを落とした数え方になる。
出力は4〜15秒、24fpsで、音声は32kHzステレオだ。参照生成では画像を最大9枚、動画を最大3本、音声を最大3本まで受け取る。動画と音声はそれぞれ合計15秒までで、混在入力は計12ファイルが上限になる。音声だけを参照として渡すことはできず、画像か動画を添える必要がある。
計算量を抑える設計も入った。映像用VAEは空間を16分の1、時間を4分の1へ圧縮し、その後の分割を合わせるとTransformerへ入る空間方向の縮小率は32分の1になる。MiniMaxは新しいVAEによって有効シーケンス長を4倍にしたと説明する。ただし、初回の公開版が使えるのはフルアテンション推論で、学習時に導入した疎なアテンションの実装は後日公開の予定だ。ローカル実行の速度と必要メモリは、今後の実装と量子化で変わり得る。
H3が動画編集で強さを見せた背景には、用途ごとの専用モデルを並べず、参照と編集の関係を自然言語で表す設計がある。たとえば、人物は画像から引き継ぎ、動きは動画に合わせ、声は音声を参照する。三つの役割を一つの文脈として処理するわけだ。ただし、ローカル版ではContext-IRが担っていた入力整理を利用者側で補う必要がある。ウェイトの公開によって、モデル本体に加えてプロンプト処理も開発対象になった。
2Kは1秒0.13ドル、公開ウェイトには地域制限
MiniMaxのAPI料金は、2K出力が1秒0.13ドル、768pが1秒0.08ドルである。10秒ならそれぞれ1.30ドルと0.80ドル、15秒なら1.95ドルと1.20ドルになる。2Kへの再生成だけを使う場合は1秒0.05ドルだ。参照画像は最初の5枚まで無料で、6枚目から1枚0.04ドルが加わる。動画入力とContext-IRにも別の従量料金があるため、完成するまで何度も試す制作では出力秒数だけで総額は決まらない。
公開ウェイトはMiniMax H3 Community License Agreementの下で配布される。適用地域は世界から欧州連合と英国のほか、韓国と米国を除いた範囲で、日本は除外地域に入っていない。除外地域で公開ウェイトを展開する組織は、MiniMaxへ正式なライセンスを申請できる。これは地域を問わず自由に使えるオープンソース・ライセンスではない。
商用利用にも条件がある。年間売上高が2,000万ドルを超える製品やサービスは、事前の書面承認を別途得なければならない。商用サービスの画面には「MiniMax H3」を目立つように表示する必要があり、配布時にはライセンスとNOTICEを引き継ぐ。H3の出力を別のAIモデルの改善に使うことも、H3またはその派生モデルを除いて認められていない。
H3は、専有モデルが占めてきた動画編集の上位へ公開ウェイトを持ち込んだ。ただし、開発者が選べるのは「首位モデルをそのまま所有する」ことではなく、768pの中核を手元で改変するか、2Kと入力整理をAPIへ委ねるかである。今後、Context-IRとRegenerate-2K、疎なアテンションまで公開され、同じ指示でローカル版が2Kホスト版の編集品質をどこまで再現できるかが、公開の実効性を決める。



