中国のMLCC(積層セラミックコンデンサ)市場で、異なる二つの動きが進んでいる。TrendForceが9月21日にまとめた市場報道によると、深圳・華強北で取引される汎用品の代表例は、6月末の高値から約3分の1まで下落した。一方、中国メーカーが手掛けるAI向け高性能品では、一部の受注が2027年第2四半期まで埋まり、顧客が従来より早い段階で発注する動きも出ている。

同じMLCCでありながら、値下がりと供給逼迫が同時に起きているのは、対象となる製品の仕様、流通市場、製造工程が異なるためだ。

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値下がりしたのは民生向けの汎用品

価格が反落したのは、華強北で売買される「0603-104」と呼ばれる民生機器向け汎用品のスポット価格である。

TrendForceが引用した現地市場の例では、2026年第2四半期に1,000個当たり約5元だった価格が、6月末には約30元まで上昇し、その後は約10元まで下落した。ピークからの下落率は、(30-10)÷30で約66.7%となる。

華強北の汎用0603-104がピーク比で約66.7%下落しても、AI向け高容量品の供給余力が回復したことを意味するわけではない。製品仕様も価格形成の仕組みも、製造工程も異なるためだ。

観測対象 2026年第2四半期 6月末ピーク 9月21日報道時点 読み取れる範囲
華強北の0603-104スポット価格 約5元/1,000個 約30元/1,000個 約10元/1,000個 単一流通拠点・単一型番の在庫相場
AI向け高性能品の発注時期 従来は納入の1〜2カ月前 3〜6カ月前との報道 中国サプライヤーの一部
AI向け高性能品の受注残 一部で2027年第2四半期まで 市場全体の契約残高ではない

出典:TrendForceの9月21日記事。価格はメーカーの公定価格や長期契約価格ではなく、華強北の店舗取引例である。

10元は6月末のピークより安いものの、第2四半期の5元と比べればまだ2倍の水準にある。

しかも、スポット市場では代理店や商社が抱える在庫量、買い急ぎ、在庫放出のタイミングによって価格が大きく動く。TrendForceは5月時点で、ODMからの実需が弱まる一方、代理店が不足を警戒して在庫を積み増すという動きを指摘していた。

6月末の急騰とその後の反落は、最終製品の実需だけで価格が動いていたわけではないことを示している。

ここで、メーカーと大口顧客が結ぶ長期契約、OEM・ODMへの直販、代理店販売、店舗でのスポット取引を同じ市場として扱うべきではない。

0603-104の店頭相場が下がったからといって、AIサーバー向けに認定された高容量・高信頼品の契約価格まで下がったとは判断できない。AI向け製品の品種別価格は公開されていない。

AI向けでは「個数」より製造工程の負荷が問題になる

AIサーバーでは多数のMLCCが使用される。

村田製作所は2025年3月の個人投資家向け説明で、通常のサーバー1台に使われるMLCCを1,800〜2,500個、ベースボードとAIアクセラレーター8基を搭載するAIサーバーでは10,000〜20,000個と推定した。

これはサーバー全体で必要となるMLCCの数であり、村田製作所の製品だけが使われるという意味ではない。

ただし、供給能力を左右するのは単純な使用個数の増加だけではない。

村田製作所は2025年度第2四半期の決算説明で、次世代GPUではMLCCの搭載個数が劇的に増えるというより、限られた基板面積の中で1個当たりの容量が大きくなり、より高単価な製品へ構成が変化するとの見方を示した。

高容量MLCCでは、誘電体と電極をより多く積層する必要があり、加工工程も増える。そのため、積層や成形といった前工程により大きな負荷がかかる。

同じ1億個を生産する場合でも、汎用品と高容量品では設備を占有する時間が同じとは限らない。後工程の検査やテーピング工程に余裕があっても、積層や成形工程が能力上限に達すれば、完成品の供給量は増やせない。

村田製作所が示したMLCCの設備稼働率は、2025年度第2四半期で90〜95%、下期には95%近くまで引き上げる見通しだった。

当時、サーバー関連はMLCC売上全体の10%弱に近づいた段階だったが、高容量化によって生産能力の配分が変わる可能性を同社は明確に認識していた。

要求される性能も汎用品とは異なる。

AIアクセラレーター周辺では、急激な電流変化に追従しながら電源電圧を安定させる必要がある。高温環境での性能や、直流電圧を印加した際の容量低下、長時間稼働時の信頼性なども重要になる。

民生機器向けに同じ外形寸法のMLCCが余っていても、AIサーバー側の設計要件や顧客認定を満たしていなければ、そのまま代替品として使用することはできない。

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中国メーカーの増産先は高性能品へ移りつつある

中国メーカーも生産能力を増強しているが、投資の重点は単純な生産個数の拡大から、高性能品へ移りつつある。

広東風華高新科技(風華高科)の2026年半期報告によると、同社はAIコンピューティングや車載用途に向け、MLCCの高容量化、高電圧化、高信頼性化を進め、複数の高性能製品を量産化した。高精度品も開発対象に含まれる。

一方、同じ報告書には、小型MLCCを中心に生産能力を拡大する予定だった祥和工業団地プロジェクト第2期への投資を中止し、完成済みの建屋を別製品の生産へ転用したことも記されている。

同社は理由として、将来戦略と経営資源の最適配分を挙げている。

つまり、中国メーカーが生産能力を増やしているからといって、民生機器向けの小型MLCCまで一律に供給が増えるとは限らない。重要なのは、新しい設備をどの製品へ割り当てているかである。

風華高科の2026年上期売上高は35億元で前年同期比26.28%増、親会社株主に帰属する純利益は2.90億元で74.01%増だった。

ただし、同社はMLCC以外にも抵抗器、インダクタ、スーパーキャパシタなどを手掛けている。この増収・増益を、AI向けMLCCだけの成長として捉えることはできない。

確認できるのは、同社が製品開発と設備投資の両面で、高性能品へ経営資源を振り向けていることである。

日本や韓国のメーカーも同じ方向へ動いている。

TDKは2026年5月の通期決算説明で、データセンター向け低電圧大容量MLCCの材料開発を合弁会社で加速し、AIデータセンター関連の受動部品売上を将来的に約10倍へ拡大する計画を示した。

ただし、これは将来目標であり、すでに達成された売上規模ではない。

Samsung Electro-Mechanicsは9月1日、世界の大手顧客に対し、2027年通年でAIサーバー向けMLCCを供給する総額1兆722億ウォンの契約を発表した。

同社は10社を超える世界の顧客と長期供給契約を結んだとしているが、顧客名、対象型番、1個当たりの価格などは明らかにしていない。

契約規模の大きさはAI向け需要の強さを示す材料にはなるが、華強北のスポット価格と直接比較できる情報ではない。

需給が正常化したかを見る3つの指標

MLCC市場の二極化が解消へ向かっているかを判断するには、少なくとも3つの指標を別々に追う必要がある。

第一は、AI向け高容量品のリードタイムと発注時期である。

現在報じられている3〜6カ月前という発注時期が、従来の1〜2カ月前へ戻るのであれば、供給不足を警戒した先行発注が弱まった可能性がある。

第二は、民生機器向けMLCCの流通在庫とスポット価格である。

現在の約10元が第2四半期の5元付近まで戻るのか、それとも在庫調整後に再び上昇するのかによって、汎用品の実際の需給状況を判断しやすくなる。

第三は、メーカーが積層・成形工程の生産能力をどの製品へ振り向けるかである。

工場全体の生産個数だけを見ても、AI向けMLCCの供給能力は判断できない。高容量品の歩留まり、製品構成、顧客認定の進捗などが明らかになって初めて、実際の供給余力を評価できる。

民生機器向けMLCCのスポット価格が落ち着くことは、PCや家電メーカーにとっては好材料となり得る。

しかし、AI向け製品で2027年まで供給枠を確保する動きが続いている限り、MLCC市場全体の需給が正常化したとは言い切れない。

AI向け製品の納期が短縮し、高容量品へ集中している生産能力に余裕が生まれ、民生向け流通在庫も通常の水準へ戻る。この3つがそろって初めて、現在分かれている二つの市場が同時に正常化へ向かっていると判断できる。