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MicrosoftのAR軍用ヘッドセット事業、Oculus創業者Andurilへ譲渡

Y Kobayashi

2025年2月12日

Microsoftが米陸軍向け拡張現実(AR)ヘッドセット「IVAS」の開発から撤退し、Oculus創業者 Palmer Luckey氏率いるAnduril Industriesが事業を引き継ぐことが発表された。この移行は、技術的な課題と兵士からのフィードバックに対応するためのもので、国防総省の承認を経て正式に決定される。背景には、ヘッドセットの不具合や議会からの資金凍結があり、Andurilは開発を加速し、軍用ARヘッドセットの実用化を目指すとしている。

軍用ARヘッドセット開発からMicrosoftが撤退

2025年2月11日、Anduril Industries(Anduril)とMicrosoftは、米陸軍の統合視覚拡張システム「IVAS(Integrated Visual Augmentation System)」プログラムの次段階を推進するためのパートナーシップ拡大を発表した。この合意に基づき、AndurilはIVASの製造、将来のハードウェアおよびソフトウェア開発、納期管理を引き継ぐことになる。Microsoftは、AndurilのIVASおよびAI技術開発を支援するクラウドサービスプロバイダーとしての役割を担う。

IVASは、MicrosoftのHoloLensをベースに開発が進められてきた軍用ヘッドセットで、2018年に開発が開始された。2021年には、米国陸軍との間で220億ドル(約3兆3000億円)規模の契約が締結されたが、その後、ヘッドセットの不具合が指摘され、計画は遅延していた。

Andurilの創業者であるPalmer Luckey氏は、「IVASプログラムは、テクノロジーと人間の能力を組み合わせて兵士に優位性を与える、ミッションコマンドの未来を象徴しています」と述べている。「究極の目標は、テクノロジーが人間の能力の延長として機能する軍事エコシステムを構築することです」。

兵士の不調や議会からの資金凍結

長年続けられてきたIVASの開発だが、その後のテストで、兵士が頭痛、眼精疲労、吐き気などの「任務に影響を与える身体的障害」を訴えたことが明らかになり、計画は遅延していた。

2022年には、国防総省監察総監が、兵士が実際にこのデバイスを着用したいかどうかを検討せずにプロジェクトを進めたため、資金が無駄になる可能性があると指摘。2023年初頭には、議会がプログラムの資金提供を停止し、国防総省に対し、兵士の体調不良を引き起こさない新しいハードウェア以外は資金提供を拒否すると通告した。

Andurilが開発を引き継ぎ、Palmer Luckey氏が陣頭指揮

AndurilがMicrosoftから開発を引き継ぐことで、IVASは新たな局面を迎える。Andurilは、軍事要件に関する深い理解と、防衛製品の製造における独自のアプローチを活かし、陸軍の進化するニーズに合わせた製品開発と、低コストでの量産を目指す。

Andurilは、2024年9月にMicrosoftとの間で、IVASにAndurilのLatticeソフトウェアを統合するパートナーシップを発表しており、Luckey氏自身がプロジェクトを率いていた。今回の開発引き継ぎは、この協力関係の延長線上にあると考えられる。

Luckey氏は、「AndurilはIVASを引き継ぎ、通常通りのビジネスを行う時間はない」とX(旧Twitter)に投稿し、IVAS開発への意気込みを示している。また、「皆さんが想像するどんなにクレイジーなものでも、それを10倍にして、もう一度やってみてほしい」とも述べ、革新的な製品開発への期待を煽っている。

Andurilは、2017年に Palmer Luckey氏によって設立された防衛技術企業で、AIソフトウェアプラットフォーム「Lattice」などを開発している。Luckey氏は、以前からIVASプロジェクトに個人的に関与しており、2024年9月には、AndurilのLatticeソフトウェアをIVASヘッドセットに統合する提携を発表。その際、「このプロジェクトはAndurilでの最優先事項であり、しばらくの間そうだった。陸軍の最も重要なプログラムの一つだ」と述べている。

Microsoftは、今回の事業譲渡について具体的なコメントを避けているが、Mixed Reality部門のEVPである Robin Seiler氏は、「IVASプログラムで、兵士装着型ARヘッドセットのコンセプトを現実のものにするために、我々のチームが注ぎ込んできた仕事​​を非常に誇りに思っています」と述べている。

一方、陸軍の広報担当 Ellen Lovett氏は、「Microsoftは、IVAS製造契約をAndurilに譲渡する承認を陸軍に申請しました。陸軍は、このプロセスを通じて、両業界パートナーと協力していきます」と述べている。

IVASの今後は不透明、コスト削減と兵士の負担軽減が課題

AndurilがIVAS開発をMicrosoftから引き継ぐことで、プロジェクトがどのように進展していくかは不透明だ。AndurilがMicrosoftの設計をそのまま引き継ぐのか、再設計するのかも不明である。

ただ、過去の経緯から、陸軍がAndurilに求めるのは、兵士の負担を軽減し、より実用的なARヘッドセットを、より低コストで開発することであると考えられる。


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