Financial Times(FT)の11月3日の報道によると、NVIDIAはクラウド事業者に対し、今後の契約では提供するサービスの少なくとも51%を中国以外の企業に販売するよう求めているという。事情を知る5人の証言に基づく報道で、NVIDIAは現時点でこの方針を公式には認めていない。米国では、国外のデータセンターを通じた先端AIチップへの遠隔アクセスを輸出管理の対象に加える法案の審議が進んでおらず、NVIDIAが独自の販売条件によって、中国企業の計算資源へのアクセスを制限しようとしている可能性がある。
ただし、今回の方針がどの程度の影響を及ぼすかは、51%という比率の算定方法によって大きく変わる。特に、中国企業1社に専用のGPUクラスターを貸し出す契約を事業の中心に据える事業者は、中国向けサービスを49%以下に抑えるという条件が適用されれば、事業構造の見直しを迫られる可能性がある。日本のデータセクション(東証グロース:3905)が公表した2件の大口利用契約は、3年間の利用料金だけで合計約12億9,700万ドルに達する。こうした大規模契約が新たな販売条件からどのような影響を受けるのかが焦点となる。
NVIDIAが求める「51%ルール」とは何か
FTは2026年11月3日、NVIDIAがクラウド事業者に対し、提供するサービスの少なくとも51%を中国以外の企業に販売するよう求めていると報じた。対象は今後締結する契約で、既存契約には適用されないという。また、この方針は文書ではなく、NVIDIAの営業担当者や地域担当チームを通じて口頭で伝えられている。関係者2人によれば、対象はアジアのデータセンターに限らず、世界各地の顧客に及ぶ。FTは、NVIDIAがこのような販売制限を設けるのは初めてだと伝えている。
NVIDIAはAFPの取材に対して報道内容を肯定も否定もせず、米国のAIインフラが世界市場で競争力を維持することの重要性を強調した。同社は、米国製チップを使ったデータセンターやクラウドが世界で競争に勝たなければ、米国もAI分野の競争で勝てないとの見解を示している。一方、中国外務省の毛寧報道官は、今回の報道について承知していないと述べ、各国企業が公平で透明性のある、差別のない事業環境で活動できることを望むと語った。
現時点で最も重要な不明点は、51%という比率をどの範囲で計算するのかという点だ。個々の契約ごとに判断するのか、クラウド事業者全体の売上やサービス提供量を基準にするのかによって、影響を受ける事業者は変わる。さらに、売上高、契約額、計算資源の使用量など、何を基準に比率を算定するのかも明らかになっていない。文書による正式な通知が確認されていないため、条件の強制力や違反した場合の措置も不明である。
NVIDIAの2027会計年度第2四半期のForm 10-Qによると、2026年7月26日までの3カ月間における中国(香港を含む)向け売上高は78億8,000万ドルで、総売上高962億2,100万ドルの約8.2%だった。ただし、この地域別売上高は直接顧客の本社所在地に基づいて分類されており、製品を最終的に利用する企業の所在地とは必ずしも一致しない。例えば、中国企業が中国国外のクラウド事業者からGPUの計算資源を借りても、NVIDIAの売上統計では中国向けとして計上されない場合がある。
NVIDIAは同四半期の決算で、2027会計年度第3四半期の売上高を1,080億ドル(上下2%)と予想し、中国のデータセンター向けコンピューティング製品の売上を見込んでいないと説明した。しかし、この見通しも国外のクラウド事業者を通じた中国企業による計算資源の利用規模を示すものではない。つまり、NVIDIAの地域別売上高だけでは、今回報じられた51%ルールの対象となる取引がどれほど存在するのか判断できない。
米国の輸出規制では捕捉しにくい「国外からの遠隔アクセス」
米国は2023年11月17日から、中国を含む輸出管理上の国別グループ「D:5」に属する国々やマカオに本社を置く企業に対し、先端コンピューティング関連品目を輸出する場合、原則としてライセンスの取得を求めている。米商務省産業安全保障局(BIS)は2026年5月31日の指針で、この要件が現在も有効であることを改めて明確にした。規制対象となる企業が第三国に所在していても、本社または最終親会社がD:5対象国やマカオにあれば、ライセンス要件が適用される。
一方、BISの指針は、輸出管理規則(EAR)に従って正当に事業を営むデータセンター運営者について、追加通知があるまでは、この指針を理由に既存設備の使用、保管、処分、保守を停止する必要はないとも説明している。つまり、この指針が主に扱っているのは、規制対象となる先端計算品目を誰に輸出するかという問題だ。中国以外の企業が第三国でGPUを保有し、中国企業がネットワーク経由でその計算資源を借りる形については、同指針で直接的な規制対象として明示されていない。
もっとも、この仕組みを利用すれば必ず輸出管理を回避できるわけではない。取引の当事者や最終用途、ライセンス条件などによって適法性の判断は変わる。NVIDIA自身もForm 10-Qで、米政府が特定の国向けの輸出ライセンスに条件を設け、外国企業が大規模GPUクラスターを構築してサービスとして提供する能力をすでに制限していると説明している。国外のクラウドを経由する取引にも、既存の輸出管理が影響する場合がある。
こうした遠隔利用への規制を明確にするため、米議会では「Remote Access Security Act(遠隔アクセス安全保障法案)」が審議されている。法案H.R.2683は、外国人がインターネットやクラウドサービスなどのネットワーク接続を通じて、米国の管轄下にある品目に物理的な設置場所の外からアクセスする行為を、一定の条件下で輸出管理の対象に加えるものだ。商務長官が国家安全保障や外交政策に重大なリスクをもたらし得ると判断する場合を想定しており、すべての遠隔アクセスを一律に禁止する内容ではない。
法案は2026年1月12日に米下院で369対22の賛成多数により可決されたが、翌13日に上院の銀行・住宅・都市問題委員会へ付託されたままとなっている。11月3日時点の米政府出版局(govinfo)の記録では、その後の進展は確認できない。遠隔アクセスを直接規制する法的枠組みが整備されるまでの間、NVIDIAが顧客への販売条件を通じて中国企業の利用を制限するという構図が生じている。
この点で重要なのは、NVIDIAが単にGPUを販売するだけでなく、AIクラウド事業者のインフラ整備にも深く関与していることだ。同社はForm 10-Qで、一部のAIクラウド事業者との新たな事業モデルに言及しており、AIクラウド向けの土地、電力、建屋に関する債務保証の最大エクスポージャーは35億ドルに達する。GPUの供給だけでなく、データセンター事業の資金調達にも関与するNVIDIAは、顧客との取引条件を通じて事業運営に影響を及ぼし得る立場にある。今回の51%ルールが実際に適用されれば、こうした関係を通じて、中国企業が国外の計算資源を利用する経路を狭める可能性がある。
51%ルールは大口契約にどう影響するのか
今回の方針が実際に適用された場合、影響を受ける可能性がある事例として、日本のデータセクションが手掛けるAIデータセンター事業が挙げられる。同社は2025年7月10日、大阪府内に開設するAIデータセンター向けにNVIDIA B200を5,000個搭載したGPUサーバーを調達し、業務提携先のナウナウジャパンを通じて、世界最大規模のクラウドサービスプロバイダーと間接的に利用契約を締結したと発表した。契約期間は3年間で、年間利用料金は1億3,534万2,000ドル、3年間の総額は4億602万6,000ドルとなる。同社が当時の為替レート(1ドル=144.01円)で換算した金額は約584億7,100万円で、同社の判断により契約を2年間延長できる。顧客名は、顧客側の意向と守秘義務を理由に公表されていない。
さらにデータセクションは2025年10月3日、オーストラリア・シドニーの第2号案件について、大阪の第1号案件と同じ顧客から、同様の商流で受注したと発表した。当初はNVIDIA B200を10,000個使用する計画だったが、12月19日にはGPUをB300に変更し、契約を再締結した。変更後の利用料金は年間2億9,700万ドル、3年間の総額は8億9,100万ドルで、当時の為替レート(1ドル=156.15円)では約1,391億1,500万円に相当する。これとは別に、顧客専用GPUクラスターの構築に伴うセットアップ代金として7,400万ドルを受け取る契約となっている。
両案件の3年間の利用料金を合計すると、12億9,702万6,000ドルに達する。内訳は大阪の第1号案件が4億602万6,000ドル、シドニーの第2号案件が8億9,100万ドルであり、セットアップ代金や延長期間の料金は含まない。これら2件の契約相手は、いずれも同じ非公開の1社である。
FTは2025年12月、中国のTencentが第三者を通じてデータセクションの計算資源を利用していると報じている。ただし、データセクションは契約先の企業名を公表しておらず、開示された契約の顧客がTencentと同一であると独立に確認できたわけではない。また、データセクション自体がNVIDIAのいう「クラウド顧客」に該当するかどうかも明らかになっていない。
そのため、今回の51%ルールがデータセクションの事業に直接適用されると断定することはできない。ただし、同社の開示した2件の契約に限れば、取引先は1社であり、契約額ベースで顧客構成の100%を占める。この顧客が中国企業であり、かつ51%ルールが個別契約ごとに適用されるのであれば、同様の新規契約は中国向けサービスを49%以下に抑える条件に抵触する可能性がある。一方、事業者全体の取引を対象に比率を計算するのであれば、ほかの顧客との契約も含めて判断する必要がある。
データセクションが公表した情報だけでは、事業全体における中国企業との取引比率は分からない。このため、既存の大口契約をそのまま51%ルールに当てはめて、条件に違反すると判断することはできない。ただし、中国企業1社に専用クラスターを貸し出す契約への依存度が高いほど、中国以外の企業への販売比率を51%以上にするには、ほかの顧客との契約を増やす必要がある。契約単位で判定される場合には、さらに制約が大きくなる可能性がある。
なお、FTの報道では既存契約は新方針の対象外とされているため、データセクションが2025年に締結した2件の契約が直ちに影響を受けるわけではない。一方、契約期間を2年間延長する場合や、GPUクラスターを増設する場合に、それらが「今後の契約」として扱われるかどうかは不明だ。新方針の影響を評価するには、対象となる契約の範囲と比率の算定基準を確認する必要がある。
口頭の販売条件に実効性はあるのか、11月17日の決算が焦点に
今回の報道には、方針の実効性という重要な疑問が残る。FTによれば、NVIDIAの要請は既存契約には適用されず、顧客への通知も口頭にとどまっている。クラウド事業者が求められた比率を満たさなかった場合、NVIDIAがGPUの供給停止や契約条件の変更などに踏み切るのかも明らかではない。さらに、NVIDIA自身は報道された51%ルールを公式に認めておらず、AFPへの声明では、米国製AIインフラの国際競争力を維持するという商業上の必要性を強調している。
もう一つの疑問は、特に大きな影響を受けるのが、特定の中国企業に専用GPUクラスターを貸し出す事業者なのかという点だ。FTの報道によれば、シンガポールのクラウド事業者は、米国外では中国以外の顧客を十分に確保することが難しいと説明している。これは、特定の中国企業との大口契約に依存する事業者だけでなく、多数の顧客を抱えるクラウド事業者でも、中国企業の利用比率が高くなる可能性を示唆している。したがって、新方針の影響を専用クラスター型の事業者に限定して考えることはできない。
それでも、NVIDIAの販売条件が中国企業による国外の計算資源へのアクセスを制限する方向に働くという見方には、一定の根拠がある。仮に51%ルールが今後の契約に適用されれば、クラウド事業者は中国企業との取引を増やす際、中国以外の企業との契約比率も考慮せざるを得なくなる。ただし、実際にどの程度の計算資源が中国企業に利用できなくなるのかは現時点で推計できない。影響の大きさは、比率の算定方法、契約の構造、NVIDIAによる条件の運用次第で変わる。
この見立てを検証するうえで、今後注目すべき動きは3つある。第一は、BISが遠隔アクセスに関する新たな輸出管理規則を連邦官報で公表するか、Remote Access Security Actが成立する場合だ。遠隔アクセスに対する法的な規制が整備されれば、NVIDIAの独自の販売条件が規制を補完するという現在の構図は変わる可能性がある。ただし、法案が成立しただけで、あらゆる遠隔アクセスが自動的に禁止されるわけではなく、具体的な規制の対象や適用条件を確認する必要がある。
第二は、データセクションなどの事業者が、11月3日以降に中国企業との新規または追加の大口契約を公表する場合だ。特に、特定の中国企業に専用GPUクラスターを貸し出す新規契約が確認されれば、51%ルールが実際にどのように運用されているのかを検証する手掛かりになる。ただし、そのような契約が公表されただけでは、ルールが適用されていないとまでは断定できない。適用対象となる事業者や比率の算定基準が明らかにならなければ、契約との整合性は判断できないためだ。
第三は、NVIDIA自身による公式な説明である。同社は11月17日午後2時(米太平洋時間)に2027会計年度第3四半期の決算説明会を開催する予定で、その後にはForm 10-Qの提出も控えている。決算説明会や開示資料で今回の報道を否定するのか、それともクラウド顧客に対する販売条件として正式に説明するのかが注目される。仮に方針の存在が確認されても、その強制力や具体的な適用範囲が示されなければ、実際の影響を判断することは難しい。
米国の輸出管理は、先端AIチップをどの企業に輸出するかという点を中心に整備されてきたが、国外のデータセンターを通じた遠隔利用への対応はなお議論が続いている。その間にNVIDIAが顧客への販売条件を通じて中国企業の利用を制限し始めたのであれば、GPUメーカーが輸出管理を事実上補完する新たな動きと捉えられる。ただし、その仕組みがどこまで機能するかは未確認であり、まずは11月17日の決算説明会でNVIDIAがどのような説明を行うかが重要な判断材料となる。
