The Informationが2026年11月2日に報じたところによると、中国のグレー市場では密輸されたHBM3E(高帯域幅メモリ)が1個約4,000ドルで取引されている。AIチップ1個に6〜8個のHBMを搭載する場合、メモリだけで2万4,000〜3万2,000ドル(約379万〜505万円、1ドル=157円95銭で換算)に達する計算だ。米国の輸出管理規則では、HBMとロジックを同じパッケージに収めた製品のうち、演算処理を主機能とするものはプロセッサー側の性能で規制対象かどうかを判定する。この仕組みを利用した搬入が続いているとすれば、規制は供給を完全に断つのではなく、中国側の調達コストを引き上げる形で機能していると考えられる。同じ報道では、Huaweiが次期AIチップ向けのHBMについて、一部顧客に自己調達を求めたとも伝えられた。こうした見方を裏付けるのが、2024年12月に導入された米国の規制と、2024年末から2025年初めにも同様の手法が使われていたとする報道だ。

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Huaweiが一部顧客にHBMの自己調達を要求か

The Informationによると、Huaweiは最近、一部顧客に対し、次期フラッグシップAIチップ「Ascend 960DT」にSamsungとSK hynix製のHBMを相当量使用する予定だと伝えた。韓国メーカーから直接調達できないため、AIチップを発注した一部の顧客にメモリを自ら確保するよう求めたという。Ascend 960DTは、2026年9月17日の「Huawei Connect 2026」で、2027年第1四半期に投入する計画が示された。2025年時点では2027年第4四半期に投入する予定だったため、計画を3四半期前倒ししたことになる。Huaweiは2025年9月に独自HBM技術の「HiBL 1.0」と「HiZQ 2.0」を発表しているものの、メモリダイの製造元は明らかにしていない。なお、SK hynixは米国と韓国の輸出管理規則を含む関連法令を順守しており、米国の輸出規制が発効した2020年以降、Huaweiには製品を供給していないと説明している。

報じられた密輸の手口は、HBMを低性能のサーバー用プロセッサーと同じ基板に実装し、単一の製品として中国へ送り込むというものだ。中国に到着した後、技術者が加熱してはんだを溶かし、HBMを取り外してプロセッサーを廃棄する。ただし、加熱が速すぎたり長時間に及んだりすると、HBMスタックが反ったり割れたりするため、作業の失敗率は高いという。報道に登場した中国のブローカーによれば、HBM3Eの価格は1年前の数百ドルから、現在の約4,000ドルへと急騰している。

米国の輸出規制では、演算を主機能とするパッケージをプロセッサー側の性能で判定

米商務省産業安全保障局(BIS)が2024年12月2日に施行した暫定最終規則では、輸出管理分類番号(ECCN)「3A090.c」が新設され、メモリ帯域密度が2GB/s/mm²を超えるHBMが規制対象となった。メモリ帯域密度は、メモリパッケージまたはスタックの帯域幅(GB/s)を、その面積(mm²)で割った値だ。BISは規則の中で、当時生産されていたすべてのHBMスタックがこの基準を超えると明記している。規則自体は12月2日に発効したが、HBM規制部分の順守開始日は同月31日だった。

重要なのは、同じ規則に設けられた技術注記の内容だ。この注記では、HBMとロジックを同じパッケージに収めたチップについて、主な機能が演算処理である場合は3A090.cの対象外としている。一方、制御インターフェースやPHY(物理層回路)を備えたロジックに固定されたHBMは、規制対象に含まれる。また、現行の米国輸出管理規則「15 CFR 740.25」に定められたLicense Exception HBM(一定条件を満たすHBMを個別許可なしで輸出できる許可例外)でも、完成した同一パッケージのチップがプロセッサー向けの性能基準である3A090.aまたは3A090.bを超えないことが要件となっている。つまり、演算処理を主機能とする完成品については、HBMそのものの性能ではなく、ロジック側の性能基準で規制対象かどうかを判定する仕組みが条文に組み込まれている。

この規定に従えば、HBMを低性能プロセッサーと組み合わせたパッケージは、プロセッサー側の性能基準を下回るため、HBM単体を対象とする3A090.cには該当しないことになる。今回報じられた手口は、こうした分類上の仕組みを利用していると考えられる。ただし、先端ロジックICの製造や後工程を担う企業による輸出品について、3A090.aに該当すると推定する規定など、別の条件が適用される場合もある。本稿ではこれらの条件を個別に確認していないため、報じられた製品が実際に輸出規制の対象外となるとまでは断定できない。個々の取引が適法かどうかも、別途判断する必要がある。

こうした同一パッケージ製品の扱いを利用する手法は、2024年末から2025年初めにも使われていたと報じられている。2026年11月の報道は、同様の手口が再び確認されたことを意味する。関連する規制と報道の経緯は以下のとおりだ。

日付 出来事 根拠
2024年12月2日 BISの新規則が発効。HBM規制部分の順守開始日は12月31日 米国連邦官報
2024年末〜2025年初め 台湾企業数社がSamsung製HBMを簡易的なプロセッサーに緩く取り付け、中国へ送ったとされる IAPS研究者の分析が引用したSemiAnalysisの報道
2026年9月10日 Huaweiの950DTの提示価格が25万元超に上昇。中国のグレー市場におけるHBM価格は中国国外の数倍と報道 Reuters
2026年9月17日 Huawei Connect 2026でAscend 960DTの2027年第1四半期投入を発表 Huawei公式発表
2026年11月2日 低性能プロセッサーと同じパッケージで持ち込み、中国で取り外したHBM3Eが約4,000ドルで取引されていると報道 The Information

2024年末から2025年初めの事例は、AI Frontiersに掲載されたIAPS研究者の分析が引用したSemiAnalysisの報道に基づく二次情報であり、元の報道日は確認できていない。SemiAnalysisは当時、この手口が封じ込められたと判断していたという。しかし、2026年11月には同じ規制上の扱いを利用する方法が再び報じられたことになる。なお、確認できた規制の根拠は2024年12月の規則と現行の15 CFR 740.25であり、その間に技術注記が改正されたかどうかは確認できていない。

価格面でも、こうした調達方法の負担は大きい。報じられたHBM3Eの価格を1個4,000ドルとすると、AIチップ1個に6個搭載する場合は2万4,000ドル、8個なら3万2,000ドルとなる。1ドル=157円95銭で換算すると、HBM3Eは1個約63万円に相当する。ただし、この試算にチップ本体やサーバー、電力などの費用は含まれていない。また、4,000ドルという価格は中国のブローカー1人の証言に基づくもので、対象となるHBMスタックの容量も不明だ。価格の上昇には世界的なHBM不足も影響しているため、全額を輸出規制による割増分とみなすことはできない。

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HBM3Eが数百ドルから4,000ドルに高騰したのは、輸出規制の効果なのか

今回の価格高騰については、輸出規制が供給を絞り込む効果を発揮している証拠だという見方も成り立つ。HBM3Eの価格がわずか1年で数百ドルから約4,000ドルまで上昇したのであれば、規制によって調達が難しくなったと考えるのは自然だ。SemiAnalysisも2025年に報じられた同種の手口について、関係企業の売上が通常の水準に戻ったことを根拠に、密輸ルートが封じ込められたと判断したという。

実際、輸出管理を巡る取り締まりは強化されている。韓国関税庁が2026年7月6日に発表した統計によると、同年5月末までに摘発された貿易安全保障を侵害する犯罪の金額は7,703億ウォンに達し、2025年通年の6,556億ウォンを上回って過去最大となった。このうち戦略物資の不正輸出は2,430億ウォンを占める。ただし、これらは輸出管理違反や原産地偽装などを含む犯罪全体の数字であり、最大の単一事件は二次電池の製造工程設備に関する4,768億ウォンの案件だった。HBMの密輸規模を直接示す統計ではない。

The Informationが取材した別の密輸業者も、同じ経路を利用する業者が増えたことで摘発されるリスクが高まったと証言している。この業者は、2027年には保有する事業持分の大半を売却する意向だという。Huaweiが一部顧客にHBMの自己調達を求めていることも、安定した供給を確保できていない状況をうかがわせる。したがって、規制が調達を難しくしていること自体は、今回の報道とも矛盾しない。

一方で、価格上昇のすべてを米国の輸出規制に結びつけることも適切ではない。Reutersは2026年9月10日、関係者2人の証言として、HuaweiがAscend 950DTカードの提示価格を25万元超に引き上げたと報じた。契約条件によっては2か月前の見積もりから20〜50%の上昇となり、中国のAIチップメーカー各社が値上げに踏み切る背景には、HBMの供給不足があるという。Huaweiはこの報道に回答していない。世界的なHBM不足は密輸品の価格にも影響するため、中国市場での値上がりを規制だけで説明することはできない。

それでも、輸出規制が中国側の調達コストを押し上げているという見方には根拠がある。世界的なHBM不足だけでは、中国と中国国外の価格差を十分に説明できないためだ。Reutersは同じ記事で、2024年12月の規制強化以降、中国のチップメーカーがグレー市場でHBMを確保しており、その価格は中国国外の買い手が支払う金額の数倍に達すると伝えている。世界的な供給不足は中国国外の購入者にも影響するため、この価格差には中国向けの輸出障壁によって生じた割増分が含まれていると考えられる(編集部の推論)。

摘発の強化や密輸業者の撤退意向、2025年に密輸ルートが封じ込められたとする判断も、こうした見方と必ずしも矛盾しない。規制によって輸送や調達の手間と費用が増えても、HBMの流入が完全に止まるとは限らないからだ。ただし、年間の密輸量を示すデータは確認できておらず、規制が流入量をどの程度減らしているかは評価できない。

BISの規則改正とAscend 960DTの出荷時期が今後の焦点に

輸出規制が供給を完全に遮断するのではなく、調達コストを引き上げる形で作用しているという見方は、今後の3つの動向によって検証できる。

第一に、BISによる技術注記の改正だ。現在の3A090に設けられた技術注記が変更され、プロセッサーと同じパッケージに搭載されたHBMも数量や帯域幅に応じて規制対象となれば、これまでの分類方法を利用した搬入は難しくなる。規制対象を判定する仕組みそのものが変わるため、現在の手口が今後も使われ続けるという前提が崩れることになる。

第二に、中国のグレー市場と中国国外でのHBM3E価格の差だ。仮に密輸HBM3Eの価格が数百ドル台まで下落しても、それだけでは輸出規制の影響が弱まったとは判断できない。世界的なHBM不足が緩和されれば、中国以外でも価格が下がる可能性があるためだ。重要なのは絶対的な価格水準ではなく、Reutersが報じた「中国国外の数倍」という価格差が縮小するかどうかである。

第三に、HuaweiのAscend 960DTが計画どおり2027年第1四半期に出荷されるかどうかだ。投入が遅れた場合、HBMの調達量が制約になっている可能性を検討する材料となる。ただし、製品投入の遅延には製造歩留まりや設計上の問題など複数の要因が考えられるため、HBM不足だけを原因と断定することはできない。

また、輸出規制そのものの変更とは別に、中国国内のHBM生産能力の拡大も価格差に影響する。Reutersが2026年9月に報じた時点では、CXMTは約2か月以内にHBM3Eの限定生産を開始する見込みとされていた。ただし、その歩留まりは20〜30%程度で、SK hynixの約70%と比べて大幅に低いという。中国製HBMの供給量が増え、国内需要を賄えるようになれば、密輸品への依存度と、それに伴う価格の割増分は縮小する可能性がある。

現行の規制が演算処理を主機能とする同一パッケージ製品をプロセッサー側の性能で判定する限り、HBMの流入を完全に遮断することは難しい。規制は少なくとも現時点では、中国側の調達コストとリスクを引き上げる形で作用していると考えられる。ただし、世界的なHBM不足の影響も大きく、規制による負担を正確に切り分けることはできない。今後、BISが技術注記を改正するかどうかが、こうした調達方法の継続可能性を左右する重要な焦点となる。