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NVIDIA CEO、GAA技術に20%性能向上期待も「アーキテクチャ革新が鍵」

Y Kobayashi

2025年3月28日

NVIDIAのCEOであるJensen Huang氏は、GTCカンファレンス期間中のQ&Aセッションにて、次世代トランジスタ技術であるGAA(Gate-All-Around)が将来の同社プロセッサに約20%の性能向上をもたらす可能性があると言及した。しかし同氏は、プロセス技術の進化よりもアーキテクチャやソフトウェア革新が性能向上の主要な推進力であるとの見解を強調し、NVIDIAの戦略が単なる半導体製造に留まらないことを示した。

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GAA技術への期待と限界:Huang氏の見解

Huang氏は、GTC(GPU Technology Conference)で開催されたメディア向けQ&Aセッションで、将来のGPUアーキテクチャに関する質問に答える形でGAA技術に言及した。EE Timesによると、2世代先のGPUとされる「Feynman」アーキテクチャでGAAトランジスタを採用する可能性について問われた際、Huang氏は「もし新しいトランジスタを使えば」約20%の性能向上が期待できると述べている。

GAA(Gate-All-Around)トランジスタは、現在主流のFinFET構造に代わる次世代技術だ。ゲートが電流の流れるチャネル部分を完全に囲む構造を持つことで、リーク電流をより効果的に抑制し、トランジスタの微細化が進んでも性能と電力効率を向上させることが期待されている。TSMCやSamsungなどの主要ファウンドリが、2nmや3nmといった最先端プロセスノードでこの技術の導入を進めている。

しかし、Huang氏はこの20%という数字について、「世界を変えるほどではないが、我々はそれ(20%向上)を受け入れるだろう」と付け加え、プロセス技術単独でのブレークスルーに対する過度な期待をいさめたHuang氏はムーアの法則(半導体の集積密度が約2年で倍増するという経験則)の鈍化を指摘し、今後の新しいプロセス技術がもたらす改善は、密度、電力、または効率のいずれかにおいて「約20%程度」に留まる可能性が高いとの見解を示したという。

この発言は、特定のプロセスノード(例えばTSMCのN2やSamsungの3nm GAA、Intelの18A)を指すというよりは、プロセス移行に伴う一般的な改善幅に対する期待値として述べられた可能性が高い。事実、TSMC自身は、最初のGAAベースプロセスであるN2について、先行するN3E(3nmクラスの第2世代)と比較して10%から15%の性能向上を見込んでいると発表している。

アーキテクチャとシステム効率こそがNVIDIAの核心

Huang氏がGAAによる性能向上を限定的と捉える背景には、NVIDIAが一貫して追求してきた戦略がある。同社は、プロセス技術の進化だけに頼るのではなく、GPUアーキテクチャそのものの革新とソフトウェア最適化によって性能を飛躍的に向上させてきた。これは、NVIDIAが「Huangの法則」とも言うべきアプローチ、すなわちアーキテクチャの進歩を通じて性能をスケールさせることに注力し、過去10年間でチップ効率を1000倍以上に高めたことに現れている。

特に大規模なAIデータセンターにおいては、個々のプロセッサの性能向上以上に、膨大な数のプロセッサをいかに効率的に管理し、連携させるかが重要になる、とHuang氏は強調する。「我々は物理学の限界にいる」と述べ、データセンターでは消費電力あたりの性能(Performance per Watt)がますます重視されるようになっていると指摘した。AIシステムがスケールするにつれて、プロセッサ管理のオーバーヘッドが性能を左右する最大の要因になるという考えである。

この考えは、NVIDIAの製品開発戦略にも表れている。同社は、Appleのように常にTSMCの最先端プロセスを最初に採用するのではなく、むしろ数世代前の、より成熟し安定したプロセス技術をベースに、自社製品向けに最適化したカスタムプロセス(例:HopperやBlackwell GPUで採用されたTSMC 4Nプロセスは5nm技術ベース)を利用する傾向がある。

NVIDIAがGAA技術を採用するのは、2028年にリリースが予定されている「Feynman」アーキテクチャになる可能性が高いだろう。その際に採用されるプロセスとしては、TSMCが2027年の量産開始を目指すN2P(N2の改良版)やA16(BSPDN:裏面電源供給ネットワークを採用)などが候補として考えられる。これらの改良版ノードであれば、TSMCがN2で目標とする10-15%を超える、Huang氏の期待する「20%」あるいはそれ以上の性能/ワット向上が実現する可能性もある。

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「チップ企業」を超えて:NVIDIAの目指す姿

Huang氏はQ&Aセッションを通じて、NVIDIAがもはや単なる「チップ企業」ではないことを繰り返し強調した。「我々は今や、一度に数十億ドル規模で導入されるAIインフラを構築している」と述べ、同社を「インフラ企業」あるいは「アルゴリズム企業」と位置づけた。

コンピュータグラフィックス、ロボティクス、計算リソグラフィといった分野におけるアルゴリズム開発でのリーダーシップや、AI研究への長年の取り組みが、NVIDIAの競争力の源泉であると主張。ハードウェア(チップ)設計はそのアルゴリズムを効率的に実行するための手段であり、「ほとんど二次的なもの」とさえ表現した。

また、NVIDIAは完全なシステムを提供する一方で、「ソリューション企業」ではないとも述べた。基盤となる技術(チップ、システム、ソフトウェア、アルゴリズム)を様々な形で提供し、顧客やパートナーがそれぞれのニーズに合わせて利用できるようにしているという。これにより、自社のエコシステム内の顧客と競合することを避けつつ、広範な協力関係を築いているとした。

結論として、Huang氏のGAAに関する発言は、NVIDIAが次世代プロセス技術の恩恵を認識しつつも、それに過度に依存せず、アーキテクチャ、ソフトウェア、そしてシステム全体の最適化という多面的なアプローチによってAIコンピューティングの未来を切り拓こうとしている姿勢を明確に示していると言えるだろう。


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