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NVIDIA、ディスクリートGPUシェア92%で市場を独占:AMDは過去最低の8%へ転落、Intelは消失、一体何が起きたのか?

Y Kobayashi

2025年6月7日

最新の市場調査が、PC向けGPU市場の驚くべき実態を明らかにした。調査会社Jon Peddie Research(JPR)の2025年第1四半期レポートによると、NVIDIAがディスクリートGPU市場で実に92%という記録的なシェアを獲得。一方、長年のライバルであるAMDは過去最低となる8%にまでシェアを落とし、Intelに至っては実質的に市場から姿を消したのだ。市場で長らく待ち望まれていた、コストパフォーマンスに優れたAMDのRadeon RX 9000シリーズが登場したにもかかわらずのこの結果。市場で今、一体何が起きているのだろうか?

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衝撃の数字が物語る「緑一色」の市場

まず、JPRが発表した驚愕の数字を具体的に見ていこう。2025年第1四半期におけるデスクトップPC向けディスクリートGPU(アドインボード、AIBとも呼ばれる)市場のシェアは以下の通りだ。

  • NVIDIA: 92% (前期から8.5ポイント増)
  • AMD: 8% (前期から7.3ポイント減)
  • Intel: 0% (前期から1.2ポイント減)

NVIDIAのシェア92%という数字は、同社にとって過去最高の記録である。対照的に、AMDの8%は歴史的な低水準だ。Intelは鳴り物入りで市場に再参入したものの、シェアはほぼゼロという厳しい現実を突きつけられた。

出荷台数で見ると、その差はさらに鮮明になる。同四半期にNVIDIAが出荷したGPUが約846万ユニットに達したのに対し、AMDは約74万〜75万ユニットに留まった。これは、NVIDIAがAMDの11倍以上ものGPUを市場に送り出した計算になる。NVIDIAのGeForce RTX 50シリーズ(コードネーム: Blackwell)が市場を席巻した一方で、AMDは期待の新製品Radeon RX 9000シリーズを投入したにもかかわらず、出荷数を大きく落とすという異例の事態となった。

市場全体としては、PCの売れ行きが鈍化する中でも、ディスクリートGPUの出荷台数は前期比で8.5%増の920万ユニットと好調だった。この成長の果実のほぼ全てをNVIDIAが独占した形だ。なぜ、これほどまでの一極集中が進んでしまったのだろうか。

AMD「ローンチは成功」発言との矛盾、その真相は?

この状況をさらに不可解にするのが、AMD側の発言だ。同社のLisa Su CEOは、第1四半期中に「Radeon RX 9070シリーズの発売初週の販売は、前世代の10倍に達した」と述べ、新製品のローンチが成功裏に終わったことを強調していた。

出荷数が過去3年で最悪だったというJPRのデータと、販売が好調だったというCEOの発言。この一見矛盾した二つの事実は、どのように理解すれば良いのだろうか。

鍵を握るのは、「セルイン(sell-in)」と「セルスルー(sell-through)」という二つの指標の違いである。

  • セルイン: JPRが報告しているのはこちらの数字で、GPUメーカー(NVIDIAやAMD)が、グラフィックスカードを製造するパートナー企業(ASUS、MSIなど)にどれだけGPUチップを出荷したかを示す。
  • セルスルー: Lisa Su CEOが言及したのはこちらで、小売店から最終的な消費者(つまり我々ユーザー)にどれだけ製品が販売されたかを示す。

AMDは新製品発売に先立ち、2024年第4四半期に大量のGPUチップ(約143万ユニット、その大半が新製品用のNavi 48チップと推測される)をパートナー企業へ既に出荷していた可能性がある。つまり、Q1の「セルイン」が少なかったのは、市場投入のための在庫を前四半期に積み上げていたため、という見方ができるのだ。

この仮説が正しければ、CEOの「セルスルーは好調」という発言と、JPRの「セルインは低調」というデータは必ずしも矛盾しない。しかし、これは同時に、AMDが2025年第1四半期に新たなチップ供給を大幅に絞ったことを意味する。結果として、市場の旺盛な需要に供給が追いつかず、品不足が発生し、NVIDIAにシェアを奪われる一因になった可能性は否定できない。

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専門家が分析するAMD不振の深層にある「三重苦」

では、なぜAMDは供給を絞らざるを得なかったのか。JPRの代表であるJon Peddie氏は、AMDが直面している複雑な課題を指摘している。それは、単一の要因ではなく、複合的な「三重苦」とも言える状況だ。

1. 需要予測の失敗と市場の変化

Peddie氏は、AMDが「6〜9ヶ月先の需要を正確に予測できなかった」可能性を示唆する。近年のGPU市場、特にハイエンドセグメントはAIブームの影響もあり、かつてないほど活況を呈している。このハイエンド市場は、まさにNVIDIAが圧倒的な強さを誇る領域だ。AMDは伝統的にコストパフォーマンスに優れたミドルレンジで強みを発揮してきたが、市場の需要が急激にハイエンドへシフトしたことで、その変化の波に乗り遅れたのかもしれない。

2. 「TSMCの壁」という製造上のジレンマ

AMDは、好調なRyzenシリーズのCPUとRadeon GPUの両方を、台湾の半導体メーカーTSMCに製造委託している。限られた最先端プロセスの生産ラインを、今や会社の屋台骨とも言えるCPUと、競争の激しいGPUとで分け合わなければならない。Peddie氏は、この「CPUとGPUの需要に対するリソースのバランス調整」がAMDにとって大きな負担になっていると分析する。これは、自社で製造ラインを持たず、GPUにリソースを集中できるNVIDIAにはない、AMD特有の構造的な課題と言えるだろう。

3. 政治・経済の不確実性

さらにPeddie氏は、米中の貿易摩擦をはじめとする政治・経済の不安定さが、PCサプライヤーの行動を混乱させていると指摘する。価格変動を恐れて前倒しで大量発注する企業もあれば、先行き不透明感から発注を控える企業もある。こうした市場の混乱が、特に需給バランスの調整に苦慮していたAMDにとって、逆風となった可能性も考えられる。

緑一色に染まる市場は健全か?独占がもたらす未来

NVIDIAのシェア92%という数字は、多くの定義において「市場の独占(monopoly)」に近い状態と言える。競争相手が事実上存在しない市場は、果たして消費者にとって健全なのだろうか。

競争原理が働かなければ、価格は高止まりし、技術革新のペースも鈍化する懸念がある。実際、近年のGeForceシリーズは世代毎の性能向上率に対して価格上昇が著しいと批判されることも少なくない。今回の結果は、この傾向がさらに加速する可能性を示唆している。

もちろん、NVIDIAの強さは、単なる市場戦略の巧みさだけによるものではない。レイトレーシングやDLSSといった先進技術での先行、そしてAI開発の標準とも言えるCUDAエコシステムの確立など、長年にわたる技術的投資が結実した結果であることは間違いない。しかし、健全な競争なくして、長期的な業界の発展は望めないのではないだろうか。

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別の視点:ゲーマーの手元では何が起きているか

一方で、JPRの「セルイン」データとは少し異なる景色も見えてくる。世界最大のPCゲームプラットフォームであるSteamが毎月公開している「ハードウェア&ソフトウェア調査」だ。

2025年5月のデータを見ると、AMD製GPUを使用しているゲーマーは全体の17.6%を占めている。これはJPRの8%という数字よりはるかに高い。この差は、Steamの調査にはノートPCや、AMD製APU(CPUとGPUを統合したチップ)を搭載したデバイス、特に人気の携帯ゲーミングPC「Steam Deck」などが含まれるためと考えられる。つまり、AMDはデスクトップ向け単体GPU市場では苦戦しているものの、統合グラフィックスや特定分野では依然として確固たる地位を築いていることがわかる。

また、CPU市場に目を向ければ、AMDはRyzenシリーズでIntelから着実にシェアを奪い続けており、Steamユーザーの間では40%に迫るシェアを獲得している。企業としてのAMDが、必ずしも危機的な状況にあるわけではないのだ。

NVIDIAの牙城は続くのか、反撃の狼煙は上がるのか

今回のJPRレポートは、NVIDIAがデスクトップGPU市場において、事実上の独占状態に近い圧倒的な支配力を確立している現状を浮き彫りにした。ゲーマーからの価格や価値に関する批判があったとしても、NVIDIAの製品が市場で強く支持されていることは明らかだ。

AMDがこの苦境を打開するためには、Jon Peddie氏が指摘するように、より正確な需要予測と、TSMCの貴重な生産リソースの最適配分が不可欠となるだろう。Radeon RX 9000シリーズの供給不足がQ2以降も続くとなれば、NVIDIAとのシェア差はさらに広がる可能性も否定できない。AMDは、CPU市場で示した粘り強さをGPU市場でも発揮し、ミドルレンジからハイエンドにかけての製品ラインナップでNVIDIAに真に競争を挑める体制を構築できるかが焦点となる。

PC市場全体が経済的・政治的な不確実性に直面する中、NVIDIAのGPU市場における牙城は当面揺るがないと筆者は考える。しかし、技術革新のサイクルは速く、AMDがRDNA 4世代の教訓を活かし、次世代製品でどのような戦略を打ち出してくるのか、引き続き注視していく必要があるだろう。


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