京都府警察サイバー捜査課と伏見署は2026年7月28日、世界最大級のトレントサイト「Nyaa」を通じ、NHKドラマを無断で共有した疑いで相模原市の男性を逮捕した。捜査が狙ったのは、後からファイルを受け取った利用者ではなく、完全なデータを最初にP2Pネットワークへ流したとされる「第一アップローダー」である。CODAは、日本ハッカー協会の解析ツールが被疑者情報の取得に寄与したと発表した。同団体はTorrentFreakの取材に対し、ツールはBitTorrentのスウォーム内部を解析していないとも答えている。長く追跡が難しかった流通の起点を、何を手がかりに捜査へ結びつけたのか。

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第一アップローダーを追った民間と警察の分業

逮捕容疑は、2026年放送のドラマ「ミッドナイトタクシー」のデータを権利者に無断で共有したというものだ。CODAによると、男性は完全なデータを最初に流通させ、データの所在を示すトレントファイルをNyaaへ掲載した疑いがある。共同通信は男性を小野雅一容疑者(56)と報じ、「NHKの作品を世界に広めたかった」と容疑を認めていると伝えた。有罪が確定したわけではなく、第一アップローダーだという認定も今後の刑事手続きで検証される。

第一アップローダーは、配信開始時点で完全なファイルを持つ。後から参加する利用者は、そのデータを断片ごとに受け取り、取得済みの断片を別の利用者へ渡す。中央の配信サーバーへ映像を置かなくても拡散が続くため、CODAは流通を始めた人物の特定を対策上の優先事項としてきた。

調査は逮捕の直前に始まったものではない。CODAは経済産業省の支援を受け、2021年度にNyaaのアップローダー特定へ着手した。日本ハッカー協会が開発した解析ツールで被疑者に関係する情報を取得し、京都府警が捜査で個人を特定したという。民間団体が技術的な手がかりを作り、警察が刑事事件の証拠へつなぐ分業である。

インデックスとトラッカーは何を記録するか

Nyaaの公開画面は、映像本体を配るサーバーではない。検索できるのは、ファイル名や容量などの情報を含むトレントファイルだ。利用者がそれをBitTorrentクライアントへ読み込むと、同じファイルを交換している参加者の集まりであるスウォームへ接続する。

そこで接続先を仲介するのがトラッカーである。BitTorrentの公式仕様BEP 3では、トラッカーの応答に参加者のpeer ID、IPアドレスまたはDNS名、ポート番号が含まれる。クライアントはその一覧を使い、ファイルの断片を持つ相手と直接通信する。トラッカーはデータ本体を保持しないが、どの端末が同じtorrentに参加しているかを結びつける。

ただし、一度の応答だけで第一アップローダーの個人名が分かるわけではない。仕様上の接続先情報と、最初に完全なデータを持ち込んだ人物だという立証の間には隔たりがある。いつ掲載されたトレントを、どの時点から、どの情報と照合したのか。今回の発表は、その間を埋める解析の存在を明らかにした一方、手順までは示していない。

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非公表の解析手法が残した境界

CODAはTorrentFreakへの回答で、解析ツールが「BitTorrentスウォーム自体の活動」を調べたのではなく、インデックスサイトやトラッカーサイトなどを通るデータの動きを分析したと説明した。権利者側がスウォームへ参加し、ファイル共有中のIPアドレスを記録する従来型の監視とは異なる、というのが公表済みの範囲である。

それ以上は開示されていない。ツールが取得した情報の種類や、別の情報と照合した方法も非公表だ。CODAは将来の捜査や摘発へ悪影響が及ぶとして、具体的な解析・捜査手法を明かせないとした。

CODAが一般向けに説明する国際執行プロジェクトでは、デジタルフォレンジックとオンラインプロファイリングで証拠を集め、必要に応じてCDNなどへ発信者情報の開示を求める枠組みを掲げている。ただし、これはプロジェクト全般の手順だ。今回の事件で同じ開示手続きが使われたとは確認されていない。確定しているのは、解析ツールが被疑者情報を得た後、京都府警の捜査が個人特定を担ったという順序までである。

サイト遮断から、流通の起点を押さえる捜査へ

Nyaaは2025年7月から2026年6月まで月平均約3,000万アクセスを集め、その約50%を日本からのアクセスが占めたとCODAは説明する。いずれもSimilarWebによる推計であり、実人数ではない。それでも、サイトを閉じるだけでは流通を止めにくい規模と国際性を示す数字ではある。

対策の軸は段階的に変わってきた。2019年にはCODAとGoogleが連携し、NyaaのトップページをGoogle検索結果から外した。2023年1月に文化庁へ提出された資料では、CODAはNyaaについて「発信者の特定」を目的とする監視システムの構築予定を明記していた。2025年には京都府警が、Nyaa上のトレントファイルへ利用者を誘導するリーチサイトに関係した二次アップローダー3人を別途摘発している。

今回の逮捕は、サイトへの入口、再共有する利用者、流通を始める人物という異なる層へ対策が広がってきた流れに位置づけられる。Nyaa自体は稼働を続けており、一件の逮捕でP2P流通が止まったわけではない。それでも、トラッカーを介する配信の起点が長期分析の対象になり得ることは、アップローダー側の前提を変える。刑事手続きで確認すべきなのは、非公表のツール名や推測上の監視技術ではなく、誰が最初に完全なデータを流したと判断できる証拠が、どのように積み上げられたかである。