OpenAIは2026年9月17日、法律実務向けの「Astra for Law」を発表した。GPT-6 Astraに法律検索と分析・執筆用の指示を組み合わせ、法律事務所やリーガルテック企業が、自らの専門知識を使って業務用のAIを構築するための基盤として提供する。同社の評価では、Web検索だけを使う同じ基盤モデルに比べ、米国の法律調査に対する回答の合格率が向上した。ただし、初期提供は選定した事務所に限られる。性能の数字とともに、検索できる法律、利用できる人、顧客情報の扱いを確かめたい発表だ。

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法律検索と専用の指示を組み合わせる

Astra for Lawの法律検索インデックスは、2億3000万件を超えるURLを対象とする。米国の判例や成文法、行政法規に加え、裁判所規則や行政機関の判断を検索でき、資料は日々追加される。判例データベースCourtListenerを運営する非営利団体Free Law Projectとの連携も含む。ただし、URLの件数を、そのまま判例の数として読むことはできない。

法律調査では、関連しそうな文書を見つけた後に、どの箇所が判断の根拠となるかを読み、目の前の案件に適用できるかを検討する必要がある。OpenAIはこの検索と分析をつなぐため、法務向けの指示も組み込んだ。調べた内容を依頼人の事情に当てはめ、主張や契約条件を組み立てるほか、弱点や不確実性を示すことを狙う。検索先と回答の作り方を、まとめて法律実務に合わせた構成だ。OpenAIの発表は、法律検索が専門事業者の有料コンテンツや製品を補完するとも説明している。

事務所ごとの知識を組み込む例も示された。Sullivan & Cromwellは、交渉方針や選んだ先例を新しい契約の検討に使う分析ツールをChatGPT Enterprise上で構築している。条項を組み合わせたときに生じるリスクを探し、修正案や依頼人への助言の下書きにつなげる仕組みで、弁護士が内容を吟味して直すことを前提とする。Ropes & Grayの買収調査支援、Cooleyの新規株式公開準備ツール「GO Public」も、各事務所の仕事の進め方に合わせた事例に当たる。

既存の業務ソフトとの接続も広がる。OpenAIは提携企業製のプラグイン26件を発表し、案件ファイルを扱うiManageや、過去の案件を比較に使うDeepJudgeなどを挙げた。法律家らによるコミュニティ製プラグインは9件で、47のカスタムスキルを含む。Thomson ReutersはHighQの案件情報をChatGPTにつなぎ、CoCounsel Legal向けには今後のコネクタを予告している。すでに提供する接続と、予告段階の接続は区別が必要だ。

改善幅は15.3ポイント、比較相手は同じ基盤モデル

OpenAIが9月17日に公表した評価は、Vals AIの「Legal Research Bench」の非公開検証用セットから、米国の法律調査200問を使ったものだ。両構成とも推論の強度を最大にしたところ、総合的な正しさの評価に合格した割合は、Astra for Lawが54.0%、Web検索だけを使うGPT-6 Astraが38.7%だった。

OpenAIの公表値から計算すると、合格率の差は15.3ポイント、相対的な改善率は約39.5%となる。差は54.0−38.7、相対改善率は(54.0−38.7)÷38.7×100で求め、小数第1位に丸めた。同社が示す「40%の相対改善」はこの水準であり、合格率が40ポイント上がったという意味ではない。これは公表値の再計算で、独立した追試ではなく、丸め前の値も使っていない。

比較対象が同じ基盤モデルである点にも意味がある。専門の検索や指示を含む構成全体を変えることで、回答の評価が改善したことを示す比較だからだ。一方、法律検索インデックスだけの寄与を切り分けた実験とはいえず、競合する法務製品すべてに対する優位性を示す数字でもない。

発表には、回答の合格率とは別に検索結果の増加率も載っている。最大の推論強度で判例中心の質問を比べると、参照判例を24%多く発見したという。また、監査した対象箇所の集合では、同じ推論の強度で比較した際、正しい判決文から取得した関連箇所が最大54%増えたとしている。後者の54%は取得量の相対的な増加であり、回答の合格率54.0%とは分母も評価対象も異なる。

評価の仕組みを知ると、合格率の読み方も変わる。Vals AIの説明では、主指標は各質問の必須評価項目をすべて満たした場合だけ合格とする方式で、部分点を認める指標とは分けている。採点は大規模言語モデルが担う。したがって、合格しなかった回答がすべて全面的に誤っているとも、合格率がそのまま個々の引用の正確さを表すとも解釈できない。

さらに、Vals AIの公開ランキングは208問のテスト用セットで得た結果である。OpenAIが使った200問の検証用セットとは問題群が異なるため、Astra for Lawの54.0%を公開ランキングの数字に並べて順位を決めることはできない。比較できるのは、まず同じ条件で測った両構成の差だ。日本法を扱う業務で同じ改善が得られるかは、この米国法の評価からは判断できない。

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米国の選定事務所から開始、データ管理は利用経路で異なる

初期提供はChatGPTとCodexのTrusted Accessを通じて行われる。公式ヘルプは、その対象を米国の選定した法律事務所と説明しており、適格な弁護士と、その監督下で働く人が利用する。モデル選択画面での名称は「GPT-6 Astra Law」となる。

APIは今後提供する予定で、識別子はgpt-6-astra-law。OpenAIはHarveyとLegoraをAPI顧客として挙げているが、SiliconANGLEは具体的な提供日と価格が示されていないと報じた。一般の利用者が直ちに選べる製品と考えると、導入計画を誤る可能性がある。

顧客情報の管理についても、利用資格とサービスごとの条件を分けて読む必要がある。OpenAIの発表と公式ヘルプが示す範囲を並べると、次のようになる。

確認する項目 公表された対象・措置
初期の利用資格 米国の選定した法律事務所。適格な弁護士とその監督下の人
法律検索の対象 米国の判例・法令など。日本法での性能は今回の評価の対象外
APIでのデータ管理 適格な事務所向けにデータ保持ゼロ(ZDR)を含む
ChatGPT Enterpriseでの扱い 適格な事務所の利用を、既定で人によるレビューの対象から除外

APIのデータ保持ゼロと、ChatGPT Enterpriseの人によるレビュー除外は、異なる措置である。後者だけからChatGPT上の全データが保存されないとは読めず、すべての利用者に同じ条件が適用されるとも限らない。OpenAIはLatham & Watkinsと、情報へのアクセス権限や利益相反を防ぐ情報遮断を設計している。顧客からの指示や事務所による監督も、その取り組みの対象だ。

また、同日一般提供となったChatGPT for Wordは、文書の校正や修正案、書式上の問題の指摘を支援する機能である。その一般提供を、Astra for Law自体の利用制限がなくなったことと混同すべきではない。

公式ヘルプは「回答に依拠する前に、回答と引用元を確認するように」と利用者に求めている。日本の法律実務への導入を検討するなら、提供地域と契約条件の確認に加え、実際に扱う法域・案件で根拠を正しく読み取れるかの検証が要る。その条件が整えば、法律家は資料探索から案件への当てはめまでを支援するAIを、自らの確認手順に組み込めるようになる。