2025年、ウクライナの最前線で運用される小型ドローンの実効命中率は約30%と報告されている。原因の多くは照準の精度ではない。電池が切れるのだ。Group 1に分類される小型無人機、つまり兵士が手で投げ上げるほどのサイズのドローンは、1回の充電で飛べる時間が30〜45分程度に限られる。偵察対象の上空に到着するまでに数分を費やし、帰還にも同じだけかかる。実際にカメラを向けられる時間は、mission全体の半分にも満たない。
この制約は、運用の構造そのものを歪める。電池の交換と充電のために人員を割き、前線にバッテリーを輸送する補給線そのものが攻撃対象になる。米陸軍のxTechSearchプログラムが2026年に実施した公募では、800件超の応募テーマのうちエネルギー関連が上位を占めた。「持続的自律運用には持続的電力が要る(Persistent autonomy requires persistent power)」。Reach Powerの創業者Chris Davlantesが繰り返し口にするこの一文が、現在の軍事ドローン運用が抱える構造的問題を端的に表している。
止まることで見えてくるもう一つの壁
飛行時間を延ばす方法は、大きく二つある。一つは電池を大きくすること。だが重量が増えれば飛行効率が落ち、コストも上がる。小型・低コストを前提とするGroup 1ドローンでは本末転倒だ。
もう一つが「パーチング(perching)」である。ドローンが電柱や建物の縁、枝などに着陸(止まり木)し、モーターを止めた状態でセンサーだけを動かし続ける運用形態だ。ホバリングに必要な電力がゼロになるため、理論上は監視時間を大幅に延ばせる。米陸軍はすでにパーチドローンによる持続的ISRをSBIRテーマとして公募しており、壁面や送電線への自律着陸、風速10ノットの突風への耐性といった要求仕様を提示している。
問題は、止まってもセンサーと通信機器は電力を消費し続けることだ。既存の解決策として太陽電池や送電線からのエネルギーHarvestingが研究されてきたが、天候や設置場所の制約が大きい。夜間や屋内、遮蔽物の多い都市環境では使えない場面が多い。
では、外部から無線で電力を届けられればどうか。
電波で電力を運ぶという設計思想
2026年8月4日、Reach PowerとNebraska-Lincoln大学(UNL)のNIMBUS Labが、AFWERX(空軍のイノベーション加速組織)のSTTR Phase I契約を獲得したと発表した。テーマは「無線給電によるパーチドローンの持続運用」。着陸したドローンに対し、遠隔からRF(無線周波数)エネルギーを照射して電力を供給し、通信およびISRノードの役割を無期限に果たせるかどうかを検証する。
Reach Powerのアプローチは、Wi-Fiがデータを運ぶのと同じ仕組みで電力を運ぶものだ。5.8 GHz帯と24 GHz帯のISMバンド(産業・科学・医療用の非免許帯域)を使い、適応アンテナアレイとビームフォーミング制御によって、対象の受信機にRFエネルギーを集中させる。同社のFAQによれば、送信機と受信機のサイズ、距離、周囲の環境によって届く電力は変わるが、数十メートルの距離で数百ワット級の送電が可能という。
2024年5月にはDARPAのBAA(広域告示)資金でNASA Ames Research Centerにて実証実験を実施。4台の送信機をメッシュネットワークとして連携させ、飛行中の約2.3 kg(5ポンド)のクアッドコプターに256ワットのRFビームを照射し、受信側で50ワットの充電を実証した。距離は約6メートル。送信機を1台切り離しても残りが給電を継続するフォールトトレランスも確認している。
2026年には、米国防総省のJoint Interoperability Field Experimentation(JIFX 26-2)で「永久飛行(perpetual flight)」を達成したと発表。さらに同年5月、米陸軍xTechSearch 9でPOWER(Persistent Overwatch Wireless Energy Recharging)システムがエネルギーレジリエンス部門の受賞24件に選ばれた。
| 指標 | 従来の小型UAV運用 | Reach POWERシステム(実証段階) |
|---|---|---|
| 1回あたりの飛行・滞在時間 | 30〜45分 | 給電下では理論上無制限 |
| 再充電の方法 | 着陸、バッテリー交換、充電 | 飛行中または着陸中にRF給電 |
| 実証済み送電電力 | なし(従来方式) | 256 W照射、50 W受信(6 m、2024年) |
| 使用周波数 | 該当なし | 5.8 GHz / 24 GHz ISM帯 |
| 遮蔽物の影響 | 該当なし | 非見通し(NLOS)でも環境反射を利用して給電可能(同社主張) |
レーザー給電との棲み分け
無線給電と聞いて、レーザーを思い浮かべる方もいるだろう。実際、DARPAのPOWER(Persistent Optical Wireless Energy Relay)プログラムは2025年5月、New Mexico州White Sands Missile Rangeで8.6 km先の受信機に800ワット以上を30秒間届ける実験に成功した。2023年には米海軍研究所(NRL)がMaryland州で1.6 kWを1 km先に送る実証も行っている。PowerLight Technologiesはキロワット級のレーザー給電システムをKHA K1000ULEドローンに搭載し、飛行試験を実施した。
レーザー方式はビームが細く、長距離で高電力を届けられる反面、大気の影響を強く受ける。霧、雨、雪、砂塵はビームを減衰させ、見通し線の確保が必須だ。NRLが2026年に実施した悪天候下の実験では、吹雪による視界消失寸前までテストを続けた結果、運用上の課題が明確になったと報告されている。
Reach PowerのRF方式は、距離ではレーザーに及ばない(数十メートル規模)。その代わり、ISM帯の電波は壁や障害物を回り込み、非見通し環境でも環境反射を利用して届く。同社は「送信機ソフトウェアが最適な経路を計算し、障害物があっても給電できる」と説明する。都市戦や屋内作戦、悪天候下での運用を想定すれば、この特性はパーチドローンの用途と構造的に相性がよい。止まっている標的への給電は、動目標の追尾よりもビーム制御が容易であり、RF方式の出力限界を補いやすい。
NIMBUS Labが持ち込む自律運用の知見
今回のSTTR契約でUNLのNIMBUS Lab(Nebraska Intelligent MoBile Unmanned Systems)が担うのは、自律システムとフィールドロボティクスの領域だ。Lab所長のBrittany DuncanはTexas A&M大学でロボット支援捜索救難を研究し、2014年にはWashington州Osoの土砂崩れ現場に小型無人機を投入した経験を持つ。NSF CAREER賞を受賞した人間とドローンのインタラクション研究も手がけており、自律運用と人間側の運用負担の両面からシステムを設計できる人材だ。
Duncanはプレスリリースで「パーチドローンが持続的かつ再構成可能な任務ノードとして動き続けられるかを評価する」と述べている。ここでいう「再構成可能(reconfigurable)」とは、状況に応じて通信中継と偵察の役割を切り替えられるという意味だ。単にカメラを回し続けるだけではなく、必要に応じて通信経路を再編成するネットワークノードとしての運用構想が背景にある。
AFWERXという調達の実験場
この契約が通ったAFWERXのOpen Topic SBIR/STTRプログラムは、2018年に空軍研究研究所(AFRL)とAFWERXが共同で立ち上げたものだ。従来の国防調達では、要求仕様の策定から契約までに数年を要し、スタートアップが参入しにくかった。Open Topic方式では、軍側の具体的な要求仕様を待たずに「空軍の課題に資する技術」を広く募り、提案から契約までの期間を短縮している。
Phase Iの契約規模は通常25万ドル以下で、技術実現可能性の証明が目的だ。ここで有望と判断されれば、Phase II(最大150万ドル規模のプロトタイプ開発)に進める。Reach Powerはすでに2022年12月にDCVC主導のSeries Bで3,000万ドルを調達しており、商業化と軍事応用を並行して進めている。Y Combinatorの2015年Summerバッチ出身で、チームは45人体制だ。
実運用までに残る問い
Phase Iの段階で確認されているのは、主に近距離・制御環境下での給電能力である。実運用に向けた未解決の課題は少なくない。
第一に、距離と電力のトレードオフだ。DARPA実証の6メートルで50ワットという数値が、パーチドローンの運用想定距離(数十メートル)でどこまで維持できるかは、Phase Iの検証対象そのものである。
第二に、対抗環境下での挙動だ。敵がRF帯域をジャミングした場合、給電ビームは維持できるのか。逆に、給電ビームそのものが自陣の位置を暴露する電磁的signatureにならないか。この点はプレスリリースでも触れられていない。
第三に、複数ノードへの同時給電とネットワーク制御だ。Reach Powerは2026年6月、Gambitと共同でSWARMプロジェクトを立ち上げ、OECIF(運用エネルギー能力改善基金)の資金を獲得した。こちらは飛行中のドローン群が自律的に給電ウェイポイントを巡回する構想で、パーチドローンへの給電とは別のシナリオだが、エネルギー管理の自律化という共通基盤を持つ。
第四に、RF給電の安全性と規制だ。ISM帯を使うとはいえ、数百ワットの指向性RFビームを照射するシステムの運用基準は、民生・軍事を問わず確立されていない。
Teslaが1900年代初頭にWardenclyffe Towerで試みた無線送電の夢は、資金難で挫折した。それから120年余り、半導体とビームフォーミングの進歩が、同じアイデアを異なるスケールで実現可能な領域に引き寄せつつある。ただし「可能」と「実用的」の間には、まだ検証すべき距離が残されている。Phase Iがその距離を測る最初の定規になる。



