台湾Silicon Motion(SMI)のクライアント・オートモーティブストレージ事業担当シニアVPであるNelson Duann氏は、Computex 2026におけるインタビューで、リテール向けSSD市場が実質的に消失しつつあると指摘した。これまで一般消費者が自作PCや既存システムのストレージ増設のために購入していたリテール向けSSDは、急激な市場構造の変化により小売店の棚から姿を消しつつある。

その最大の要因は、PC OEMメーカー(Dell、HP、Lenovo、Asus、Acerなど)の調達経路の根本的な変化である。従来、大手OEMメーカーはNANDフラッシュメモリ製造企業から直接メモリチップを大量購入し、それを自社製品のストレージとして組み込んでいた。しかし、現在はNANDメモリの直接調達が極めて困難になり、Western DigitalSamsungSanDiskといったモジュールメーカーから完成品のSSDを直接調達する手法へ移行している。SMIがモジュールメーカーに販売したSSDコントローラーの大部分が、リテール市場ではなくOEMメーカーの出荷するPCに搭載されているのが現状である。

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データセンターへの優先供給が招く市場の歪みと価格高騰

NANDフラッシュメモリの供給が世界的に逼迫している原因は、生成AIの急速な普及に伴うデータセンター向け需要の爆発的な増加にある。NAND製造企業における供給の優先順位は、第一がデータセンター、第二がスマートフォン(LPDDRとのセット供給が多いため)、第三がPC、そして第四が車載向けと明確にランク付けされている。

現状、全NAND生産量の70%から80%という圧倒的な割合がデータセンター向けに割り当てられていると推定されている。スマートフォンやPC、その他のデバイス向けに供給される量は残りの20%から30%に過ぎず、コンシューマ向けデバイスの生産に十分なNANDが回っていない。特に優先度の低いPC向けの供給制限は深刻であり、一部のPCやノートパソコンの端末価格が最大40%上昇するなどの直接的な影響が出ている。リテール市場における1TBのNVMe SSD製品では、かつて存在した50ドル前後の低価格帯モデルが事実上絶滅し、末端価格が2倍以上に高騰するケースも珍しくない。この品薄に乗じて、ベンチマークソフトを騙る巧妙な偽装SSDが流通するなど、消費環境の悪化も顕著になっている。

コントローラー市場への影響と競合も含めた事業成長

ストレージの末端価格が高騰し、ローエンドPC向けの需要が減退する一方で、SSDコントローラーの開発企業であるSMIの業績は過去最高水準を記録している。2026年第1四半期の同社の売上高は前年同期比105%増の3億4210万ドルに達し、SSDコントローラーの売上も40%45%の急成長を見せた。これは、供給不足の環境下において、PCメーカーが限られたNANDを利益率の高いハイエンド製品に優先的に割り当てているためである。

この好調な業績推移はSMIに限定されたものではない。同社の最大の競合である台湾Phison Electronicsも同様に記録的な四半期業績を報告している。両社ともに、ハイパースケーラーやサーバーメーカー向けのデータセンター用およびエンタープライズ級コントローラーの売上を急拡大させているだけでなく、NAND製造企業やモジュールメーカー向けのすべての製品ラインで販売を伸ばしている。AI需要が引き金となった市場構造の変化は、NANDフラッシュそのものの供給不足を招きつつも、コントローラーを担うファブレス企業にとってはかつてない追い風として機能している状況である。

SMIの世界クライアントSSDコントローラー市場におけるシェアは30%から32%に達しており、PCIe Gen4およびGen5対応のハイエンドコントローラーの需要増が業績を強力に牽引している。NAND供給不足が続く中でも、モジュールメーカーがOEM向けビジネスを拡大していることが、結果としてSMIやPhisonのコントローラー出荷数を押し上げる構造となっている。NANDメーカーへの直接的なコントローラー出荷数は減少しているものの、より高単価なプレミアムコントローラーへのシフトが進んでいることで、収益性の向上が図られている。

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2027年に向けて深刻化する供給不足と地域的な例外

このNAND供給不足は、2026年後半も継続し、2027年にはさらに悪化すると予測されている。NAND製造企業は次世代技術への移行を進めているものの、ウェハー投入量ベースでの生産能力の絶対的な増加は限定的である。新工場の稼働が本格化するのは2028年初頭になる見込みであり、生成AIインフラによる需要の伸び(約100%増)に対し、供給ビット数の成長が全く追いついていない。QLC NANDのダイ容量が4Tbに達するなどの技術進展はあるものの、PLC NANDの実用化には至っておらず、ビット成長の鈍化を補うには力不足である。

ただし、例外として中国市場の動向が挙げられる。中国には独自のNANDおよびDRAM製造企業が存在し、政府の支援を受けて国内産業を優先的に保護する方針をとっている。グローバルなメモリベンダーが利益率の高いデータセンター向けに全振りする一方で、中国のベンダーは国内のデバイスメーカーを支える役割を担っている。そのため、Lenovoなど中国国内に拠点を持つメーカーは、他のグローバルベンダーと比較してNANDやDRAMの調達において有利な立場を維持できると見られている。

AI PCに向けた次世代アーキテクチャとPCIe Gen6への移行

将来的なAI PC(Personal Agentic AI machine)の普及を見据え、ストレージアーキテクチャにも抜本的な変革が求められている。ローカルで高度な生成AI処理を実行するシステムにおいては、大規模言語モデルの展開や推論処理に膨大なメモリ帯域と容量が必要となる。しかし、すべてのコンシューマ向けシステムに128GBクラスの大容量DRAMを搭載するアプローチは、コスト面や基板上のスペース、消費電力の観点から到底現実的ではない。

ここで鍵となるのが、メインメモリに収まりきらないKVキャッシュ(生成AIの推論過程で生成されるキー・バリュー形式の中間データ)を、高速かつ効率的にストレージ側へ退避(オフロード)させる技術である。従来の一般的なPC利用において重視されていた大容量データのシーケンシャルな読み書き以上に、ランダムI/O性能の高さがAIワークロードではシステム全体のボトルネックを解消する決定的要因となる。ストレージが単なるデータ保管庫ではなく、DRAMの拡張領域としてシームレスに機能することが次世代アーキテクチャの必須条件となっている。

このため、SMIはランダムI/O性能を従来比で約25%向上させた4コア搭載のPCIe Gen5 DRAMレスコントローラー「SM2524XT」を投入している。従来の3コア構成からArm Cortex-Rコアを追加し、演算能力を高めることで、ランダムアクセスの際に必須となる論理アドレスから物理アドレスへの変換速度を大幅に向上させた。また、高速化と同時に電力効率も追求しており、従来世代と比較して10%から15%のワットパフォーマンス向上を実現している。クライアントPCの限られた電力枠内で性能を最大化することは、AI PCにおける新たな技術的ハードルとなっている。なお、CPUコアのアーキテクチャに関しては、現在主流のArmアーキテクチャに加えて、内部的にRISC-Vの評価も進めている。RISC-Vへの移行はファームウェア開発のツールチェーンに大きな変更を強いるため慎重な姿勢を崩していないが、将来的なエコシステムの多様化に向けた布石も打たれている。

さらに、NVIDIAが牽引するデータ集約型のクライアントアーキテクチャに対応するため、2025年末を目途にPCIe Gen6対応のクライアント向けコントローラー(開発コードネーム:Neptune)のリリースを計画している。次世代のPCIe Gen6においては、NANDフラッシュの高層化に伴うエラー率の上昇に対処するため、より高度なエラー訂正技術(LDPC)の導入が必須となる。現在エンタープライズ向けで採用が進む16KB LDPCのクライアント向けへの展開も検討されており、4KB単位の読み書きが主流のPC環境において、どのようにレイテンシやQoSを最適化するかが開発の焦点となっている。ハードウェアの物理的な進化と、ファームウェアによる緻密なチューニングの両輪が、AI時代におけるクライアントPCのストレージ性能を担保する鍵を握るのである。