千代田化工建設と米Sage Geosystemsは2026年8月26日、次世代地熱技術「Pressure Geothermal」を商業規模の発電へつなぐ技術・事業化可能性調査(FS)を始めた。地下に新しい熱源が見つかったという発表ではない。高温の岩盤に水を通して得る熱に加え、地下で蓄えた圧力を地上で捨てずに回収し、発電所として採算を合わせられるかを調べる。Sageが設計してきた地下の仕組みを、千代田化工が主要機器とエネルギー収支に落とし込み、設備費と発電原価へつなぐ段階に入った。

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発電所建設ではなく、地上設備の採算を測るFS

今回の覚書が対象にするのは、坑井から上がる高温高圧流体を受ける地上設備である。Sageは坑口の圧力と温度、流体の性質、運転条件を提示する。千代田化工はそれを基に主要機器の構成を決め、電力・熱収支を計算し、概算の設備費と運転費、発電コストを評価する。

したがって、覚書の締結は建設契約や投資決定を意味しない。候補地、設備容量、FSの完了時期、予算、目標とする発電単価も公表されていない。むしろ、これらを決められるだけの設計値を作ることが今回の仕事だ。

地上側を先に詰める理由は重い。University of Houstonが2026年にまとめた先進地熱の白書によると、地上の発電所と付帯設備は総設備投資の約半分を占める場合がある。地熱井は一般的な非在来型の石油・ガス井より約10倍の流量を扱い、20〜30年にわたり一定の出力を保つことも求められる。地下から流体が出た時点では、まだ安価な電気になっていない。

熱より先に、捨てていた圧力を戻す

従来の地熱発電は、天然の蒸気や熱水が集まり、流体が通りやすい場所を選ぶ。この地理的な制約を緩めるのがEnhanced Geothermal System(EGS)だ。水が乏しく透水性も低い高温岩体を掘り、人工的に亀裂をつくって水を循環させる。

ただし、亀裂や坑井の流動抵抗が大きいと、水を地下へ戻すポンプが発電量の相当部分を食う。一般的なEGSは砂粒状の支持材「プロッパント」で亀裂を開いておくが、Sageは流体圧で亀裂を開いた状態に保つ。運転圧力を岩盤の最小主応力より高くし、亀裂が伸び始める圧力より低く抑える「圧力窓」を使う考え方だ。

生産井側でも圧力を大気へ逃がさない。高圧の熱交換器を通して熱を発電サイクルへ渡しながら、残った圧力を高吸込圧ポンプの入口へ戻す。Sageの構想では、熱は超臨界CO2タービン、圧力はペルトン水車などで電力へ変えられる。地下と地上を一つの高圧ループとして扱うため、Pressure Geothermalではプラント設計そのものが地下貯留層の性能を左右する。

圧力は無償で加わる燃料ではない。電力を貯める運転では、余剰電力で水を圧入するため往復損失が生じる。連続発電では、生産側に残る圧力を注入側へ再利用し、ポンプが新たに補う圧力差を小さくする。今回のFSが調べるエネルギー収支は、熱と圧力から得る電力と、ポンプや高圧設備が使う電力を同じ境界で数え、正味出力を確定する作業になる。

Sageの2024年論文は、2坑井、3坑井、地下ではつながっていない2本の坑井を交互に注入・生産へ使う方式を比較した。最後の方式は、一方へ水を押し込んでいる間に他方から取り出し、一定時間ごとに役割を入れ替える。坑井同士を地下の亀裂で正確につなぐ作業を省ける可能性がある。ただし、今回のFSがどの構成を前提にするかは明らかになっていない。

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「ポンプ動力6〜9%」は実測値ではない

圧力を捨てない効果は大きく見える。Sageの技術者らがGeothermal Rising Conferenceで公表した2024年論文では、地上系を加圧して高吸込圧ポンプを使うと、注入ポンプの消費電力は非加圧系で低吸込圧ポンプを使う場合の6〜9%になった。3坑井モデルでは958kWeが43〜58kWeへ、交互運転する2坑井モデルでは856kWeが平均80kWeへ下がった。

これらは数値シミュレーションの結果である。論文が計算したのは流体と岩盤の力学挙動で、長期運転に伴う岩盤の冷却や熱出力の低下まで組み込んだ比較は将来研究とされた。Sageが自社サイトで掲げる「従来の高温乾燥岩方式よりネット出力が25〜50%高い」という数字にも、モデル値との注記がある。商用プラント同士を運転して比べた実測値ではない。

圧力管理には逆方向の制約もある。圧力が低すぎれば亀裂が閉じて流動抵抗が増え、高すぎれば亀裂が伸びて水を失う。近くの断層へ影響すれば、誘発地震の危険も生じる。2024年論文では、2坑井・多亀裂モデルを連続運転すると亀裂の一部が成長し続け、大きな流体損失につながる結果が出た。高圧化は無条件の効率改善策ではなく、地質ごとに狭い運転範囲を維持する制御問題である。

1MWの現場試験が証明したこと、していないこと

Sageには現場データもある。South Texasで2021〜2023年に行った試験では、既存の深井戸へ単一の垂直亀裂をつくり、水を圧入して岩盤を押し広げた後、戻ってくる高圧水の出力を測った。2023年の論文は、200kWを15.5時間、450kWを5時間52分維持したサイクルを報告している。別の44分間のサイクルでは平均742kW、ピークは約1MWに達した。

現場試験が確かめたのは、深い亀裂を機械的な蓄電池として膨らませ、必要なときに出力を調整して圧力エネルギーを戻せることだ。著者らは、現地を監視したTexNetで破砕・圧入中の誘発地震を検出しなかったとも報告している。

一方、この試験は高温岩体から熱を連続して取り出す商業発電の実証ではない。単一地点の試験で地質の異なる場所の安全性を保証するものでもない。圧力貯蔵の出力を、そのまま地熱発電の正味出力へ足すことはできない。今回のFSは、地下で得られる熱と圧力を同じ設備で受け、ポンプなどの所内消費を差し引いて電力をどれだけ残せるかを計算する必要がある。

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2027年の初号設備と2030年の150MW計画

商用化の現在地も、数字を分けて読む必要がある。Ormat Technologiesは2026年8月5日、Sageと進めるNevadaの実証について、接続先の発電所を選び、許認可と掘削サービス・機材の調達、2坑井EGSを既存発電所へ組み込む設計を進めていると説明した。Sageの現行ロードマップは、この初の圧力地熱発電設備を2027年完成予定としている。

大型案件は、その先だ。Sageの現在のプロジェクト一覧では、Rockies以東の150MW発電案件を2030年予定として、Nevadaの初号設備とは別に載せている。公開ロードマップ上、150MW案件は2027年の初号設備とは別の計画であり、予定時期も2030年である。

千代田化工のFSが埋めるのは、この初号設備と大型展開の間にある空白だ。坑口の温度・圧力・流量から何MWを取り出せるのか。高圧機器を含む設備費と運転費を引いた発電原価はいくらか。水の補給量と長期の正味出力を維持できるか。これらが具体的な設計値として示されれば、地下の圧力を使う発想は商業発電へ近づく。示されなければ、Pressure Geothermalは有望なモデルと限定的な現場試験の段階に残る。