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Samsung、2028年にガラスインターポーザー採用でAIチップ革新へ:コストと性能の両立目指す新戦略の全貌

Y Kobayashi

2025年5月26日

Samsung Electronicsが2028年、AI半導体の心臓部を繋ぐインターポーザーに、従来のシリコンではなく「ガラス」を採用するという野心的な計画を明らかにした。この技術転換は何を意味し、AIチップの未来、そして半導体業界の勢力図にどのような変革をもたらすのだろうか。その深層に迫る。

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なぜガラス? 半導体パッケージングの常識を覆す「次の一手」

AI時代の申し子とも言える高性能チップ。その心臓部では、GPUやCPUといったプロセッサと、HBM(広帯域幅メモリ)などのメモリチップが、まるで複雑な神経網のように結びついている。この重要な結節点を担うのが「インターポーザー」と呼ばれる薄い基板だ。

これまで主流だったシリコン製インターポーザーは、その性能の高さは認められつつも、AIチップ需要の爆発的な増加に伴い、製造コストの高さが無視できない課題となっていた。また、さらなる高性能化、高集積化への要求は留まるところを知らない。そこで白羽の矢が立ったのが「ガラス」である。

ガラスは、シリコンと比較して表面が平滑で、より微細な回路パターンを形成しやすいとされる。熱や化学的処理に対する寸法安定性にも優れており、インターポーザー自体の大型化への対応も期待される。これにより、より多くのチップレットを高密度に集積し、チップ全体の性能を引き上げる道が開けるかもしれない。そして何より、将来的には製造コストを大幅に引き下げる可能性を秘めているのだ。このコストメリットが実現すれば、高性能AIチップがより広範なデバイスに搭載される未来も近づくだろう。

Samsungの野望:2028年「ガラス転換」計画と独自戦略「ユニット試作」の狙い

韓国メディアETNewsが報じたところによると、Samsung Electronicsは2028年を目途に、このガラスインターポーザーを本格導入するロードマップを策定したという。これは同社のガラスインターポーザーに関する公式な計画が明らかになった初のケースであり、業界に大きな注目が集まっている。報道によれば、この動きは「顧客の要求に応えるため」であり、AIチップ市場のニーズが新技術導入を後押ししている格好だ。

特筆すべきは、Samsungが採用を検討しているアプローチである。Intelや米Absolicsなどが510×515mmといった大型のガラスパネルからチップサイズのインターポーザーを切り出す方式で開発を進めているのに対し、Samsungは100×100mm以下の、いわばチップサイズに近い「ユニット単位」でガラスインターポーザーの開発・試作を進めているという。

業界関係者は、この戦略について「技術実装と試作品生産のスピードを上げ、いち早く市場に参入するための動き」と分析している。確かに、このアプローチは開発サイクルの短縮や初期投資の抑制に繋がり、急速に進化するAIチップ市場のニーズに迅速に対応できる可能性がある。一方で、本格的な量産フェーズに入った際の生産効率については、今後の技術開発の進展を見守る必要があるだろう。大型パネル方式に比べてスループットが課題となる可能性も否定できない。

Samsungは、外部サプライヤーから供給されるこれらのガラスインターポーザーを、自社の天安(チョナン)工場に持つPLP(パネルレベルパッケージング)ラインで最終的な半導体パッケージングに活用する計画だ。PLPは、従来の円形ウェハーではなく四角いパネルを用いるため、基板の無駄が少なく、ガラスのような大型基板への対応にも適しているとされ、Samsungの既存インフラと新技術の融合がなされる。

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AIチップ覇権争いのゲームチェンジャー? ガラスがもたらす大きな価値

AIチップの性能は、搭載されるプロセッサやメモリの能力もさることながら、それらをいかに効率よく、低遅延で接続するかに大きく左右される。ガラスインターポーザーは、その優れた電気的特性(例えば、低い誘電率や高い絶縁性)と微細加工の容易さから、より高密度な配線を実現し、HBMのような多数のメモリチップとプロセッサ間のデータ帯域幅を飛躍的に向上させる可能性を秘めている。これは、AIモデルの学習や推論速度の向上に直結する重要な要素だ。

さらに、期待されるコスト削減効果も見逃せない。AIチップの需要が急増する中、製造コストの低減は、AI技術のさらなる普及を後押しする重要な鍵となる。また、ガラスインターポーザーはより安価に製造できるようで、実現すれば市場競争において大きなアドバンテージとなり得る。

Samsungはこのガラスインターポーザー技術を、同社が推し進める「AI統合ソリューション」戦略の強力な武器と位置付けているようだ。これは、最先端のファウンドリ(半導体受託製造)サービス、高性能HBM、そして先進的なパッケージング技術をワンストップで顧客に提供するというものであり、ガラスインターポーザーはそのパッケージング技術の中核を担うことになる。これにより、NVIDIAやGoogle、Broadcomといった大手AIチップ開発企業に対し、より包括的で競争力のあるソリューションを提示できるようになるだろう。まさに、ファウンドリ、メモリ、パッケージングの「三位一体」でAI時代のニーズに応えようというわけだ。

ガラスは標準となるか? 業界の動向とSamsungの挑戦が示す未来図

Samsungだけがガラスの可能性に着目しているわけではない。AMDは2028年までに自社半導体にガラスインターポーザーを採用する計画を検討中と報じられており、Intelはガラス素材をインターポーザーだけでなく、チップを搭載する基板全体(サブストレート)に適用する研究開発で先行していると主張している。まさに、次世代パッケージング技術の覇権を巡る競争が始まろうとしているのだ。

もちろん、ガラスインターポーザーが広く普及するには、まだいくつかのハードルが存在する。例えば、ガラス特有の脆さへの対策、高精度な加工技術のさらなる確立、そして何よりも、Samsungが採用する「ユニット単位」アプローチが量産段階で真のコスト競争力を維持できるかといった点だ。また、ガラス基板関連の材料や製造装置のエコシステム構築も不可欠であり、ETNewsが報じたように、Samsungは既にサプライヤーと議論中であるとされている。

しかし、これらの課題を克服した先には、より高性能で、より安価なAIチップが実現され、私たちの生活や社会のあり方を一層変革する未来が待っているのかもしれない。Samsungの挑戦は、単なる一企業の技術開発に留まらず、半導体産業全体の大きな転換点を示唆していると言えるだろう。


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