欧州の研究開発計画「SOLiD」が、全固体リチウム金属電池を実験室で作る段階から、各層をパイロット設備で連続製造する段階へと進んでいる。乾式押出で作る正極と、ロール・ツー・ロール(R2R)で塗工する固体高分子電解質を組み合わせる。薄膜リチウム負極と製造中の欠陥検査も、同じ工程へ載せる試みだ。欧州委員会のCORDISによると、約698万ユーロを拠出する計画は2027年4月30日まで続く。残る仕事は、個々の工程で得た結果を全固体パウチセルにまとめ、量産工程として成立するかを確かめることだ。

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工程を一列につなぐSOLiDの設計

SOLiDが製造しようとしているのは、NMC811正極と固体高分子電解質、リチウム金属負極を組み合わせた「Gen.4b」セルである。正極では、活物質と高分子電解質、導電助剤を押出機で混ぜ、溶媒を使わずに薄膜へ加工する。電解質層はR2Rスロットダイ塗工と紫外線硬化で形成し、負極側ではR2Rパルスレーザー堆積(PLD)で銅箔にリチウムを載せる。

従来の湿式電極は、塗工後に溶媒を回収し、長い乾燥炉で水分や溶剤を除かなければならない。SOLiDの乾式押出はこの乾燥工程を外す。VTTは2024年の発表で、乾式塗工によって電池製造時のエネルギー消費を40%減らせるとした。完成セル全体の環境負荷が40%下がるという結果ではないが、工場の設備構成を変えうる数字である。

2026年4月の公式進捗では、乾式正極の押出、固体高分子電解質のR2R塗工と紫外線硬化、リチウム金属のR2R堆積がパイロット工程へ移った。研究室で良好なセルを一つ作るのと、幅のある基材へ均一に塗り続けるのとでは課題が異なる。膜厚のばらつき、異物、界面の剥離を製造中に抑えられるかが、性能を再現できる歩留まりを決める。

3〜10µmのリチウム膜と界面の難所

負極では、PLDで銅基材上に厚さ3µmと10µmのリチウム層を作製した。シート試料の面積は約40×60mm²から100×100mm²へ約4倍に広がったが、処理時間はほぼ変わらず、品質と再現性も改善したという。プロジェクト開始時に掲げた5µmは設計目標であり、今回確認できる実績値とは分けて見る必要がある。

薄くしたリチウムは材料使用量と体積を抑えられる一方、固体電解質との接触が崩れると抵抗が増え、充放電時にはデンドライトが成長しうる。SOLiDは原子層堆積(ALD)とPLDでリチウム表面に無機保護層を設け、析出と溶出を安定させる。NMC811粒子にもALD保護層を形成し、高ニッケル正極と電解質の副反応を抑える設計だ。

電解質側では、2026年4月の発表が固体ポリカーボネート系材料を使ったコインセルと単層パウチセルで500サイクル超の安定動作を報告した。ただし、容量維持率や充放電レート、試験温度は示されていない。前年に試したPESDA系の半固体高分子電解質では、NMC622正極と薄膜リチウムを使うコインセルが室温120サイクル後に初期容量の95%を維持した。セル形式と材料が異なるため、二つの数字を連続した性能向上として比較することはできない。

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検査は5µm粒子まで、制御はこれから

連続生産で欠陥を後工程まで持ち越さないため、SOLiDはレーザースペックル測光で5µmの粒子を検出した。ラインカメラから電極表面の3Dマップを作り、穴や異物を見つける仕組みも開発している。さらに、スロットダイ先端の液面を光学監視し、ロール設備には電気化学インピーダンス分光法(EIS)の検査系を組み込んだ。

これらの測定値はデジタルツインへ集め、結果に応じて工程条件を変える計画である。2026年4月時点で検査装置はパイロットラインに組み込まれたものの、フィードバックを使う閉ループ制御は最終調整中だった。欠陥を見つける能力と、測定結果から塗工や硬化の条件を自動修正する能力には、なお隔たりがある。

製造工程の評価には環境負荷も入る。液体電解質を使う参照セルのライフサイクル評価では、ドライルームの運転エネルギーが気候変動への影響の70%超を占め、セル製造が20〜25%超だった。SOLiDの乾式工程がドライルームをどこまで縮小できるかは、電極性能と並ぶ製造上の判断材料になる。ただし、全固体セルとの比較評価はまだ終わっていない。

量産移行を決めるのは全固体パウチか

プロジェクトは比較用として、NMC622正極、黒鉛負極、液体電解質を使うGen.2bパウチセルを1Ahと10Ahで製作した。2026年4月までに最大10Ahの参照セルが組み上がったが、これは全固体セルの達成値ではない。今後作る全固体プロトタイプが、同じ試験条件で性能と安全性をどこまで上回れるかを測る物差しである。

現状と残る検証を工程別に分けると、到達点の違いがはっきりする。

工程 2026年までに確認されたこと 量産判断までに残ること
正極 NMC811複合材を乾式押出し、パイロット工程へ移行 長尺塗工での膜厚均一性と歩留まり
電解質 R2Rスロットダイ塗工、紫外線硬化、単層パウチでの充放電 多層化した全固体セルでの寿命と界面安定性
リチウム負極 3µm・10µm膜の作製とR2R PLDの実証 積層後のデンドライト抑制と安全性
品質管理 5µm粒子検出、3D表面計測、インラインEIS 測定値を工程へ戻す閉ループ制御

四つの工程は同じ成熟度にない。正極と電解質、負極は連続処理へ移り、検査装置も動き始めたが、それらを積層した全固体セルの長期試験は後段に残る。個別工程の最高値を並べても、製造ライン全体の歩留まりやセルの寿命は決まらない。

CORDISが掲げる900Wh/L超の体積エネルギー密度も、現時点では目標にとどまる。固体高分子電解質のイオン伝導度についても、30℃でバインダー用0.5mS/cm、セパレーター用0.1mS/cmへ「近づいている」と公式資料は説明しており、達成を宣言してはいない。薄い各層を作れることと、それらを積層したセルが長期間安定して動くことは別の検証である。

SOLiDの成果は、全固体電池の量産開始ではなく、量産可否を測る設備と比較基準がそろい始めたことにある。2027年4月30日までに、全固体パウチセルの組立と安全試験、閉ループ制御、参照セルとの環境比較がそろえば、欧州でこの製造方式を工業化する判断に必要な数字が初めて並ぶこととなる。