米電池メーカーのSouth 8 Technologiesは2026年9月24日、カリフォルニア州サンディエゴで、寒冷地向けリチウムイオン電池セルの半自動製造ラインを稼働させたと発表した。

製造するのは、独自の液化ガス電解液「LiGas」を使った円筒形セル「ARCTIC AE35」だ。同社は2027年に、年5MWh規模のセル生産能力を持つラインへ拡大する計画を示している。

防衛分野で試作を進める顧客への供給拡大に向けた一歩となるが、現時点の生産量や、正式な装備として採用されたことを示す数字はまだ公表されていない。

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年5MWhは現在の生産実績ではなく、2027年の目標

South 8の発表で確認できるのは、サンディエゴの新しい半自動ラインが稼働を始めたことだ。

「年5MWh」は、2027年に同ラインで実現を見込む円筒形セルの年間生産能力を示している。2026年9月時点ですでに5MWh分のセルを生産、出荷しているという意味ではない。今回の発表では、現在の生産量や歩留まり、納入したセルの個数も明らかにされていない。

MWhは電池が蓄えられるエネルギー量を表す単位だ。ここでいう年5MWhは、1年間に生産するセルが持つエネルギー量を合計した規模を示している。

5MWhの蓄電設備を1基建設するという意味でも、5MWの電力を連続して供給するという意味でもない。

数字だけを見ると大規模な電気自動車向け電池工場などに比べて小さいが、South 8が狙うのは、極低温環境で使う防衛・特殊用途向けの電池だ。大量生産を前提とする一般車向けセルとは市場の性格が異なる。

同社が4月に発表したカリフォルニア州のPowerForward助成金契約を見ると、今回の拡張に至る流れも分かる。

助成額は920万ドルで、当時South 8は、LiGas電解液を年100MWh分、電池セルを年2MWh分製造できる体制への拡張を計画していた。

公表時点 対象 規模 発表時点での位置付け
2026年4月 電池セル 年2MWh 助成金を活用した生産拡張計画
2026年4月 LiGas電解液 年100MWh分 電解液の生産拡張計画
2026年9月 AE35を含む円筒形セル 2027年に年5MWh 新ライン稼働後に目指す生産能力

4月に示された年2MWhは当時のセル生産拡張計画、今回の年5MWhは2027年に目指す生産能力だ。どちらも現時点での出荷実績を示しているわけではない。

また、4月から9月までに同じ設備の計画を2MWhから5MWhへ変更したのか、それとも追加設備を含む数字なのかは明らかにされていない。そのため、単純に「生産能力が2.5倍になった」と判断することはできない。

LiGasの年100MWh分という数字についても、電解液の生産能力を表したもので、セルそのものの年間生産量とは別の指標だ。

液化ガス電解液は低温で何を変えるのか

AE35は18650型の円筒形セルだ。

South 8は一般的な液体電解液の代わりに、ガスを圧力によって液化した独自の電解液「LiGas」を使う。同社の製品説明によると、専用装置を使ってLiGasをセルへ注入し、封止後も内部の圧力によって液体の状態を保つ。

同社は完成したセルだけでなく、既存の円筒形セル製造ラインにLiGasを導入するための電解液注入システムも提供するとしている。

一般的なリチウムイオン電池では、温度が下がると電解液中でリチウムイオンが動きにくくなり、取り出せる電力が減ったり、充電性能が低下したりする。

South 8は、LiGasが非常に低い温度まで凍結しにくい性質を利用し、この問題を緩和しようとしている。

今回の発表では、AE35についてマイナス60℃からプラス60℃まで充放電できるとしている。極寒環境で使う無人機や通信機器などでは、電池を温めるためのヒーターや、そのための電力を減らせる可能性がある。

ただし、「マイナス60℃で動作できる」ことと、「マイナス60℃でも常温と同じ性能を発揮できる」ことは別だ。

今回South 8が公表した資料には、マイナス60℃でどの程度の容量を維持できるのか、どの程度の電流で充放電できるのか、連続使用時間や繰り返し充放電による劣化がどう変化するのかといった詳しいデータは示されていない。

AE35を同じ条件で他社製セルと比較した第三者試験の結果も、今回確認できる資料には含まれていない。

そのため、LiGasという電解液そのものの低温特性と、それを使った完成品の電池セルやバッテリーパックの性能は分けて見る必要がある。

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防衛分野ではまだ試作・評価の段階

極地で使う電池には、セルそのものの低温性能だけでなく、バッテリーパックの保護回路や筐体、接続する機器との適合性も求められる。

South 8が今回名前を挙げた顧客は、オーストラリアの3ME Technologyと防衛装備企業Galvionだ。両社ともLiGasを使った電池システムの実用化を進めているが、現時点では量産採用が確定した段階ではない。

3MEは2026年2月、South 8と寒冷地向け電池システムを共同開発する意向表明を交わしている。

その後、同社の携帯型蓄電システム「EdgeVOLT」が米国のDefense Innovation Unit(DIU)の試作プログラムに選定され、評価用としてSouth 8のセルを使った寒冷地向け仕様も用意されることになった。

ただし、これは試作品を納入して評価する段階だ。South 8のセルを使った寒冷地仕様が、米軍などの正式装備として量産採用されたことを意味するものではない。

Galvionとは2025年11月に、極寒環境向け技術の共同研究や製品開発、実地試験を進める意向表明を結んでいる。

今回の発表でもGalvionを防衛分野の顧客として挙げているが、具体的にどの製品へAE35を搭載するのか、何個を購入するのかといった情報は公表されていない。

したがって、3MEとGalvionの名前が出ていることを、そのまま確定した受注量や量産契約とみなすことはできない。

米国内で製造するだけでは調達要件を満たせない

South 8はサンディエゴでセルの製造ラインを稼働させ、LiGas電解液についても同拠点で生産を拡大する計画だ。主要なセル材料や部品についても供給契約を結んだとしている。

背景にあるのが、米国防総省の電池調達をめぐる規制だ。

米国法典10編4865条では、特定の外国企業やその影響下にある企業から、軍用電池やその部材、関連技術を調達することを段階的に制限する。

新規の調達プログラムには2028年1月1日、標準的な市販電池には2029年1月1日、既存プログラムには2031年1月30日から適用される。

重要なのは、米国内で最終的なセルを組み立てれば条件を満たせるわけではない点だ。

法令では、正極材や負極材、セパレーターに加え、電解液の溶媒、添加剤、塩、セル内部の安全部品なども対象になる。

つまり、防衛用途へ供給するには、完成した電池の製造場所だけでなく、主要な材料や部品、技術がどこから来ているのかまで確認する必要がある。

South 8も今回の発表では、こうした米国の調達要件への適合に向けた道筋を提供すると説明するにとどめている。

現時点でAE35が具体的な調達要件を満たしたとの認定を受けたことや、同社が契約したすべての材料・部品の原産地は公表されていない。

今回の新ラインの意味は、極低温環境での利用を想定したリチウムイオン電池セルを、米国内で継続的に生産できる体制を整え始めたことにある。

今後、年5MWhという目標に対して実際の生産量がどこまで伸びるのか、寒冷地向けバッテリーパックの評価でどのような結果が出るのか、さらに主要部材の調達先がどこまで明らかになるのかが焦点になる。

こうした情報がそろえば、防衛分野の顧客にとって、低温性能だけでなく米国の調達要件も含めて採用可能性を判断しやすくなる。