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米政権、AI需要のため2050年までに原子力発電を3倍増へ:200GW導入計画を発表

Y Kobayashi

2024年11月14日

米国Joe Biden政権は11月14日、2050年までに国内の原子力発電容量を3倍以上に拡大し、新たに200ギガワット(GW)の原子力発電設備を導入する包括的なロードマップを発表した。この計画は、気候変動対策とエネルギー安全保障の強化を目指す同政権の野心的な取り組みの一環として位置づけられている。

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段階的な導入目標と実現への道筋

この計画では、2035年までに35GWの新規原子力発電所を運転または建設開始し、2040年までに年間15GWのペースで導入を加速させることを目指している。これは1970年代から80年代にかけての原子力発電所建設ブーム期に匹敵する規模だ。

導入される原子力発電所は、従来型の大規模原子炉から小型モジュール炉(SMR)、さらにマイクロ原子炉まで、多様な技術を活用する。特に注目すべきは、既存の石炭火力発電所のサイトを活用した置き換えで、米国エネルギー省 (DOE)の調査によると約80%の石炭火力サイトが原子力発電所の建設に適しているとされている。

テック企業の積極的な関与

主要テクノロジー企業が、AIやクラウドコンピューティングの急速な成長に伴う電力需要の増加に対応するため、原子力発電を重要な電源として位置づけ始めている。

Microsoftの先駆的な取り組み

Microsoftは2023年9月、Constellationとの画期的な電力購入契約(PPA)を締結。ペンシルベニア州のスリーマイル島原子力発電所原子力発電所から生産される電力の100%を20年間にわたって購入する。この電力は、同州に計画中の837MWのAI特化型データセンターの運営に充てられる予定だ。この契約は、テクノロジー企業による原子力発電所からの直接的な電力調達という新しいモデルを示している。

AWSの包括的なアプローチ

Amazon Web Services(AWS)は、複数の戦略的な取り組みを展開している:

  • 2023年3月、ペンシルベニア州でTalen Energyの2.5GW原子力発電所に隣接する960MWのCumulusデータセンターキャンパスを取得
  • Energy Northwestとの協力により、4基の小型モジュール炉(SMR)の開発を推進
  • 2024年初頭には、ワシントン州とヴァージニア州での追加のSMR開発プロジェクトを発表

しかし、Federal Energy Regulatory Commission (FERC)は、AWSのデータセンター拡張に関連する2.5GW発電所との接続サービス契約(ISA)を却下するなど、規制面での課題も顕在化している。

Googleの革新的なアプローチ

Googleは2023年10月、Kairos Powerとの革新的な企業間契約を締結。複数の小型モジュール炉からの電力購入を約束し、2030年の導入を目指している。この取り組みは:

  • 先進的な原子力技術への投資
  • 長期的な持続可能エネルギーの確保
  • カーボンフリー電力の24/7供給体制の構築
    を目的としている。

データセンターの電力需要増大

米エネルギー省は2023年、AIの急速な発展に伴うデータセンターの電力需要増大に対応するために、原子力発電の3倍増が必要だと指摘している。現代のAIデータセンターは:

  • ギガワット規模の電力消費
  • 24時間365日の安定した電力供給の必要性
  • 高品質で一貫した電力品質の要求

という特徴を持ち、原子力発電はこれらの要件を満たす理想的な電源として注目されている。

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安全性と環境への配慮

Biden政権の原子力発電拡大計画は、単なる発電容量の増強にとどまらず、包括的な安全性と環境配慮の枠組みを提示している。

公衆衛生と安全性の確保において、米国の原子力発電所は世界で最も厳格な安全基準を採用している。新設される発電所には、従来の安全システムをさらに強化した「受動的安全設計」が導入される。これは、電源喪失などの緊急時でも人的操作や外部電源なしで、重力や自然循環のみで炉心の冷却が可能なシステムだ。Nuclear Regulatory Commission (NRC)は、これらの安全設計について厳密なリスク評価に基づいた審査を実施する。

環境保護の観点では、原子力発電所の建設から運営、そして使用済み核燃料の管理に至るまで、包括的な環境影響評価が実施される。特筆すべきは、環境正義の観点から、過去の原子力開発で影響を受けた地域社会、特にNavajo Nationなどの先住民コミュニティへの配慮だ。政府は500以上の放置ウラン鉱山の浄化に数十億ドル規模の投資を計画している。

地域社会との関係構築も重要な要素となっている。エネルギー省は、使用済み核燃料の保管施設の立地選定において「合意に基づく立地プロセス」を採用。これは、地域社会との信頼関係構築を重視し、環境正義の観点から公平性を確保しつつ、広範な参加を促す取り組みだ。特に注目すべきは、「原子力の隣人」と呼ばれる発電所周辺10マイル以内の住民からの支持が高まっているという事実である。

エネルギーの経済性確保については、Inflation Reduction Act (IRA)を通じた税額控除や、Department of Energy’s Loan Programs Office (LPO)による融資保証など、複数の経済的支援メカニズムが用意されている。これらは、原子力発電の導入コストを低減し、電力価格の安定化を図るものだ。

国家安全保障の観点では、この計画は国内のエネルギー自給率向上だけでなく、国際的な原子力技術市場でのリーダーシップ確保も目指している。特に、RussiaやChinaの影響力に対抗し、高い安全基準と非核拡散の原則に基づいた原子力技術の国際展開を推進する方針を示している。

実施にあたっては、連邦政府機関間の連携を強化し、特にTribal Working Groupsを通じて先住民との協議を重視する体制が構築されている。これは、過去の教訓を活かし、より包括的で持続可能な原子力開発を実現するための重要な取り組みとなっている。

Xenospectrum’s Take

この計画は、Biden政権の気候変動対策における「核心的な」取り組みと言える。しかし、2024年の大統領選挙でDonald Trump氏が勝利したため、計画の継続性には不透明感が漂う。Trump氏は原子力発電に対して概ね好意的な姿勢を示しているものの、規制緩和を重視する彼の政策スタンスが、安全性を重視する現行の展開計画とどう折り合いをつけるのかは不明だ。

また、原子力産業界の人材不足や供給チェーンの脆弱性など、計画実現への構造的な課題も山積している。それでも、MicrosoftやGoogleといったテック企業の積極的な参画は、この計画に新たな推進力を与える可能性を秘めている。


Sources

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