雲南大学などの研究チームが、南シナ海の水深10 mでペロブスカイト太陽電池モジュールを動作させ、2時間で324 mWhの電力をリチウムイオン電池へ蓄えた。

水中では赤色光や赤外光が急速に吸収されるため、陸上用に設計された一般的な太陽電池では利用できる光が大きく減る。研究チームは、水中でも比較的届きやすい青緑色の光に合わせて材料の吸収特性を調整し、実際の海中で発電してLEDを点灯できることまで確認した。

ただし、これは家庭や電力網へ電力を供給する「海中発電所」の実証ではない。想定されているのは、低消費電力のセンサー、カメラ、通信機器などを現場で充電するための小型電源である。

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「水中で効率34.71%」は何を意味するのか

2026年9月11日に『Joule』でオンライン公開された論文によると、研究チームが開発した太陽電池のバンドギャップは約1.96 eVだった。

バンドギャップとは、光を電気へ変換する際に電子が越える必要のあるエネルギー差である。材料の組成を変えることで、どの波長の光を吸収しやすいかも調整できる。

水は長波長の光を強く吸収する。論文では、630 nm以上の光は水中で利用しにくく、水深5〜10 mでは主に400〜600 nmの青緑色域が残ると説明している。

そのため研究チームは、陸上で幅広い波長を利用する太陽電池ではなく、水中まで届く短波長側の光を効率よく吸収できる広バンドギャップ型のペロブスカイトを選んだ。

小面積セルは、陸上の標準太陽光を模擬したAM 1.5G条件で最高17.08%、第三者認証では16.79%の光電変換効率を記録した。

これに対し、水深10 mの光環境を再現した実験室条件では、34.71%に達した。

数字だけを比較すると、水中のほうが多くの電力を生み出しているように見える。しかし、34.71%という効率は、水深10 mまで届いた後の弱く、波長分布も変化した光を基準にした値である。

水面に入射した太陽エネルギー全体の34.71%を電気へ変換したという意味ではない。

変換効率は、セルに届いた光のうち何割を電気へ変えられたかを示す。一方、実際に得られる電力量は、そもそもセルへ届く光の量にも左右される。

この二つを分けて考えなければ、34.71%という高い効率の意味を誤解することになる。

添加剤が効率と安定性を支える

広バンドギャップ化には別の課題もある。

光吸収層に欠陥が増えたり、ハライドイオンが移動しやすくなったりすると、生成した電荷が途中で失われ、材料そのものも不安定になりやすい。

研究チームはこの問題に対し、結晶化の段階でポリヘキサメチレン・グアニジン塩酸塩を添加した。

著者らの解析によると、この添加剤は結晶内の未配位鉛イオンと相互作用し、ハライドイオンとも水素結合を形成する。これによって欠陥を減らし、イオンが移動するために必要なエネルギー障壁を高めたという。

さらに、材料の電気的特性を調整して電子を取り出しやすくし、界面で電荷が光を出さずに失われる非放射再結合も抑制した。

ただし、セル内部の材料を安定化することと、海水からセルを長期間守ることは別の課題である。

実際の海中モジュールでは、封止が不可欠になる。今回の材料設計によってセル内部の劣化要因は抑えられるものの、封止の傷、圧力変化、海流、生物付着などを含む海洋環境での長期耐久性まで実証されたわけではない。

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水深10 mで実証されたのは324 mWhの蓄電

研究チームは、受光面積115 cm²のモジュールを南シナ海の潿洲島付近に沈めた。

水深を2 m、6 m、10 mと変え、それぞれ2時間発電させてリチウムイオン電池を充電した。得られた蓄電量は次の通りである。

水深 2時間で蓄えた電力量
2 m 1,416 mWh
6 m 752 mWh
10 m 324 mWh

実海域で2時間に蓄えられた電力量は、水深2 mの1,416 mWhから10 mの324 mWhへ77.1%減少した。

77.1%という値は、同じ受光面積と2時間という条件について、(1,416-324)÷1,416から計算した蓄電量の減少率である。

セルそのものの光電変換効率が77.1%低下したという意味ではない。また、日射量、水質、波の状態まで完全に同一条件だったとは限らない。

水深10 mで得られた324 mWhは0.324 Whに相当する。大きな電力量ではない。

それでも、電池交換や給電ケーブルの敷設が難しい海中センサーなどにとって、周囲の光を利用して少しずつ電力を補充できることには意味がある。

カメラや通信機器も常時稼働させるのではなく、蓄電後に間欠動作させる設計であれば利用できる可能性がある。

今回の海中試験は、こうした用途の可能性を実際の海域で示した初期段階の実証といえる。

5.49年は海中での連続運転記録ではない

耐久性について示されている数字には、条件の異なる複数の試験が含まれている。

実際の海中で行われた発電試験は2時間だった。

一方、水深10 mの光環境を模擬した実験室では、太陽電池を最大出力点で動作させる試験を1,160時間続け、顕著な性能低下は見られなかったという。

48,094時間、約5.49年という値は、25℃で行った加速劣化試験の結果から、出力が初期値の80%まで低下する時間を外挿したT80寿命である。

実際に5年半にわたって海中で連続運転したわけではない。

また、300日後に初期効率の約96%を維持したという結果も、室温の窒素雰囲気で保存したセルについての測定であり、海水中での運転条件とは異なる。

数字 測定条件 分かること
2時間 南シナ海、水深2・6・10 m 実海域で蓄電とLED駆動が可能
1,160時間 模擬10 m光、最大出力点追従 制御された光環境で顕著な劣化が見られなかった
48,094時間(約5.49年) 25℃の加速試験から外挿 初期出力の80%まで低下する推定時間
300日後に約96% 窒素雰囲気、室温保存 水分や酸素を避けた条件での保存安定性

この違いは、実用性を考えるうえで重要である。

実際の海中では、封止に生じた微細な傷や圧力変化によって内部へ水が侵入する可能性がある。表面に微生物や藻類などが付着すれば、セルに届く光も減少する。

模擬光の下でセル自体が安定していても、同じ寿命を海洋環境で実現できるとは限らない。

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次に必要なのは標準試験と長期の海中耐久性評価

Cell Pressの研究紹介で、責任著者のWen-Hua Zhangは、今後さらに深い水域で動作限界を調べるとともに、水中太陽電池の標準的な試験方法を整備したいと述べている。

現状では、水深ごとの光スペクトル、水温、濁度などの条件を統一して評価する共通手順が十分に確立されていない。

封止技術についても、異なる方式を同じ条件で比較できる評価方法が必要になる。

雲南大学の研究者ページでは、水中環境向け太陽電池に関する中国特許にも言及しているが、特許を取得していること自体は、量産や商用運転が実現したことを意味しない。

実用化を判断するには、季節をまたいだ長期の海中試験が必要になる。

夜間や濁水時に備えて、どの程度の蓄電池容量が必要なのかも検討しなければならない。

さらに、鉛を含む材料を使用しているため、封止が破損した場合の環境影響や、使用後の回収方法も重要な課題となる。

製造コスト、保守、生物付着への対策まで含めて初めて、定期的な電池交換や海底ケーブルによる給電と比較できる。

今回の水深10 m、2時間の海中試験は、水中に残る青緑色の光を利用して小型機器へ電力を供給できる可能性を示した。

今後の実用性を決めるのは、最高変換効率の数字だけではない。同じモジュールを実際の海中に長期間設置し、季節変化や生物付着、圧力、海水への曝露に耐えながら、封止性能と発電量を維持できるかどうかが重要になる。