2025年12月1日、米国商務省はシリコンバレーのスタートアップ企業「xLight」に対し、CHIPS法(CHIPS and Science Act)に基づき最大1億5,000万ドル(約225億円)の資金を注入することで合意したと発表した。

これは、Trump政権下におけるCHIPS法の初適用事例であると同時に、政府が「株式(Equity)」を取得して民間企業に直接介入するという異例の動きと言える。さらに、その渦中にいるのが、かつてIntelを率いたPat Gelsinger氏であるという事実もまた、注目に値するところだろう。

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次世代リソグラフィの核心「自由電子レーザー(FEL)」への賭け

今回の投資の核心は、xLightが開発を進める「自由電子レーザー(Free-Electron Laser: FEL)」技術にある。これは、現在ASMLが独占するEUV(極端紫外線)リソグラフィ装置の限界を突破し、「ムーアの法則」を延命させるための切り札と目されている。

既存技術(LPP)の限界とFELの革新性

現在の最先端半導体製造において、ASMLのEUV露光装置は不可欠な存在だ。この装置で使用されている光源技術は、LPP(Laser-Produced Plasma)と呼ばれる方式である。これは、錫(スズ)の微小な滴に強力なCO2レーザーを当ててプラズマ化し、そこから発せられるEUV光を利用するものだ。

しかし、LPP方式はエネルギー効率が極めて悪く、物理的な限界に近づきつつある。
一方、xLightが提唱するFEL方式は、全く異なるアプローチをとる。

  1. 粒子加速器の応用: 線形加速器(リニアック)を用いて電子を光速近くまで加速させる。
  2. 磁場による光生成: 加速された電子を「アンジュレータ」と呼ばれる磁石の配列に通すことで、強力かつコヒーレント(可干渉)な光を発生させる。
  3. 圧倒的な出力と効率: xLightによると、この方式は従来のLPP方式と比較して10倍以上の高出力を実現しつつ、消費電力を大幅に削減できる可能性がある。

ASMLのエコシステムへの「プラグイン」

xLightの戦略で特筆すべきは、ASMLの独占市場を正面から破壊するのではなく、そのエコシステムを拡張しようとしている点だ。

彼らの構想では、FEL光源はクリーンルームの外部(あるいは地下)に設置された巨大な施設(加速器)から供給される。生成された光は特殊なミラーシステムを通じて分配され、最大20台のASML製スキャナーに同時に供給可能となる。これは、各装置ごとに巨大な光源を必要とする現在のパラダイムを根本から変える「ユーティリティ・スケール」のアプローチだ。

米国の新たな産業政策:助成金から「株式保有」へ

本件は技術的なブレイクスルーであると同時に、米国政府の産業政策における重大な転換点を示唆している。

政府がVC(ベンチャーキャピタル)化する意味

Biden政権下のCHIPS法運用では、主に補助金(Grant)や融資(Loan)が中心であった。しかし、Trump政権下の商務省は、xLightへの支援と引き換えに「株式(Equity stake)」を取得する道を選んだ。

商務長官のHoward Lutnick氏は、「あまりにも長い間、アメリカは先端リソグラフィのフロンティアを他国に譲り渡してきた。Trump大統領の下、そのような日々は終わった」と声明で述べ、この投資が国益に直結することを強調している。

政府がスタートアップの主要株主になるというこの手法は、納税者の資金に対するリターンを確保するという名目のもと、実質的な「国家資本主義」的アプローチへのシフトを意味する。IntelやU.S. Steelへの介入に続き、政府が直接的に経営に関与し得るポジションを取ることは、シリコンバレーの自由主義的な風土と摩擦を生む可能性も孕んでいる。

米国内でのサプライチェーン完結

現在、最先端のリソグラフィ装置(ASML)はオランダ製であり、そのサプライチェーンはグローバルに分散している。xLightへの投資は、半導体製造の心臓部である「光源」を米国企業が掌握することで、地政学的なリスクを低減し、次世代プロセスの主導権を米国に取り戻すという明確な意志の表れだ。

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Pat Gelsinger氏の「復讐」とビジョン

IntelのCEOを退任後、Playground GlobalのゼネラルパートナーおよびxLightの取締役会長として復帰したPat Gelsinger氏にとって、このプロジェクトは単なるビジネス以上の意味を持つ。

「ムーアの法則」の守護者として

Gelsinger氏はIntel時代から、飽くなき微細化の追求(ムーアの法則の維持)を掲げてきた。今回の声明でも彼は、「現在の技術を10倍上回るエネルギー効率の良いEUVレーザーを構築することは、ムーアの法則の次の時代を牽引する」と語っている。

Intelでの製造復権プランは道半ばで途絶えたが、彼は今、半導体製造のさらに上流、物理的な限界を突破するレイヤーから業界を変革しようとしている。彼がxLightの経営に関与していることは、同社の技術的信頼性を担保する強力なシグナルとなっており、今回の政府支援獲得の決定打となった可能性が高い。

今後の課題と展望:プロトタイプから量産へ

1.5億ドルの資金は、ニューヨーク州にある「Albany Nanotech Complex」でのプロトタイプ建設と実証実験に充てられる予定だ。しかし、道のりは平坦ではない。

技術的・物理的なハードル

  • 施設規模: 加速器ベースの光源は巨大であり、フットボール場規模のスペースを要する場合がある。xLightはこれを商用利用可能なサイズに収める必要がある。
  • 信頼性: 24時間365日稼働が求められる半導体ファブにおいて、加速器という複雑なシステムの信頼性を担保できるか。
  • ASMLとの統合: ASMLのスキャナー(1台あたり2億〜4億ドル)との接続・調整は極めて高難易度であり、ASML側の協力が不可欠となる。

リスクを取った国家レベルの賭け

米国政府とxLightの提携は、次世代半導体製造における米国の覇権奪還に向けた、ハイリスク・ハイリターンの賭けである。もしFEL技術が実用化されれば、EUVの波長は現在の13.5nmからさらに短い領域(ソフトX線など)へと進み、2nm世代以降のチップ製造におけるゲームチェンジャーとなるだろう。

元Intelの闘将とTrump政権がタッグを組んだこのプロジェクトは、シリコンバレーの技術革新とワシントンの国家戦略がかつてない深度で融合した事例として、歴史に刻まれることになるかもしれない。


Sources