Donald Trump大統領と習近平国家主席が2026年9月24日、ホワイトハウスで会談した。その前日には、Scott Bessent財務長官が何立峰副首相との協議を終えたあと、関税とレアアースの輸出規制の一部を停止する貿易休戦の期限を11月10日から2027年1月10日まで延ばすと発表している。動いたのは期限であって、規制の中身ではない。米国はこの1年、レアアースの採掘を増やし、磁石工場の建設計画を次々に動かしてきたが、米地質調査所(USGS)が2026年2月に公表した統計では、国内の鉱山生産が増えた2025年にこそ、レアアース化合物・金属の純輸入依存度が53%から67%へ上がっている。掘る量を増やしたのに、輸入に頼る比率はなぜ上がったのか。
会談の前日に動いた期限
習氏の訪米日程は9月23日から25日までで、会談はその中日に置かれた。2カ月の休戦延長を発表したのはBessent財務長官であり、タイミングは会談前日の協議後である。首脳が合意した成果として扱うと、交渉の実際の順序が逆になる。Bloombergが報じた時点で、中国政府はこの期限を公式に確認していない。CSISのScott Kennedyは、延長幅が2カ月と短いこと自体が、レアアースなどを巡る中国側の提案に米国がなお満足していない表れだと指摘している。
会談の3日前には、交渉の温度を示す数字も出ていた。中国税関データをもとにBloombergが伝えたところでは、中国の対米レアアース磁石輸出は2026年8月に512トンで、7月の647トンから約21%減り、前年同月比でも13%減った。輸出許可の発給が滞れば、休戦の看板があっても荷は動かない。
規制そのものの履歴も短くない。中国は2025年4月にサマリウム、ガドリニウム、テルビウムなど7元素へ輸出管理を強化し、10月にユウロピウムを含む5元素へ対象を広げ、11月に10月分を1年間停止した。4月分の規制は今も生きている。
さらに2026年6月22日には、MP MaterialsとUSA Rare Earthを含む米国企業10社を輸出管理リストへ加え、デュアルユース品目の輸出を即日禁止した。米政府が資金を入れて育てている当の企業が、中国側の規制対象に指定されたわけだ。期限の2カ月延長は、この応酬のどれ一つも解消していない。
増産と依存度上昇が同時に起きた2025年
USGSの『Mineral Commodity Summaries 2026』は2026年2月に公表され、2025年の推計値を収めている。国内の鉱物濃縮物生産量は2023年に4万1600トン、2024年に4万5500トン、2025年に5万1000トンと、2年で約23%増えた。ところが同じ表に載る純輸入依存度は逆方向に動いている。国内の鉱山生産量が2024年の4万5500トンから2025年に5万1000トンへ増えた一方で、レアアース化合物・金属の純輸入依存度は53%から67%へ14ポイント上昇した。
この依存度は、見かけ消費量に対する純輸入の比率である。つまり分母が動けば、分子が同じでも数字は変わる。そして2025年は分母が大きく動いた年だった。化合物・金属の見かけ消費量は2024年の9010トンから2025年に2万7000トンへ、およそ3倍になっている。化合物・金属の輸入そのものも169%増えた。
2024年から2025年にかけて国内で掘る量が1割強増える間に、使う量は3倍になった。だから比率は上がった。
長い目で見れば改善はしている。同じ指標は2021年と2022年に95%超、2023年に90%超と記録されており、2024年の53%はそこからの大きな低下だった。2025年の67%は、その改善の途中で起きた揺り戻しにあたる。依存度が上がったのは国内生産が落ちたからではない。
対象範囲にも注意がいる。53%から67%へという数字はレアアースの化合物・金属についてのもので、鉱物濃縮物の依存度はUSGSの原表では「E(純輸出国)」と表記されている。これは算定漏れという意味ではない。米国が濃縮物の純輸出国であるためにこの表記になっており、正の輸入依存率としては算定されていない。
掘り出した濃縮物と、使える形に仕上げた化合物・金属は、統計上も別の勘定なのである。輸入元の内訳もこの勘定の話で、2021年から2024年の実績では中国が71%、マレーシアが13%、日本とエストニアがそれぞれ5%を占めた。
なぜ分離と精製が詰まるのか

レアアースは17元素の総称で、地殻中の存在量そのものは特別に少ないわけではない。難しいのは、化学的な性質が互いによく似ているために、掘り出した鉱石から個々の元素を分けることにある。工程は採掘から始まり、鉱物濃縮物、分離・精製された酸化物、金属、合金、そして磁石へと続く。段階が進むほど設備も技術も専門化し、稼働までの時間が延びる。米国が2025年に増やした5万1000トンは、この列の最初の段のことだ。
米国は20世紀後半にこの産業をほぼ手放し、カリフォルニア州Mountain Passの鉱山が再稼働したあとも、分離と精製の多くを中国に送ってきた。中国が精製工程の約9割を握るという数字は業界解説や二次媒体で広く使われているが、USGSの当該表には記載がない。ここは出典の性格を分けて読む必要がある。
とりわけ細いのが重希土の経路である。ジスプロシウムやテルビウムは、高温でも磁力を保つ磁石に欠かせない元素だが、米国内でほとんど精製されていない。Benchmark Mineral Intelligenceの予測では、西側諸国は2030年時点でも重希土需要の91%を中国に依存する。2024年の99%からは下がるものの、置き換えの速度は需要の伸びに追いつかない計算だ。同社は、中国とミャンマーが2031年もジスプロシウムとテルビウムの世界供給の約8割を占めると見込む。
だから米国の当事者は、採掘より下の工程に急いでいる。精製スタートアップNth CycleのCEO、Megan O'Connorは「我々は全員、できるかぎり速く精製能力を立ち上げようと必死に取り組んでいる」と述べている。
3社が埋めようとしている穴は、それぞれ別の場所にある

米国内の動きを「官民が一体で増産している」とまとめると、実態を取り逃がす。支援の出どころも、埋めようとしている工程も、会社ごとに違う。
MP Materialsは2025年7月10日に国防総省との官民パートナーシップを発表し、国防総省が4億ドルの転換優先株とワラントを取得した。あわせてNdPr製品に1キログラム当たり110ドルの下限価格を10年間保証し、2025年8月には重希土の分離設備向けに1億5000万ドル・12年の直接融資が実行されている。累計5億5000万ドルという数字が二次媒体で単一の支援として語られることがあるが、性格の異なる2件を2025年7月と8月に分けて受けたものだ。2028年に試運転開始を予定する磁石工場「10X Facility」については、そこで生産される磁石の全量を防衛・民間の顧客が購入することを国防総省が確保する契約になっており、国防総省自身が買い取るわけではない。稼働後の米国内磁石生産能力は1万トンと推計されている。
同社の実績は着実に伸びている。Mountain PassのNdPr酸化物生産は2024年に1294トン、2025年に2599トン、2026年第1四半期は917トンで、前年同期比63%増の四半期最高となった。同四半期の販売量は1006トンである。
GM向けの車載認証・規制試験用磁石の納入は8月6日の第2四半期決算発表の時点で既に始まっており、9月9日のJefferies会議に基づく報道はその進捗を伝えたものである。商業出荷は2026年第4四半期に少量から始まる見通しだという。GMとの長期供給契約は2021年12月に発表されたものだ。
USA Rare Earthの支援元は商務省である。同社は2026年6月にCHIPS法に基づく確定契約を結び、最大2億7700万ドルの連邦資金と最大13億ドルのシニア担保付き融資枠、合計で最大16億ドルの支援枠を確保した。いずれもマイルストーン連動の上限額であって、受領済みの金額ではない。原料側では2026年4月にブラジルのSerra Verde Group(Goiás州のPela Ema鉱山)を約28億ドルで買収する契約を結び、下工程では2026年9月9日にサウスカロライナ州Blacksburgで12億ドルの磁石工場を着工した。
Energy Fuelsの手は民間のM&Aだ。2026年6月23日、ドイツのHanauに本社を置くVacuumschmelze(VAC)を株式価値19億ドルで買収する確定契約を結んだ。純有利子負債1億4000万ドルを承継し、対価は現金7億1800万ドルと新株で支払う。完了見込みは2027年初頭で、取引はまだ終わっていない。VACがサウスカロライナ州Sumterに持つ工場は年2000トンの永久磁石生産能力があり、1万2000トンまで拡張できると説明されている。
同じサウスカロライナ州に磁石工場が2件あるが、稼働中のSumterと着工したばかりのBlacksburgは別の企業の別の施設である。
つまり国防総省の資本と価格保証、商務省の資金枠と融資、そして企業買収という3つの異なる手段が、それぞれ別の段を埋めにかかっている。Clear Streetのレアアースアナリスト、Tim Moore氏は「レアアースの国内回帰は前へ進んでいる。まだ初回の攻撃だが、確かに起きている」と評している。
採掘量では測れない依存の正体
ここで最初の統計に戻る。USGSの2026年版統計では、2025年の米国のレアアース鉱山生産量は5万1000トンで世界の13%にとどまり、27万トンで69%を占める中国とは5倍以上の開きがある。世界計は39万トンで、いずれもREO換算の推計値だ。中国の数値は公式統計としての性格上、生産枠に基づく値であり、非公式な生産分を含まない可能性がある点も踏まえておきたい。
ただし、この比較が測っているのは掘り出す量だけである。分離能力も磁石生産能力も、この表には入っていない。米国が5倍の差を採掘で詰めたとしても、それだけでは依存度の分子は動かない。逆に言えば、依存の実像は下工程の充足率に出る。
Benchmarkの推計としてReutersが報じたところでは、米国は最も広く使われる2種のレアアースの生産量がトランプ氏の再就任以降3倍を超えたものの、需要の42%しか満たせていない。5年以内も需要の4分の1近くを輸入に頼る見通しで、重希土に至ってはほとんど精製されておらず、2031年までに増産が進んでも需要には届かないという。42%という数字が指すのはレアアース全体の需要ではない。この2種に限った充足率だ。
日本にとっては、この構造が二方向から効いてくる。供給を受ける側としては、中国のレアアース磁石の対日輸出は2026年2月以来6カ月ぶりに200トン台へ戻したものの、8月は212トンで前年同月比では約17%の減少が続いている。7月の111トン(前年同月比52.2%減)から前月比約9割増という振れ幅の大きさ自体が、許可発給のペースが安定していないことを示す。中国の2025年のレアアース輸出量は約6万3000トンと過去10年で最も多かったが、輸出許可の発給が遅れれば個別の仕向け地では荷が細る。
一方で、米国の化合物・金属輸入元に日本が5%を占めているように、日本は中間工程を担う供給側でもある。米国の下工程が立ち上がるまでの数年は、日本の精製と磁石の能力が米中双方の需給に挟まれる位置に置かれる。
2030年代までという見通しが外れる条件
2030年代まで依存が続くという予測は、精製と分離の能力が需要の伸びに追いつかないという前提の上に立っている。裏を返せば、前提が崩れる条件ははっきりしている。MP Materialsが1億5000万ドルの融資で建てる重希土の分離設備が動き、10X Facilityが2028年の試運転を予定どおり通ること。Energy FuelsのVAC買収が2027年初頭に完了し、Sumterの年2000トンが1万2000トンへ向けて拡張されること。USA Rare EarthのBlacksburg工場が立ち上がること。
これらが重なって初めて、見かけ消費量の伸びに国内の分離能力が並ぶ。
数字で確かめられる節目も近い。2027年1月10日には休戦の期限が来る。その後の2027年2月ごろに公表されるUSGSの次版で、見かけ消費量と純輸入依存度がどう動いたかが分かる。分母が膨らみ続けたまま依存度が下がっていれば、国内の分離能力が実際に効き始めた証拠になる。
INGのアナリスト、Coco Zhang氏が示す到達点は、置き換えではなく備えだ。「米国が中国に代わる支配的な供給国になることが目標ではない。より現実的な目標は、地政学的な混乱の時期に戦略分野を守れるだけの、意味のある代替サプライチェーンを築くことだ」と同氏は述べている。Project Blueの鉱物アナリスト、Todd Downingも「西側諸国は中国への依存を減らせる立場に近づいているが、バリューチェーン全体で中国の供給を置き換えることははるかに難しい」と話す。
分離設備と磁石工場が予定どおり動けば、米国は輸出規制が発動しても防衛と自動車の生産を止めずに済む水準へ近づく。その水準に届いたかどうかを決めるのは、掘った量ではない。依存度の分子がどれだけ縮んだかである。



