Google DeepMindは2026年8月6日、熱帯低気圧の進路、強度、風域を全球規模で最大15日先まで予測する「WeatherNext Cyclones」(WN-C)をオープンソースで公開した。同日付でNatureに掲載された論文は、2023〜2025年の熱帯低気圧を対象にした評価で、主要な運用モデルより平均で1日以上先行できたと報告する。進路に加えて強度と風の広がりを確率付きで同時に扱い、従来は計算コストに縛られたアンサンブルの規模も大きくした。もっとも、この平均値を個別の嵐や警報の確実性へ置き換えることはできない。全球モデルがどこまで強度の変化を捉え、予報のばらつきを現場でどう使えるかが実用性を決める。

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2023〜2025年のケース評価で平均1日以上の先行優位を示したWeatherNext

WN-Cは、熱帯低気圧の中心位置を示す進路、最大風速に当たる強度、風の半径を含む風域を、確率的な予報として同時に出力する。予報期間は最大15日である。Nature論文の要旨によれば、2023〜2025年のケース評価では、これらの予測で主要な運用モデルに対し平均で1日以上の先行優位を得た。また、WN-Cを重み付きコンセンサス・アンサンブルへ加えると、技能が大きく改善したとしている。

この比較で読むべきなのは、「15日先まで出せる」ことと、15日間にわたり同じ精度で警報できることは別だという点である。論文が示すのは定められた評価手順における平均の成績であり、特定の海域、発達段階、上陸時刻で必ず1日先行するという約束ではない。確率予報では、個々の進路を一本に決めるより、どの範囲にどれほどの可能性が分布するかも判断材料になる。

評価のものさしにも範囲がある。米国立ハリケーンセンター(NHC)の検証では、6時間ごとの公式予報について中心位置と最大1分平均地上風を比較する。これは、進路と強度を一つの「天気予報の精度」としてまとめて読まないための前提となる。WN-Cの論文結果も、設定された対象、予報時刻、評価指標に結び付いた成績として受け取る必要がある。

進路と強度には、そもそも異なる難しさがある。進路は広域の気流に大きく左右されるのに対し、強度はコンパクトな内核の熱力学的な過程に左右される。このため運用上の物理モデルは、全球を広く計算すること、高い解像度で内核を見ること、多数の予報を並べて不確実性を測ることの間で計算資源を配分してきた。WN-Cの評価も、進路では全球ENS、強度では高解像度のHAFSと比較する設計になっている。

Google DeepMindは、WN-Cが2025年のハリケーンシーズンに米国立ハリケーンセンターを支援し、ハリケーン・メリッサの急速な強化とジャマイカ上陸を予測したと説明する。NHCの報告では、メリッサの最大持続風速は24時間で45ノット増えた。急速な強化は予報が難しい局面であり、この事例はモデルが試された条件を示す。ただし、これは同社による運用上の寄与の説明であり、WN-C単独が公式警報を発したことを意味しない。

粗い全球データから強度を予測する

WN-Cは全球の大気場と熱帯低気圧に固有の予測対象を組み合わせて学習する。学習には約20TBの全球大気データと、約5,000件の過去の嵐を収めたIBTrACSデータベースが使われた。補足資料は、ERA5由来の大気データ、HRES-fc0のファインチューニング用データ、IBTrACS v4r01を主要なデータ源として挙げる。風速のUSA_*フィールドは、全球で整合させるため1分平均を採用している。

予報では、全球の気象状態を6時間ごとに先へ進め、その過程でサイクロンの属性も予測する。主モデルの入力格子は0.25度、約28kmであり、Google DeepMindは専門的な地域モデルより約100倍粗いと説明する。これは広い領域を一つのモデルで扱うための利点でもあるが、サイクロンの内核を高解像度の地域数値予報モデルと同じように物理的に解像しているわけではない。

補足資料によれば、WN-Cのサイクロン属性は、粗い全球状態とサイクロン観測から学習した出力である。発表資料も、この解像度で正確な強度予報がなぜ可能になるのかは未解決の研究課題だとしている。したがって、強度予測の改善は結果として評価されている一方、内核の物理を完全に再現するシミュレーターと呼ぶ根拠にはならない。

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FGNが1,000通りを現実にする

計算の規模を変えたのがFunctional Generative Networks(FGN)である。WN-Cは、GenCastのように拡散過程を繰り返しサンプリングする方式とは異なり、条件付け層へ32要素のノイズベクトルを与え、1回の順伝播で予報フレームを生成する。異なるノイズから多様なアンサンブルメンバーを作る設計であり、Google DeepMindはこれを高速で大規模なアンサンブルにつながる仕組みとして説明する。

0.25度解像度での15日予報は、TPU v5pで約1分かかる。補足資料の見積もりでは、1,000メンバーを並列生成し、ディスクへ書き出すまでを256台のTPU v5pで約20分に収める。Google DeepMindによれば、実時間アンサンブルの規模は前回リリースの50メンバーから最大1,000メンバーへ増えた。

アンサンブルを増やす価値は、低頻度だが影響の大きい経路や風域が予報群の中でどの程度の確率を持つかを扱える点にある。ただし、FGNの技術論文は周辺格子ごとの限界CRPSを最小化するよう訓練しつつ、空間的な共同構造を捉えられると述べているにとどまる。物理的に完全な不確実性表現を保証するものではない。

公開コードは研究用の入口

Google DeepMindはWeatherNext CyclonesとWeatherNext 2のコードと重みを公式リポジトリで公開した。リポジトリには、2025年に運用で用いた0.25度のWN-Cチェックポイントに加え、より小さな1度の「WeatherNext Cyclones Mini」もある。Miniは低いメモリと計算資源を想定した変種だが、同リポジトリは大きなモデルと同等の性能を期待するものではないと明記する。

公開されたコードは研究用であり、Googleが正式にサポートする製品ではない。非Miniモデルには十分なGPUメモリを持つH100が必要で、Miniも大規模モデルを手元でそのまま再現する手段ではない。TPUを前提にした1,000メンバーの計算量まで含めれば、公開と容易なローカル運用はさらに別の話になる。

1度のMiniはおよそ111kmの格子に相当し、0.25度の主モデルよりもさらに粗い。研究者や開発者にとっては、重みと実装へ触れる入口を広げる意味を持つ。一方で、主モデルの評価値をMiniへそのまま当てはめられないという注意書きは、再現実験の結果と大規模な運用評価を分けて扱う必要を示している。

公式リポジトリと発表は、WeatherNextの出力が各国の気象機関による公式予報や警報を置き換えるものではないと明記する。導入時に確かめるべきなのは、公開済みの平均値そのものより、各機関の初期値と評価手順で利得が再現するか、分布の広がりが警報判断と誤警報の費用をどう変えるかである。