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Switch 2版『スト6』はなぜXbox Series Sより高画質なのか?DLSSが引き起こした“解像度の逆転劇”

Y Kobayashi

2025年7月5日

2025年6月、任天堂の新ハード「Nintendo Switch 2」のローンチと共にリリースされたカプコンの対戦格闘ゲーム『ストリートファイター6』。この移植版だが、任天堂の『マリオカートワールド』や『ポケットモンスター SV』や『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』等のSwitch 2版における高画質化が話題になる中で、“ある側面”に注目が集まっている。それが、テレビに接続したTVモードにおいて、一部の画質面でMicrosoftの据え置き機「Xbox Series S」を凌駕するという、驚くべき結果が明らかになったのだ。この“逆転劇”の立役者が、NVIDIAのAIアップスケーリング技術「DLSS」。この技術がいかにしてハードウェアのスペック差を乗り越えるたのだろうか?

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Digital Foundryが暴いた衝撃の事実:DLSSがもたらした画質の逆転劇

Street Fighter 6 - Switch 2 DF Tech Review - Tournament-Worthy 60FPS Play

今回、Digital Foundryが公開した詳細な技術レビューに基づいて解説していく。彼らの分析によれば、Switch 2版『ストリートファイター6』は、携帯ゲーム機という枠を超え、「その重量を遥かに超えるパンチを繰り出している」と評価されている。その評価を決定づけたのが、画質の比較分析だ。

解像度とアップスケーリングの魔法:なぜ540pが1080pを凌駕するのか?

驚くべきことに、Switch 2版はドックモードにおいて、ネイティブ解像度960×540(540p)でゲームをレンダリングしている。この数値をNVIDIAのDLSS技術を用いて、最終的に1080p(1920×1080)へとアップスケール(高解像度化)しているのだ。

一方、Xbox Series S版はネイティブで1080pの解像度でレンダリングしている。常識的に考えれば、より高い解像度で描画しているSeries Sの方が高画質であるはずだ。しかし、現実は異なる。

Digital Foundryは、「Switch 2のDLSSを用いるアプローチは、Series Sが使用するカプコンのインハウス(自社製)アップスケーラーよりも、画像のノイズ、エイリアシング(ジャギー)、ちらつきの処理において明らかに巧みである」と結論付けている。

具体的には、背景の遠景ディテール(例えば「中国(天紅園)」ステージの建物)や、キャラクターの衣装の質感(ザンギエフの光沢あるコスチュームなど)において、Switch 2版の方がより自然で安定した映像を実現している。低解像度の元絵からAIが「かくあるべき高解像度画像」を推論・再構築するDLSSは、単なる引き伸ばし技術とは異なり、時間的な安定性にも優れる。結果として、ネイティブ解像度では勝るSeries Sよりも、最終的な映像の「品位」で上回るという逆転現象が生まれているのだ。

これは、NVIDIAが長年をかけて培ってきたAIとTensorコア(DLSS処理を専門に行う半導体回路)の賜物であり、Switch 2の心臓部であるT239チップのポテンシャルを明確に示している。

テクスチャ品質の優位性:VRAMだけでは語れない背景

さらに驚くべきは、テクスチャ品質においてもSwitch 2がSeries Sを上回っている点だ。キャラクターの肌や衣服、ステージの床面などに適用されるテクスチャマップは、Switch 2版の方が高解像度のものが使用されており、PS4版に近い品質を維持している。

この要因として、利用可能なメモリ(VRAM)の差が挙げられる。Switch 2が約9GBであるのに対し、Series Sは約8GB。この1GBの差が、より高品質なアセットを読み込む余裕を生んでいる可能性がある。しかし、それだけではないだろう。NVIDIAがT239チップの設計においてアピールしてきた、より効率的なテクスチャ圧縮技術やメモリ管理能力が、この優位性に貢献している可能性も考えられる。

ただし、この比較はSeries S側の最適化に課題がある可能性も示唆している。一部のユーザーからは「Series S版のテクスチャ問題は以前から指摘されていた」という声もあり、単純なハードウェア性能の比較だけでは片付けられない、複雑な背景が存在するようだ。

パフォーマンスの光と影:格闘ゲームの魂「60fps」は守られたか

格闘ゲームにおいて、画質以上に重要なのがフレームレートの安定性だ。技の入力タイミングやコンボの成否は、1フレーム(1/60秒)のズレが勝敗を分ける世界。その点において、カプコンは極めて賢明な判断を下した。

完璧な「対戦モード」と課題の残る「World Tour」

本作の核である1対1の対戦モード(ファイティンググラウンド)では、Switch 2版はTVモード、携帯モードを問わず、ほぼ完璧な60fps(フレーム毎秒)を維持している。Digital Foundryも「パフォーマンスを他のすべてより優先するというカプコンの判断は正しい」と高く評価している。これにより、オンラインでのクロスプラットフォーム対戦も違和感なく行え、2025年の公式大会「カプコンプロツアー」においても使用が認められるなど、競技シーンでの利用にも耐えうる品質が確保された。

しかし、その一方で、オープンワールド風のシングルプレイヤーモード「ワールドツアー」やオンラインロビー「バトルハブ」では、パフォーマンスに課題が残る。これらのモードではフレームレートのロックが外れ、30fpsから60fpsの間を変動するため、特にテレビ出力時にはカクつきが感じられる。さらに、ワールドツアー中のバトルシーンは30fpsに固定されており、60fpsで設計されている本来の格闘ゲーム体験とは大きく異なるものとなっている。

これはSwitch 2の性能限界というよりも、他のプラットフォーム(特にPS4版)から引き継がれた、これらのモード固有の最適化の問題と言えるだろう。開発リソースを最も重要な対戦モードに集中させるという、戦略的なトレードオフの結果なのである。

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ゲーマーと開発者への影響:携帯ゲームの新たな地平

この『ストリートファイター6』の移植成功は、単なる一つのタイトルの話に留まらない。

入力遅延と競技シーンへの適合性

コアなプレイヤーが気にする入力遅延については、Switch 2版はPS4 Proに近い水準であり、PS5やSeries Xに比べると1〜2フレーム程度の遅れがある。しかし、Switch 2本体のシステム設定で120Hz出力を有効にすると、遅延は約3フレーム短縮され、PS5に迫る応答性を実現できる。この差はプロレベルのプレイヤーでなければ体感は難しいだろうが、最高の環境を求めるならば120Hz対応モニターの利用が推奨される。

コントローラーの互換性や変換器の問題など、周辺環境の整備は今後の課題となるが、携帯機でこれだけの環境が実現できたことの意義は大きい。

カプコンとNVIDIAへの示唆:PC版へのDLSS実装は?

興味深いことに、Switch 2版でこれほど見事な結果を出したDLSSは、本稿執筆時点でPC版『ストリートファイター6』には公式実装されていない。今回の成功は、NVIDIA製GPUを使用するPCゲーマーからの実装要求をさらに高めることは間違いないだろう。開発元のカプコンにとっても、自社エンジン「RE ENGINE」とDLSSの相性の良さを再確認する機会となったはずだ。

ソフトウェア技術がスペックの壁を超える時代の到来

Switch 2版『ストリートファイター6』は、見事な移植であり、携帯機でいつでもどこでも本格的な対戦が楽しめるという、計り知れない価値をプレイヤーに提供した。

しかし、その本質的な意義はさらに深い場所にある。それは、「賢いソフトウェア技術が、ハードウェアの物理的なスペック差を覆しうる」という事実を、これ以上ないほど明確に示したことだ。限られた電力とチップサイズの中で、AIの力を借りてパフォーマンスを最大化する。このNVIDIAと任天堂の戦略は、見事に結実した。

これは、携帯ゲーム機の新たな時代の幕開けであり、今後のゲーム開発の常識を塗り替える可能性を秘めた、重要な技術的マイルストーンと言えるだろう。


Sources

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