中国のAI企業Z.aiは2026年8月26日、OpenCodeとOpenRouterで匿名提供していた「Ox Alpha」が、新モデル「GLM-5.3-Flash」だったと明らかにした。モデルの重みはすでに公開され、MITライセンスで利用できる。Z.aiによると、匿名試験中のトラフィックはすべて中国製AIチップで処理したという。話題の中心は、モデルの正体当てから、巨大なマルチモーダルモデルを低コストで動かす設計へ移った。

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Ox Alphaの匿名実験と正式公開

Ox Alphaが表に出たのは8月20日だ。OpenCodeは100万トークンのコンテキストとマルチモーダル入力を掲げ、1週間の無料提供を始めた。OpenRouterにも同じ匿名モデルが加わり、開発者は提供企業を知らないまま、コーディングや長時間のエージェント処理に使っていた。

6日後、Z.aiはGLM-5.3-Flashの発表文でOx Alphaとの関係を認めた。狙いは、正式公開前に匿名で利用者の反応を集めることだったという。同社は週内で最も人気のモデルになったと説明するが、順位の母集団や処理量は示していない。匿名試験が集めた利用量を外部から再計算できる資料はない。

発表と同時にモデルの重みも公開した。Hugging FaceではFP8版とBF16版が利用でき、SGLangやvLLMでセルフホストできる。TokenSpeedとKTransformers向けの手順も用意された。開発者が自前の環境へ持ち込めるオープンウェイトモデルである。

3200億のうち180億だけを動かす

GLM-5.3-Flashは、総パラメータ3200億のMixture of Experts(MoE)モデルである。入力されたトークンごとに必要な専門部分を選ぶため、推論時に動くのは180億パラメータに限られる。総規模は大きいまま、1トークンを処理する計算量を抑える設計だ。

仕様 GLM-5.3-Flash GLM-4.5系列 変化
総パラメータ 3200億 3550億 10%
活性パラメータ 180億 320億 44%
レイヤー数 45 92 51%

総パラメータ数はGLM-4.5系列に近いが、実際に通るパラメータとレイヤー数はほぼ半分になった。Z.aiが「Flash」と呼ぶ根拠は、モデル全体を小さくしたことより、推論ごとの通り道を細くした点にある。同社は30兆トークンの新しいマルチモーダル事前学習コーパスも使い、GLM-5系列で初めて画像を基盤モデルへ統合したと説明している。

レイヤー同士の接続にはManifold-Constrained Hyper-Connections(mHC)を採用した。mHCは残差接続の混合を特定の多様体へ射影し、恒等写像の性質を保つ。元論文は、Hyper-Connectionsで起きやすい学習の不安定さを抑え、規模を広げやすくする手法として提案した。モデルを大きくする方向と、推論時の計算を減らす方向を同時に進めた。

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100万トークンを二つのアテンションで支える

長いコンテキストでは、過去の全トークンを毎回詳しく参照すると、計算量とKVキャッシュが膨らむ。GLM-5.3-Flashは線形アテンションで近くの依存関係を状態として持ち、スパースアテンションで遠くの関連情報を検索する。二つを分担させ、長文の記憶をすべて同じ精度と速度で保持する負担を避けた。

さらに「IndexPool」が、検索に使う4本のキーベクトルを重み付きで1本へ圧縮する。Z.aiの比較では、GLM-5.3に対して1トークン当たりのアテンション計算量を3分の1にし、レイヤー当たりの平均KVキャッシュを約4.4分の1に減らした。100万トークン級では、演算器の速さより先にメモリ容量と帯域が制約になりやすい。IndexPoolはこの負担へ直接働く。

ただし、3倍と4.4倍はモデル全体の応答速度を表す数字ではない。Z.aiは規模の異なるモデルを比べるため、ヘッド・レイヤー単位の計算量とBF16時の平均KVキャッシュを正規化している。実際の速度は、出力の長さや同時接続数、推論エンジンの実装でも変わる。

中国製AIチップ数万基をEPDで束ねる

Z.aiは匿名試験の全トラフィックを中国製AIチップで処理したと発表した。クラスタは高帯域の相互接続を備え、数万基の中国製アクセラレータを動かしたという。モデル名の公開以上に、この運用規模が今回の発表を特徴づけている。

個々のチップはメモリ容量と帯域に制約がある。Z.aiはSGLangを土台に専用の推論エンジンを作り、Linear Attentionと出力レイヤーにはノード内テンソル並列を使った。演算にはW8A8量子化を適用する。KVキャッシュではINT8、FP8、BF16を使い分け、精度を残す場所と容量を減らす場所を分けた。

クラスタ全体では、画像などを変換するEncode、入力を一括処理するPrefill、1トークンずつ生成するDecodeを別々のワーカープールへ切り出した。これがEncode–Prefill–Decode(EPD)分離構成である。各工程は必要な計算資源とメモリ量が違うため、同じサーバーへ均等に詰め込むより、混雑した工程だけを増やしやすい。

Z.aiは同一ハードウェア上の初期構成に比べ、エンドツーエンドの提供性能を3倍に高めたとする。ハードウェア効率と1トークン当たりコストも主要なNVIDIA GPUと同等になったという。ただし、比較したGPUの型番や消費電力、負荷条件は公表していない。現時点ではZ.aiによる自己評価である。

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「1日100兆トークン」の意味と限界

Ox Alphaを巡って広まった「1日100兆トークン」という数字は、Z.aiが実際に処理した量ではない。OpenCodeが無料試験を告知した際、サービス全体で用意できる1日当たりの容量として掲げた数字である。個人に100兆トークンを与える利用枠でもない。

数え方も明らかにされていない。入力と出力をどう数えるのか。キャッシュや内部の推論トークンを含むかどうかでも、必要な計算資源は大きく変わる。Z.aiの正式発表はこの数字に触れず、「過去1週間のトラフィックを中国製AIチップの大規模クラスタで処理した」と述べるにとどめた。したがって、100兆トークンを中国製チップで毎日さばいた実績とは書けない。

チップの素性にも同じ注意が要る。Z.aiが公表したのは「中国製AIチップ」「中国国内で開発されたアクセラレータ」という範囲で、メーカー名と型番は伏せられている。Huawei Ascendと断定できる公開資料はない。

性能と価格には外部から確認できる材料も出始めた。Artificial Analysisは独自のIntelligence Indexで57を記録し、Z.aiのAPIでは出力速度を毎秒48.7トークンと測った。OpenRouterの通常価格は入力100万トークン当たり0.15ドル、出力は0.50ドルで、公開時点では50%割引が表示されている。Z.aiは、GLM-5.2を複数のベンチマークと実処理で上回りながら、価格を10分の1にしたと説明する。ただし、トークン構成や割引条件の内訳は示しておらず、すべての処理が一律に10分の1になるわけではない。

GLM-5.3-Flashは、モデルの重みを公開しながら、自社サービスでは中国製AIチップだけで大規模運用できるという二つの主張を組み合わせた。チップ型番と消費電力、100万トークン利用時の遅延、混雑時の持続スループットが第三者に検証されれば、中国製アクセラレータが巨大モデルの商用推論をどこまで担えるか、比較できる段階へ進む。