長年、Intelが絶対的な王者として君臨してきたサーバーCPU市場。その鉄壁の牙城が、今、大きく揺らいでいる。AMDが驚異的な猛追を見せ、一部の調査データでは両社のシェアがほぼ50%で拮抗するという、数年前には誰も想像しえなかった事態が発生しているのだ。クラウド、AI、そして世界のデジタルインフラを支えるデータセンターの心臓部で、まさに地殻変動が起きていることを示唆している。
しかし、異なる調査会社のデータは、この市場を全く違う角度から描き出している。一方は劇的な「王座交代」、もう一方は「着実な侵攻」。一体、サーバー市場で本当に何が起きているのか。本稿では、複数のデータを徹底的に分析し、数字の裏に隠された市場の真実と、テクノロジー業界の未来を左右する覇権争いの深層に迫る。
衝撃のデータ――PassMarkが示す「サーバー市場の均霑」
「AMDとIntel、ついに並ぶ」。2025年7月、テクノロジー業界に衝撃が走った。ベンチマークソフトで知られるPassMarkが公開したサーバーCPU市場のシェアデータが、両社のグラフが交差する寸前の、ほぼ50%対50%という状況を示したからだ。
Wccftechなどの海外メディアもこのデータを報じ、2017年時点ではわずか2%程度に過ぎなかったAMDのシェアが、驚異的な成長を遂げたと伝えている。このグラフが描き出す物語は明快だ。AMDのEPYCプロセッサが、性能、電力効率、そしてコストパフォーマンスで市場の信頼を勝ち取り、ハイパースケーラーから一般企業まで、顧客層を急速に拡大させた結果だというものだ。
この背景には、AMDのCEOであるLisa Su氏の強力なリーダーシップの下、Zenアーキテクチャ登場以降、一貫して競争力のある製品を投入し続けてきた戦略がある。Redditの投資家コミュニティでは、「エンタープライズ市場での採用が本格的に始まった証拠だ」「EPYCはAIワークロードを駆動するCPUとしても優れており、この勢いは本物だ」といった熱狂的な声が上がる一方、Intelの製品ロードマップの遅延や経営の混乱を指摘する声も少なくない。
PassMarkのデータは、市場の「今」の勢いを最も劇的に捉えたものと言えるだろう。
もう一つの現実――Mercury Researchが描く「着実な侵攻」
一方で、業界標準の市場調査会社として知られるMercury Researchのデータは、より冷静な視点を提供する。元Intel社員が公開した2025年第1四半期のデータによれば、サーバーCPU市場におけるAMDのシェアは、出荷台数ベースで27.2%、売上ベースでは39.4%となっている。
PassMarkが示すような50%には及ばないものの、この数字もまたAMDの着実な成長を雄弁に物語っている。特に注目すべきは、売上シェアが出荷台数シェアを12ポイント以上も上回っている点だ。これは、AMD製CPUの平均販売価格(ASP)が、Intel製CPUのそれを大幅に上回っていることを意味する。
3dcenter.orgの分析によれば、Q1 2025時点で、AMDのサーバーCPUの平均販売価格は、Intelよりも実に74%も高いと算出されている。これは、AMDが単に安価な製品でシェアを奪っているのではなく、最も性能が求められ、最も高価なハイエンド市場でIntelを凌駕している強力な証拠に他ならない。
サーバーセグメントは、台数こそPC向けクライアントプロセッサに及ばないが、その圧倒的な単価の高さから、企業の収益の柱となる極めて重要な市場だ。Mercury Researchのデータは、AMDがこの高収益市場で着実にIntelの牙城を切り崩している、というもう一つの現実を描き出しているのだ。
なぜデータは食い違うのか?
PassMarkの「50%」、Mercury Researchの「27.2%」。なぜこれほどまでに数字は食い違うのか。その答えは、両社の調査方法の違いにある。
- PassMark: 「実稼働ベース(In-Use)」のデータを収集している。つまり、実際に世界中のサーバーで同社のベンチマークソフトが実行された結果を集計したものだ。これは、新規に導入されたシステムや、性能を気にするユーザーがテストする傾向が強く、市場の最先端のトレンドや「勢い」を敏感に反映する先行指標と見なすことができる。
- Mercury Research: 「出荷ベース(Shipment)」のデータを収集している。これは、AMDやIntelがOEMメーカーや流通チャネルに出荷したプロセッサの台数を基にしており、市場全体の供給量を表す。長年の実績から業界標準と見なされ、AMD自身も決算報告などでこのデータを引用している。
この違いを踏まえれば、「二つの物語」は決して矛盾するものではないと考えられる。
PassMarkが示すのは、「今、新たに購入・設置されているサーバーの選択肢」が劇的にAMDに傾いているという未来の兆候だ。特に、技術革新に敏感なクラウド事業者や、最新のAI基盤を構築する企業がこぞってEPYCを採用している姿が目に浮かぶ。
一方、Mercury Researchが示すのは、世界中に存在する数千万台のサーバー群全体を含む、「現在の市場全体の確定的な構成比」である。更新サイクルが数年に及ぶサーバー市場では、過去に導入された膨大なIntel製サーバーが今も稼働しており、全体のシェアは緩やかにしか変動しない。
結論として、両者を組み合わせることで、より立体的で正確な市場の姿が浮かび上がる。PassMarkのデータはAMDの猛烈な勢いを示す先行指標であり、その勢いが、いずれMercury Researchの示す市場全体の数字を着実に塗り替えていく――これが、データが示す大きなトレンドではないだろうか。
覇権交代の構造的要因と未来への展望
この歴史的な市場の変化は、なぜ起きたのか。それは、AMDの継続的な技術革新と、Intelが直面する構造的な課題が交差した結果だ。AMDは、Zenアーキテクチャ以降、コア数、電力効率、そして総所有コスト(TCO)で優位に立つ製品を市場に供給し続けた。対するIntelは、製造プロセスの遅延に苦しみ、EPYCに対抗しうるXeonの投入で後手に回った。
しかし、Intelがこのまま黙って王座を明け渡すことはないだろう。同社は次世代のGranite RapidsやSierra Forestといった新製品で巻き返しを図っており、NVIDIAとの連携強化もその一環だ。また、OEMメーカーとの長年にわたる強固な関係は、今なおIntelにとって大きな強みである。
サーバー市場の未来は、もはやIntel一強時代に戻ることはないだろう。AMDとの熾烈な二強競争はさらに激化し、そこにAWSのGravitonに代表されるArmベースのプロセッサという第三極も加わり、三つ巴の戦いが繰り広げられる。
この激しい競争は、データセンターの技術革新を加速させ、最終的にはクラウドサービスやAI技術を利用する我々ユーザーに、より高性能で安価なサービスという形で恩恵をもたらすはずだ。我々は今、データセンターの歴史が塗り替わる、まさにその瞬を目撃しているのである。
Sources
