AIデータセンター向けのメモリ需要が、低価格スマートフォンの採算を揺さぶり始めた。Samsung ElectronicsとMicronの2026年資料を並べると、メモリメーカーがDRAMとNANDの販売先をAIインフラ寄りへ動かし、その一方でスマホ事業側には部材高と供給制約が押し寄せていることが分かる。これまでの低価格スマホは、DRAMやストレージの価格下落を使って容量を増やし、販売価格を抑えてきた。その前提が崩れると、2027年の低価格帯では「安いまま容量を増やす」設計が難しくなる。
Samsungの決算に出た供給側とスマホ側の温度差
Samsungの2026年第1四半期決算は、メモリ市場の変化を一つの企業内で見せている。同社の連結売上高は133.9兆ウォン、営業利益は57.2兆ウォンで、いずれも四半期として過去最高だった。半導体を含むDevice Solutions部門は売上高81.7兆ウォン、営業利益53.7兆ウォンを計上し、メモリ事業は高付加価値のAI需要を取り込み、限られた供給のなかで四半期売上高と営業利益の記録を更新した。
供給側の言葉はさらに踏み込んでいる。Samsungは2026年第2四半期もAIインフラ拡大を背景に需要が強いと見込み、DRAMとNANDの両方でAI製品中心の販売戦略を続けるとしている。2026年後半についても、ハイパースケーラーが企業のAIとLLM導入を支えるため、サーバーメモリ需要は強いままだと説明した。HBM4、SOCAMM2、PCIe Gen6 SSDといった高付加価値品が前に出るほど、同じ生産・投資リソースを使う民生向けメモリの優先順位は下がりやすい。
その影響はSamsung自身の端末側にも出ている。Samsung Displayの中小型ディスプレイ事業は、季節要因に加えてメモリ価格上昇の影響で利益が減った。スマホを扱うMX事業も、2026年後半に旗艦機中心の販売とアップセルを進める一方、収益性を守るためにコスト効率化を進めるとしている。メモリ事業にとっては価格上昇が追い風でも、端末事業にとっては同じ価格上昇が粗利を削る。低価格スマホの問題は、このねじれの先にある。
データセンター集中とモバイルの単価上昇
Micronの2026会計年度第3四半期10-Qも、同じ流れを別の角度から裏づける。同社の四半期売上高は414億5,600万ドルで、前四半期から74%増えた。データセンター事業の売上高は115億2,400万ドルで前四半期比103%増、モバイル向け事業も115億2,100万ドルで49%増だった。
ただし、モバイル向けの増収は素直な数量拡大ではない。MicronはMobile Client Business Unitの増収要因を平均販売価格の上昇とし、ビット出荷の減少が一部を打ち消したと説明している。スマホメーカーが必要な容量を同じ単価で買い増しているのではなく、単価上昇が売上を押し上げる一方で、出荷量の側にはブレーキがかかっている。
Micronはリスク要因でも、データセンター偏重を明確に書いている。2025年の売上の約半分はデータセンター向けに集中し、同社は複数年の数量コミットメントを伴う戦略的顧客契約を結んでいる。大口顧客との契約には、固定価格や価格帯を持つものもある。AIデータセンター側が数年先の供給を押さえるほど、スマホを含む民生機器メーカーは調達価格と割り当ての両方で圧力を受けやすくなる。
低価格スマホはメモリの値下がりで成立してきた
低価格スマホが受ける打撃は、部品が少し高くなる程度では済まない。端末の販売価格が低いほど、DRAMやNANDの上昇を吸収する余地が小さい。ディスプレイ、カメラ、SoCにも同じ制約がかかる。これまでメーカーは、数世代前のメモリ規格やストレージ部品の値下がりを使い、4GBから6GB、64GBから128GBへと容量を広げてきた。部材価格が下がるから、店頭価格を上げずに体験を底上げできた。
AI向けの配分が増えると、この改善サイクルが止まる。SamsungはAI製品中心のDRAM/NAND戦略を掲げ、Micronはデータセンター向け売上の集中と複数年契約を示している。IDCのアナリストも、メモリメーカーがAIデータセンター向けのHBMを優先することで、スマホ向けDRAMとNANDの供給が締まり、入門機では記憶容量の設定が慎重になると見ている。IDCはメモリ供給の課題が2026年を通じて続き、2027年深くまで及ぶとの見方も示した。IDCは生成AI対応スマホが2026年出荷の37%超を占めるとも予測しており、端末側でもメモリ需要は増える。
この組み合わせは、低価格帯に最も厳しい。高級機は値上げや上位構成への誘導で吸収しやすい。中位機はRAM容量やストレージ容量の組み合わせを変えられる。だが入門機は、販売価格を上げると購入層が離れ、容量を削るとアプリ、OS更新、オンデバイスAI機能への余裕がなくなる。安さを守るほど、製品寿命と体験を削る圧力が強まる。
2027年の確認点は容量構成
2027年に低価格スマホの仕様がどこまで変わるかは、単一の価格帯だけでは測れない。先に変わるのは、RAMとストレージの標準構成である。新機種が同じ価格で出ても、RAMが増えない、ストレージ容量が戻る、上位構成との価格差が広がるなら、メモリ不足は端末仕様へ転嫁されている。販売価格だけを見ると、この変化を見落とす。
もう一つの確認点は、スマホ向けDRAM、eMMC/UFS、NANDの割り当てがどこまで回復するかだ。Micronの資料では、顧客契約は複数年に及び、データセンター向けは同社売上の約半分を占めている。Samsungも2026年後半のサーバーメモリ需要を強く見ている。新しい生産能力が立ち上がっても、AIインフラが先に吸収すれば、低価格帯のスマホに届く量と価格は大きく改善しない。
低価格スマホの危機は、スマホ需要が突然消える話ではない。メモリの供給配分が変わり、安く作るための部材が安くなくなる話だ。2027年の市場を見るなら、販売価格よりも、同じ価格帯でRAMとストレージが増えているか、据え置きか、削られているかを見る必要がある。低価格帯の実力は、店頭価格ではなく容量表に先に現れる。