AIデータセンターのストレージ需要が、HDD部材の供給網に増産投資を呼び込んでいる。レゾナックは2026年5月、HDDの記録メディアを年約1億6000万枚から約2億1000万枚へ増やすと発表した。TDK、HOYA、JX金属も、ヘッドやガラス基板、成膜材料の能力を増強する。ただし、起きているのはPC向けを含むHDD市場全体の一斉回復ではない。低頻度アクセスの大容量データを保存するニアラインHDDと、その1台当たり容量に投資が集中している。

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全体台数は減り、ニアラインは増える

TDKは2027年3月期の市場について、HDD全体の生産が約2%減る一方、データセンター向けニアラインHDDは7%増えると予測する。常時オンラインで利用できるが読み書きの頻度が低いバックアップやクラウドデータを保存する大容量ドライブが、ニアラインHDDだ。高速なSSDより1GB当たりのコストを抑えやすく、低頻度アクセスのデータを長く残す層を担う。

部材の数量は、完成品より速く伸びる。TDKの2026年3月期のニアライン向け販売は、HDDヘッドが約14%、サスペンションが35%増えた。2027年3月期にはヘッドの販売数量を約50%、サスペンションを約22%増やす見通しで、HAMR(熱アシスト磁気記録)向けヘッド設備とサスペンションの能力増強へ投資する。HDDメーカーがドライブ台数を増やすより、1台に積むディスクとヘッドを増やし、各ディスクの記録密度を高めているためだ。

需要の立ち上がりに供給は追いついていない。TrendForceは2025年9月、主要HDDメーカーが近年生産能力を増やしてこなかったため、ニアラインHDDのリードタイムが数週間から52週間超へ延びたと報告した。一部のクラウド事業者は冷データにもQLC SSDを検討しているが、HDDより約30%低い消費電力と引き換えに、コストと高容量SSDの供給量が制約になる。供給不足が続く一方、2026年にはHDD部材各社の増産計画が相次いだ。

1億6000万枚から2億1000万枚へ

レゾナックの増強幅は約5000万枚、率にして31%である。中核に据えるResonac HD Singaporeでは、既存の床と遊休スペースへ設備を入れ、閉鎖した台湾拠点などの遊休設備も移す。追加ラインは需要を確かめながら2027年以降に順次立ち上げる計画だ。既存資産の移設によって投資効率を高めながら、供給量を増やす。

ここでいう約2億1000万枚は完成品HDDの台数ではなく、その内部でデータを記録するメディアの枚数だ。大容量HDDは複数枚のメディアを積層するため、ドライブ台数が横ばいでも、搭載枚数の増加がメディア需要を押し上げる。さらにHAMRでは、レーザーで記録層を局所的に加熱して微細な磁区へ書き込む。高密度化はメディアの材料設計にも変更を迫る。

記録層を成膜する材料も増産へ動いた。JX金属は2026年度下期から、磯原工場でHDメディア向け磁性材スパッタリングターゲットの能力を段階的に増やす。同社は、PMR(垂直磁気記録)からHAMRへの移行に伴って新しい材料の採用が進んでいると説明する。増強率と投資額は開示していないが、供給対応がディスクの加工工程から成膜材料へ広がったことは確認できる。

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11枚化とHAMRが部材投資を呼ぶ

HOYAのHDDガラス基板事業は2025年度第4四半期に売上高が前年同期比25%増え、為替一定でも20%伸びた。11枚ディスク構成のHDDを2社目の顧客が投入し、基板需要が増えている。同社は約500億円を投じてベトナムに新拠点を建設する。資金支出は2027年度から段階的に始まり、売上高と設備稼働率への本格的な寄与は2028年度ごろを見込む。

ガラス基板は、同じ3.5型の筐体へ多くのディスクを収める手段でもある。東芝デバイス&ストレージは、従来のアルミ基板を薄く耐久性の高いガラス基板に替え、業界で初めて12枚積層を検証した。MAMR(マイクロ波アシスト磁気記録)と組み合わせ、40TB級のデータセンター向けHDDを2027年に市場投入する計画だ。ディスクが10枚から12枚へ増えれば、基板、記録メディア、ヘッドの搭載数も連動して増える。

TDKは2021年からMAMRヘッドを量産しており、2026年5月の説明会では2年後にHAMRヘッドの量産を始めるとした。サスペンションはヘッドをディスク表面のごく近くで正確に動かす部品で、高密度化するほど制御精度への要求が上がる。Nittoも2026〜2028年度にCISFLEXと高精度回路へ累計430億円を投じる。ただし、この金額には他のハイエンド機器向け能力増強も含まれ、全額がHDD向けではない。

40TB競争、三社三様の量産経路

完成品メーカー3社は、40TB級へ異なる経路を取る。2026年から2027年にかけて、HAMR、ePMR、MAMRと多枚数化が並行して量産段階へ入る。

メーカー 40TB級への技術 公式ロードマップ
WD ePMRを使う40TB UltraSMRとHAMRの二本立て 40TB品を2社のハイパースケーラーが評価中で、2026年下期に量産予定。HAMRは2027年に立ち上げ、2029年に100TBへ拡大
Seagate 1枚4TB超のHAMR「Mozaic 4+」 最大44TBが2社のハイパースケーラーで認定され、量産段階。将来は1枚10TB、ドライブ100TBを目指す
東芝 MAMRとガラス基板12枚積層 40TB級を2027年に市場投入する計画

Seagateはすでに44TBまでを顧客環境へ入れ、WDは既存のePMRを伸ばしながらHAMRを重ねる。東芝は記録方式とディスク枚数の両方で容量を増やす。技術が一つに収束していないからこそ、部材メーカーは数量を増やしながら、各社の記録方式と積層設計に合わせた材料、ヘッド、サスペンションを供給しなければならない。

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増産が供給不足を和らげる条件

増産の効果には時間差がある。JX金属は2026年度下期から能力を段階的に増やすが、レゾナックの追加ラインは2027年以降、HOYAの新拠点が売上高へ本格寄与するのは2028年度ごろだ。WDの40TB品が2026年下期に量産へ入っても、上流部材の供給が同じ時期に全面的に増えるわけではない。

各社は需要を見ながら投資を進める。レゾナックはラインを順次立ち上げる条件として市場動向と需要を挙げ、JX金属も段階的な増強とした。ニアラインHDDの不足が続けば投資を回収しやすいが、供給が需要を上回る局面やQLC SSDとの価格差が縮む局面では、増強速度を調整する可能性がある。

供給不足の緩和を測る日程は明確だ。まず2026年下期にWDの40TB量産とJX金属の増強が始まり、2027年にはレゾナックの追加ラインと東芝の40TB級が続く。2028年度ごろにはHOYAの新拠点が本格寄与する。52週間を超えたリードタイムが縮むかに加え、TDKのヘッド・サスペンション販売数量、レゾナックのライン立ち上げ、HOYA新拠点の稼働率が、増産と需要の持続性を別々に測る指標になる。