AMDとCerebras Systemsは2026年7月23日、AMD HeliosとCerebras Wafer-Scale Engine(WSE)を組み合わせるAI推論基盤を発表した。Heliosがプロンプトと長いコンテキストを処理し、WSEが低遅延のデコードとトークン生成を受け持つ。WSEをHeliosと同じ推論経路へ組み込んだ点に、この提携の新しさがある。NVIDIAもVera RubinとGroq 3 LPUで同じ方向へ進むなか、競争の軸はチップ単体の速さから、異種のエンジンを一つのサービスとして動かす統合力へ移った。
prefillをHelios、decodeをWSEへ
大規模言語モデルの推論は、入力をまとめて読み込むprefillと、出力を1トークンずつ生成するdecodeで計算の性質が変わる。共同発表によると、Heliosはプロンプトと大きなコンテキストウィンドウを高い処理量でさばく。WSEはメモリ帯域への依存が強いデコードを引き取り、応答を低遅延で返す。二つの処理を同じ種類のアクセラレータへ押し込まず、それぞれに合うハードウェアへ割り当てるのが今回の設計だ。
Heliosは72基のInstinct MI455X GPUを6th Gen EPYC CPU、Pensandoネットワーク、ROCmと一つのラックに収める。1ラックでピークFP4演算性能は2.9エクサFLOPS、ピークFP8は1.4エクサFLOPSに達する。31TBのHBM4と毎秒1.7PBのメモリ帯域も備え、大量の要求と長い入力を並列に処理する側として、モデル本体とコンテキストを載せる容量を稼いでいる。
Cerebrasが公開している現行WSE-3の持ち札は、演算器のすぐそばに置いた44GBのオンチップSRAMだ。帯域は毎秒21PBで、1基のチップに90万コアと4兆個のトランジスタを集積する。SRAMはHBM4より容量が小さい一方、データを外部メモリから何度も運ぶ時間を抑えやすい。逐次処理が続くトークン生成では、この近さが応答速度に効く。なお、共同サービスがWSE-3を使うかどうかは明記されていない。
コーディング支援やリアルタイムのエージェントでは、総処理量が大きくても、利用者一人あたりの生成が遅ければ操作感は改善しない。反対に、低遅延のエンジンだけでは多数の長い入力を同時に受けにくい。HeliosとWSEの分業は、この二つの要求を別々に伸ばそうとするものだ。
最大5倍が比べている相手
AMDとCerebrasは、両エンジンを組み合わせると「1キロワット当たりの毎秒トークン数」が最大5倍になるとしている。ただし、この5倍はNVIDIA製品との比較でも、稼働中の顧客サービスで測った結果でもない。2026年7月に両社がKimi 2.6 1Tモデルを使い、同程度のインタラクティブ性という条件で実施したモデリングであり、比較対象はCerebras WSEだけで処理する構成だ。
この条件から読み取れるのは、Heliosを加えることでWSEをデコードへ集中させ、システム全体の電力当たり処理量を増やせるという設計上の見込みである。「トークン生成が5倍速くなる」という意味ではない。time to first tokenや1ユーザー当たりの生成速度、同時接続数も公表されておらず、低遅延と高処理量をどの水準で両立できるかはまだ測れない。
さらに、発表にはHeliosとWSEの接続方式がない。二つのエンジン間で何を転送し、どのソフトウェアが要求を振り分けるのかも明らかにされていない。データ移動が増えれば、WSEで短縮した時間をネットワーク側で失う可能性がある。最大5倍を商用サービスの価値へ変えるには、平均値に加えて混雑時の遅延と消費電力を実環境で示す必要がある。
NVIDIAも選んだGPUとSRAMの分業
NVIDIAは2026年3月、Vera Rubin NVL72とGroq 3 LPXを組み合わせる推論基盤を発表した。Groq 3 LPXは1ラックに256基のLanguage Processing Unit(LPU)を載せ、合計128GBのオンチップSRAM、毎秒40PBのSRAM帯域、毎秒640TBのスケールアップ帯域を持つ。GPUが大容量HBMと演算性能を受け持ち、SRAMを主記憶として使うLPUが低遅延処理を補う構図は、AMDとCerebrasの構成に近い。
一方、NVIDIAは分業の粒度をさらに細かく開示している。Rubin GPUがprefillとdecode attentionを処理し、Groq 3 LPXがフィードフォワードネットワーク(FFN)とMixture of Experts(MoE)のエキスパート計算を担う。NVIDIA Dynamoが両者を制御し、トークンを生成するたびに中間データを渡す設計だ。対するAMDとCerebrasの発表は、Heliosが入力、WSEがデコードという大枠までにとどまる。
どちらが速いかを決める材料は、まだ揃っていない。WSE-3は1チップで44GBのSRAMを持つのに対し、Groq 3 LPUは多数のチップを接続してモデルの作業領域を広げる。ただし、AMDとCerebrasは共同サービスに何基のWSEを使うのかを明かしていない。同じモデルと入出力長を使い、同時接続数も揃えた結果が出るまで、チップ数や公称帯域を並べても運用コストは比較できない。
2026年下半期、統合の完成度が試される
Cerebrasは自社データセンターへHeliosを配備し、共同サービスを2026年下半期にCerebras Cloudから先行提供する計画だ。AMDはHeliosをすでに生産中としており、OpenAIも2026年第4四半期からHeliosを稼働させる予定である。もっとも、Cerebras向けの開始月、対応モデル、料金は公表されていない。利用者が自社環境へ導入できるのか、Cerebras Cloud専用なのかも確定していない。
今回の提携はAMDの製品戦略にも変化を加える。Lisa Suは発表後の会見でThe Registerに対し、Heliosと相性のよい技術を持つ複数の企業と協業し、今後さらにワークロードの分業を進める考えを示した。AMDはGPU、CPU、ネットワークを自社で揃えながら、低遅延デコードのような用途では外部の専用エンジンを組み込む。その選択は、Heliosを固定構成のラックではなく、用途ごとに計算資源を足せる基盤として広げるものだ。
商用化の成否は、共通モデルで測った生成速度と混雑時の遅延、そして1トークン当たりの料金で判断できる。2026年下半期のCerebras Cloudがこれらを開示し、HeliosとWSEの間で生じるデータ移動を吸収できれば、AMDはNVIDIAがGroq 3 LPXで先に示した異種混成推論へ別の経路を提示できる。最初の判定材料は、共同サービスが実際に利用可能になった時点で出る。



