Cerebras Systemsは2026年8月18日、ラックスケールAIシステム「CS-4」を発表した。1ラックに3基のWafer Scale Engine 3 Turbo(WSE-3T)を収め、WSE-3Tはウェハー1枚当たり250 PFLOPSのスパースFP16ピーク演算性能を掲げる。WSE-3の125 PFLOPSの2倍であり、同社はGPT-OSS-120Bで1ユーザー当たり毎秒4,400トークン超を記録したとも説明する。
興味深いのは、WSE-3Tが新しい製造プロセスへ移行していない点だ。TSMCの5nm、4兆トランジスタと90万コア、44GBのオンチップSRAMは変えず、Cerebrasは電力供給と冷却をウェハーのすぐそばへ寄せてI/Oとラック構造も組み直した。同じシリコン世代をどこまで高い動作点で使えるかが、CS-4の性能を決めている。
5nm据え置きで倍増したWSE-3 Turbo
WSE-3TのAI演算性能は、ウェハー1枚当たり125 PFLOPSから250 PFLOPSへ増えた。メモリ帯域は21.6 PB/sから43.2 PB/s、オンチップのファブリック帯域は26.7 PB/sから53.5 PB/s、外部I/Oは1.2 Tbit/sから2.4 Tbit/sとなった。いずれも2倍である。I/O遅延も5マイクロ秒から最短2マイクロ秒へ縮まった。
| 指標(ウェハー1枚当たり) | WSE-3 | WSE-3 Turbo |
|---|---|---|
| AI演算性能 | 125 PFLOPS | 250 PFLOPS |
| オンチップSRAM | 44GB | 44GB |
| メモリ帯域 | 21.6 PB/s | 43.2 PB/s |
| オンチップ・ファブリック帯域 | 26.7 PB/s | 53.5 PB/s |
| 外部I/O | 1.2 Tbit/s | 2.4 Tbit/s |
| I/O遅延 | 5マイクロ秒 | 最短2マイクロ秒 |
ただし、250 PFLOPSはデータシートが「スパースFP16」と注記するピーク値であり、アプリケーションの実効性能ではない。それでも、コア数やSRAM容量を増やさず、演算とデータ移動をそろって倍増させた設計上の差は明確だ。演算器だけを速くしても、重みや中間データを運べなければ推論速度は伸びない。
高クロック化を支えるのが、新しい「Wafer-Scale Backpack」である。ウェハーを中心に電力変換と直接液冷を組み込み、高速I/Oと制御回路も縦長のモジュールへ収めた。ラック背面から電源アレイへ接続する。電力変換回路とプロセッサの距離は、一般的なGPUボードで約50ミリメートルとされるのに対し、CS-4では約0.5ミリメートルまで縮めた。Cerebrasによれば、基板上の電力損失を抑え、WSE-3Tへ従来比2倍の電力を送ることで動作周波数を高めたという。
これは無償の性能向上ではない。ウェハー当たりの供給電力を増やせば、ラック全体の受電と排熱も重くなる。CS-4は直接液冷をモジュールへ組み込んだが、公開された5ページのデータシートにはラック総消費電力や冷却水の条件が載っていない。最大10倍というワット当たりスループットも、現時点では社内ベンチマークと予測を基にした主張であり、ユーザーが再計算できる材料は足りない。
4,400トークン/秒は何を測ったのか
CerebrasはGPT-OSS-120Bへ同一プロンプトを与える比較で、CS-4が1ユーザー当たり毎秒4,400トークンを超え、GPUシステムより最大30倍速かったとしている。ここで測っているのは、1人の利用者へどれだけ速く出力を返すかという生成速度だ。会話、コーディング支援、ツールを繰り返し呼ぶエージェントでは、1回の応答を待つ時間を短くできる。
一方で、4,400トークン/秒はCerebras自身によるヘッド・ツー・ヘッド試験である。GPUの型番と台数、数値精度、バッチサイズは発表資料にそろっていない。同時ユーザー数とコンテキスト長も不明だ。脚注にも、実際のスループットはモデル構造とコンテキスト長に加え、精度や配信構成で変動すると記されている。「最大30倍」はCS-4の能力を示す上限値として読み、GPU一般との固定的な性能差へ広げるべきではない。
独立系のArtificial Analysisが2026年8月25日時点で公開しているAPI測定では、Cerebras上のgpt-oss-120b(high)は毎秒1,714.6トークンで比較対象中の首位だった。入力10,000トークン、最初の出力が始まった後の速度を測り、直近72時間の中央値を示した数字である。公開サービスでもCerebrasの高速な出力という特徴は確認できる。
ただし、このAPIがCS-4で動いているとは公表されていない。1,714.6と4,400は測定条件も違うため、前者を後者の追試には使えない。Cerebrasが示した10兆パラメータ超のモデルで毎秒1,000トークンという数字も、社内測定からの外挿である。モデル名と活性パラメータ数、精度は開示されていない。必要なウェハー数も分からないため、実運用で再現できる範囲は判断できない。
GPUを置き換えるより、prefillとdecodeを分ける
CS-4の新しいWafer I/O Moduleは、RoCE v2によるRDMA over Ethernetと、スイッチを介さずウェハー同士を結ぶDirect Wafer Linksに対応する。ラック内とラック間の通信遅延を最短2マイクロ秒へ抑えた。Cerebrasは、この接続を50兆パラメータ超のモデルを扱う大規模クラスタにも使えるとしている。
低遅延I/Oの実務的な使い道が、推論処理をprefillとdecodeへ分ける構成だ。prefillは入力プロンプトをまとめて処理するため並列演算を使いやすい。対するdecodeは、直前までに生成した結果を受けて次のトークンを一つずつ作る。演算量よりも、モデルの重みを素早く読み出すメモリ帯域が効きやすい。
CerebrasはAMD HeliosやAWS Trainiumにprefillを任せ、WSEをdecodeへ集中させる提携をすでに発表している。AMDとの共同構成は最大5倍のtokens/s/Wを掲げ、2026年後半にCerebras Cloudで提供する予定だ。AWSとの構成はAmazon Bedrockへの展開を計画している。
この組み合わせは、WSEの長所と限界を同時に表している。44GBのオンチップSRAMと43.2 PB/sの帯域は高速なdecodeに向くが、長い入力を処理し、多数ユーザーのKVキャッシュを抱える仕事まで1種類の装置で最適化できるとは限らない。GPUや専用ASICを前段に置けば、Cerebrasは高速なdecodeへ計算資源を振り向けられる。CS-4のI/O倍増は、全面的なGPU代替より、異なるアクセラレーターを一つの推論サービスへ束ねるための改良なのである。
600MWの拡張計画とNexusの量産性
CS-4は、Cerebrasが「Nexus」と呼ぶラックスケール基盤の最初の製品でもある。計算、電力、I/Oを独立したモジュールへ分け、Wafer-Scale Backpackは前世代より部品を50%減らした。組立工程の自動化を60%増やし、データセンターでの導入を数日から数時間へ短縮できるという。
Nexusの部品削減と自動化は、Cerebrasが進める生産拡大と整合する。同社は2026年第2四半期の決算発表で、2027年末までに稼働または契約済みとなるデータセンター容量が600MWを超え、2026年中に製造能力を10倍超へ増やすと説明した。Flexとの提携でも、CS-3の生産能力を同年中に約7倍へ引き上げる計画を公表している。
Flexによると、CS-3の製造には特殊な取り扱いと専用治具、精密な較正が必要になる。工場では液冷を組み込み、光ネットワークを検証したうえで、ラック全体を認定する。CS-4の工程が同一だとは限らないが、部品点数と現地作業時間を減らすNexusの設計は、ウェハー機を大量に供給する際の複雑さを抑える方向に働く。
供給網の選び方もGPUラックとは異なる。CerebrasはTSMCから必要なウェハー供給を確保したとし、HBM、CoWoS、3nmプロセスを使わない点を強調している。WSEは44GBのSRAMをウェハー上に置くため、HBMと先端パッケージの不足を直接は受けない。CS-4の供給計画は、逼迫していると同社が説明する部材を前提にしていない。
残る判断材料は、宣伝上の最高速度より運用時の数字だ。Hot Chips 2026は8月25日(米太平洋時間)にCerebrasのラックスケール設計を扱うセッションを予定している。出荷後のラック消費電力と価格、同時実行時のtokens/s/Wに加え、量産出荷の実績も確かめる必要がある。外部機関が4,400トークン/秒を再現し、これらの数字もそろったとき、CS-4が高クロック化の代償を吸収して低遅延推論を大規模な事業へ変えられるかを判断できる。



