最先端のAIチップが品薄だという話は珍しくない。しかし今、値上がりしているのはむしろ逆の存在だ。何年も前から「供給過剰」と言われ続けてきた8インチ・成熟プロセス半導体である。台湾の調査会社TrendForceが2026年6月30日に発表した分析によると、世界トップ10ファウンドリの8インチ工場平均稼働率は2026年に88%まで回復し、下半期には90%に達する見込みだという。背景にあるのは、AIサーバーや汎用サーバー、エッジAI機器向けの電源管理部品の需要急増だ。先端プロセスの裏で、レガシー半導体市場の力学が静かに書き換えられている。

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8インチファウンドリで何が起きているか

ファウンドリ各社は、AIサーバーや汎用サーバー、エッジAI機器向け需要の急増に応じて、ウェーハ生産能力の配分をAI関連製品向けに拡大している。8インチ側ではAI向けパワーデバイス需要の増加と、TSMCやSamsungの減産が重なり、稼働率とファウンドリ価格がともに大きく上昇した。世界トップ10ファウンドリの8インチ工場平均稼働率は2026年に88%まで回復し、同年下半期には90%に達する見込みだ。複数のTrendForce関連記事や業界メディアも、この水準を「90%近くまで上昇」とおおむね一致して報じている。

価格面では、2026年第1〜第2四半期にかけてファウンドリ価格が全般的に上昇し、平均上昇幅は5〜15%に達した。一部の二次報道では最大20%という数値も見られるが、本記事では2026年6月30日付という最も新しいTrendForceの発表に基づき5〜15%を主な数値として採用する。第2〜第3四半期には、生産能力が逼迫している一部プロセスノードで5〜10%の追加的な価格上昇の兆候も出ているという。業界はすでに2026年下半期から2027年にかけて第3波の価格上昇への準備に入っているとTrendForceは指摘する。

AI需要が成熟ノードを圧迫する仕組み

AIサーバーは高性能なGPUやアクセラレータだけで動いているわけではない。1台のサーバーには、電源を安定供給するPMIC(電源管理IC、Power Management IC)や、大電流を扱うパワーディスクリート(個別半導体)が大量に搭載されている。これらの部品は最先端の数ナノメートルプロセスではなく、成熟した8インチ・12インチプロセスで製造されるのが一般的だ。AIサーバーの台数が増えるほど、こうした周辺部品の需要も比例して膨らむ構造になっている。

成熟プロセス工場の生産能力は、長年にわたって据え置かれてきた。TSMCやSamsungのような大手ファウンドリは、ここ数年先端プロセスや先端パッケージングへの投資を優先してきた。成熟ノードは利益率が低いとみなされ、新規投資も限定的だった。そこへAIサーバー向けの高性能・高電流密度PMICの需要が急増したことで、限られた生産能力の奪い合いが起きている。PMIC設計大手のuPI Semi(茂達電子)は、この需要急増により2026年通年でPMIC供給が広範に逼迫すると予測している。

12インチの成熟プロセスでも同様の現象が起きている。55nm以上のパワーデバイス、65/55nmのシリコンインターポーザ、40/28nmのFPGA(Field Programmable Gate Array、現場で書き換え可能な集積回路)向けに、AI主導のウェーハ消費が増加している。さらにシリコンブリッジやDTC/IPD、PIC、NAND Flash(NANDフラッシュメモリ)のCMOS制御回路、HBF(高帯域幅フラッシュ)関連のドライバやベースダイといった新興用途も、12インチ成熟ノードの生産能力を継続的に占有している。かつて余剰とされていた生産ラインが、AIインフラを支える隠れたボトルネックに変わりつつある。

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TSMC・Samsung・中国系・PSMCそれぞれの動き

供給側の動きも価格上昇を後押ししている。Samsungは2026年下半期に、韓国・器興(Giheung)にあるS7の8インチ工場を閉鎖する計画だ。TSMCもFab14の成熟ノード生産能力を2028年までに15〜20%削減する方針を示している。両社とも、収益性の高い先端プロセスへ経営資源を集中させる戦略の一環として、成熟ノードの設備を縮小している。この結果、TrendForceは2026年の世界8インチ生産能力が前年比2.4%減少し、2027年上半期までマイナス成長が続くと予測している。

中国系ファウンドリは、台湾・韓国大手の減産とは逆の方向に動いている。中国国内のファウンドリは成熟ノードの増産を進め、価格競争力を武器に受注を獲得しつつある。台湾・韓国勢からのシフトも一部で進行しており、供給網の勢力図が変化する兆しが出ている。

台湾PSMC(力晶積成電子)はP5工場を売却する。米国の半導体大手Micronが18億ドル(約2700億円)でこの工場を買収する取引が成立しており、2027年下半期からDRAM生産への転用が始まる予定となっている。これは長年ファウンドリの受託生産拠点だった工場が、メモリメーカーの自社拠点へと姿を変える事例であり、PSMCが手放した受注分は他のファウンドリへ再配分されることになる。業界では、この再配分が成熟ノード市場の需給構造をさらに変化させるとみられている。

影響を受ける製品とサプライチェーン

PMICやパワーディスクリートが、AIサーバーだけでなくスマートフォン・家電・産業機器の電源回路にも幅広く使われているため、最初に価格上昇の波を受ける。ファウンドリ価格がすでに5〜15%上昇している以上、こうした汎用デバイスの電源部品調達コストにも同水準の上昇圧力が及び、消費者向け製品の価格にまで波及する可能性がある。

FPGAやNAND Flash制御回路も、40/28nmプロセスの逼迫の影響を受ける。FPGAは通信機器や産業機器、車載システムなど幅広い分野で使われており、プロセス逼迫はこれらの分野の調達計画にも影響する。NAND Flashの制御回路は、ストレージ製品の供給安定性に直結する部品だ。AIインフラを支える「裏方」の部品群が品薄になることで、一見AIと無関係に見える製品の価格や納期にまで影響が及ぶ可能性がある。

この需給逼迫は、ファウンドリ業界全体の収益拡大とも連動している。TrendForceは2026年の世界ファウンドリ収益が前年比24.8%増の約2188億ドル(約32兆8200億円)に達すると予測しており、特にTSMCは約32%増という業界最大の成長率を見込む。成熟ノードの価格上昇分はこの収益拡大に直接寄与する要素であり、AI特需がもたらす恩恵が先端プロセスだけでなくレガシー半導体事業にも及んでいることを示している。

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2027年へ向けた見通しと相反する力学

原材料コストの上昇、主要ファウンドリの継続的な能力削減、AI関連の新興用途による生産能力消費の持続という3つの要因が重なり、2027年にさらなる成熟ノード価格上昇が起きる可能性が高いとTrendForceは分析している。ただしこの見通しは確定情報ではなく、メモリ価格の上昇や民生電子機器の出荷減速を背景に一部の顧客がファウンドリ側へ下半期の値上げ延期を交渉している側面も並行しており、需給バランスや各社の生産計画の修正によって変わりうる。供給側の逼迫圧力と、需要側のコスト抑制圧力がせめぎ合っている状況だ。

成熟ノード市場の逼迫が今後どう推移するかは、2026年下半期の需給動向と顧客交渉の行方に左右される。AIブームの影響範囲は最先端チップの枠を超えて、何十年も前に確立されたプロセス技術の市場にまで及び始めている。電子機器のサプライチェーンを見るとき、もはや「最先端」だけを追っていては全体像をつかめない時代に入りつつある。