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AMD、Ryzen AI PC向けローカルLLM実行プラットフォーム「GAIA」をオープンソースで公開

Y Kobayashi

2025年3月22日

AMDは、Ryzen AIプロセッサを搭載したPC向けにローカルLLM(大規模言語モデル)を実行するためのオープンソースプロジェクト「GAIA」を発表した。「Generative AI Is Awesome」を意味するこの新プラットフォームは、専用のXDNA NPU(ニューラル処理ユニット)とRadeon統合GPUを活用し、クラウドに依存せずデータプライバシーを確保しながら高性能なAI処理を実現する。

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GAIA:AMDのローカルAI戦略の中核

GAIAは、Windows PC上でプライベートなLLMをローカル実行できるよう設計された生成AIアプリケーションだ。特にAMD Ryzen AIハードウェア(Ryzen AI 300シリーズプロセッサやRyzen AI Max 395+など)向けに最適化されており、NPUとiGPUの連携によって効率的な処理を実現する。

このプロジェクトは、IntelのAI Playgroundに対抗する形で、AMDが自社ハードウェアの強みを活かすソリューションとして位置づけられている。MITライセンスの下でオープンソース化されており、GitHubリポジトリから誰でもアクセス可能だ。

主要な機能と対応モデル

GAIAの中核機能は、Agent RAG(検索拡張生成)パイプラインである。これによりLLMと知識ベースを組み合わせ、情報検索、推論、計画立案、外部ツール活用をインタラクティブなチャット環境内で実現する。この技術により、より正確で文脈に即した応答が可能になる。

現在GAIAが提供する主要エージェントは4つある:

  1. Simple Prompt Completion:モデルと直接対話するためのエージェントで、テストや評価に最適
  2. Chaty:会話履歴を保持するチャットボットで、ユーザーとの自然な対話を実現
  3. Clip:YouTube検索とQ&A機能を備え、動画コンテンツに関する質問に対応
  4. Joker:RAG技術を活用したジョークジェネレーター

対応モデルはLlamaやPhiなどの人気LLMで、質問応答、文書要約、複雑な推論タスクなど様々な用途に適応可能だ。

技術アーキテクチャ:NPUとiGPUの統合活用

GAIAは、ONNX TurnkeyMLが提供するLemonade(LLM-Aid)SDKを技術基盤としている。このSDKは、LLM特有のタスク(プロンプト作成、精度測定、サービング)に必要なツールを提供し、複数のランタイムと様々なハードウェア上で動作する。

システムコンポーネント

GAIAのアーキテクチャは3つの主要コンポーネントで構成されている:

  1. LLM Connector:NPUサービスのWeb APIとRAGパイプラインを接続
  2. LlamaIndex RAG Pipeline:クエリエンジンとベクトルメモリで外部情報を処理・保存
  3. Agent Web Server:WebSocketを介してユーザーインターフェースと対話

処理フロー

ユーザーがクエリを送信すると、GAIAはまず外部コンテンツ(GitHub、YouTube、テキストファイルなど)をベクトル化し、ローカルのインデックスに保存する。その後、以下の処理が実行される:

  1. クエリが埋め込みベクトルに変換される
  2. ベクトル化クエリでインデックスから関連コンテキストを検索
  3. 検索したコンテキストがLLMのプロンプトに統合される
  4. LLMが応答を生成し、リアルタイムでUIに表示

Ryzen AI Software Release 1.3以降では、NPUとiGPUを組み合わせた量子化LLMのハイブリッドデプロイメントもサポートしており、各コンポーネントの得意分野を活かした最適化が可能になっている。

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ローカルLLM実行の4つの利点

GAIAがもたらす主な利点は以下の4つである:

  1. 強化されたデータプライバシー:処理がすべてローカルで行われるため、機密情報が外部に漏れるリスクを大幅に低減。クラウドベースのAIサービスでは必須だったデータ送信が不要になり、医療や金融など、データセキュリティが重要な産業での活用が期待される。
  2. レイテンシーの低減:クラウドサーバーとの通信が不要なため、応答速度が向上。より自然でスムーズな対話体験を実現する。
  3. 最適化されたパフォーマンス:Ryzen AI搭載PCでは、専用NPUとiGPUの活用により、AIタスクに特化した効率的処理が可能。これにより応答速度向上と電力消費削減の両立を実現。
  4. オフライン動作:インターネット接続が不要で、ネットワーク環境が制限された場所でも利用可能。また、帯域を消費しないため他のオンライン活動への影響もない。

利用可能なインストーラー

現在GAIAには2種類のインストーラーがある:

  • 通常インストーラー:一般的なWindows PCで動作し、AMDハードウェアがなくても使用可能
  • ハイブリッドインストーラー:Ryzen AI PC向けに最適化され、NPUとiGPUを活用して最高性能を発揮

プラットフォーム対応と今後の展望

現時点でGAIAはWindows 11(Pro/Home)のみをサポートしており、macOSやLinuxには対応していない。ただし、ドキュメントには「特定のプラットフォームサポートが必要な場合は連絡してください」との記述があり、将来的な拡張の可能性を示唆している。

特にLinux 6.14がRyzen AI「AMDXDNA」アクセラレータドライバーを導入したことから、Linux対応も期待されている。オープンソースコミュニティの貢献により、機能拡張や最適化が進むことも予想される。

産業への影響:ローカルAIがもたらす変革

GAIAの登場は、ローカルLLM実行分野の競争活性化を示している。LM StudioやChatRTXなど他のローカルLLMアプリケーションが存在する中、AMDは自社ハードウェアの強みを活かした独自ポジションを確立しようとしている。

応用分野と期待される効果

以下のような分野での活用が期待される:

  • 医療:患者データの機密性を保ちながら診断支援や医療文書分析に活用
  • 金融:取引データや顧客情報などの機密情報を保護しながらAI分析を実施
  • 企業内業務:機密文書や内部コミュニケーションの分析、要約を安全に実行
  • コンテンツ創作:クリエイティブ作業をサポートするAIツールをオフラインでも利用
  • カスタマーサービス:顧客データのプライバシーを確保しながら応答生成や情報検索を効率化

また、インターネット接続が制限された環境でも、すべての処理がローカルで行われるため有効なソリューションとなる。

AMD GAIAは、クラウドAIとローカルAIのバランスが模索される今日のAI業界において、ユーザーに新たな選択肢を提供する重要な一歩だ。「Generative AI Is Awesome」という名称に込められた通り、AMDはローカルAI処理の新たな可能性を切り開こうとしている。


Sources

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