AnthropicSamsung Electronicsと独自AIチップの製造について協議していると、The Informationが伝えた。報じられている計画はまだ初期段階にあり、詳細な設計は固まっていない。チップに何を担わせ、どの程度の性能を求めるかも検討中だとされる。

だがこの話を、AnthropicがNVIDIAやクラウド事業者のチップから離れる動きとするにはまだ早いだろう。AnthropicはThe Informationに対し、AWS、Google、NVIDIAのチップは同社の戦略の中心にあり続けると説明し、自社チップのロードマップについてはコメントを避けた。今回の協議は、Claudeの訓練と推論を支える計算基盤が、既製GPU、クラウド独自チップ、クラウド上の専用提供形態、将来の自社設計候補へと広がっていることを示す。

生成AI企業にとって、チップは性能競争の部品であると同時に、売上総利益率、供給確保、顧客向けの提供地域、データ管理条件を左右する事業インフラである。AnthropicがSamsungとの協議を進めているとしても、足元のモデル提供を支えるNVIDIA GPUやTPU、Trainiumを置き換える短期策ではない。設計、検証、製造、パッケージ、ソフトウェア対応を経て初めて使える計算資源になるためだ。

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公開済みの計算基盤はすでに複数社へ広がっている

Anthropicの計算基盤は、すでに一社の半導体に依存してはいない。Amazonは2024年3月、Anthropicへの投資総額が40億ドルに達したと発表し、その戦略的協業の中でAnthropicがAWSを安全研究や将来の基盤モデル開発を含むミッションクリティカルなワークロードの主要クラウドプロバイダーとして使うと説明した。Amazonは同じ発表で、Anthropicが将来モデルの構築、訓練、デプロイにAWS TrainiumとInferentiaを使うとしている。

Google Cloudとの関係も大きい。Google Cloudは2025年10月、AnthropicがTPUの利用を拡大し、2026年にオンラインになる1GW超の能力と、最大100万個のTPUチップにアクセスする計画だと発表した。発表では、AnthropicがTPUを選んだ理由として価格性能、効率、過去にTPUでモデルを訓練・提供してきた経験が挙げられている。

NVIDIAとの結び付きは、直近でさらに見えやすくなった。Microsoft、NVIDIA、Anthropicは2025年11月、ClaudeをMicrosoft Azure上で拡大する戦略的提携を発表した。AnthropicはAzureの計算資源を300億ドル分購入し、最大1GWの追加計算能力を契約する方針を示した。初期段階ではNVIDIA Grace BlackwellとVera Rubinシステムを使う計画で、NVIDIAとMicrosoftはAnthropicへそれぞれ最大100億ドル、最大50億ドルを投資する方針も示している。

この提携は2026年6月にも製品面へ進んだ。AnthropicはClaude in Microsoft Foundryを一般提供し、Azureの認証、請求、ガバナンスの中でClaudeを利用できるようにした。NVIDIAは同じ発表に合わせ、Microsoft Foundry上のClaudeがAzureにホストされ、NVIDIA GB300 Blackwell Ultra GPUで動作すると説明している。Anthropicが「NVIDIAは重要だ」と説明する背景には、こうした公開済みの供給契約と製品提供がある。

Samsung協議が意味するのは、コストと供給の交渉余地

独自AIチップの検討が進む理由は、GPU不足という一語では説明できない。Claudeのような大規模モデルは、訓練と推論の両方で膨大な計算資源を使う。企業向けに常時動くエージェント、長いコンテキスト、コード生成、文書処理が増えるほど、1トークンをどれだけ安く、どれだけ安定して返せるかが収益性を左右する。

汎用GPUはソフトウェア環境と供給実績に強みがあり、NVIDIAはCUDA、ネットワーク、推論ソフトウェア、ラック単位の設計までまとめて提供している。Microsoft Foundry上のClaudeがGB300で一般提供された事実は、Anthropicがこの既存のエコシステムを実運用で使っていることを示す。一方で、自社や特定モデルの処理に合わせたチップを設計できれば、推論の一部で電力効率や単価を下げられる余地が生まれる。

報じられたSamsungとの協議は、まだそのどちらを狙うのかを示していない。訓練向けの大規模アクセラレータなのか、推論向けの専用チップなのか、特定の内部ワークロードを処理する補助的なASICなのかは未確定である。性能目標も設計も定まっていない段階なら、記事で言えるのは「Anthropicが将来の選択肢を探っている」という範囲までだ。

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Samsung Foundryが候補に上がる技術的な理由

Samsungを協議相手として見るうえで、先端プロセスに加えて設計支援とパッケージングの厚みも見逃せない。Samsung FoundryはLogic Nodeページで、SF2を第2世代MBCFET、つまりGAAベースの2nm級先端ノードとして位置付け、モバイル、HPC、AI、自動車向けの技術だと説明している。同社によれば、SF2は2025年後半から安定した量産に入っており、HPC向けに性能電力比を重視したSF2Pは2026年後半に量産予定である。

AIアクセラレータでは、ロジックの製造プロセスと同じくらい、メモリとの距離、チップレット構成、パッケージング、設計支援の成熟度が採用判断に関わる。Samsung FoundryはHPC/AI向けページで、AIワークロードを加速する統合HPCソリューションを掲げ、チップレット、先端パッケージ、ロジックとメモリの統合を訴求している。大規模モデル向けチップでは、演算器を増やすだけではメモリ帯域やチップ間通信が詰まるため、パッケージ設計が性能と消費電力に直結する。

SamsungのSAFEプログラムも、この種の協議では意味を持つ。SAFEはSamsung Foundry、エコシステム企業、顧客の協業を進める枠組みで、PDK、設計手法、IP、EDA、クラウド設計環境、設計サービス、マルチダイ統合、OSATまでを含む。AIチップを実際に作るには、半導体製造ラインの空きに加えて、設計資産、検証ツール、パッケージ、テストまでの工程がそろう必要がある。

「作るか」より「何を担わせるか」

今回の報道でまだ見えていない部分は多い。チップの用途、設計主体、製造ノード、メモリ構成、量産時期、必要な投資額、クラウド事業者との契約上の位置付けはいずれも公開されていない。Samsungが製造を担うとしても、設計パートナー、IP、パッケージ、ソフトウェアスタックをどう組むかで、完成品の性格は大きく変わる。

Anthropicにとって自社チップは、クラウド契約と競合するものではなく、交渉余地を広げる手段にもなり得る。AWS Trainium、Google TPU、NVIDIA GPUを使い続けながら、自社ワークロードの一部を専用チップで処理できれば、供給面とコスト面の選択肢が増える。一方で、専用チップは初期投資と開発リスクを伴い、モデル構造や推論方式が変われば設計の前提も揺らぐ。

次に確認すべきなのは「AnthropicがNVIDIAから離れるか」ではない。Samsungとの協議が、推論コストを下げるASICへ進むのか、先端パッケージを含む大型アクセラレータへ進むのか、それとも当面は設計検討にとどまるのかである。公開済みの契約を見る限り、Anthropicは当面、AWS、Google Cloud、Microsoft Azure、NVIDIAの上でClaudeを拡大しながら、その先の自前シリコンの余地を探る段階にいる。