Appleが同時に出したM6とM5 Ultraは、同じAppleシリコンでも増やしたものが違う。M6はApple初の2nmチップとして新しいMac miniに入り、CPUコアの種類を改め、AI回路とメモリ帯域も更新した。M5 Ultraは新しいMac Studio向けで、2ダイ構成のM5 Maxをさらに2基つなぎ、4枚のダイを一つの統合プロセッサとしてソフトウェアに見せる。
予約は8月25日に始まり、通常構成の発売は9月22日だが、M5 Ultraの512GBユニファイドメモリ構成だけは10月後半の予定だ。したがって、性能の大半はAppleの公称値であり、熱、実クロック、消費電力や持続性能はまだ第三者によって確かめられていない。ダイ写真と歩留まりも未検証である。
同時発表だからといって、両チップを一つの性能競争として読むべきではない。M6は最大32GBまでの小型Mac向けSoCをどう速くするかという設計であり、M5 Ultraは最大512GBを使うワークステーションで、複数のダイと大容量メモリをどう一体化するかという設計なのだ。
M6の3種類のCPUコアと単一SoCの更新
M6の12コアCPUは、スーパーコア2基、高性能コア4基、高効率コア6基から成る。AppleはM5で「最速の高性能コア」と呼んでいた設計を2026年3月にスーパーコアへ改称しており、M6では同系統のスーパーコア2基に、別の高性能コアと高効率コアを組み合わせた。
| 項目 | M6 | M5 | M4 |
|---|---|---|---|
| 製造プロセスのApple開示 | 2nm | 第3世代3nm | 第2世代3nm |
| CPU | 12コア:スーパー2、高性能4、高効率6 | 最大10コア:高性能最大4、高効率6 | 最大10コア:高性能4、高効率6 |
| GPU | 12コア、各コアにNeural Accelerator | 10コア、各コアにNeural Accelerator | 10コア |
| Neural Engine | 16コアを2基、計32コア | 16コア | 16コア |
| 最大ユニファイドメモリ | 32GB | 32GB | 32GB |
| メモリ帯域 | 16GBで153GB/s、24GB/32GBで170GB/s | 153GB/s | 120GB/s |
表から分かるのは、M6がすべての構成で同じ速度向上を得るわけではない点だ。最大帯域の170GB/sはM5の153GB/sより11.1%高く、Appleの「最大10%増」という公称とも方向は一致する。しかし16GB構成は153GB/sで、M5と変わらない。Mac miniの標準メモリは16GBであり、24GBまたは32GBを選んだ購入者だけが170GB/sを得る。
CPUでも比較の軸を分ける必要がある。AppleはM6のマルチスレッド性能をM5比で最大1.2倍、M1比で最大2.4倍とする一方、M6 Mac miniのCPU性能を直前のM4 Mac mini比で最大40%高速とした。前者はM6 Mac mini試作機、M5の14インチMacBook Pro、M1 Mac miniを使う業界標準ベンチマークであり、筐体とメモリ条件は同一ではない。後者はM4 Mac miniとの個別比較である。M5比の1.2倍とM4比の40%を、一つの世代差として並べ替えることはできない。
GPU側では、各GPUコアにあるNeural Acceleratorと、2基の16コアNeural EngineがM6のAI処理を担う。AppleはM5比でピークGPU AI演算を約30%増、Neural Engineのピーク演算を最大2倍とするが、ピーク演算の比較をアプリの処理時間へそのまま移せない。M4 Mac mini比では、LM Studioで最初のトークンが表示されるまで最大4.8倍高速、Excel計算は最大1.5倍、レイトレーシング有効時のCyberpunk 2077は最大2倍という値も公表した。ただし、LM Studioの測定は140億パラメータの4bitモデルへ8,000トークンを入力した条件であり、継続的なトークン生成速度ではない。3つの値は別アプリ・別処理の結果である。
2nm表記とTSMC N2の境界
AppleがM6について明らかにした製造情報は「2nmプロセス」までである。ファウンドリー名と、N2やN2Pといった派生名は公表していない。トランジスタ数とダイ面積も未公表だ。クロックやTDPも明らかでなく、M6の改善を特定の製造ノードへ帰属させる材料は足りない。
TSMCはN2を2025年第4四半期に量産開始し、同社初のナノシートトランジスタを採用した世代だと説明する。同社がN3E比の目標として掲げたのは、同じ電力なら10〜15%高速、同じ速度なら25〜30%省電力、チップ密度は15%超向上である。ただし、これはTSMCが示したN2の一般的な目標であり、AppleがM6にTSMC N2を採用したと公表したわけではない。M6の実測改善値として用いることもできない。
しかもM6は製造プロセスだけを変えたチップではない。CPUは10コアから12コアへ増え、コア種別も増えた。GPUコア数、Neural Engine数、GPU内Neural Accelerator、メモリ帯域の構成も変わる。M6の性能差から2nmの寄与だけを切り出すには、発売後に同一条件で測ったデータが要る。
M5 Ultraの4ダイ構成とUltra世代の比較
M5 Ultraは、2ダイ構成のM5 Maxを2基、UltraFusionで接続する。M5 Max自体が第3世代3nmの2ダイ構成なので、M5 Ultraは4枚の第3世代3nmダイから成る。Appleが4ダイを一つの統合プロセッサとしてソフトウェアに見せると説明するため、アプリケーションは複数CPUとして個別に扱う必要がない。ただし、4枚の物理配置、リンクの構成、接続に使う媒体は公表されていない。
| 項目 | M5 Ultra | M3 Ultra | M2 Ultra | M1 Ultra |
|---|---|---|---|---|
| ダイ数 | 4 | 2 | 2 | 2 |
| 製造プロセスのApple開示 | 第3世代3nm | 3nm | 第2世代5nm | 5nm |
| 最大CPU | 36コア:スーパー12、高性能24 | 32コア:高性能24、高効率8 | 24コア:高性能16、高効率8 | 20コア:高性能16、高効率4 |
| 最大GPU | 80コア | 80コア | 76コア | 64コア |
| Neural Engine | 32コア | 32コア | 32コア | 32コア |
| 最大ユニファイドメモリ | 512GB | 512GB | 192GB | 128GB |
| 最大メモリ帯域 | 1.2TB/s | 819GB/s | 800GB/s | 800GB/s |
| UltraFusionの公称ダイ間帯域 | 4.4TB/s超 | 2.5TB/s超 | 2.5TB/s超 | 2.5TB/s超 |
M5 UltraはM3 UltraよりCPUコアを32から36へ増やしたが、最大GPUコア数は80で同じだ。Neural Engineも全Ultra世代で32コアのままである。AI性能の向上をNeural Engineコア数の増加と読むことはできず、GPU内Neural AcceleratorやGPU世代、メモリ帯域の変化も見る必要がある。
メモリの伸び方も用途を分ける。最大容量はM3 Ultraと同じ512GBだが、最大帯域は1.2TB/sで、M3 Ultraのチップ発表時の「800GB/s超」からAppleは50%増とする。ローカルLLMでは、収容できるモデルの大きさには容量が効き、各トークンを生成するときに重みを読む速度には帯域が効く。M5 Ultraはモデルをさらに大きくするより、既に収容できる大規模モデルの推論速度を上げる方向に重心がある。
次世代UltraFusionは、ダイ間帯域を4.4TB/s超へ引き上げ、接続密度を従来比で6倍超へ高めた。M3 Ultraの公称値は2.5TB/s超だが、どちらも帯域の下限なので、実際の増加率は計算できない。Appleは4.4TB/sの方向と総和を明らかにしておらず、接続密度6倍超の厳密な分母も公表していない。
この4.4TB/s超はダイどうしを結ぶUltraFusionの指標である。1.2TB/sはユニファイドメモリへの帯域であり、同じ数字の別表現ではない。両者を足して5.6TB/sとすることもできない。M3 Ultraでは1万本超の信号で2枚のM3 Maxダイをつないでいたが、M5 Ultraの信号本数は未公表である。
物理ダイを4枚に増やしても、アプリの性能が直線的に4倍になるわけではない。CPU、GPU、メモリ帯域を十分に並列利用できるワークロードでなければ、増えた資源を使い切れないからだ。AppleはThunderbolt 5とRDMAでMac Studioを4台クラスタ化したAI推論も単体比最大3倍としているが、こちらはコンピュータ間の別階層の測定であり、M5 Ultra内部の4ダイ効率を示す値ではない。クラスタの共有メモリプールも、1台のユニファイドメモリと同じレイテンシーを意味しない。
AIの「4.5倍」と「4.3倍」を混ぜない
M5 UltraのGPUは各コアにNeural Acceleratorを備え、第2世代Dynamic Caching、ハードウェアメッシュシェーディング、第3世代レイトレーシングも搭載する。M3 UltraにもDynamic Caching、ハードウェアメッシュシェーディング、ハードウェアレイトレーシングはあるが、GPU内Neural Acceleratorはない。GPUコア数が同じでも、処理の中身は同じではない。
Appleのチップ発表は、M3 Ultra比のピークGPU AI演算を最大4.5倍、通常のグラフィックス性能を最大40%高速と掲げた。一方、Mac Studio発表はピークAIを最大4.3倍、グラフィックスを最大1.8倍とする。Appleは測定対象の差を説明しておらず、同じ性能指標ではない。テキスト画像生成は最大4.3倍、LM Studioのプロンプト処理は最大4倍である。Nuke CopyCatの学習最大3.3倍、Redshiftレンダリング最大1.7倍も、それぞれのアプリに限る値である。
動画処理では、M5 UltraのメディアエンジンはH.264とHEVC、AV1デコード、4基のProResエンコード/デコードを備える。Appleは8K ProRes 422の30fps動画を最大33本再生できるとし、M3 Ultraの最大24本から37.5%増える。この値も再生本数という特定条件の比較であり、一般的なGPU性能の倍率とは扱えない。
32GBのMac miniと512GBのMac Studio
M6搭載Mac miniは149,800円(税込)からで、標準メモリは16GB、最大は32GBである。M5 Ultra搭載Mac Studioは949,800円(税込)からで、標準96GBから最大512GBまで選べる。M6はM5やM4より最大メモリ容量を増やしておらず、大規模モデルをローカルで動かす用途では、M5 Proの最大64GBやM5 Ultraの最大512GBとの製品差が残る。
M5 MaxとM5 Ultraは、店頭の標準構成も単純な2倍ではない。M5 Maxは18コアCPUと32コアGPUを備え、36GBのメモリで460GB/sとする。M5 Ultraは30コアCPUと64コアGPUを備え、96GBで1.2TB/sである。最大構成同士ではM5 Maxの18コアCPU、40コアGPU、16コアNeural EngineがM5 Ultraで36コア、80コア、32コアになるが、その比率を標準構成へ当てはめると実際の選択肢を見誤る。
発売後に見るべきなのは、M6では16GBと24GB/32GBの帯域差が実アプリへどう表れるか、M5 Ultraでは4ダイ構成がレンダリング、ローカルLLM、学習処理でどこまで効くかである。Appleの公称値はすべて「最大」で、チップ発表では業界標準ベンチマーク名や全サブテストも開示されていない。それまでは、M6を32GB以内で効率を高めたチップ、M5 Ultraを大容量と並列性を使い切る仕事向けのチップと捉えるのが妥当であり、2nmや4ダイという名称だけで速度差を一般化すべきではない。
