世界最大のバッテリーメーカーCATLが、9MWhという驚異的な容量を実現した「TENER Stack」蓄電システムを発表した。この9MWhという容量は実に電気自動車(EV)150台を一度に満充電できるほどであり、さらに、5年間は性能劣化ゼロを謳っているのだ。
世界初9MWh!CATLが投じる次世代エネルギー貯蔵システム「TENER Stack」とは?
中国の巨大バッテリー企業、Contemporary Amperex Technology Co., Limited (CATL) が、ドイツ・ミュンヘンで開催されたエネルギー貯蔵関連の展示会「ees Europe 2025」で、世界初となる9MWhの超大容量エネルギー貯蔵システム(ESS)ソリューション「TENER Stack」の量産開始を発表した。 これは、AIデータセンターの爆発的な電力需要増加や産業電化の進展といった、世界的なエネルギー需要の高まりに応える戦略的な一手と言える。
TENER Stackの9MWhという容量は、具体的にどれほどのものなのだろうか。CATLによれば、平均的なEV約150台を充電可能なだけでなく、ドイツの平均的な家庭であれば約6年分の電力を供給できる計算になるという。 まさに、エネルギー貯蔵における「桁違い」のスケールアップが実現されたのだ。

CATLのESSヨーロッパCTO兼社長である Amanda Xu 氏は、「高エネルギー密度、省スペース、シンプルなAC側構成、そして柔軟な展開が可能なBESS(バッテリーエネルギー貯蔵システム)への期待に応えるため、最新のCATL TENERエネルギー貯蔵ソリューションを提供します。これは電力容量と製品輸送の限界を打ち破り、スペース利用、エネルギー効率、コストにおいてブレークスルーをもたらす」と語り、新製品への自信を覗かせる。
驚異のエネルギー密度と5年間「劣化ゼロ」 – TENER Stackの核心技術
TENER Stackの驚異的な性能を支えているのは、CATLが誇る高エネルギー密度セルと、5年間のゼロ劣化技術である。 これは、従来の20フィートコンテナ型システムと比較して、体積利用率を45%向上させ、エネルギー密度を実に50%も高めることに成功した結果だ。
特に注目すべきは「5年間ゼロ劣化」という点だ。これは、CATLが2024年4月に発表した6.25MWh容量のエネルギー貯蔵システム「TENER」で初めて導入された画期的な技術で、今回のTENER Stackにも引き継がれている。 この長期間にわたる性能維持は、LFP(リン酸鉄リチウム)バッテリーの化学的特性に加え、CATL独自の固体電解質界面(SEI)技術などが貢献していると考えられる。 これにより、バッテリー内のリチウムの酸化を抑制し、熱暴走を防ぎつつ容量劣化を遅らせることを可能にしているのだ。
さらに、TENER Stackは集中型およびストリング型の両方のPCS(パワーコンバージョンシステム)アーキテクチャをサポートする。これにより、主流のAC側機器とのシームレスな統合と、より広範な系統電力網アプリケーションへの対応が可能となり、システム効率と互換性が大幅に向上している。
輸送と設置の常識を覆す「2-in-1」設計と経済効果
これほど大容量のエネルギー貯蔵システムとなると、その輸送と設置が大きな課題となりがちだ。特に、多くの国ではコンテナ輸送における36トンという重量制限が法的に定められており、これを超える大型製品のロジスティクスは複雑かつ高コストになりがちであった。
この課題に対し、CATLは「2-in-1(ツーインワン)設計」という独創的な解決策を提示した。 TENER Stackは、高さが半分のユニット2つに分割されており、それぞれのユニット重量を36トン未満に厳密に管理している。これにより、世界の99%の市場で輸送規制に準拠できるという。 輸送先に到着後、これら2つのユニットを積み重ねる(スタックする)ことで、20フィートコンテナサイズの9MWhシステムが完成するというわけだ。この構造が「TENER Stack」という名称の由来にもなっている。
この革新的な分割設計は、標準的なコンテナスプレッダーやライナーといった既存の輸送手段の利用を可能にし、特殊輸送にかかる待機時間やコストを最大で35%も削減できるとCATLは試算している。 さらに、重心が低く、高さ制限のある橋梁やトンネルが多い地方のルートにも柔軟に対応できるため、これまで設置が難しかった場所への展開も容易になる。
この優れたスペース効率は、経済的なメリットにも直結する。例えば、800MWhの蓄電設備を構築する場合、従来の6MWhシステムと比較して、TENER Stackを使用するとコンテナ数を約3分の1に削減可能である。 これにより、PCSユニット数やシステム過剰設計に伴う隠れたコストも削減され、土地利用効率は40%も向上するとされる。 結果として、開発者は総建設コストを最大20%最適化できると期待される。
過酷な環境にも耐えうる堅牢設計
大規模なバッテリーシステムにおいて、安全性は何よりも優先されるべき項目だ。TENER Stackは、その点においてもCATLの最新技術が惜しみなく投入されているという。
まず、基盤となるバッテリーには、熱安定性に優れることで知られるLFP(リン酸鉄リチウム)バッテリーが採用されている。 さらに、アップグレードされたガスセンサーは感度が40%向上し、異常を検知してから抑制システムが作動するまでの時間を35%短縮した。 新たに採用された三重構造の断熱設計は、耐火性能を2時間にまで高めている。
自然災害への備えも万全だ。TENER Stackは、IEEE693地震基準に準拠し、マグニチュード9クラスの地震やカテゴリー5のハリケーンにも耐えうる堅牢性を有している。
設置環境への配慮としては、システム上部に配置されたTMS(熱管理システム)が、熱放射を低減し、土地コストやメンテナンスコストの削減に貢献する。 同時に、騒音レベルも1メートル離れた場所で65dB(A)に抑えられており、これは都市部での利用にも適した静音設計と言える。
CATLのエネルギー戦略とTENERシリーズの進化 – 「9MWhは限界ではない」
CATLは、2024年11月末までに、そのエネルギー貯蔵製品を世界中の1,700以上のプロジェクトに展開しており、あらゆる気候帯や運用環境での実績を積み重ねてきた。 同社は2024年に、5年間のゼロ劣化技術を搭載した20フィートコンテナ型エネルギー貯蔵システム「TENER」と、柔軟な展開が可能なラック型エネルギー貯蔵システム「TENER FLEX」を発表しており、TENER Stackはこれらの実績あるシリーズの集大成と位置づけられる。
CATL ESSヨーロッパのCTOであるHank Zhao氏は、「TENER Stackは、巨大で、柔軟性があり、信頼性が高く、そして静かです。私たちは単なるエネルギー貯蔵製品を提供するのではなく、世界中で応用可能なエネルギーアクセシビリティのためのソリューションを提供しています」と述べ、さらにこう続けている。「9MWhはエネルギー容量やスペースの限界ではありません。将来のエネルギー密度のあらゆるブレークスルーは、より小さな設置面積からより大きなエネルギー価値を解き放つでしょう」。
この言葉は、CATLがエネルギー貯蔵技術の未来を切り拓き続けるという強い意志の表れと言える。TENER Stackの登場は、再生可能エネルギーの安定供給、電力網の強靭化、そしてEVシフトの加速といった、現代社会が抱えるエネルギー課題の解決に大きく貢献する可能性を秘めたものだ。その量産が開始される2025年以降、世界のエネルギーランドスケープにどのような変化がもたらされるのか、引き続き注目が集まる。
Sources
自分が住んでいる台東区の地域は、もし荒川が決壊すると水上都市ベネチアへと早変わりするため、冠水に強ければ集合住宅の地下にある停電時用三相電力発電発動機の置き換えにはいいかもしれない。