中国の半導体材料サプライチェーンにおいて、地味ながら製造工程の歩留まりを根底で左右する基礎素材の国産化が進展を見せた。TrendForceは2026年9月14日、中国の高純度石英材料メーカーである江蘇太平洋石英(Jiangsu Pacific Quartz、証券コード: SH603688)が、自社製高純度石英砂を原料とする石英製品について、中国の大手DRAMメーカーによる300mm(12インチ)ウェハー製造向けの製品認証を通過したと報じた。

一連の報道は、中国の半導体エコシステムが装置やチップ設計だけでなく、石英に代表される極限環境部材の調達網を自国内で再構築しつつある実態を示している。だが、今回の認証を単純な「石英サプライチェーンの完全自給」と捉えるのは早計だ。認証を取得した部材はウェハー加工工程の特定装置で使われる消耗材にとどまり、半導体基板そのものを生み出すルツボ向けの極超高純度石英については、米国の単一鉱山による世界的な寡占構造を突き崩す目処は立っていない。

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投資家向け回答が明かした認証と「量産出荷」の隔たり

今回の動きが公になった端緒は、中国の金融情報メディアJRJが2026年9月2日に報じた江蘇太平洋石英の投資家向け対話プラットフォームでの発言である。同社は自社製高純度石英砂を原料とする半導体炉芯管シリーズの製品が、大規模なDRAM量産能力を備える中国国内のIDM(垂直統合型半導体メーカー)において製品認証を通過したと説明した。

この顧客の具体的な社名について、ポッドキャスト「China Tech Talk」のアナリストTP Huang氏はTom's Hardwareを通じて、中国最大のDRAMメーカーである長鑫存儲技術(CXMT)である可能性が高いとの見方を示した。しかし、江蘇太平洋石英自身もTrendForceも相手先の企業名を公式には明示していない。

同時に、江蘇太平洋石英は市場の過熱した受け止めを牽制する重要な留保事項を付け加えた。製品認証に合格したという事実は、直ちに大量の商用供給が始まったことを意味するわけではない。認証取得から製造ラインへの本格的な部材導入、そしてスケールメリットを伴う量産出荷に至るまでには一定の評価期間とプロセス調整の時間を要する。同社は投資家に対し、重大な企業情報は正規の開示文書に基づいて客観的に判断するよう促している。

半導体工場の現場において、新規材料の認定と実際の購買切り替えの間には深い溝が存在する。特に微細化が進むDRAM製造では、部材の微細な組成変化がウェハー1枚あたりの歩留まりを致命的に落とすリスクを孕む。今回の発表は「国産材料が最先端ファブの技術的要件を満たし得ること」の証明ではあるものの、製造ラインの消耗材すべてが直ちに自国製へ置き換わったわけではない。

5N級炉芯管が担う熱処理とLamやTELへの納入実績

認証の対象となった部材が使われるのは、300mmシリコンウェハーをチップへと加工していく「拡散」工程である。つまり、シリコンウェハーという基盤がすでに完成した後の、半導体前工程の製造装置内部で消費される部材を指している。

半導体の製造工程、特に不純物の熱拡散や化学気相成長(CVD)などの高温熱処理プロセスでは、ウェハーを格納し保護するための炉芯管(ファーネスチューブ)やウェハーボートなどの石英器具が不可欠となる。炉芯管には一般に4N5から5Nクラス、すなわち純度約99.995%から99.999%の二酸化ケイ素()からなる高純度溶融石英が求められる。

この純度管理は、半導体素子の信頼性に直結する。高温下で石英内部からナトリウム、カリウム、鉄、銅といった電気的に活性な不純物や可動イオンがわずかでも遊離すれば、熱せられたシリコンウェハーの結晶格子内へと拡散・移行してしまう。その結果、トランジスタのしきい値電圧が変動し、接合リーク電流が増加し、最終的なチップの歩留まりが崩壊する。炉芯管材料の認証は、これら微量不純物の浸出が許容値以下に抑えられていることをファブ側が厳格に検証した結果である。

江蘇太平洋石英の技術主張が一定の現実味をもって受け止められる背景には、同社が培ってきた外資系半導体製造装置メーカーへの供給実績がある。Tom's Hardwareの報道によると、同社は2019年から2020年にかけてLam Researchや東京エレクトロン(TEL)から高純度石英部材サプライヤーとしての認証を取得し、減圧CVD(LPCVD)用拡散管、ウェハーボート、石英インゴット、石英プレート、高純度石英管などを供給してきた。

さらに、同社が2025年10月30日に開示した2025年第3四半期の業績説明会資料によると、自社製高純度石英砂を用いた拡散炉芯管材料は、中国国内の大手メモリウェハーメーカーにおいて12インチプロセスの評価試験を完了し、認証を通過していた。今回のDRAM向け認証は突発的な成果ではなく、前年から積み重ねられてきた実証プロセスの延長線上にある。

ただし、Tom's Hardwareが指摘するように、中国ファブで稼働するLam Researchや東京エレクトロンの装置に組み込まれている石英消耗材のすべてが江蘇太平洋石英製に切り替わったと裏付ける証拠はない。海外装置メーカーは独自の品質基準に基づいてグローバルな部材調達網を維持している。今回の前進は、高純度砂の精製から炉芯管部材の成形、そしてDRAMファブのプロセスチャンバーへと至る局所的な国産サプライチェーンの選択肢が一つ確立されたという点にある。

江蘇太平洋石英の2026年半期報告書(2026年8月22日開示)では、自社砂を用いた高純度石英材料が国内外の複数の主流半導体企業で認証を通過した旨が記載されている。同社の半導体向け事業の売上高構成比は、2025年第3四半期の説明会時点で全体の約50%近くに達しており、太陽電池向け部材から高付加価値な半導体向け部材への事業シフトを急ピッチで進めている。

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スプルースパインの独占と結晶引上げルツボの限界

炉芯管の認証という進展の裏で、半導体材料サプライチェーンのさらに上流には、依然として中国が越えられない厚い壁が立ちはだかっている。それが、シリコン単結晶インゴットを引き上げるために用いられる石英ルツボの原料問題である。

半導体グレードのシリコンウェハーを製造するためには、チョクラルスキー法(CZ法)によって超高純度のポリシリコンを融液状態にし、巨大な単結晶インゴットを育成しなければならない。この1,400度を超える溶融シリコンを直接保持する容器が石英ルツボである。ルツボの内壁は溶融シリコンと直接接触するため、炉芯管よりも一段と厳しい純度基準が課される。一般に99.999%(5N)を超える純度が必要とされ、特に個々の有害不純物濃度に対する許容値は極限まで切り詰められている。

仮にルツボの内表面から気泡や極微小な不純物が溶け出せば、成長中の単結晶シリコンに転位欠陥が生じ、ウェハー全体が使い物にならなくなる。Tom's Hardwareが指摘するように、江蘇太平洋石英が製造する高純度石英は、半導体ウェハーに要求される純度9Nから11N(99.9999999%99.999999999%)のシリコン結晶を育成するためのルツボ用途には、現時点で適していない。

この結晶引上げ用ルツボに適合する天然の高純度石英砂を商業規模で安定供給できる産地は、地球上で極めて限定されている。米国ノースカロライナ州のスプルースパイン(Spruce Pine)に鉱脈を持つベルギーのSibelco社と、ノルウェーに拠点を置くThe Quartz Corp(TQC)の2社が、この市場の大半を握っている。ロシアのRussian Quartz社も一定の生産能力を持つが、その規模は限られる。

新浪科技(Sina Tech)の報道によると、SibelcoとThe Quartz Corpの2社だけで、世界のハイエンド高純度石英砂市場の90%以上を実質的に支配しているとされる。2024年秋に米国東部を襲ったハリケーン・ヘリーンによってスプルースパインの採掘施設が一時停止した際、世界中の半導体サプライチェーンに緊張が走った事象は記憶に新しい。天然石英砂の地質学的希少性は、政策的な投資やリバースエンジニアリングだけで容易に解決できる性質のものではない。

用途分類 要求純度・仕様 認証および生産の現状 主な供給元・帰属
単結晶シリコン引上げ用ルツボ 5N超(>99.999% )、微量元素の極低制限 工業規模での商業供給体制が確立 Sibelco、The Quartz Corp(米スプルースパイン産鉱石、9割以上を占有と新浪科技報道)
半導体前工程装置部材(炉芯管等) 4N5〜5N級(約99.995%99.999% 中国大手DRAMメーカーの300mm製造向け認証を通過(量産出荷は準備段階) 江蘇太平洋石英(自社製石英砂原料、JRJ報道および同社投資家説明に基づく)
水熱合成石英(次世代材料) 5N7(99.9997% )、歩留まり85% パイロット規模でのプロセス実証を完了(大規模な工業的量産は未確立) 武漢理工大学研究チーム(極目新聞報道、TrendForce引用)

上記のように、半導体製造における石英の用途は一様ではない。前工程の装置内で使われる部品の国産化に成功しても、上流のウェハー製造そのものを支える原料ルツボのチョークポイントは、依然として米国の鉱山地帯に握られたままである。

水熱合成が示す5N7の可能性と量産化の距離

天然鉱石に依存する脆弱性を克服するため、中国国内で模索されているもう一つの突破口が、化学的に石英を合成する合成石英技術である。

湖北省のメディア極目新聞(Jimu News)が報じ、TrendForceが引用した内容によると、武漢理工大学の研究チームは水熱合成法を用いた合成石英製造プロセスのパイロット規模での実証を完了した。この手法により、5N7(純度99.9997%)に達する高純度石英材料を、85%を超える歩留まりで安定して生成できるという。

報告されたデータによれば、この合成材料の主要な不純物レベルは、先端ICパッケージング基板や光ファイバー用プリフォームに求められる厳格な仕様を満たしている。水熱合成法は、高温高圧の水溶液環境下でシリカ原料を溶解・再結晶化させる技術であり、天然鉱石の結晶構造や産地に縛られない高純度化への道を開く可能性がある。

しかし、実験室やパイロットラインでの検証成功と、経済合理性を備えた工業的量産の間には依然として隔たりが存在する。高純度石英を人工合成するプロセスは、膨大な電力消費と特殊な高温高圧反応器を必要とし、単位体積あたりの製造コストが天然砂の精製に比べて跳ね上がる傾向がある。極目新聞の報道でも、中国国内における大半の合成石英プロジェクトは、低コストで大規模な工業生産を実現する段階には至っていないと指摘されている。

産業界側もこの課題を見過ごしているわけではない。江蘇太平洋石英の2026年半期報告書によると、同社は全額出資子会社を通じて、年間生産能力450トン規模の合成石英材料プロジェクトの建設を2026年上半期に開始した。先端半導体分野での超高純度需要を取り込み、天然石英の物理的限界を補完する狙いがある。

さらに同報告書は、低誘電損失が求められる高周波基板向けの電子用ガラスクロス(Qクロス)専用高純度石英材料が、すでに小ロットでの供給段階に入ったことにも言及している。半導体前工程の消耗部材にとどまらず、先端パッケージングや通信基盤向けの石英応用へとポートフォリオを拡大する試みが並行して進む。

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巨大化する中国メモリ市場と残された検証課題

江蘇太平洋石英が歩みを進める背景には、地政学的制約下で急速に膨張する中国国内の半導体製造能力がある。

同社の2026年半期報告書は、中国国内の大手メモリ半導体メーカーが2026年上半期から過去最大規模の設備拡張サイクルに突入していると分析している。米国の輸出管理規制によって最先端EUV露光装置の調達が断たれるなか、中国のメモリ企業は既存の液浸DUV露光技術や独自の多重露光プロセスを駆使して歩留まり向上と生産能力の拡大を急いでいる。このファブ増設ラッシュが、上流の製造装置、原材料、消耗部材に対する強い需要を生み出している。

足元のメモリ動向として、TrendForceは別の報道において、CXMTが最大転送速度12,800Mbpsに達する次世代モバイル向けメモリLPDDR6の量産プロセスを立ち上げたと伝えている。中国勢が汎用DRAMの供給過剰を引き起こす一方で、高密度・高速メモリの自前製造へと歩みを進めるにつれ、ファブ内で消費される石英炉芯管の交換頻度と所要本数は加速度的に増加する。

同時に、市場の楽観論には冷静なリスク管理も求められる。江蘇太平洋石英の半期報告書は、2026年の世界半導体市場が前年比約90%増の1兆5,000億ドル規模に達するとのWSTS(世界半導体市場統計)予測(ただし比較元の市場規模は確認できた公表資料では示されていない)や、国際半導体製造装置材料協会(SEMI)が2026年の世界半導体設備投資を1,659億ドルと見込んでいる点に触れつつも、業界特有の循環的な景気変動、メモリ価格の急激な調整、そして一段と強化される輸出規制の行方に対して警戒を怠っていない。

江蘇太平洋石英による300mmDRAM向け炉芯管の認証取得は、中国の半導体産業がサプライチェーンの微細な節を一つ抑えた事例であることは間違いない。高温炉内でウェハーを守る部材を自前で調達できる選択肢を得たことは、製造停止リスクを低減する実利をもたらす。

だが、この前進をもって半導体素材の完全な自立と評することはできない。認証を受けた材料がどの程度の歩留まりと耐用時間を維持しながら実際の量産ラインへ浸透していくのか、そしてスプルースパインが牛耳るシリコン結晶育成用ルツボの壁を、合成石英などの代替手段でいつ、いかにして打ち破るのか。中国の材料局地戦は、最も過酷な領域を残したまま次の評価段階へと移っている。