Windowsタスクマネージャーのオリジナル開発者として知られるDave Plummer氏が、macOS向けの新しいシステム監視アプリケーション「TMOG(Task Manager OG)」のベータ版を公開した。現在、同氏のウェブサイトから直接ダウンロードが可能となっている。
TMOGは、プロセス管理やシステムリソースの監視を統合したユーティリティだ。単一の画面上で、CPUやGPUの使用状況、メモリの負荷、ネットワーク帯域、温度センサーの数値をリアルタイムで確認できる。とくにCPUについては論理コアごとの動作を可視化し、高性能コアと高効率コアの違いも明確に表示する。
また、ディスクアクティビティの監視では毎秒60フレーム(60fps)での描画を実現した。これにより、突発的な負荷のスパイクを逃さずに捉えることができる。スタートアップアプリの管理やシステムサービスの制御など、監視に加えてシステム管理の機能も備えている。
アクティビティモニタへの不満が原動力
Plummer氏がTMOGの開発に至った理由は極めてシンプルだ。macOSに標準搭載されている「アクティビティモニタ」の機能に不満を抱いたからである。同氏はSNS上で、標準ツールを「使い物にならない(blows)」と評した。アクティビティモニタは一般的なユーザーには十分かもしれないが、開発者やパワーユーザーがシステムの実態を深く知るためのツールとしては力不足だと感じ、自ら理想のツールを作ることを決意したと明かしている。
Plummer氏は1990年代にMicrosoftに在籍し、趣味で作成したプログラムが当時のWindows NTの責任者に見出され、タスクマネージャーとして標準搭載された経歴を持つ。ZIPファイルのネイティブサポートや、Space Cadet PinballのWindows NTへの移植にも携わった伝説的なエンジニアだ。
今回TMOGを開発するにあたり、MicrosoftはPlummer氏に対して当時のWindows XP版タスクマネージャーのソースコードを参照する許可を出したという。しかし、TMOGのインターフェースはSwiftを用いてゼロから書かれており、以前のコードは一切使われていない。ネイティブな実装にこだわることで、OSの奥深くにあるシリコンレベルの情報を効率的に引き出している。
なぜ今、新たな監視ツールが必要なのか
Plummer氏がこのタイミングでMac向けの高度な監視ツールを投入した背景には、Apple Silicon(Mシリーズチップ)の台頭によるハードウェアの複雑化がある。
現在のMacは、一つのチップの中に高性能コア(Pコア)と高効率コア(Eコア)が混在するヘテロジニアス構成を採用している。さらに、画像処理などを担うGPUや、機械学習処理に特化したNeural Engine、そしてそれらすべてが高速で共有するユニファイドメモリといった要素が密接に連携し合っている。しかし、標準のアクティビティモニタではこの複雑な構造がどのように協調して動いているかを直感的に把握するのは難しい。
TMOGは、まさにこのギャップを埋めるために設計された。各論理コアの振る舞いや、プロセスがどのようにリソースを要求して分岐していくかを詳細に追跡する。開発者にとって、自作のアプリケーションがPコアとEコアのどちらに適切に割り当てられているかをリアルタイムで確認できることは、パフォーマンスチューニングにおいて非常に重要だ。
既存ツール(iStat Menus等)とのアプローチの違い
もちろん、macOSにはすでに優れたシステム監視ツールが存在している。メニューバーに常駐して多彩な情報を提供する「iStat Menus」や「Stats」、精密なファン制御に特化した「TG Pro」などが代表的だ。Macのパワーユーザーの多くは、こうしたツールを長年愛用してきた。
これらの既存ツールが主に「常時監視」と「メニューバーへの自然な溶け込み」を重視しているのに対し、TMOGはアプローチが異なる。Windowsタスクマネージャーの系譜を受け継いでいるだけあり、TMOGは「問題発生時に立ち上げてシステム全体を見渡す」という強力なダッシュボードとしての役割を志向している。ただの情報の羅列ではなく、プロセスの強制終了やサービスの管理といった制御機能へのシームレスな移行を前提としたUI設計だ。
既存ツールとの共存は可能だが、システムトラブル時のトラブルシューティングツールとしては、TMOGの「すべてを一つのウィンドウで俯瞰できる」スタイルが新たな選択肢となるだろう。開発者視点で磨き上げられたこのツールは、Macのパフォーマンスを極限まで引き出したいと考える層にとって、手放せない存在になる可能性を秘めている。
App Storeの制約を回避し直接配布へ
当初、Plummer氏はTMOGをMac App Storeで配布する計画だった。しかし、Appleの厳格なサンドボックス要件が立ち塞がった。
App Storeの規則に従うと、アプリケーションはシステム全体のプロセスリストを取得したり、他のアプリケーションを強制終了させたりすることができない。これらはタスクマネージャーとして不可欠な機能であり、サンドボックス環境下では要件を満たせないことが判明した。
このため、TMOGはApp Storeを通さない直接ダウンロード形式で提供されている。配布形態は変わったものの、アプリケーションはAppleによる署名と公証(Notarization)を受けており、macOS 13以降での互換性とセキュリティを担保している。
TMOGは現在無料で提供中だ。Plummer氏は将来的に追加機能を備えた有料のPro版を展開する可能性も示唆しているが、基本機能の無料提供は続ける方針である。また、いずれはWindows向けのTMOGもリリースし、両OSで統一された監視体験を提供したいと語っている。



