Bloombergは2026年9月4日、DeepSeekが内モンゴル自治区ウランチャブ市に建設するデータセンターへ、Huaweiの次世代AIアクセラレータ「Ascend 950DT」を少なくとも16万個配備する計画だと、事情に詳しい関係者の話として報じた。用途は推論に限り、モデルの訓練は引き続きNVIDIA製GPUで行う。Huaweiには現時点でこの注文をまとめて満たす生産能力がなく、最先端メモリを含む部品不足で2026年の950DT生産は「20万30万個程度」にとどまるため、納入完了には1年を超えるとの見通しも伝えられている。ただし、Huaweiは2025年9月に950DTを52万個超つなぐ構成を仕様として公表済みで、16万個はその規模から遠く、差を生んでいるのは部品供給であって、演算力の余力ではない。推論に絞る判断は1年前のR2訓練失敗と950DTのメモリ寄りの設計につながる。

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Bloombergが伝えた計画の骨子、1GW設備に950DTを少なくとも16万個

Bloombergの記事はMackenzie HawkinsとHaze Fanの署名で、DeepSeekとHuaweiの双方からオンレコのコメントは得られていない。配備先はウランチャブ市のデータセンターで、チップはHuaweiの950DTを少なくとも16万個使う。DeepSeekはこれを推論、つまり学習済みモデルを動かして応答を返す工程に使い、訓練には現時点で使わない。Bloombergによれば、DeepSeekは過去にHuaweiチップでの訓練を試みたうえで、この工程では今もNVIDIA製に依存している。

同じ記事は、DeepSeekが北京当局に対し、Huaweiの割当を増やし前倒しするよう働きかけたとも伝えている。割当という言葉が出てくるのは、950DTがまだ発売前で、Huaweiが2026年分の限られた生産枠を複数の顧客に配分する段階にあるためだ。

データセンターそのものは新しい話ではない。Bloombergは7月30日、DeepSeekがウランチャブ市に自社建設と他社からの賃借を組み合わせて約1GWの計算容量を確保し、2027年末か2028年初めに一部を稼働させる計画だと伝えていた。その時点で使うチップは不明とされ、今回の報道がその空欄を埋めた。ウランチャブ市は北京の北西約350kmにあり、DeepSeekは4月に同市のデータセンター運用エンジニアとデリバリーマネージャーを月給1万5000〜3万元で募集している。クラウドを借りる会社から自社設備を持つ会社へ転じる動きは、この求人が最初の公開シグナルだった。

資金面の前提も揃いつつある。DeepSeekは6月、創業後はじめて外部から資金を調達し、その額は500億元(約74億ドル、約1兆1000億円)に上った。中国の投資家側の開示から評価額は約3509億元(約518億ドル)と推定され、同額の次のラウンドも計画されているとReutersが報じている。1GW級の設備を先端チップで建てると約500億ドルかかるというNVIDIAのJensen Huang CEOの試算がある一方、中国では建設費がそれより安いとBloombergは付記している。DeepSeek側の総投資額や1GWの内訳(IT負荷か施設全体か)は公表されていない。

16万個をHuaweiの公表仕様と稼働済みクラスタに置き直す

16万個という数字を、Huaweiが自ら示した構成と、実際に動いている国産クラスタの両方に当ててみる。Huaweiは2025年9月18日のHuawei Connect 2025で、950DTを8192個まで束ねるAtlas 950 SuperPoDと、950DTを「52万個超」つなぐAtlas 950 SuperClusterを発表した。演算性能はSuperPoDがFP8で8EFLOPS、SuperClusterが同524EFLOPSで、投入時期はどちらも2026年第4四半期である。一方、稼働が公表された国産チップのクラスタで大きいものは、深圳市が2026年3月26日に動かしたAscend 910C1万カード級で、演算能力は1万1000PFLOPS、約50組織が枠組み契約を結んでいる。予約率92%は先行稼働分と合わせた2期合計の値と伝えられており、新設分単独の数字ではない。

個数だけを軸に並べると次のようになる。計算は各クラスタのアクセラレータ個数を単純に割ったもので、SuperClusterは「52万個超」の下限52万を採用し、小数第1位で丸めた。

比較対象 アクセラレータ数 16万個との比 状態
Atlas 950 SuperPoD(950DT) 8192個 約19.5基分 Huawei公表仕様、2026年Q4投入予定
Atlas 950 SuperCluster(950DT) 52万個超 31%(約3割) Huawei公表仕様、2026年Q4投入予定
深圳の1万カード級クラスタ(910C) 1万 16倍 2026年3月稼働

稼働済みの国産クラスタと比べれば16倍で、DeepSeekの計画は中国国内の実績を一段引き上げる規模になる。しかしHuaweiが仕様として掲げた52万個超に対しては3割に届く程度にとどまる。Bloombergが「既知のクラスタとして最大級の一つ」と書いた表現は、この位置関係と整合する。

この比較には留保がある。16万個は「少なくとも」という計画値で、SuperPoDとSuperClusterはHuaweiが示した特定構成であり、どちらも稼働実績ではない。実績を確認できるのは深圳だけだ。チップの世代も950DTと910Cで異なるため、個数の比は規模感を掴むためのもので性能比ではない。

それでも、Huaweiが自ら示した最大構成に対して16万個が小さいという事実は動かない。その構成と実際の注文の間にある差を作っているのは演算設計の側になく、後述する部品の供給である。

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なぜ訓練ではなく推論か。144GBと4TB/sのデコード用設計

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Financial Timesは2025年8月14日、関係者3人の話として、DeepSeekがR1公開後に中国当局の後押しでR2をAscendで訓練しようとしたが、Huaweiのエンジニアが常駐しても訓練を完走できず、訓練をNVIDIAへ戻して推論をAscendで行う分業に落ち着いたと報じた。DeepSeekが950DTも推論に限るのは、この1年前の失敗の延長にある。TrendForceが2026年4月7日に伝えたところでは、DeepSeek V4も推論はAscend 950PR(主に推論向けとされる)で動かす計画だという。今回の16万個は、この分業を自社の1GW設備に組み込む計画に当たる。

分業が続く理由は、チップの設計にもある。950DTは独自仕様とするHBM「HiZQ 2.0」を144GB積み、メモリ帯域は4TB/s、相互接続帯域は2TB/sで、演算性能はFP8で1PFLOPS、FP4で2PFLOPSと公表されている。Huaweiは950DTを「推論のデコード段階と訓練向け」と説明しており、その名の通りメモリ側の数字が太い。

推論は、入力文全体をまとめて処理するプリフィル段階と、応答を1トークンずつ生成するデコード段階に分かれる。プリフィルは行列演算が支配的で演算性能が効くのに対し、デコードでは1トークン生成するたびにモデルの重みと、それまでの文脈を保持するKVキャッシュ(文脈が長くなるほど増える)をHBMから読み出す必要がある。この読み出しの負荷は演算量の増分より大きくなりやすいため、1トークン当たりの時間は演算速度よりも「何バイトをどれだけの帯域で運べるか」で決まりやすい。容量が大きければ長い文脈や多数の同時ユーザーのKVキャッシュを1チップに載せられ、帯域が広ければ1トークンの待ち時間が縮む。だから推論サービスの採算を左右するのは、FLOPSより144GB4TB/sの側になる。

その2つの数字を、DeepSeekが訓練に使い続けるNVIDIA側と前世代のAscendに並べる。

チップ HBM容量 メモリ帯域 950DTとの帯域比 出典
Huawei Ascend 950DT(2026年Q4予定) 144GB(HiZQ 2.0) 4TB/s 1(基準) Huawei公式
NVIDIA H200 SXM 141GB(HBM3e) 4.8TB/s 950DTは約83% NVIDIA公式
Huawei Ascend 910C 128GB 3.2TB/s 950DTは約1.25倍 SemiAnalysisの数値から編集部算出

910Cの値はHuawei公表のチップ単体仕様が存在しないため、SemiAnalysisが2025年4月に示したCloudMatrix 384(910Cを384個搭載)のシステム合計から編集部が割り戻したものだ。総メモリ容量49.2TBを384で割って約128GB、総帯域がNVIDIA GB200 NVL72の576TB/sの2.1倍という記述から576×2.1÷384で約3.15TB/sを求め、3.2TB/sに丸めた。比率は4.0÷4.8で約83%、4.0÷3.2で1.25倍である。演算性能、相互接続、ソフトウェアはこの比較に含めていない。

表が示す判断は明快で、950DTはメモリ側に限れば米国が中国向けに個別審査で認めるH200と同じ帯に入り、前世代からは帯域で25%上積みした。訓練に必要なのは大規模な分散学習を数週間止めずに回す演算とネットワークとソフトウェアで、R2で完走できなかったのはその部分である。デコード段階の推論は、その弱点を避けつつ強みを使える用途になる。ただし、Bloombergは推論限定の理由を仕様と結びつけて説明しておらず、この接続はR2失敗の報道と公表仕様を併せた編集部の解釈である。950DTは発売前の公表仕様であり、帯域比がそのまま推論スループット比になる保証もない。

年産「20万〜30万個程度」、納入を縛るのは部品供給

Bloombergによれば、Huaweiの950DT生産は最先端メモリを含む部品不足で2026年は「20万30万個程度」に制限され、他の顧客への供給と並行するため、DeepSeek向けの納入完了には1年超かかる可能性があると報じられている。16万個がHuaweiの公表構成の3割で止まっているのは、この生産計画に理由がある。DeepSeekが北京当局にHuaweiの割当増を働きかけたという報道も、この供給枠の奪い合いを前提にすれば筋が通る。年産の枠が計画の16万個と同じ桁にあり、その枠を他社と分け合うのだから、1年で納め切れない。

演算チップ自体の生産は増えている。Bloombergは2025年9月、Huaweiが2026年に910Cを約60万個(2025年見込みの約2倍)、Ascend系全体で160万ダイまで供給する計画だと報じた。SemiAnalysisは2025年9月8日の推計で、Ascendの出荷を2024年に50万7000個、2025年に80万5000個(うち910Cが65万3000個)とし、製造を担う中国の半導体受託製造大手SMIC(Semiconductor Manufacturing International Corporation)の先端ノード能力を2025年末に月4万5000枚、2026年に月6万枚と見積もっている。950DTはSMICのN+3プロセスで製造されると報じられ、Huawei副社長でHuawei Cloud中国区総裁を務めるChen Lin氏は6月、950DTを当初予定の第4四半期から前倒しして8月にHuawei Cloudへ投入すると表明した。8月に実際に提供が始まったかは確認できていない。

SemiAnalysisは、Ascend生産全体を制約しているのはHBM調達だとみている。同社の推計では、Samsung一社だけで中国全体に1140万スタックのHBMを供給しており、他社分を含めた中国全体の供給は1300万スタック(910C換算で約160万個相当)に達するという。中国のメモリ大手CXMTの2026年のHBM生産能力は約200万スタックで、910C換算では25万30万個分にしかならない。Samsung製HBMを使った供給が尽きれば、その先はCXMTの供給が上限になる。

CXMTは8月末にHBM3Eの少量生産を始めたが、Alibaba傘下のT-HeadとCambriconが評価中で、商用プロセッサへの搭載は2027年からと報じられている。同社のHBM技術は先頭を走るSK hynix、Samsung、Micronに3〜5年遅れているというのがThe Informationの見立てだ。950DTのHiZQ 2.0はHuawei独自仕様のHBMと説明されているが、144GB16万個分そろえるには、その供給網のどこかで先端メモリを積み上げなければならない。

つまり16万個は、DeepSeekが欲しい数やHuaweiが設計できる数というより、Huaweiが2026年に手に入るHBMで作れる数の大半を1社に回したときの数字に近い。演算力はSMICの月産6万枚で伸ばせる。メモリはそうはいかない。

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R2訓練失敗から1年、分業を1GW設備で固定する

DeepSeekのハードウェア選択、Huaweiの製品供給、米中の政策という3つの流れが同じ時間軸で重なった先に、9月4日の報道が置かれている。今回の計画には、そこまでの1年分の前史がある。3系列を日付順に並べたのが次の表で、ペイウォールのある報道は複数の転載で内容を照合している。

日付 出来事 系列
2025年8月14日 FTがDeepSeekのR2をAscendで訓練する試みの失敗と、訓練NVIDIA・推論Ascendの分業を報道 DeepSeek
2025年9月18日 Huawei Connect 2025でAscend 950DT(2026年Q4)、Atlas 950 SuperPoD(8192個)、SuperCluster(52万個超)を公表 Huawei
2025年11月5日 Reutersが、国家資金を受けた新規データセンターへの国産AIチップ義務化を報道 政策(中国)
2026年1月15日 米BISがH200等の中国向け輸出を「原則不許可」から条件付き「個別審査」に改める最終規則を発効(1月13日公表) 政策(米国)
2026年3月26日 深圳市がAscend 910Cによる1万カード級クラスタを稼働 Huawei
2026年4月7日 TrendForceが、DeepSeek V4の推論をAscend 950PRで動かす計画と報道(訓練はNVIDIA) DeepSeek
2026年4月 DeepSeekがウランチャブ市のデータセンター運用・デリバリー職を募集 DeepSeek
2026年6月8日 Huawei Cloudが950DTを8月にクラウド投入すると予告(当初2026年Q4) Huawei
2026年6月 DeepSeekがはじめての外部調達で500億元を調達 DeepSeek
2026年7月30日 Bloombergがウランチャブ市で約1GWのデータセンター計画(2027年末〜2028年初に一部稼働)を報道 DeepSeek
2026年8月26日 NVIDIAが決算で、中国向けH200出荷はデータセンター売上の1%未満、次四半期の中国計算売上をゼロで見込むと説明 政策(米中)
2026年9月4日 BloombergがDeepSeekのAscend 950DT16万個以上の配備計画を報道 DeepSeek

時系列から読み取れるのは、DeepSeekのAscend利用が2025年8月以降ずっと「訓練はNVIDIA、推論はAscend」の線上にあることと、950DTの発売(2026年第4四半期)とデータセンターの一部稼働(2027年末〜2028年初め)が矛盾なく並ぶことだ。納入に1年超かかるという見通しも、この2つの日付の間に収まる。4月の求人と6月の資金調達は月単位の日付しか確認できておらず、8月のHuawei Cloud投入は予告の段階である。

政策の流れは、NVIDIA製を買えるかどうかを決めている。米商務省BISは2026年1月13日、NVIDIA H200やAMD MI325Xなどの中国向け輸出審査を「原則不許可」から条件付きの「個別審査」に改める最終規則を公表し、翌14日にはTrump大統領が同性能帯のチップに25%の関税を課す布告に署名した。6月1日には、この規制が中国に本社や親会社を持つ企業の域外拠点にも及ぶと明確化している。米国側の入口が開いた一方で、中国側は閉じたままだ。国家インターネット情報弁公室(CAC)は2025年9月に大手テック企業へNVIDIAチップの購入を控えるよう指導したと報じられ、同年11月には国家資金を受けた新規データセンターに国産AIチップを義務付け、完成率30%未満の建設中案件では外国製チップの撤去も求める指針が出たとReutersが伝えた。

その結果がNVIDIAの決算に表れた。NVIDIAは8月26日、7月26日終了四半期の決算で、中国向けH200の初出荷がデータセンター売上高890億ドルの1%未満にとどまり、今四半期のガイダンス1080億ドルには中国のデータセンター計算売上をゼロで織り込んだと説明した。許可枠はあっても北京側の反対で消化できていない。Jensen Huang CEOは中国を除いた成長見通しについて「制約がなければ成長はもっと大きい」と述べている(原文:"The unconstrained growth would be a lot higher"、2026年8月26日決算説明)。

DeepSeekの計画は、この空白を国産チップで埋める政策の延長にある。しかも訓練用のNVIDIA製GPUをDeepSeekがどう確保しているかは、Bloombergの報道でも触れられていない。

ウランチャブの電力単価と、日本の半導体供給網への含意

ウランチャブ市には2026年6月時点で89件のデータセンター案件があり、投資総額は5000億元超、計画を含む電力容量は約12.5GWに達すると新浪と億欧の記事が伝えている。内モンゴルが選ばれる理由は、この電力と冷却の条件にある。工業用電力の単価は約0.35元/kWhで、大都市の0.7元の半分に当たる(別資料では0.25〜0.3元)。年平均気温は4.3℃で、年10カ月近くを外気だけで冷やせる。北京までは光ファイバーで直結し、遅延は約4.2msという。

Huawei、Alibaba、Apple、快手、Baidu、ByteDanceがすでに拠点を構えており、DeepSeekはその列に加わる。16万個の950DTを動かすなら電力は大きな固定費になり、単価が半分の土地を選ぶのは推論サービスの原価に直結する判断である。

日本の読者にとっての接点は、まず金額の規模にある。DeepSeekが6月に調達した500億元は共同通信の換算で約1兆1000億円に相当し、1GW級の設備と16万個のチップはその資金の使い道の一部になる。

HBMの供給網も日本に関わる。先端HBMを量産できるのは今もSK hynix、Samsung、Micronの3社にとどまり、日本の半導体材料・製造装置メーカーはこの3社のHBM量産工程を通じて存在感を持つ。Huaweiが独自仕様と説明するHiZQ 2.0や、CXMTの3〜5年遅れとされるHBM3Eが中国国内でどこまで数を積めるかは、この3社の外側で先端メモリの供給網がもう1本育つかどうかという問いにつながる。育てば米国の輸出規制が効く範囲は狭まり、育たなければ16万個の納入は1年超という見通しのまま延びる。

計画が実体になるかを判定する条件は日付で並ぶ。950DTが2026年第4四半期に予定通り発売されるか、Huawei Cloudへの投入が実績として確認されるか、Huaweiの年産が「20万30万個程度」の枠にとどまるか、そしてウランチャブの設備が2027年末から2028年初めに一部稼働へ入るか。この4つが揃えば、DeepSeekは訓練をNVIDIAに残したまま、推論を国産チップと安い電力で回す体制を1GW級で持つことになる。揃わなければ、律速が部品供給にあり演算力ではないという今回の報道の見立てが、そのまま計画の遅れとして表に出る。