米司法省は2026年11月5日、AIの悪用に関わる刑事・民事の法執行を横断的に調整する「超知能タスクフォース(Super Intelligence Task Force)」の発足を発表した。設置の根拠となる覚書は10月13日付で、州のAI規制法に対する訴訟を専門としていた既存のタスクフォースも新組織に統合される。これにより、州ごとのAI規制に異議を申し立てる取り組みと、AIを悪用した違法行為への捜査・訴追を、司法省内で一元的に調整する体制が整えられた。
今回の発表で特徴的なのが、「人工知能(AI)」ではなく「超知能(SI)」という名称を採用している点だ。米政権は9月、政府の公式文書などでAIを「超知能」と呼び換える方針を打ち出していた。ただし、これは規制対象を人間以上の知能を備えたシステムに限定するものではない。新組織が扱うのは従来のAI技術も含む幅広い分野であり、今回の再編の中心は、法執行に関する司法省内の連携強化にある。
「超知能」は人間を超えるAIだけを意味するわけではない
名称の根拠となっているのは、2026年9月29日に署名された大統領令14434だ。この命令は、法律で認められる最大限の範囲で、連邦政府の公文書や対外発信、Webサイトなどに使用する「人工知能(AI)」という表現を「超知能(SI)」へ置き換えるよう求めている。ただし、すでに発行された規則や契約、過去の文書まで遡って変更する必要はない。
重要なのは、大統領令が「超知能」の対象をどのように定義しているかという点だ。同令第3節は、対象となる技術やシステムを、現行の米国法第15編9401条第3項に定めるAIの定義に結び付けている。この法律では、AIを、人間が定めた目的に対して、現実または仮想の環境に影響を及ぼす予測、推奨、意思決定を行える機械システムと定義している。人間を上回る知的能力は要件に含まれておらず、「超知能」という名称が採用されたからといって、政府が超人的なAIの完成を認定したことにはならない。新組織の活動対象も、そのような高度なAIだけに限定されるわけではない。
一方、大統領令は将来の法的定義について、別の検討手続きを設けている。科学技術担当大統領補佐官に対し、60日以内に連邦法上の「超知能」の定義を定める法案の草案を大統領へ提出するよう指示した。既存のAIの定義を変更・拡張する必要があるかどうかも、検討対象に含まれる。ただし、これは法案の草案提出を求める指示であり、60日以内に新法が成立・施行されることを意味するものではない。
司法省が今回の取り締まり対象として挙げているのは、AIを悪用する外国政府や国家の支援を受けた主体、国際犯罪組織などだ。詐欺をはじめとする違法行為にAIを利用する個人や企業も対象となる。新タスクフォースを率いるのは、司法次官のStanley Woodwardと司法副長官室のStephen Weissである。なお、ホワイトハウスにはJay Claytonが率いる「超知能フォース」が別に設置されており、司法省のタスクフォースは同組織との主な連絡窓口も務める。名称は似ているものの、司法省内の捜査・訴追を調整する組織と、ホワイトハウス側の連携先は別の組織である。
州AI規制法への訴訟も新組織が引き継ぐ
今回の再編で重要なのは、司法省が2026年1月に設置した「AI訴訟タスクフォース」の役割を引き継ぎながら、活動範囲を大幅に広げたことだ。旧組織は州のAI規制法への法的異議申立てを専門としていたが、新組織はそれに加え、AIに関わる刑事・民事の法執行を司法省全体で調整する役割を担う。
2026年1月9日付の旧組織の設置覚書では、政権の方針と整合しない州のAI規制法に対して訴訟を提起することが、唯一の職責とされていた。具体的な争点として、州法が州際通商を違憲に規制しているかどうか、既存の連邦規制が州法に優先して適用されるかどうかなどが挙げられている。つまり、州ごとに異なるAI規制に対して、連邦政府として法的に対抗するための専門組織だった。
これに対し、2026年10月13日付の新たな設置覚書は、刑事・民事の法執行を司法省内で調整し、各部局や連邦検事局が担当する捜査・事件の重複や競合を解消する役割を定めている。公共の安全とAIの悪用防止を踏まえ、法執行の優先順位を提言することも任務に含まれる。さらに、起訴や企業のコンプライアンス体制の評価に関する指針の策定、過重な規制を避けながら技術革新を促進する立法・規制案への助言も担当する。
両組織の設置覚書を比較すると、今回の再編による役割の変化は次のように整理できる。
| 比較項目 | 旧AI訴訟タスクフォース(2026年1月9日) | 新超知能タスクフォース(2026年10月13日) |
|---|---|---|
| 主な任務 | 政権方針と整合しない州AI規制法への訴訟が唯一の職責 | AIに関する刑事・民事の法執行を横断的に調整し、州AI規制法への訴訟も継承 |
| 参加部局 | 民事局、訟務長官室など | FBI、刑事局、国家安全保障局なども明記 |
| 既存案件の扱い | 州法への訴訟を専門組織として担当 | 旧組織の独立した運営を終了し、案件・成果物を移管。人員配置や報告義務も継承 |
この比較は、旧覚書と新覚書の任務、参加部局、既存案件の扱いを整理したものだ。新覚書では、1ページ目の任務規定(a)〜(f)と脚注3、2ページ目の組織構成に具体的な内容が記されている。ただし、比較できるのは設置文書上の役割であり、実際の捜査成果や法的権限の強さ、執行の優先順位を示すものではない。また、新覚書で明記された部局が、旧体制では一切協力していなかったと判断することもできない。
今回の統合によって、州のAI規制法に異議を申し立てる仕事は維持され、その調整先がAIの悪用を取り締まる組織と一本化された。企業にとっては、規制負担の軽減を目指す政策と、違法利用に対する法執行が同じ体制の下で進められることになる。ただし、参加部局が増えたことと、個々の事件でどの対応が優先されるかは別の問題である。実際の運用方針については、今後の具体的な判断を確認する必要がある。
企業の内部統制を重視、司法省内の報告手続きも整備
新タスクフォースの発足にあたり、Stephen Weissは、AIシステムが意図したとおりに動作するよう、企業が厳格な内部統制を整備することの重要性を強調した。また、AIに関するリスクや対応状況について、定期的な報告を強化する考えも示している。一方、司法長官のTodd Blancheは、納税者や重要インフラ、国家安全保障を悪意を持って標的にする違法なAI利用者を特定し、訴追していく方針を説明した。司法省は、企業によるAIシステムの適切な管理と、違法行為に対する法執行の両方を重視する姿勢を示している。
ただし、設置覚書に具体的な手続きとして記載されている報告義務は、司法省内の各部局や連邦検事局を対象としたものだ。新タスクフォースから求められた場合、AI関連の捜査開始を申請する際や、起訴を申請する前、事件の解決を確定する前に通知するよう定めている。これは司法省内の情報共有と案件調整を目的とする手続きであり、民間企業に新たな様式での政府への報告を義務付けるものではない。
また、こうした通知手続きが緊急の捜査活動を妨げないよう、例外も設けられている。設置覚書の脚注4では、通知のために必要な対応を遅らせるべきではないとし、公共の安全に差し迫った脅威がある場合や、証拠が失われるおそれがある場合などには、事前通知を必要としないと定めている。覚書は省内の管理・調整を改善するための文書であり、事件の当事者が政府に対して行使できる新たな権利や利益を創設するものではないことも明記されている。
現時点で、この覚書によって新しい犯罪類型や刑罰が設けられたわけではなく、民間企業向けの新たな報告様式も規定されていない。内部統制の重要性が強調されたからといって、すべての企業に適用される新しい評価基準がすでに導入されたと受け取るのは早計だ。今後、起訴判断やコンプライアンス体制の評価に関する具体的な指針が示されれば、企業は自社の管理体制が当局の判断基準に照らして適切かどうかを検討できるようになる。
AI規制の負担軽減と悪用対策を一つの組織で調整
州のAI規制法に対する訴訟を新組織が引き継ぐ背景には、2025年12月11日に署名された大統領令14365がある。同令第2節は、規制負担を最小限に抑えた全国的なAI政策によって、米国の技術的優位を維持・強化する方針を示した。さらに第3節では、この方針と整合しない州のAI規制法に対する訴訟を専門とする組織を、30日以内に設置するよう司法長官に指示している。これを受け、2026年1月に旧AI訴訟タスクフォースが設立された。
新旧の設置覚書から読み取れるのは、州ごとの規制による企業の負担を抑える取り組みと、AIの違法利用に対処する取り組みを、同じ組織で調整するという方針だ。新タスクフォースには、政府が提起する民事訴訟を調整する役割も与えられている。そのため、今回の再編を単純にAI規制の緩和、あるいは強化と捉えるのは適切ではない。州法に対する法的な異議申立てを進めながら、違法利用への捜査・訴追を調整するという、性質の異なる任務を併せ持つことが特徴である。
今後の注目点は、新組織が法執行の優先順位をどのように定め、具体的な事件に適用していくかだ。どのようなAIの悪用を優先的に捜査・訴追するのか、どの州法に異議を申し立てるのかが明らかになれば、政府の政策方針をより具体的に把握できる。また、企業の内部統制やコンプライアンスを評価する指針が公表されれば、事業者に求められる管理措置も明確になる。規制負担の軽減とAIの悪用防止という二つの方針を、司法省が実際の法執行でどう両立させるのか。 新タスクフォースの評価は、今後示される指針と具体的な事件への対応によって定まっていくことになる。



